ティア厳しめ/オリキャラ主役
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 ファブレ公爵家で起きた不測の事態により、公爵子息のルークを送り届けるべく、道中たまたま出会った和平使者一行と共にキムラスカに向かっていたティアはカイツール軍港でミリアと再会してひどく驚いた。
「ティア・グランツ? ……何ですか、その格好は」
 ミリア・ヘルメスと名乗る女性は金色の双眸を厳しく吊り上げてティアを睨みつけた。
 ティアは不思議そうに目を瞬いた。ティアの格好はいつもどおり神託の盾騎士団の軍服である。格好のことを問われるとは思いもよらずにティアは見つめ返すが、ミリアは怪訝な顔を見せるだけだった。
「……なあ、あの人誰だ?」
 ルークが小声でイオンに問いかける。イオンはルークに合わせて声を潜めて「神託の盾騎士団情報部の情報室長です」と答えた。
 イオンの言うとおり、ミリアは情報部の情報室長だった。階級は律師、つまり教団内部において四番目に地位が高い。ティアの上司の一人だった。
 情報部は表向き大詠師モース直轄部隊ということになっているが、キムラスカに入り浸るモースが情報部を指揮できるはずがなく、モースはミリアに情報部室長という権限を与えて仕事を一任している。
 そのため、ミリアはローレライ教団の情報室から動くことは滅多にない。彼女は世界各地を転々とする情報部員の情報を纏める立場にあるから、こうして教団の外で顔を合わせること事態が珍しいのである。
「情報室長、それはいったいどういう意味ですか?」
「話は後です。今はこの状況を収めなくては」
「あ……」
 ミリアは周囲を見回して眉を寄せた。
 カイツール軍港は血に染まっている。潮風に入り混じる血臭、地面を染める夥しい量の血液、体を欠損させて横たわる兵士たちと、煙をあげる何隻もの船――。
 鮮血のアッシュに命令された妖獣アリエッタにより生み出された光景は、惨状というほかなかった。
「まったく、なんて愚かな真似を……私は生存しているキムラスカ兵の介抱をします。ティア・グランツ、貴方に少しでも優しい心が少しでも残っているのなら、治癒術でキムラスカ兵を癒しなさい。そうすれば多少は刑が軽くなるかも知れません。くれぐれも余計な真似をしないように」
 ミリアはそういうと、イオンに挨拶をして、生存しているキムラスカ兵の介抱に向かった。何故ミリアが此処にいるのか、他にも尋ねたいことは山ほどあったが、話は後になりそうだ。
 ミリアの背を呆然と見送る一同の前に、整備土たちが現れる。整備士長の救出を懇願する彼らの話を聞いて、イオンたちは整備士長を救出すべくコーラル城へ向かった。


「導師イオン」
 整備士長を救出してカイツール軍港に戻った彼らを待ち受けていたのは、冷ややかな目をしたミリアだった。
「グランツ謡将に聞きました。整備士に助力を請われ、コーラル城へ向かったそうですね。お怪我はありませんか?」
「……ありません。皆、無事です」
 ルークがディストたちに怪しい検査を受けさせられていたが、一先ずは無事である。
「そうですか……ご無事で何よりです。アニス・タトリン、何故イオン様をコーラル城へ連れて行ったのか説明なさい」
「え……っ」
「整備士長はグランツ謡将が救出に向かう手筈になっていました。何もイオン様が向かう必要はなかったはずですが? それも徒歩で向かうなどと……アニス・タトリン、あなたは導師守護役でしょう。導師の健康に気を配るのもあなたの仕事です。もしイオン様がお体を壊してしまったらどうするのですか。あなた方に責任が取れるとでも?」
 厳しい言葉を矢継ぎ早に浴びせられて、アニスは萎縮してしまう。
「待ってください! アニスは悪くありません、僕が」
「導師たる者が軽率な行動を取るとは思えません。アニス・タトリン、導師に庇ってもらうとは何事ですか。何か申し開きがあるのなら、自分の口ではっきりと言いなさい」
 自らの行動を軽率と断じられてイオンは言葉を失った。
「あ、あたしはイオン様の言うとおりにしただけで、」
「導師の言うとおりにした結果、導師が倒れる危険性も考慮せずに導師を歩かせて無駄に体力を消耗させたというわけですか」
 ぐっとアニスは口ごもって、顔を俯かせた。
「……導師守護役はあなたには荷が重い」
 不穏な言葉の響きにアニスは面をあげてミリアを見る。
「導師イオン、アニス・タトリンの導師守護役の解任を要求します。既に詠師以下の承認は取れていますので、あとは導師の承認をお願い致します」
「「な……っ」」
「導師守護役の職務を度々逸脱して男漁りを繰り返す導師守護役。解任の理由には十分過ぎます」
「お、男漁り!? あたしそんなこと、」
「財産目当てにアニス・タトリンが職務中に地位がある男性に言い寄る姿が度々目撃されています」
 ピシャリとミリアはアニスの反論を切り捨てた。それを男漁りと言われてしまっては、ぐうの音も出ない。が、反論はあった。
「それはアプローチですよぉ!」
「職務中に色目を使うことが導師守護役に相応しいとでも? あなたのせいで導師守護役は遊びでできる仕事だと思われて、導師守護役という役職そのものを疑問視する声が多数寄せられています。他の導師守護役が恥辱に塗れる思いをしているのはいったい誰のせいですか?」
 アニスは驚愕に目を大きくする。
 イオンはアニスを庇おうとするが、ミリアの眼光に負けて黙り込んだ。
「それに……大人しく解任を受け入れた方があなたの為ですよ」
 ミリアはそういうと、アニスの耳元に顔を寄せて何かを呟いた。
 アニスの顔色が一気に白くなる。身を強張らせて震えると、おそろしいものを見るような眼でミリアを見つめた。
「わ、わかりました、だから、……お願いします」
 アニスは頭を下げた。ミリアの言葉を受け入れたアニスに、イオンは信じられないように首を振るうと「どうして……」と呟いた。アニスは下唇を噛んで視線を逸らす。
「導師イオン、アニス・タトリンの解任を要求致します。本人の了承も得られましたので、あとは導師イオンの承認のみです」
「アニス……どうしてですか? 辞める必要はありません。ミリアや詠師たちが何と言おうと、僕があなたを守っ」
「イオン様、ごめんなさい。でも、あたし今すぐ辞めたいんです。解任させてください!」
 アニスはイオンの言葉を遮って頭を下げた。イオンは悲しそうに瞳を伏せる。
「……わかりました。アニス・タトリンの解任を承認します」
 イオンの承認が得られるとミリアは事務的にアニスの処分を告げる。ただちに導師守護役の制服を神託の盾騎士団に返還するよう求め、そうして再びアニスの耳元で何事か囁く。アニスは真面目な顔で頷くと、ミリアに「ありがとうございましたっ!!」と頭を下げながら礼を言って、イオンたちの傍から離れてしまった。アニスの行く先はダアトだった。
「アニス……」
 こちらを振り返ることなくサッサと行ってしまったアニスに、イオンは傷ついた顔で名を呟いた。
「他の導師守護役と交代するまで、僭越ながら私ミリア・ヘルメスが導師イオン様をお守り致します。皆様よろしくお願い致します」
 ミリアはルークたちに向かって頭を下げると、イオンの斜め後に付いた。ルークたちは困惑しながらもミリアを受け入れた。


 連絡船キャツベルトに乗り込むと、イオンはミリアと話がしたくて彼女と二人きりになった。
「……アニスにいったい何を言ったのですか?」
 何故アニスが態度を変えたのか、その理由が知りたかった。
 イオンだけではなく全員がその理由を知りたがっていたが、ミリアは口を閉ざしていた。
「それは上司命令ですか?」
「……はい」
 イオンは苦渋の顔で頷く。身分を使うような真似は避けたかったが、使わなければミリアは口を割らないだろう。ミリアは周囲に目を配り、イオンの耳元に口を寄せる。誰にも聞かれないように耳元で打ち明けられた話にイオンは身を強張らせた。
「アニス・タトリンが大詠師モースのスパイであることが判明しました。彼女はタルタロス襲撃に関与しています」
「――それは本当ですか?」
 イオンはミリアに真偽を問う。
「間違いありません。その証拠も入手しています。……これが詠師たちがアニス・タトリンの解任を承認した理由です。アニス・タトリンには情状酌量の余地があるため穏便に済ませるためには、これ以外の方法はありませんでした」
「それは、どういう、」
「アニス・タトリンは両親の借金を大詠師モースに肩代わりしてもらっていました。教団の運営費を私的流用したため、大詠師モースは汚職により失脚する手筈になっています。今なら大詠師モースにすべての責任を被せ、アニス・タトリンのスパイ行為をもみ消すことが可能です。導師守護役として残すには彼女には不安がありましたから……罪の帳消しと引き換えに、彼女には表舞台を去ってもらいました」
 ――公的には、アニス・タトリンはダアトに戻る途中で盗賊に殺害されることになっています。
 これでもし事実が明るみに出たとしても、公的にはアニスが死亡しているため、死人を追うような真似をする者はいない。
「マルクトに引き渡すより、アニス・タトリンにとっても、教団にとっても良い結果になったかと」
 教団の体面を守るためなのだろうが、同時にアニスも守っている。例えもう二度とアニスと会えなくても、生きてさえいてくれれば。イオンはミリアに感謝した。
「……ありがとうございます、ミリア」
 マルクトにとっては申し訳ないが、イオンはアニスが救われて嬉しかった。柔らかい笑みを浮かべるイオンに、ミリアは「次にティア・グランツのことですが」と再びイオンの顔を強張らせるようなことを告げた。



END.

教団第一の人を作ってみた。以下設定。


ミリア・ヘルメス(本名/ミリア・ダアト)
情報室長。二十代後半設定。
世界各地の情報部員から送られてくる情報を選別して管理している。敵に回したら確実に厄介な人。自分に有利な展開にするためには情報を使いまくる。律師であり、預言士。
ダアトの子孫。導師の素養はあるが導師になる預言に詠まれなかったことで導師にはなっていない。カースロットも当然のように使えるが、長い年月を経て導師には伝えられなくなったダアト式譜術も受け継いでいる。預言によりシンクたちが作られることがわかっていたため、シンクたちが殺される前に保護した。そのためシンク、フローリアンの姉のような立場である。が、ヴァンたちは知らない。

基本的に教団とユリアの子孫を守るために行動する。
が、ファブレ公爵家襲撃事件によりティアは守護対象外になった。以後ヴァンにのみ狙いを定める。


書きたいシーンがいくつかあるのでまたミリアで何か書くと思います。

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