裏ED。表ED後の読後推奨。
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(どういうことなの?)
 薄暗い牢屋の中に閉じ込められたティアは震えていた。
 格子が嵌められた窓から冷たい空気が入り込む。春を目前に控えたとは言え、まだコート類が手放せない肌寒い日が続いている。囚人の誰もが布団をかぶり身を縮こませる寒さと戦う中、ティアは一人だけ腹の底から湧き上がるような寒さによって震えていた。
 例え、どんなに暖かい部屋にいてもこの寒さは消えやしない。何故ならティアが感じているのは外気による寒さではないのだ。
 絶望的な現実に向かっていると知りながら、その道から逃れられないような。退路も活路もない一本道を歩くことを強いられ、ついには袋小路にはめられてしまうような、感覚に目が暗む。
(ヴァン……兄さん)
 どういうことなの、と何度となく繰り返した疑問を胸中で呟く。
 兄の恐ろしい計画に気付き、兄を殺す覚悟で止めようと思い、ティアが実行に移したのは12月のことだった。その後、兄は誤解だと弁解したが、どこまで信じていいのかティアには半信半疑だった。
 いつ兄が恐ろしい計画を実行に移すかわからない――疑心暗鬼に揺れていたティアだったが、ミリアとの再会をきっかけに歯車がかみ合ったように事態は動き出した。
 いつの間にか、ティアはファブレ公爵家襲撃事件の犯人として、教団に切り捨てられていた。
 牢屋に入れられ罪人として扱われるうちにティアは理不尽な現状に不満を覚えた。確かにルークを巻き込んでしまったことには罪悪感を覚えている。だが、しかし、しょうがないではないか。兄を止めるためだったんだから――事情を話してティアは理解を得ようと努力したのだ。兄の計画も話した。兄は誤解だと言っていたがどこまで信じられるかわからないと言った。
 ティアの取調べにあたった軍人はヴァンに事情を聞いた。
 結果、ティアに与えられた答えは、「私はそのようなことは知らない」という兄の答えだった。
 兄は自分が恐ろしい計画を企んでいた事実を忘れ去っていた。白を切る態度ではない。自身がユリアシティで育ったこと、もとは滅亡したホドの住民であったこと、それらを認めたうえで、「外殻大地を崩壊しようとしている計画」を兄は忘却していた。
 兄は言った。
「ティア、お前が仕出かしたことは、死んでもお詫びできないほどの重い罪だ。罪を認めてきちんと償いなさい」と。
 ――もとを正せば、兄さんのせいじゃない。
 ティアが恨みがましくそう言っても、誰も理解してくれなかった。それどころか、自らの犯罪を兄のせいにして言い逃れようとする妹の図に見えたのか、軽蔑の眼を送ってくる。
 まだ言い逃れる気なのか。
 まだ反省しないのか。
 彼らの眼が呆れて責め立てるたびに、ティアの心に皹が入ってゆく。
(私の間違いだったの? 私が、……兄さんを殺そうとする必要はなかったの?)
 恐ろしい計画を企てる兄を殺害しようとした時の心情と記憶を反復する。
 あの時のティアは使命感と昂揚感に包まれていた。何が何でも兄を止めようと思った。大事な兄を喪っても、世界を守ろうとした。
(私は世界のために兄さんを殺そうとしたのに)
 兄を殺して計画を止めたティアが浴びるのは賞賛だったはずだ。それがどういうことだろう。何故、侮蔑の言葉と視線を浴びなければならないのだろう。
(どうして?)
 思考はループする。
 皮肉なことに思考に耽る時間はたっぷりあった。
 冷たい牢屋に押し込められたティアには考える以外できないのだから。
(どうして)
 たどりついた答えに、ティアは己の本心を知る。 
 それは、浅ましく、口に出せないものだった。
 兄がアクゼリュスを崩壊すれば、兄は凶悪な犯罪者になっていた。
 そうすれば、ファブレ公爵家に侵入した事実も、ルークを巻き込んだ事実も、兄の恐ろしい企みを止める健気な妹の図が作られて――自分の未来は、兄の犠牲と引き換えに賞賛と光で包まれていたはずなのに。
(――どうして兄さんは計画を実行してくれなかったの)
 説得に絆されず、あの時、兄を手にかけてしまえば良かった。そうすれば兄が恐ろしい企みを企てていると言っても、誰もティアを否定せず、理解を示してくれた可能性があったのに。
 パッセージリングを操作するために、ユリアの子孫である事実が彼女の身を一時的に救う。それはほんのひとときの猶予期間。ティアと部下達と共に、パッセージリングの再セットという栄誉ある任務を与えられた鮮血のアッシュは、教団に戻ると、すぐさま報告した。


「性根が腐ってる。更生は無理だ」



END.

2014/12/14
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