ジェイド捏造。
*******


「……ほんと、足手纏いって言うかぁ。王女様が付いてきて良いわけぇ?」
「本当に王女様には困ったものね」
 ふうと溜息を吐くティアと、アニスが珍しく意気投合した様子で意見を揃えている。
 普段ならば二人はルークを挟んで火花を散らしているのだが、ルークの婚約者の出現に一時的に休戦したらしい。親善大使一行に無理やり同行した王女に対して、足手纏いだから付いてくるな、遊びじゃないんだと口を揃えてナタリアを非難している。
 ナタリアに脅される形であるが、親善大使一行のキムラスカ側の責任者であるルークが同行を許可している以上、彼女達に文句を言う権限は無いのだが、その辺のことは頭にないらしい。
 ナタリアの耳に入るように、ティアとアニスはさほど声量を下げずにひそひそと喋る。陰険なやりくちを目の当たりにして、女性恐怖症のガイは肩を震わせた。
「……ルーク」
 ナタリアは目を据わらせて、隣をかったるそうに歩くルークの名前を呼んだ。
「あ?」
「なんですの、あの無礼者たちは!」
「は? ……なんだって?」
 実はルークはティアたちの話をまったく聞いていなかった。ナタリアは目尻を吊り上げて訴える。
「今の話聞こえてませんでしたの? あの無礼者達はわたくしのことを足手纏いと言ってましたのよ!」
「あ、ああ……気にしなけりゃいいだろ」
「あんなに大きな声でしゃべられたら気になるに決まっているでしょう! 婚約者に対して無礼なことを言ってますのよ、少しはわたくしのために怒ったらどうなのです!?」
「……本当のこと言われたからって婚約者に縋るなんて王女様だっさーい」
「ほら、聞きまして? 今の無礼な発言を! 無礼というほかにありませんわ!!」
「あーはいはい、そうだな。無礼だな。アニス、お前もうちょっと言葉を慎めよ」
 面倒くさいという言葉を面に貼り付けて、ルークはアニスに自重を求める。アニスは手を組んでくねくねと体を曲げながら自身の正当性を訴えた。
「ルーク様はナタリア様の味方なんですかぁ? ショックですぅー。ナタリア様が足手纏いなのは本当なのにー」
「わたくしは足手纏いではありませんわ。ランバルディア流アーチェリーの、」
「実戦と稽古は別物ですよぉ」
「……ルーク!」
「ほらぁ、本当のこと言われたからすぐ怒る」
(俺挟んで喧嘩すんなよ……)
 左右から女性のやかましい声が飛び交って、ルークはげんなりとした。その姿を見て、ティアに「……最低」と追い討ちをかけられる始末である。なんだよ、俺が悪いのかよとルークは胸中で呟く。ルークの理不尽な状況は続いた。
「大体、王女様は王女様らしく城で大人しくしておくべきなんじゃないのぉ? ルーク様も可哀想。こんな王女様が婚約者だなんてぇ。こういうときくらい、羽を伸ばしたいですよね。ねえ、ルーク様」
 アニスがルークの右腕に抱き着く。当然ナタリアの怒りのボルテージが上がる。
「羽を伸ばして、厄介な者に纏わりつかれたら困りますもの。そう、例えば貴方のような小娘に。公衆の面前で男性に抱き着くなど下品でしてよ。どういう教育を受けてきたのかわかりますわね」
 アニスの怒りも跳ね上がった。
「なんですってえ!?」
「何か文句ありますの?」
「ルーク、貴方本当に最低ね。婚約者がいる身でありながら、アニスにまでちょっかい出すなんて」
「あーもう! うるせぇんだよ! 人の両脇で喧嘩すんな! あと最低って言われる筋合いはねえ! この件に関して俺は完全に無罪だろ、無罪!」
 流石にルークもキレた。アニスが勝手に纏わりついてくることまで自分のせいにされちゃたまらない。ルークはティアを睨み、ティアもルークを睨み、ナタリアとアニスが互いを睨み合う。どうしようもない状況をジェイドは「いやあ、若いっていいですねぇ」と胡散臭い笑顔で見守っていた。ガイは苦笑して何とか場を治めるべく口を挟む。
「まあまあ、みんな落ち着いて。ルークが困っているだろう?」
「「ガイは黙って(なさい)て!!」」
「ひぃっ」
 ナタリアとアニスの剣幕に押されて、ガイは呆気なく引き下がる。二人の口喧嘩は周りが口を挟む隙間もなくヒートアップしていった。おかげで魔物が寄ってくる。流石に魔物を引き寄せるほど大声で喧嘩されたら敵わない。ようやくジェイドが重たい腰を上げた。
「二人ともいい加減にしなさい。喧嘩するのは構いませんが、人に迷惑がかからないように、時と場所を選んだらどうです。長い旅になります。無駄に体力を消耗してどうするんですか? 誰も助けませんよ」
「う……はぁい」
「その、ごめんなさい」
「理解して頂けたなら結構。ほらほらルークもティアも、いつまでも睨み合っていない。ティア、アニスに纏わりつかれている方のルークに最低はないでしょう。貴方の言っていることは、セクハラ加害者に纏わりつかれている被害者の方に問題があるのだと言っているようなものですよ」
「……すいませんでした」
 ジェイドに叱られて、ティアは自分の言葉がどれほど理不尽なものだったのか理解した。
「私に謝るより先にルークに謝ってくださいね〜」
 ジェイドに言われて、ティアはルークをちらっと見たあと、
「……ごめんなさい」
 と小さく謝るとすぐさまそっぽを向いた。ルークに対しては素直に謝りたくないらしい。ルークは眉を吊り上げて怒りに燃えた目で「なんだよ、その態度!」と怒った。
「まあまあ、素直になれないお年頃なんでしょう。ティアは軍人としても、人としても未熟で成長の余地があっていいですねえ。年寄りで老いる一方の私としては大変羨ましいですよ」
 ジェイドはティアの態度をフォローする――ように見せかけて、素直に謝ることもできないのかと見下していた。ティアの頬がカッと羞恥で赤く染まるが、そのことに気付いていてもジェイドはフォローしない。
「……年寄り?」
「ええ、年寄りなもので。老人には優しくしてくださいね」
「……」
 ルークは半眼の眼でジェイドを胡乱げに見たあと首を振った。ジェイドはルークにニッコリ笑うと、口喧嘩はやめたものの火花を散らしあうナタリアとアニスにあからさまな溜息を吐いた。
「……困ったものですねぇ。ナタリアが同行することはキムラスカ側の責任者であるルークが不本意でも認めたことでしょう。その件に関してアニスとティアが文句を言う権利はないはずですが」
「大佐はナタリアが迷惑だって思わないんですかぁ?」
「本人が言うだけあって弓の腕前は確かなものですし、異常状態回復などの譜術も習っているようですし、何も問題ないでしょう。むしろ、ティアだけでは回復役が心もとないと思っていましたから助かります」
 ジェイドは冷静に判断する。ティアは全体回復を覚えているが、全員が窮地に陥る機会はそうそうに訪れない。一人を回復させるだけなら、ファーストエイドを使うティアよりも、より回復量が多いヒールを使うナタリアの方が向いている。TPが心もとないときはティアのファーストエイドの方が良いが、戦闘中にTPは回復するので、後衛から弓で戦うナタリアの方が安定したダメージを与える戦力になるという意味ではナタリアの方が軍配が上がる。軍人というわりにティアは戦力にならないのだ。
「え〜、大佐はナタリア様の味方ですかぁ?」
「味方と思って頂いても構いませんよ。正直現状において、ティアよりもナタリアの方が余程戦力になります」
「大佐、それは流石に聞き捨てなりません」
 ティアが刺々しい声で咎める。それは、ジェイドにとって予想通りの反応だった。
「では、確かめてみましょうか」
「え?」
「アニスとティア、ルークとナタリア、二人ずつに分かれて戦闘してもらいます。アニスとティアは互いのフォローを、ルークとナタリアは互いのフォローをしてくださいね」
「俺もかよ!」
「ルークもです。婚約者ならフォローしてあげてくださいね〜。というわけで早速始めましょうか。タイミング良く敵も来たようですし、ね?」
 ジェイドは顔に笑みを貼り付けながら、コンタミネーションで槍を出現させる。ガイはこの場において、ジェイドのフォローするのは俺なんだろうな、とジェイドの傍に駆け寄る。ルークは仕方なさそうに溜息を吐くとナタリアの隣に並び、アニスとティアは互いに目配せをして互いの背を庇いあった。


 バチカル廃工場には五種類の魔物が生息している。
 スライム状のコールタール、蜥蜴と蛇を融合させたようなバジリスク、蝙蝠をすこし大きくさせたビックバット、集団行動を好むブラックバット、浮遊するランプのような形態のラップオンの五種類である。バジリスクは毒の息を吐くため、状態変化の回復技、もしくはポイズンボトルなどの道具が必要だ。
 そのバジリスクが、ブラックバットと共に集団で襲い掛かってきた。

 ルークは戦闘開始と同時に「鋭招来」と気を集中させた。単身、数の多いブラックバットの群れを剣で振り払いながら、動きの遅いバジリスクをまず仕留めにかかる。ナタリアは戦闘が始まると同時に詠唱を始め、「バリアー!」と声をあげた。ルークの物理防御力を上げて、自身は弓を構えて中衛からルークのフォローに回る。群れてルークを攻撃しようとしたブラックバットに直角に敵に貫通するピアシスラインをお見舞いし、バジリスクの毒の息で毒状態にされたルークを即座にリカバーで回復させる。譜術攻撃はないため、一気に敵を片付けることはFOFでも利用しないとできないようだ。FOFを発生させる術も不足しているため、攻撃力はぐんと上がるわけではない。が、勇気溢れるナタリアが前衛に飛び出して弓を使ってルークのフォローをするため、意外にもルークの負担は軽い。

 ティアと組むことになったアニスは必然的に前衛を強いられる。
 ティアが詠唱を始めた間、敵を惹きつける役目をしなければならないアニスはブラックバットの餌食だった。「双旋牙」と声をあげ、巨大化したトクナガが両腕を奮いブラックバットを巻き込む。しかしこの技を使ったあと、アニスの隙は大きくなり、その隙を狙って先に復活したブラックバットが攻撃を浴びせた。アニスの体に細かい傷を増える。ブラックバットのせいで視界が黒くなってしまったアニスはバジリスクが近付いていることに気付かず、毒の息を食らって毒状態になってしまった。そしてようやくティアの詠唱が終わる――前に、素早い攻撃を得意とするブラックバットがティアに襲い掛かった。ティアは小さく悲鳴を上げて、「詠唱中は守って!」といつもの調子で声をあげた。
 アニスはイラッとした。ティアが当てにならないことに気付いたアニスは一先ずブラックバットの群れを追い払い、フリーランでブラックバットから距離を置く。ブラックバット、バジリスクの標的がティアに移った。ティアは譜術以外だと、杖による音素を投げ飛ばす攻撃を特異とする。しかし長距離まで音素を飛ばすことができる代わりに攻撃力が低く、背が低い敵には殆ど当たらないという難点を持っていた。ブラックバットの素早さの前では音素は簡単に避けられ、地を這うように動くバジリスクには音素が当たらなかった。結果、敵の攻撃を容赦なく受けてしまう。ティアもアニスと同様バジリスクの毒の息を食らってしまった。HPと物理防御力の低いティアは呆気なく瀕死の状態になる。
「リミテッド!」
 アニスは譜術攻撃を発動させる。ブラックバットの頭上に光の柱を落とし、何匹か倒すことに成功する。光のFOFも現れたものの、現時点では光のFOFを利用する技をティアもアニスも覚えていない。残存するブラックバットから距離を取り、ティアは自身にファーストエイドをかけると「アピアース・フレイム」と火のFOFを出現させる。そこから離れ、代わりにアニスがそのFOFに入り、敵を惹きつけると同時に「火龍焼破」と火を纏った連打を浴びせてストレートパンチでバジリスクを仕留めた。
「アピアース・アクア」水のFOFをアニスの傍で出現させたティアはその流れで「ファーストエイド」を唱える。水のFOFによりファーストエイドがメディテーションに変化し、状態異常と回復を兼ねた。

 戦闘に要した時間と、手数を考えると、ルークとナタリアの方が安定していた。
 一方、ティアとアニスの戦闘は不安定だ。物理防御力の低さと、詠唱にかかる時間を考えると、ティアはどうしてもフォロー役が必要不可欠だ。ティアが譜術攻撃を主体としているといっても、同様に譜術攻撃を得意としながらも前衛もこなすアニス、ジェイドと比較すると使い勝手が悪い。
「ティアってさあ……詠唱中は守って! とか言ってないで、自分の身を守る程度の力つけたら? 音素を飛ばす攻撃って……そんなコントロールを見せ付けるような技使ってるより、杖で殴ったり、ナイフで戦った方が攻撃力高いじゃん」
「それはそうだけど、元々私は後衛専門よ。譜術攻撃の方が得意なんだから、前衛が期待できないのはしょうがないでしょう。ちゃんと後衛としての勤めは果たしているわ」
 ティアは後衛であることを主張する。アニスの怒りは膨れ上がった。
「あのねえ、後衛専門って言っても、戦闘中にそんなこと気にしてられないでしょ? 敵の数が多ければ必然的に乱戦になるんだから、後衛とか前衛とか関係なく、臨機応変に戦ってよ! 前衛は接近戦で戦ってるんだから、後衛の詠唱に気を配ってる余裕なんかないんだから! フツーは敵と間近に対決してる前衛を後衛がフォローするべきでしょ。敵と離れてるんだから!」
 言ってやれ、とルークが何度もアニスの言葉に相槌を打つ。ティアに詠唱中は守ってと叱咤される機会が多いのは誰であろう、ルークだ。自らの胸中を代弁するようなアニスの発言に、ルークはすっきりとしていた。
「アニスに一理ありますね」
 ジェイドも同意したことでティアは臆した。
「で、でも、私は間違ったことは……」
「そうですねぇ、ティアは間違っていませんよ。後衛専門だと口にしてマニュアル通りの働きしかしていないだけで。臨機応変に行動できないのは確かでしょう」
 フォローかと思えば、追撃だった。ぐっとティアは息を飲む。
「……前々から思っていましたが、ティアは言動と中身が釣り合っていませんね。言動は立派でも、行動はとても未熟です。世間知らずのルークをしたり顔で注意していますが、私から見れば貴方はルークよりも悪い。ルークは世間知らずながらも向学心はあります。例えば……ガイ、先日話していた闘技場の件をもう一度話してください。それと海のことも」
 話の矛先を向けられたガイは驚きながらもしゃべりだす。
「ええと……闘技場は、ルークが知れば行きたがると思って隠していたんだよ。バチカルに帰ったとき、闘技場のことを知って、案の定ルークは行きたがったし、止めるのに苦労したな」
 ルークは体を動かすことが好きだ。命がけの戦闘は好きじゃないが、邸にいた頃はよくガイと剣舞をしていたし、剣稽古も欠かしたことはない。
「それに海。初めて見る海が珍しくて、海水を汲んで来いと命令されたな。元々ルークは脱走を試みる程度には外の世界に対して憧れがあったから、外に行きたがるようなものは教えちゃいけなかったんだ」
「お父様が軟禁命令を出していましたものね……」
 ガイが苦笑して、ナタリアが目を伏せる。
「ルークが世間知らずなのは、周囲による影響が大きい。それはルーク自身のせいではありません。知らないことは我々が教えていけば良い。向学心があるルークならすぐに覚えることでしょう」
 ルークの表情が和らいだ。無知を馬鹿にされていると感じていたルークの心の中の変化に、気付ける者は誰もいない。今は、まだ。
「ルークが無知なのは問題ではありませんが、貴方の方は問題があります。偏った知識しかないのに、自らの知識が正しいと信じ込み、姉のような面持ちでルークに師事する。言動と中身が釣り合っていないから、非常に目につくんですよ。例えば……タルタロスが襲撃されたとき、貴方は脱出時にルークに対してこう言っていました。こうなったのは自分の責任だから、ルークを必ず家まで無事に送り届ける、その代わり足手纏いにならないで、と。バチカルまでたどり着く間に、ルークが貴方の詠唱中を敵から守る姿は見ても、詠唱中は守ってと口にする貴方が足手纏いになっていないとは、先程の戦闘を見ても思えませんねぇ」
「”詠唱中は守って”って足手纏いがいう台詞だよね。自分が足手纏いになってますーって何度もいって恥ずかしくないわけ?」
 アニスが冷たい声でジェイドに同意する。ティアは全身を強張らせる。
「それに、よく貴方は戦闘後、ルークに対して踏み込みが甘いと指南していますね。質問しますが、貴方はルークより剣を習った経験、剣による実戦経験が有りますか? 有るならば、私は是非ともお手本を見せてもらいたいのですが」
「それは……兄さんから、少し、習いました」
「そうですか。で、実戦は?」
「……ありません」
「なら、ルークを指南できる立場ではないということです。ルークの剣の踏み込みを見る余裕があるのでしたら、詠唱中は守ってといわないで済む努力をしてください」
 ティアは口を噤んで、項垂れる。殊勝な態度を見せているが今だけだ。すぐにジェイドの言葉を忘れてルークに接するに決まっている。
「それにしても……貴方はルークとどういう関係のつもりでいるんでしょうね」
「え?」
 ぽつりと呟かれた言葉に、ティアは顔をあげる。ジェイドは不思議でならないと首を捻っていた。理解できないものを見るような目に居心地が悪くてティアは体を揺らした。
「貴方はルークの姉でもなければ、恋人でも、幼馴染でもありません。ナタリアやガイがルークに対して遠慮なく言うのとはわけが違うんですよ。ナタリアやガイがルークに色々と口出しするのはわかります。ガイは幼馴染で友人、ナタリアは幼馴染で婚約者ですから」
 ガイとナタリアとルーク。三人は幼馴染で婚約者で友人だ。親しい関係にあるから、遠慮なく何かを言いあうのはわかる。
「貴方は、ルークの何ですか?」
「何って……」
 ティアは改めてルークの関係性を問われて、言葉を失った。ナタリアがやや目を剣呑にさせて、ルークにも問う。
「ルーク、あの女に手を出したわけではありませんわよね」
 ルークが帰還した際も、ナタリアは似たようなことを言っていた。
「お前な……俺とティアがどうやって知り合ったのか知ってるだろ。誰があんな冷血女に手を出すかよ。ティアなんてただの知り合いだっつーの」
「って、ルークは言ってますけれど」
「わ、私もただの知り合いです! あんな、わがままお坊ちゃま、知り合い以外の何者でもありません!」
 ルークに対抗するような言い方だったが、ジェイドにはそれで十分だった。
「そうですよねえ。ルークも貴方も互いに意見は一致しているようですし。貴方はルークにとって、ただの知り合いで、ただのローレライ教団の軍人でしかない。そんな貴方が王族のルークに対して、偉そうに口出しする権利はありませんよねえ」
 ティアはルークに口出しする権利を失った。目を丸くさせて、口をぱくつかせる。間抜けな顔を晒すティアにジェイドはさらに言った。
「貴方はルークに対して、自分の意見をさも世間一般常識のように振り翳す一面があるようですから、それ慎んでくださいね。軍人が王族に自分の意見を押し通すなど非常識以外の何物でもありませんよ」
 そんなつもりはないとティアは言い返そうとしたが、ジェイドの冷たい笑顔の前に心が折れた。
「ルークも、ティアの話がすべて正しいわけではないということを心に刻んでおいてください。ティアがいくら大人びていると言えど、ティアは成人を迎えていない十六歳の子供です。もちろん、貴方も。ティアに何か言われたら、私やナタリアたちにどんどん聞いてください。無知も、色んな意見を聞くことも、悪いことではありません。色んなことを知ればその分行動の選択肢が増えますから」
「――ああ、わかった」
 知りたいことは聞いてみる、とルークは頷いた。

 *

 ジェイドの言葉により、ルークは子供のようにあれは何だ、これは何だと質問攻めするようになった。ジェイドのようにすらすら答えが出てくるわけではないナタリアとガイは自身の知識不足を痛感し、ルークのどんな質問でも答えられるように勉強する機会が増えた。良い傾向である。
 ルークと一緒にアニスとイオンもナタリアたちの話を聞いて、正しい知識を身に付けているようだ。
 ただ一人、ティアだけは自分の常識と、世間一般の常識の齟齬に折り合いをつけることができず、相変わらず常識と非常識が混雑した意見を述べるが、最早、誰もティアの意見をまともに取り合うことはない。
 アクゼリュスの障気中和の件もルークが相談したことで、ヴァンに警戒心を抱いたジェイドが見張っていたため、パッセージリングが超振動で破壊されることはなかった。それでもアクゼリュス崩壊は免れなかったが。
 アッシュの発言を信じて、ルークが兄に騙されてパッセージリングを破壊させた、外殻大地は崩落させないって言ってたじゃない、と混乱に乗じて口走っていたティアはジェイドを初めに冷たい目を向けられた。

「ティアには、相談の一つくらいして欲しかったですね」 


END.

海水〜はドラマCDネタ。
2014/08/16
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