「僕はお守りをするためにいるんじゃないんだけど?」
「そう言うな」
「まったく……」
「ティアを頼んだぞ」
「ふん。――精精お守りを引き受けてやるさ」

 独りで戦うことも出来ない奴のお守りなんてついていない。
 この鬱憤をどう晴らすべきか。
 シンクは思考を巡らした。

「ああ、そうだ。――あいつを使おう」

 きっとすこしは楽しませてくれるだろう。

「シンク、何をしているの。早くして!」

 ティアに苛立った様子でせっつかれて、シンクは溜息をこぼした。
 やっぱり、お守りなんて引き受けるんじゃなかった。








「ティアのレプリカ!?」

 驚愕の声をあげたのはガイだけだった。
 アニスとナタリア、ジェイドは事前に理解していたような顔で「やはり……」と言った。
 仲間たちの態度は、独り動揺を浮かべたガイにとっては異質だった。

「やはりって……旦那は知っていたのか!?」
「……薄々とですが」

 ジェイドは眼鏡のブリッジを指で上げ直す。

「っていうかー、ガイは気付いてなかったんだね」

 アニスは呆れた様子で呟いた。
 独り気付かずにいたガイは愚鈍と言われている気分に陥る。

「それは、だって、彼女はティアとそっくりじゃないか!」

 ガイはそっくりと称したが、ティアとティアレプリカ――ミリアと名付けられた少女は個々のパーツは被験者と似ていても、総合的に見るとそれほど似ていない。
 
「そっくりって…あたしから見たら、それほどでもないけど。ティアの方がきつい顔してたし、ティアは髪の毛長かったし、服装だってもっと露出してたよね」
「そうですわね。わたくしの目から見ても、それほど似ているとは思えませんわ」

 ガイはたじたじになった。
 ティアの変化をただのイメチェンと思い見過ごしていたガイは、女性2人の発言に言い返す言葉を持たない。
 ぐうの音も出なくなったガイを放って、ルークは「それでさ、」と話を続けた。

「ミリアもオレたちの旅に同行させていいかな?」
「そうですね……私は構いませんよ。彼女が戦闘において足手纏いにならないことは、これまでの旅で実証済みです。回復役がナタリアだけでは不足の事態に陥ったとき不安が残りますから、むしろミリアがいてくれた方が助かります」
「そうですね〜、あたしも大佐と同意見かな」
「わたくしも同意しますわ。ガイはどうですの?」
「え、あ、俺は……」

 仲間たちの視線がガイに集中した。
 まさかここで空気を読まずに否定しないよね? ――と、仲間の視線が物語る。
 ひくりと頬を引き攣らせたガイはつい先ほどまで、ティアと信じて疑わなかった少女を見た。ミリアという少女はティアと酷く似ていて、ガイはどうしてティアではなくミリアが仲間に溶け込んでいるのかと思ってしまう。

「それより……ティアはどうしたんだ?」
「ティアなら……ヴァンのところに居るらしい」
「やっぱり!?」

 大声をあげたアニスはイスから立ち上がる。憤慨した様子でテーブルを叩いた。

「ティア、やっぱりあたしたちのこと裏切ったんだ!」
「裏切ったって…なんでそんなことが言えるんだ! もしかしたら事情があるのかも知れないだろ? 仲間のことをそう簡単に疑うのは良くないぞ」
「そうは言うけどさ、ティア元々総長を殺そうとしてなかったじゃん! 総長を倒さないと、あたしたち死んじゃうかも知れないんだよ? そんな切迫詰まった状況なのに、止められないかと思ってたとか何とか言って勝手な行動して、最初に総長を殺害しようとしていたときのティアはどこ言っちゃったわけ!?」
「アニス、すこし声が大きいですわ」

 今いる場所は宿屋の食堂だった。
 アニスは怒りのあまり大声でしゃべっていた。自然と食堂にいた旅人の視線は、ルークたちに集まり、ナタリアは周囲を気にして声を抑えるように言う。
 が、怒りに染まったアニスの耳にナタリアの声は届いていなかった。
 ティアをフォローするガイを睨みつけている。

「それは、でも、ティアにとってはヴァンは兄貴なんだ。身内を殺害するなんて躊躇うのは当然じゃないか!」
「だから、それがおかしいって言ってんの! ティアは最初は総長を殺そうとしていたんだよ! 今さら躊躇うなんておかしいじゃん!! それにティアは殺そうとして総長に一度説得されてんだよ? 今回だって都合の良いこと言われて信じて、あたしたちと敵対したのかも知んないじゃん!!」
「アニス、そこまでです。大声でそのような物騒なことを言うものじゃありませんよ」

 アニスの話の内容を、さすがにジェイドは咎めた。
 もしジェイドやアニスが軍服を纏っていなければ、軍に通報されてもおかしくない話の内容だった。
 ジェイドの静謐な眼に見られて、アニスの怒りが急速に萎む。はぁいと返事をして、すとんとアニスはイスに腰を下ろした。
 ガイはそのことに安堵しながら、それでもティアを躊躇なく疑うアニスに不満を覚えた。

「ティアには何か事情があるかも知れないじゃないか。裏切ったなんて、ティアが俺たちを裏切るわけないさ」
「……ガイはティアを信じていますのね」
「当然だろう。……ナタリアは違うのかい?」
「わたくしもアニスと同じ意見ですわ。……ティアを信じられません」
「そんな…どうして!」

 ナタリアまでもが、ティアが仲間を裏切ったと思っているのか。
 酷い衝撃を感じてガイはナタリアに詰め寄ってしまい、女性恐怖症で自然と身体が後ずさって、我に返った。何をやりたいのかわからないとナタリアは呆れた眼をガイに向けながら、「ガイに話しても時間の無駄ですわ」と説明を拒否した。ジェイドもそうですねと頷き、

「ガイはティアを信じている。それで充分でしょう」

 さり気なく、自分もティアを信じていない意思を露にした。
 アニスのみならず、ナタリアとジェイドまで。
 仲間に裏切ったと疑われているティアが不憫でならず、ガイは最後の砦であるルークに自分と同一の意見を求めた。

「ルーク……お前はティアを信じているよな?」

 ルークは顔を俯けると、すこしして首を振った。

「ガイ……俺は信じられないよ」
「どうして……お前くらいは信じてやらないと、ティアが可哀想じゃないか! ティアはお前のことを、」

 ティアはルークに想いを寄せているのに――。
 愛しい人に信じてもらえないティアが哀れでならない。
 ガイは咎めるようにルークを見たが、結局何も言うことが出来ずに黙り込んだ。何を言えば、ルークと仲間たちの気持ちを変えられるのか、今のガイにはわからなかった。
 せめて、自分くらいはティアを信じていよう。そう思うことしか出来ない。

 ルークの隣に立つ、ミリアとガイの視線が合う。
 ガイの双眸には、彼女がティアの居場所を奪い取ったように映った。

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