ティアが犯罪行為をしていたなんてルークは今の今まで思いもしなかった。
 会談中、教団を糾弾するファブレ公爵の話を聞いて、ようやく理解が追いつく。頭の中が一瞬白く染まり、呆然と途方に暮れた。うそだ。最初に稚拙な一言が浮かんだ。
 思わずティアを見ると、彼女は項垂れるように俯いていた。先程までとは打って変わって、血色を欠いた顔をしていた。両膝の上で握った拳が震えているのが見てわかる。
 見る者に哀れみを与える姿だが、誰も気遣う様子はない。

 その間にも、ファブレ公爵の口からするするとティアを責め立てる言葉が出てくる。

「ティア・グランツと息子の間で生じた擬似超振動のせいで、バチカルは消滅の恐れがありました。ホド、フェレス島の消滅の真実を知る教団は、擬似超振動の威力をご存知のはず。バチカルが消滅しなかったのは奇跡としか言いようがありません。また、一時的とは言え、膨大な第七音素が観測され、バチカル内では混乱が起こりました。第七音素の大量消費は、レプリカが現れる前は、戦争か擬似超振動だと相場が決まっていることは当然理解していただけているはず。観測機を所持している貴族をはじめに多数の国民から問い合わせがあり、その混乱を収めるべくファブレ公爵家とキムラスカ王家は尽力しなければなりませんでした」

「ティア・グランツの譜歌の攻撃力を調査したところ、通常の譜歌と異なり、攻撃力に優れていることがわかりました。譜術防御力が低い者は、ティア・グランツの譜歌により命を落としていても不思議ではありません。また不幸なことに、眠らされる場所と打ち所が悪く怪我を負った者も多数います。妻のシュザンヌは元王女でして、生まれつき病弱でして……ああ、おわかりいただけましたか。ティア・グランツの行為により、妻をはじめに多数の命が喪われかねない事態になったことを、重く受け止めていただきたい」

「ティア・グランツは謝罪のために公爵家を訪問しています。が、謝罪はシュザンヌ一人のみであったこと、他の被害者は私含めて謝罪を受け取っておりません。また、謝罪のためとは言え、身形を整える時間すら与えられなかった病身の公爵夫人の寝室に、不衛生な格好で前触れも無く現れる無作法に、私は怒りを感じずにいられません」

「ところで、キムラスカは大詠師モースから謝罪を受けましたが、トップである導師イオンからは誠意ある対応を望めなかったことが残念でなりません。アルマンダイン将軍の報告によれば、カイツール軍港襲撃の現場に導師イオンが居合わせたとか。妖獣のアリエッタに襲撃を受けたカイツール軍港では、多数の兵士の人命が喪われ、何隻もの軍船も被害を受けています。それらを目にしながら、導師イオンの口から出たのは和平の話ばかり。また、妖獣のアリエッタの身をキムラスカに引き渡すことなく、教団の査問会にかけるというヴァン・グランツの発言を信用したと聞いています。カイツール軍港はキムラスカ領土です。キムラスカに話を通さず、キムラスカ国内で起きた犯罪人の扱いを勝手に教団が決めるのは如何かなものか。これは隠蔽工作では? 妖獣のアリエッタの査問会の詳細な報告書も後程請求しますので、即刻提出していただきたい。カイツール軍港の具体的な人的損出、被害額を計算し提示するとこのようなことになります。それらの損害賠償についての話もしたいと思っていました。終戦会談の場でするのは無粋ですが、今まで教団側に誠意ある対応を望めなかった以上、強行にいたるのも止む終えぬこととご理解いただきたい。こちらとしても、このような形は避けたかったのですが」

 教団側が誠意ある対応をしなかったせいなのだと公爵は告げる。

 教団側も当然ティアたちが仕出かした重犯罪の数々を把握していた。しかし、キムラスカから抗議が来たのは今まで一度もなかった。抗議を受けたのなら謝罪はしなければならないが、そうでない以上、こちらから藪を突く真似は避けたかった。ティアたちが犯した罪は重く、もし被害について賠償を求められれば、教団が転覆しかねないことを理解していたから。
 だというのに、ここにきて、謝罪と損害賠償の話を受けるなんて。キムラスカが誠意ある対応を望んでいたと口にしたことから、教団は悟ってしまった。モラトリアムを与えられていたのだと。その期間に、誠意ある対応を望めなかったからこそ、このような形に踏み切ったのだ。

 教団側の列席者は言葉もなく青褪める。まずいとしか言いようがなかった。今さら何を言おうと、弁解にすらならない。
 勇者か無謀か、沈黙が気まずく横たわる中で、ティア・グランツが弁解すべく席を立ち口火を切った。顔色は白く染まっていた。

「ま、待ってください! 私は兄を殺害しようとしただけで、ファブレ公爵家を巻き込むつもりはありませんでした! だからルーク……様を送り届けたのです。奥様への謝罪だけでは不足だというのならば、今から公爵家の皆様に謝罪致します。大変申し訳ございませんでした」
「今は国際会談の場だ。一兵士は身を弁えろ」

 にべもない。ファブレ公爵はティア・グランツを一瞥さえしなかった。
 ティアはショックを受けて愕然とするものの、すぐさま激怒と恥辱に顔を赤らめる。ティアは面をあげて何か言おうとする。
 教団側の列席者の一人である男が立ち上がり顔色を悪くさせたまま、ティアの頭を掴んで、面をあげられないようにした。

「申し訳ない……! この者は大詠師モースの寵愛を受けておりまして、本来ならば神託の盾騎士団の制服を着ていることすらおこがましい者なのです。寛大なお心で非礼をお許しください」

 頭を抑えつけられたティアは瞠目した。軍人として立派にやってきたつもりが、大詠師モースの愛人だと言われたのだ。侮辱を受けて反論したくなるが、それを察知した男は頭をグッと強く抑えつけた。反論するなと態度で示されて、愛人を否定できず悔しくて涙ぐむ。
 ルークにどういう目で見られているのか、想像するだけで、怖くて仕方ない。
 
 ファブレ公爵の冷ややかな声がさらにティアを追い詰める。

「そのような者、この場にいることすら相応しくないのでは?」
「たしかに。今すぐ連れ出します」

 あげくに、ティアはこの場にいることすら許されないと言われてしまった。教団側はこれ以上失点を重ねないように、火種であるティアを追い出そうとする。
 神託の盾騎士団兵士がティアの腕を掴み、ガイと同じように部屋の外へと連れ出そうと引っ張る。ティアは抵抗さえしなかったが、必ず助かると楽観視することもできなかった。

 公爵の言うとおり、ティアが罪を犯したことは事実だ。

 しかも、公爵に指摘されるまで、ティアは公爵家に謝罪すらまともに入れていない。シュザンヌへの謝罪もガイに言われるまで思いつかず、シュザンヌに謝罪を入れた時だとて相手への配慮を怠っていた。肉親を殺害しようとする心に追い詰められていたのだと弁解することはできるだろうが、――その後が問題だった。
 ティアは、何度かファブレ公爵家を訪問している。謝罪を入れる機会がいくらでもあった。
 だというのに、ティアがこれまでに公爵家でしたことは、メイドの服を可愛いと言ったり、ルークの剣の指南書を取り戻すための金額を申し出て減らしたり、ろくでもないことばかりだ。自分が危害を加えた被害者の家に謝罪も入れず、友人面で度々訪れては、のんきな口出しをする。罪悪感も反省もなく、非常識と謗られても不思議ではなかった。

 もう二度と、ルークと会えないかも知れない。

 ほのかな恋心で、最後にルークを一目見ようと振り向く。
 ルークは暗い表情に失望の色を宿しティアを見ていた。

「ルー……」

 なんで、そんな目で見るの。

 ショックだった。もしかしたら、両想いかも知れないと自惚れていた相手に、失望されたことが、ティアを打ちのめした。

 ルークにだけは誤解されたくなかった。だから、最後にルークの名前を呼び、弁解しようとした。そうすればルークの理解を得ることができて、ルークが助けてくれるかも知れないと都合の良い考えに支配されていたのだ。
 ルークはティアの元に駆け寄ることはなく、連れ出されるティアを見たまま。二人の視線は交わったまま、想いは重ならず、分厚い扉に隔てられた。

 終戦会談は、終始キムラスカとマルクトのペースで終わり。
 教団は薮蛇を突くことはなかったが、蛇は茂みで隙を窺っていたらしい。結果、厳しい追及を受けることとなった。
 ガイを筆頭に、世界救済の旅に出ていた一行の全員が罪を受けることとなり、彼らの旅は本人達の意思に関わらず終わりを迎えた。



 旅が終着を迎え、ルークは公爵家に連れ戻された。

 かつての仲間たちはルークを除いて大半が何かしらの罪に問われた。ルークも罪に問われることこそなかったものの、処分は受けた。

 処分理由は、王女を親善大使一行に同行させたことである。実年齢を考慮して実際の成人を迎えるまで――つまり十三年間――教育と厳重な監視という処分がくだった。仲間たちのように重罪に問われることがなかったのは救いだろう。

 アクゼリュス崩壊はキムラスカ王国とローレライ教団が望んでいたことであり、その罪がルークに問われることがなかった。マルクトはこれには苦い顔をしたが、ユリアの預言に詠まれたことだと知り、先帝時代――先帝を筆頭に預言信望者が上層部を占めていた時代――から重職を担っている一同が致し方ないと矛を収めたため、若い皇帝も納得するしかなかった。

 また、アクゼリュス崩壊に関して、ルークはヴァンの明確な悪意に道具として利用されただけでありパッセージリングの破壊に力こそ貸したものの、パッセージリングは導師イオンの協力がなければ封印を解除できなかったこと、ヴァンがホド島を消滅させた被験者であることを――ホドが消滅した真実をルークは教わった――踏まえると、ヴァンはルークを使わずとも擬似超振動装置などでパッセージリングを破壊する可能性があることが、ルークの身を救った。

 他にもルークと同じように、何かしらの事情を考慮されて重刑を逃れた者たちがいる。導師イオン、鮮血のアッシュ、烈風のシンクである。
 イオン、シンクはレプリカだと判明し、二人はルークと同様に、実際の年齢の成人を迎えるまでの監視と教育を受けることとなった。導師イオンは公的権力を失い、教団の顔として君臨することになった。

 アッシュは誘拐された経緯と事情を鑑みられ、また、誘拐後の生活が厳しいものであったことが考慮された。アッシュに関しては、誘拐された経緯、つまり誘拐前に国王の命令で辛い擬似超振動実験を受けていたことが明らかになり、第三王位継承権を持つ男児の扱いとは思えぬ非道さに国王を非難する者もいた。アッシュを擁護する者と、カイツール軍港の件で非難する者に大きくわかれたが、ルークと同様に教育と監視処分に落ち着いた。
 強制連行される形で連れ戻され、アッシュはしばらく唖然としていた。ヴァンの企みを止めなければと言っていたが、母に心配され言い包められている。ルークもアッシュも手段を選ばなければ、公爵家から逃げ出すこともできるだろう。だがそうすれば、もう二度と家に戻ってこれなくなることはわかっていた。ルークは素直に、アッシュは渋々と処分を受け入れ、暮らしている。

 ティアはその身に流れる血が命を救った。ユリアの子孫であること、本人に公爵家への敵意がないことから減刑が認められ、ユリアシティに監禁されることになった。一生をユリアシティで終えることになる。

 ジェイドは第三師団を全滅させられたことを報告せず、軍艦を奪取されたことで降格処分になった。導師イオンを連れ出す際の手段が問題視され、さらなる処分がくだされることが予想されたが、教団はマルクトに大きな借りがあるため予想が外れる可能性が高い。だが、軍部では針の筵になることは疑いようもなく、今後軍人として生きていくかは不明である。

 アニスはスパイだと発覚した。シンクが暴露したのだ。連盟軍により捕縛されたシンクはヴァンの志が折れることを悟ったのだろう、すべてを暴露した。ヴァンの目的、大詠師モースの教団裏切り行為、アニス・タトリンのスパイ行為、六神将全員の素性も明らかにして、黒獅子のラルゴの正体も知れたからナタリアの立場をより微妙なものにした。
 アニスは導師へのスパイ行為により教団が裁くことになるはずだったが、タルタロスの行路を教え第三師団殺害と軍艦奪取に関与した疑惑が持ち上がり、最終的にマルクトが裁くことになった。マルクトに借りがある教団は生贄のようにアニスを護送したという。アニスは、導師イオンの権力下から離れた場所で裁かれる事実に、未来が暗いことを悟り、意気消沈した様子だったという。

 ナタリアと”ルーク”の婚約は破棄された。

 公でガイの発言により、国王とナタリアの立場が悪化したせいもあるが、ナタリアの実の父親が世界の敵である黒獅子のラルゴと判明したことにより、ナタリアの生い立ちが見直されることになったのだ。黒獅子のラルゴは口を固く閉ざしたまま真実を語ろうとしなかったが、自分の娘から孫を取り上げたと発言した乳母により、ラルゴと乳母の関係が把握できていたので、乳母をラルゴに面会させたところ、彼は激昂して乳母を責め立てて真実を話し始めた。

 預言で詠まれていたからといって、乳母が自分の娘からナタリアを取り上げたこと。姫をすり替え、娘を取り上げるといった、実の母親の所業に耐え切れず、絶望した妻がキムラスカ港に身投げしたこと。
 妻の命をなくし、娘を奪われたラルゴは王城に事情を話に言ったが、誰も相手にしてくれず、預言を憎むことでしか理性を保つことができなかったのだと言った。自分の娘を死に追いやったのに、今の今まで真実を公表せず、ナタリアの乳母として安穏と暮らしていた貴様には罪悪感はないのだろう――ラルゴは口から唾を飛ばす勢いで怨嗟を吐いた。乳母は、娘の命と娘の家庭を壊した後悔に泣いたという。

 インゴベルトはラルゴの話を聞いて、ラルゴに深い同情を抱くと同時に、自分もまた乳母と預言に娘を奪われたのだと自覚した。
 実の娘は死産だったが、これまで一目見ることもなく、存在すら秘匿されたまま冷たい土の中に押し込まれてしまったのだ。
 真のナタリアは発見してすぐ母である王妃の墓に共に弔ったが、インゴベルトが見た時には、すでに骨だけの存在になっていたので、その骨が実の娘だと実感が伴わなかった。
 乳母とすり替えの幇助をした教団が悪いとは言え、ナタリアに対して愛情を抱くのも難しくなってしまった。いくら親子として過ごした時間は変わらないとは言え、ナタリアの存在によって、実の娘を一目見ることなく骨になってしまったのは耐え難い事実だった。

 インゴベルトはナタリアを乳母の孫として連座制で処分することに決めた。
 王女としてまっとうな教育を受けておきながら、親善大使一行に同行した責任は重い。名誉を地に落とした以上、王女として生活し難いだろう。今後針の筵の中で苦渋の生活を強いるよりは、乳母の孫として連座制で軽い処分をくだした方がナタリアの未来は明るいと考えたのだ。それが、インゴベルトがナタリアにできる最後の親としての判断だった。

 ナタリアは一生を困らないだけのお金を握らされて、バチカルを追放された。
 幸い、王女として育てられた彼女は教育が行き届いている。職業の幅は広く、生きていくには困らないお金も持っていた。王女として生きる術はなくなったが、平民として生きることになろうとも、いずれ恋をして、好きな人と結ばれるかも知れない自由と未来を手に入れたのだ。
 ナタリアは追放される前にアッシュの名前を呼び、会いたいと言っていたが、父の厳命と監視の下、アッシュはそれに応えることはなく去り行くナタリアを遠くから見守った。幼い恋が終わる瞬間は、なんとも呆気なかった。

 黒獅子のラルゴは、ヴァンの同士であったが、彼自身はそれほど大きな罪を犯してない。あえていうなら、タルタロス襲撃に加わったことだが、上司の命令ならば情状酌量の余地はあった。ラルゴは釈放され、その後、忽然と行方を暗ませた。
 ケセドニアでは、巨体の傭兵と、その娘とは思えない金髪の女性が時々見かけられるという。

 日々を、ルークとアッシュは共に過ごした。

 アッシュは誘拐されていたせいもあり、最初から貴族としての教育をやり直すことになった。ルークと勉強のスタートラインは同時である。負けないように、互いに火花を散らしながら勉強しているかいもあり、学習は早い。

 そんな生活を送る中、二人は父に呼ばれた。

「父上、お呼びですか?」

 執務室に入室して、机仕事をしている父の元に歩み寄ると、父は難しそうな顔を書面からあげた。

「ああ、来たか。ちょうどいい。休憩にしようと思っていたところだ」

 執事長のラムダスを呼び、父はお茶の用意をさせた。
 執務室にテーブルセットが運ばれてお茶の用意が瞬く間に整えられる。紅茶の他にティースタンドが用意されているのは、食事を摂らず仕事をしていた公爵への配慮なのだろう。ラムダスが取り分けようとしたが、公爵はそれを断り下がらせる。

「食べたいものを取りなさい」

 と、公爵が言うので、ティースタンドから二人は食べたいものを取ることにした。公爵はサンドイッチを、ルークはショートケーキを、アッシュはスコーンを。三人以外、他に人の眼はないので、マナーは気にしなかった。
 アッシュは、スコーンにクロテッドクリームを薄くつけて苺ジャムを乗っける。ルークは一口サイズのショートケーキをナイフで半分に切り分けて、フォークで口に運んだ。公爵はダージリンの紅茶を一口飲んでから、サンドイッチに手をつける。

「……たまにはこうして、おまえたちと食事をするのも悪くないな」

 父がこぼした言葉に、ルークとアッシュは顔を見合わせた。

「こういう日が来るとは思わなかった」
「……父上、それって……」
「ユリアの第六預言を知っているだろう。私は、キムラスカの繁栄には、おまえたちの命が必要だと、長らく思っていた。だから、距離を置いていた。……共にいる時間が長ければ長いほど、情は深まる。私はおまえたちを喪う苦しみを味わいたくなくて、仕事を理由に家に戻らず、距離を置いたのだ。情けないだろう」
「……父上。いえ、そんなことはありません。俺は、……父上の本音が知れてよかったです」
「俺も、アッシュと同じ気持ちです。あなたは、あんまり俺のことを見てくれなかったから。……嫌われてるのかと思ってた」
「嫌われるなら私の方だ。私は私の感情を優先させるあまり、おまえたちを見ようともしなかったのだから。我ながら言葉もない。だが、……預言が外れた今、私はおまえたちの父として、役目を果たそうと思った」
「俺の処分が軽く済んだのは、父上のおかげですか」

 アッシュが食べる事をやめて、訊ねた。

「こいつはともかく、俺がカイツール軍港を襲ったことは、決して許されることじゃない。インゴベルト陛下への反逆罪として幽閉されてもおかしくなかった。それを、十年間の監視と教育で済ませるなんて」
「……無論、おまえがしたことは許されるわけではない。しかし、おまえには情状酌量の余地があった。前途ある若者でもある。キムラスカ王族は少ないのだ。国家を支える柱となれる者は、一人でも多いほうがいい。おまえに十年間の期限付きの処分がくだったのは、国家の支柱の一つになることを望まれている意味も含まれている。おまえは今後一生、その身をキムラスカに捧げることと引き換えに、此処にいる。おまえたちにくだされた処分が軽いとは、私は思わない。ルーク、おまえもだ」

 身が引き締まるような強い眼差しと共に告げられた言葉に、ルークとアッシュは同時に息を飲む。

「おまえたちはこれから、政略結婚をし、子を授かり、次代へと政権を引き継ぐ役目が与えられる。それは一生を費やす大仕事だ。おまえたちの政治手腕で、数百年後のキムラスカ王国が変わるかも知れない。その役目を否応なく背負わされたのに、軽い処分と言えるものか」

 公爵は淡々と言って、喉を潤すように紅茶を飲んだ。
 ルークとアッシュが黙り込む。
 自分達にくだされた処分は、ティアたちに比べると軽いと思っていた。そんなことはない。そんなことは、決してなかった。

「食事を終えたら、おまえたちに会わせたい人がいる」

 そうして、ルークとアッシュはミリアという、一人の女性に会うことになった。
 彼女のかつての名はマリィベル。ガイの実の姉だった。



(2016/02/10)
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