アルマンダインは忙しそうに仕事に戻り、彼の部下に家を案内してもらった。乱暴に何処かに連れて行かれるアリエッタがどうなるかなど知りたくない。イオンたちは目を背けるような形で部下の後を追いかけた。
 伯爵の地位に相応しく立派な邸だったが、常ならばはしゃぐアニスも硬い表情で口を閉じたままだった。
 玄関を通り抜けて、赤い絨毯が敷かれた廊下を歩き、程なくして応接室に通された。部屋の用意が整うまで、しばらくの間そこにいることになった。ダアトとキムラスカ間の情勢が一気に険悪化したせいか、ルーク一人、分断するように別室に通された。お茶の用意に現れたメイドたちが去ると、応接室にイオン、アニス、ティア、ジェイド、ガイの四人しかいない状態になり、そうしてようやくイオンたちはティアを責め立て始めた。

「――どうしてファブレ家を襲撃した事実を黙っていたんですか!」
「私はファブレ家を襲撃してなどいません!」

 ティアは心外そうに言い返した。イオンたちの目つきは鋭く尖り、一斉にティアに向いている。唯一ガイだけが苦笑とも取れる顔をしていた。仲間内3人から険しい表情を向けられて、ティアは傷ついたような顔をした。

「では、何故アルマンダイン将軍はファブレ家が襲撃されたと口にしたんですか」
「それは、……誤解です。私は確かにルークの家に侵入しましたが、襲撃なんてしてません。兄を殺害するために仕方なかったんです。でも、家人を巻き込まないように最大限配慮しました。だからユリアの譜歌を使って、家人を眠らせたんです。ルークが邪魔をしたのだけは想定外でしたが……」

 ティアの発言はイオンの怒りに火をつけた。誰のせいで教団が窮地に立たされ、アリエッタを見捨てる選択肢を選ばされたと思っているのか。憤怒で真っ赤に染まった顔でイオンは怒鳴り声をあげた。

「何が邪魔で、想定外ですか! 誰が自分の家で、来訪客の殺害を企む侵入者がいると思うんですか!? ルークはあなたから自分の身とヴァンを守るために自衛しただけじゃないですか! 自衛することを邪魔だというのなら、あなたにはルークを害する意思があったということです! それに巻き込まないようにといってますが、他人の家で人を殺害するために侵入しておいて、巻き込まないも何もないでしょう!!」
「イオン様、ちょっと落ち着いてくださいよぉ! そんなに怒ると体に悪いし、あんまり大声をあげると家人がきちゃいますよ」
「っ……」

 イオンはまだ何かを言いたげに口をぱくつかせていたが、アニスの言葉は状況を思い出させた。ふーっと深い溜息を吐いて、どうにか怒りを鎮める。イオンに怒鳴り声を浴びせられたティアはほっと安堵した。が、それを許さないとでもいうように、今度はアニスから刺々しい言葉が向けられた。

「ほんと信じらんないですよね。ティアのせいで、教団の立場が危なくなってるのに。本人、ファブレ家を襲ったことも、ルーク様を誘拐したことも罪だと思ってないんだから」
「……私は……ルークを巻き込んだことは悪いと思ってるわ。だから、ルークを送り届けるためにバチカルに行くところだったの」
「はあ? 送り届ける? その程度で罪が帳消しになると思ってるんだから、ティアの頭って幸せだよね」
「っ……」
「大体さ、送り届けるっていうけど、あんたの態度見てる限りじゃ、それが本当かどうか疑わしいよ。あんた、さんざんルーク様を盾にしてたし」
「盾にだなんて人聞きの悪い……ただ詠唱中は無防備になるから、一時的に守ってもらっていただけよ。それにルークを送り届ける私が彼を盾にするわけないでしょう。だからタルタロス脱出後、オラクル兵に狙われたルークを身を盾にして守ったのよ」
「たしかに一度だけ、あなたはオラクル兵の凶刃からルークを庇っていましたね。ですが、ルークがあなたを守った回数に比べたらお話にもなりませんよ。よくもまあ、送り届けないといけないと思っている相手の背に庇われて戦闘できますねえ。さすがに私でもそんなこと出来ませんよ、被害者に申し訳なくて。そもそも、その戦闘だとて、あなたがルークを巻き込んだ結果でしょう。あなたに巻き込まれたせいでルークは戦闘を経験し、さらに人間を殺害する羽目になったんですよ。あなたがルークに与えた精神的かつ身体的苦痛を考えれば、口が裂けても彼を守ったなどといえないはずですが」

 厳しい視線を向けるジェイドは呆れたような口ぶりで、これまでのティアの行いを否定する。ティアは「ですが」と自分の非を認めようとしない。

「あなたが反省していないことはこれまでの発言と態度で充分わかりました。もういいです。これ以上聞いても時間の無駄にしかなりませんから」

 イオンの切り捨てるような言葉にティアはショックを受けた表情で黙り込んだ。ガイが「そんな言い方はないだろう」とティアを慰める姿を冷たい目で見遣って、イオンは頭を抱えた。

「それより、今後どうしましょう……教団は……ダアトは……インゴベルト陛下に許されるでしょうか?」
「正直難しいでしょうね……アルマンダイン将軍は犯人の引渡し要求をしていると口にしていました。それに、イオン様の謝罪を待っていたのに届かないとも。長い間待たされたキムラスカとしては、和解という選択肢は消え失せたとしか考えられません」
「……事情を説明して許してもらえないでしょうか」
「マルクトの和平協力のためにキムラスカに向かっていたと? それとも、ティアの犯罪行為を知らなかったとでも? 言い訳だと思われて、ばっさり切り捨てられるのがオチです。……本当にまずいことになりましたね。もしかしたら、マルクトとダアトが共謀してファブレ公爵家を襲撃して、ルークを拉致したと思われているかも知れません」
「そんな……」
「……キムラスカの要求をすべて飲んで、ようやく戦争が回避できるかどうかといったところでしょう」

 それも難しいかも知れない、とジェイドは告げた。ファブレ家、ルーク、それにミリア。ティアは制服を着用したままキムラスカ王族に危害を加えている。キムラスカがダアトの敵対行為と判断しても無理はない。
 状況の悪さを知り難しい表情をする一同の中で、ティアは「ちゃんと事情を話して謝れば理解してもらえるはず……」と相手が謝罪を受け入れることを前提にものを考えた発言をしていた。それ以前に謝罪相手の元にたどり着けるかどうかすらわからないのに。
 どこまでも傲慢なティアに憎しみを抱きながら、イオンたちは溜息を落とした。ガイとティアがのんきな会話をしている中、ジェイドとイオンとアニスは一つの意見で合意する。

 ――バチカル到着次第、ティア・グランツの身柄をキムラスカに引き渡すと。
 3人は、ティアの命を切り捨てた。

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