夫であるルーク・フォン・ファブレが、妻である私を裏切っていることなど結婚前から知っていました。

 お父様からルーク様との婚約が持ち込まれたとき、ルーク様と前妻のメシティアリカ・アウラ・フェンデが離婚した原因を知らされました。
 メシティアリカは子供が産めない身体で、離婚するしかなかったと。跡継ぎを残すのは王侯貴族の義務です。どうにもならない事情で離婚した2人がお互い想い合っていることを知りながら、私はルーク様に嫁ぎました。
 ルーク様とメシティアリカの関係に皹を入れようというわけではなく、私の生家の地位向上と後ろ盾を得るためという打算塗れの政略結婚でした。ルーク様は跡継ぎのため、私は家のため。お互いに利害一致していたのだから、誰に咎められるいわれもございません。

 結婚して、数ヶ月。有り難いことに、私は早々に子宝を授かりました。子供には愛着が湧きました。自分のお腹の中で1日と日が立つごとに大きく育っていく、子供。膨らんでいくお腹を見ていると、愛しいという想いが湧き立ちました。男児なのか女児なのかわかりませんが、私の子供であることに変わりはありません。五体満足で産まれて来ますように。子供の涎掛けや靴下を一針ずつ縫いながら、私は願掛けをしました。悪阻が苦しくて一時的に弱音を吐いたりしましたが、旦那様たちに励まされて、そうこうするうちに出産時期になりました。

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 陣痛で苦しむ私の枕元で、旦那様はおろおろと慌てています。旦那様、貴方が慌てても子供は産まれません。出産に立ち会うという旦那様に、お医者様が困ってます。あまり皆さんを困らせないでください。気が散って邪魔ですから、旦那様は部屋から出て行ってください。私が内心でそう思っていると、お義父様が旦那様を引っ張り出してくれました。旦那様は部屋から引きずり出される前まで、頑張れ、私の名を呼びながら死ぬな、だの何だの言っておりました。大丈夫ですよ。産まれてくる子供の顔を見ずに私は死ねません。ええ、旦那様のような方を残して置いて逝ったりしません。だからそう心配なさらないで。
 出産から数時間。
 私は元気な男児を産みました。
 旦那様は、まだ目も開かず寝ている赤ん坊をじーっと見つめています。かれこれ1時間くらいは経つはずですが、よくもまあ飽きないものです。私は疲れ果てました。その子が泣いたら、旦那様が世話してくださいな。

「ミリア、寝るのか?」

 はい、私は寝ます。旦那様、その子の世話よろしくお願い致します。

「……産んでくれて、ありがとう」

 眠りにつく前に聞こえた旦那様の言葉に、私は頬を緩めました。
 愛する女との間に産んだ子供ではありませんが、旦那様、どうかその子を愛してください。
 貴方の血を受け継ぐ、子供です。






 ルーク・フォン・ファブレ子爵の第1子誕生。
 街中に広まった噂から、ルークの妻が子供を産んだことをティアは知った。

 ティアが産むことが出来なかった子供が産まれた。その子供が大きくならないうちに、ティアは妻の座を取り戻したかった。
 片方とは言えルークの血を受け継ぐ子供だ。きっとティアも可愛がれるはず。
 ルークから復縁話が持ち込まれる日をティアは首を長くして待っていた。

 ――そんな日が訪れることは永久に来ないと、知ることもなく。


 

END.

終わり。
2012/12/06


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