驚愕した一同がドアに視線を向ける。
しまっていたドアが開かれた。
「――ティア?」
ティアが血塗れのナイフを片手に立っていた。
鋭く磨かれたナイフから鮮血が伝い落ちる。床に落ちた血の滴を、ティアは靴で踏んだ。
「みんな酷いわ。私を置いて先に行くなんて」
「…ティア、あなた、そのナイフ……」
どうして剥き出しにしたナイフに血がついているのか。ナタリアは震えている声で問う。
「通してくれないから、通してもらっただけよ」
ティアはわずかに唇をつりあげた。
場にそぐわぬ微笑を浮かべるティアに、ドア越しに上がった悲鳴は彼女が原因であることに気付く。
「何故そのような真似を……」
「巻き込まないように譜歌を歌ったのに、寝てくれないんだもの」
ティアは譜歌を使って、施設の中に侵入したようだ。
キムラスカ国王の命令により、警備体制が見直されたため、譜歌に耐性がある警備兵でも配置されていたのだろう。
眠らなかった警備兵がティアを捕らえようとしたところ、返り討ちにあったのかも知れない。
犠牲になった人を悼みナタリアがティアを凝視するが、ティアはナタリアから視線をそらしてルークを見た。
「ルーク」
名を呼ばれたルークの体が強張る。
正気とは思えぬ行動をしたティアを、ルークは警戒していた。ティアが一歩一歩、ルークに近付く。
ルークの隣にいたミリアが彼を背中に庇った。
ティアが不快気に顔を歪め――ミリアの顔を見るなり、手に持っていたナイフを振り下ろした。ミリアは咄嗟にガーターベルトからナイフを取り出して応戦する。
金属が激しくぶつかり合う音が響いた。
尋常ではない力で振り下ろされたナイフに、ミリアの手がじんと痺れる。
「っ!」
「ミリア! ティア、やめろ!」
ティアは般若のような形相をしていた。
ミリアの背後からティアの表情を見てしまったルークは恐怖に慄く。戦慄に顔を白く染めたルークの目の前で、ティアはミリアの心臓を目掛けてナイフを突き刺そうと腕を振りかぶる。
「あなたがいるから!」
さらに応戦すべく、ミリアがナイフを構えた。ティアを一端落ち着かせないと話しにならない。
だが、ミリアにはティアを落ち着かせる方法など思いつかなかった。
被験者が言ってきくような相手ではないことを、ミリアは生まれたときに刷り込まれた記憶で理解していたのだ。
ティアを気絶させたほうが容易い。
瞬時に判断したミリアは、右足を振り上げると、ティアの腹部を蹴り上げようとする。ティアをドアに叩きつけて、意識を強制シャットアウトすることを狙ったのだ。
しかしミリアがティアに蹴りを入れようとする寸前、ミリアの身体が動かなくなった。
「あっ……?」
急速に這い上がった闇が、ミリアの意識を染め上げた。
ミリアの視界が暗闇に包まれる。
「ミリア? ミリア!」
ルークの切迫した声がミリアを呼ぶと、ぐさりとナイフが突き刺さる音がした。ミリアの耳が拾った最期の音だった。
「――ってぇ……」
ミリアの背後から伸びたルークの左手は、ティアが振り下ろすナイフを強く掴んでいた。
反対の右手では、意識を失ったミリアの腹部に腕を回して支えている。
ナイフはルークの左手の表面をすっぱりと切っていた。少なくはない量の血が床を汚す。
ティアは夢から覚めたような顔で、呆然とルークを見ていた。
「ルーク!」
血相をなくしたアニスは人形を大きくして、ティアを押しつぶす。
床に潰されたティアを見届け、ルークはようやく左手に持っていたナイフから力を抜くと、ナイフをテーブルの上に置く。
「ルーク、大丈夫ですの? まあ! なんて酷い怪我を……すぐに治しますわ」
「俺よりミリアを診てくれ。急に倒れたんだ」
ナタリアはルークに駆け寄り怪我の具合を診ると、すぐさまキュアを唱えて怪我を治す。
ジェイドはアニスがティアを捕らえていることを確認すると、ルークに近寄りミリアの顔を覗き込んだ。
ミリアは苦しそうな顔で瞼を閉じていた。外傷はない。
「……詳しい見立てはミリアが起きてからじゃないとわかりませんが、外傷はありませんし、とりあえずは無事でしょう。それよりも――っ?」
ジェイドは何かに気付くとコンタミネーション現象を発動させて、右手に槍を握った。
同時に、ルークの首に向かって剣先が突きつけられる。ジェイドは槍の切っ先で弾き飛ばして、剣先の軌道をそらした。ルークの首皮をチリッとした痛みが襲う。ジェイドが槍で弾かなければ、ルークの首を剣が突き刺していただろう。ルークの傍にいたナタリアは間近で行われた恐ろしい光景に小さな悲鳴を漏らして、ルークを攻撃した人物を睨みつけた。
「ガイ、なんてことを……!」
「ちがう、俺じゃない! 身体が、勝手に……!」
ガイはそう言い残すことが精一杯だった。ガイの顔から表情が消える。
能面のような表情でガイの手から繰り出される攻撃は、ルークの命を狙っていた。ガイの攻撃をジェイドが凌ぐ。操られた様子を見せるガイに、仲間たちはいつぞやのことを思い出した。
「まさか…カースロット?」
「シンクいるの!?」
カースロットは操られた本人が元々持っている殺意を引き出して操る技だ。
導師イオンによってガイのカースロットは解呪されたはずだが、再びシンクにカースロットをかけられたのかも知れない。
敵対しているシンクと戦う機会は多いため、シンクがその気になれば、いくらでもカースロットをかけることは可能だ。
仲間たちの中でガイを標的に選んだのは、ガイにはルークを狙って攻撃したという前例があるからだろう。仲間の中で、仲間内の誰かに殺意を持っているのはガイくらいだ。
――そのことに気付いた仲間たちは術者であるシンクを探す。
カースロットは術者が近くにいないと発動しない。シンクは近くにいるはずだった。
ナタリアが窓の外から誰かに見られていることに気付き、弓矢を構えると振り向きざまに矢を放った。
矢は上空に向かって直線に伸びると、木の上、太い枝に器用に立っていたシンクを突き刺そうとする。
シンクはわずかに身体をそらして難なく弓を避けると、木の上から滑るように降りた。
ガイの身体が崩れ落ちた。
「役に立たない」
ガイに二度もカースロットをかけたのにルーク独り殺害できなかった事実に、シンクは舌打ちした。
床に崩れ落ちたガイを温度がこもらぬ双眸で一瞥して、今もなおアニスの人形の下敷きになっているティアに視線を向ける。ティアはシンクから向けられた視線に怯えて、明後日の方向に顔を背けた。
「さあ、満足しただろ。戻るよ」
シンクがティアに対して”戻る”という表現を使ったことに、仲間たちは怪訝な顔をする。
アニスはトクナガの下敷きになっているティアをじっと見つめた。
「――どういうこと?」
ティアは白紙のような顔色をして、何かを恐れていた。
アニスの問いを嘲るように、シンクは唇をつりあげる。
「その女はアンタたちを裏切ったのさ」
シンクの口ぶりは、完全に現状を愉しんでいた。
ティアは咄嗟に口を開いて否定の言葉を返そうとする。しかし、頭上にいたトクナガの上から聞こえたアニスの言葉に、否定を返す機会を忘れた。
「やっぱり……」
アニスは小さく「あたしたちを裏切ったんだ」と呟く。
ティアの脳内は瞬時に沸騰した。
「…って――やっぱりってどういうこと!? わたしは、私はあなたたちを裏切ってなんかないわ! 裏切ったのは…裏切ったのはそっちじゃない!!」
「あたしたちが裏切った……? 変なこと言わないでよ! ティアが裏切ったんじゃん!!」
「私は裏切ったりなんか絶対しないわ!! 私の信頼を裏切って、レプリカを受け入れたのはあなた達よ!!」
ティアの憎しみに染まった眼が、ぎょろりとミリアを睨みつけた。
もし視線だけで人を殺せるなら、ミリアは殺されていただろう。
ナタリアはティアの言葉の意味がわからないと小首を傾げた。
「ミリアを受け入れることが、どうしてティアを裏切ったことになりますの?」
ミリアを受け入れる=ティアを裏切ったことになるのだとしたら、それはただのティアの思い違いである。
哀れなものを見るような複数の視線がティアに集まる。ティアは顔色を羞恥で赤く染めた。
「だって、兄さんはあなたたちが私を裏切ってレプリカを受け入れたって、」
「……うわぁ、この期に及んでまだヴァン信じてるとか……」
アニスは深い溜息を吐く。
ルークたちはヴァンの野望を阻止するため行動している。だというのに、ティアは今もなおヴァンを敵として認識しきれていなかったらしい。ティア自身覚悟を決めると口にして、その前にはヴァンを殺害しようとした過去を持つというのに。ティアにかかれば、覚悟という言葉がとても易い言葉に聞こえる。
「……あのさ、ティア。あたしたち、その”ティアのお兄さん”と戦ってるんだけど?」
アニスの呆れた言葉は、ティアの心を深く突き刺した。
一度は落ち込んだティアだったが、自分がヴァンに騙されていた可能性に気付くと殊勝な顔で謝り始めた。
「…ごめんなさい――私、今でも兄さんを信じたい気持ちが消えてなくて……、騙されてしまったわ」
「あー、うん、そうだねー」
ティアの茶番劇が始まった。アニスは面倒くさそうな顔で同意する。
付き合いの良さを見せるアニスと違って、ナタリアはうんざりした表情を隠さずに小さな溜息をこぼして、ジェイドはティアに感心を払うことすら馬鹿馬鹿しいというようにノエルとシュウ医師を気遣った。シンクと戦闘になる可能性を覚え、部屋の隅に避難させる。その様子を眺めていたシンクはティアの謝罪が空回っている事実に愉快そうに笑っていた。
「これからは心を入れ替えるわ。だから、もう一度みんなと一緒に兄さんを、ヴァンを止めたいの」
「えっ」
アニスとナタリアが明らかに嫌そうな顔をした。
ルークも顔を歪める。ルークの視線はティアに向くことなく、ミリアに向いたままだった。顔を見ることすら嫌なのだと気付いたのは、ルークの傍にいたナタリアとジェイドだった。
カースロットが解けて、早々に意識を取り戻しつつあるガイが「んん…」と声をあげて上体を起こす。
「……あたしたち、ヴァンを倒すために旅をしてるから。妹のティアは来ない方が良いと思うよ。お兄さん殺したくないでしょ?」
アニスは遠回しにティアの同行を拒否している。
「そんなの今さらだわ。……せめて、妹の私が兄さんを倒したい」
止めたい、倒したいとさんざん言っているくせに、いざそのときになると何度も躊躇しているティアが言う。
ティアの言葉は信用ならない。どうやってティアを拒否しようかアニスが頭を悩ませていると、ティアの言葉に感心したガイが口を挟んだ。
「ティアはすごいな……身内を殺す覚悟なんてそう出来るもんじゃない。ティアがこれほどの覚悟をしているんだ。俺たちは彼女の気持ちに応えてやるべきだ」
「ガイ……」
「みんな、ティアの気持ちを汲んでやれよ。それに、ティアは役に立つだろう? ユリアの譜歌は強大だ。ティアは足手纏いにならないことは俺たちがよくわかってるじゃないか」
「ええ。私は足手纏いになんてならないわ」
ガイはティアをフォローする。2人の様子を眺めていた全員がどんな思いをしているかもわからずに。
苛立ったアニスが声を荒げる。
「あのねぇ、ティアを仲間に出来るわけ無いでしょ!? ティア、あんた、自分が何やらかしたかわかってるわけ? あたしたちを裏切って、この研究所にいる人たちに攻撃したんだよ!!」
「「!」」
現実を突きつけられて、ティアは再び顔色をなくした。
「そ、れは……」
「アニス! ティアには事情があったんだ! だから、」
「仕方ないっていうの? ……それ、殺された人たちに言えるの?」
「それは……だけど、ティアにも事情があったのは事実だ。こんなことをして誰よりも後悔しているのはティアだ。反省してるのにそんな責めなくても」
「どうして……ガイさんは、いつもそうやってティアさんを庇うんですか?」
頑ななまでにティアを庇うガイを見ていたノエルが、耐え切れなくなった様子で口を挟む。
ノエルの口から零れ落ちた言葉は様々な感情を内抱して震えていたのだが、ガイはそのことに気付くことなく、ティアを庇い続ける。
「どうしてって…当然じゃないか。ティアは反省しているんだ。罪は償えばいい。それにティアは身内を殺害するという涙ぐましい覚悟をしているんだ。そんなティアを俺たちがフォローしてやらなくてどうするんだ」
「……っ」
ノエルが泣きそうな顔で黙り込む。そんな彼女の肩を、ナタリアがそっと手を当てて、無言で首を振う。もうガイには期待しないほうが良い――ナタリアの悲しみに満ちた瞳はそう告げていた。
ティアをフォローしてばかりのガイは、ノエルを傷つけていることを理解出来ないのだろう。シェリダンの街が襲撃されたときもガイはティアを庇い、ノエルの心痛には心を配らなかった。何故ガイがティアを庇い続けるのか、仲間たちには理解できない。理解したくもないと、アニスは唾棄した。
「ルーク、お前もそう思うだろ」
ガイはルークに話を振った。語尾に疑問符すらつかない言葉は、同意ではなく肯定と追従を求めている。ルークはミリアに視線を落としたまま、はっきりと言った。
「思わないよ」
「ルーク? お前、どうしちゃったんだ?」
自分の意に沿う返答でなければ、ルークの正気であるのか疑う。ガイの言葉に返事を返すことなく、ルークはただ下唇を噛んだ。
ガイとティアに向けられる、不信。その感情を読み取ったシンクは「これは傑作だ」と笑い声をあげた。
「アンタたち、そのレプリカたちに信じてもらえてないじゃないか」
2人の表情が引き攣る。
シンクの言葉は的を射ている。だからこそ、ティアは怒りを覚えた。
「貴方に私達の何がわかるの!?」
「わかるさ。ティア・グランツ、ガイ・セシル。アンタたちはそのレプリカたちから疑われてることがね。最高じゃないか、仲間だと思っているのはアンタたちだけなんてさ。ほら、そいつらの顔を見てごらん。そこのレプリカたちはアンタたちを疑っている顔をしているよ。アンタたちを信じられない、どうせヴァンの味方なんだろう――奴らの眼はそう言っているじゃないか!」
「シンク、お前っ! 出鱈目なことを言って俺たちを仲違いさせる気だな!? みんな、シンクの言葉に耳を傾けるな!」
耐え切れずにガイが放った言葉を、ティア以外誰も共感することはなかった。
一行はシンクの言葉を否定しない。
「仲間に疑われてることを信じたくないんだろう? 残念だったね。仲間だと思っているのはアンタたち2人だけさ。そいつらは誰もアンタたちを仲間だと思っていないよ。可哀想に。ああ、でも仕方ないよね、僕でもそいつらと同じ立場だったらアンタたちを信じないさ」
「なに…っ」
「当然だろう? ガイ・セシル。お前はカースロットで操られてそのレプリカに切りかかった」
「あれはお前が悪いんじゃないか! 俺は復讐は諦めて、」
「アンタの復讐がどうこうなんて話はどうでもいいんだよ」
「な、」
なら、どうして。ガイの顔に浮かべた疑問符を、嘲笑混じりにシンクは答えた。
「アンタは、カースロットで操られなければ、ヴァンの仲間であったことをそいつらに教えなかったんだろう。ヴァンの仲間だった、でも今は違う、信じてくれ。ずっと今までヴァンの仲間である事実を黙っていたくせに。どこにアンタを信じられる要素があるのさ」
ガイはひゅっと息を飲んだ。一気に全身から血の気を引かせて、シンクを凝視する。
ガイの双眸に映るシンクはそれはそれは愉しそうに笑いながら、ルークを見た。
「レプリカルーク、この自称親友に言ってやんなよ。親の罪を子供に当てはめて、俺を殺そうとしたお前なんて信じられない。どうせお前は今もヴァンと通じているんだろうってさ!」
「っ!!」
今の今まで、今も尚ヴァンと繋がっていることを疑われているなんて想像したこともなかった。仲間に信じてもらえないなんて思ったこともない。寝食を同じにして、肩を並べてきた仲間が、心の底ではガイを疎ましく思っていたのかも知れない――その事実はガイの心胆を冷やすには充分過ぎた。
シンクの言葉はただの出鱈目だ。俺たちはお前を信じてる。親友のルークにそう言って貰いたくて、ガイはルークを見る。ルークは何も言わずにガイとシンクを眺めていた。――白けた表情で。
ルークが自分に向ける感情の一端を知ってしまい、ガイはルークを見たまま青褪めて黙りこくる。
ガイを庇おうと、ティアがシンクに向かって激昂した。
「シンクっ!! なんて酷いことを言うの!!」
「ティア・グランツ、アンタも他人事のような顔していていいの?」
「どういうこと……?」
「アンタだって、そいつらに信じてもらえてないじゃないか」
「それはヴァンが……」
「ヴァンがどうこうなんて話はしてないよ。そいつらに信じて貰えなかったのは、今までのアンタの優柔不断な態度の所為だろう」
「な……っ、私のどこが優柔不断だというの!? 言い掛かりも、」
「ヴァンを殺すだの何だの言って実行に移しておきながら、やさしい言葉をかけられると容易くヴァンを信じた奴のどこが優柔不断じゃないって言うのさ」
「……っ」
ティアは返す言葉もなくて、悔しげに下唇を噛んだ。
「そいつらはアンタなんかお呼びじゃないってさ。ほら、戻るよ」
「私はっ……戻らないわ!」
「必要とされてないくせに?」
「っ! そんなことはないわ!」
「ふぅん……。まあ、僕はアンタがそっちに戻ろうとどうでもいいけど」
シンクは一通り場を混乱に陥れて満足していた。ティアがヴァンの元に戻ろうが、この場に留まろうが、シンクにとってはどうでもいいことだ。
引き際と悟り、シンクは「次遭ったらアンタたち全員殺す」と言い捨てて、去って行った。
シンクの背中を見て、仲間たちは攻撃を仕掛けてやろうかと思ったが思うだけに留めて、ただ見送った。
シンクの姿が見えなくなると、一先ず緊張が解ける。
ガイとティアの動向に気を配りながら、ルークたちはこれからどうするか話し合う。
「まだ意識がある者がいるかも知れませんわ。わたくしはそれらの者たちの治療をしますわ」
「あ…私も手伝うわ」
ナタリアの言葉にティアが追従する。
ティアが口を挟んだ途端に向けられた無数の視線は、彼女を責めるものだった。
「手伝うだなんて……どの口が言いますの? あなたの所為で怪我した人たちですのよ!」
「ナタリア、今は責め立ててる場合じゃないよ。早く怪我してる人たちを治療しなきゃ、助かる命が助からなくなるよ」
「…そうですわね。ルーク、大佐、わたくしは怪我人を治療して回りますわ」
「あたしも! 回復譜術は使えないけど、薬や包帯で怪我人を助けるよ」
「私もいいですか? 私も一人でも助けたいんです!」
「私も救助して回ります。私も医師の端くれですから、すこしはお役に立つでしょう。シュウ医師、あなたはここに居て下さい。重体人がいたら連れてきますので、治療をお願いします。それと、ミリアの様子も気にかけておいてください」
「わかりました」
「ルーク、あなたは軍に行って人手を借りてきてください。救助の手が足りないのも理由の一つですが、研究員が譜歌の被害に遭った今この研究所ががら空きの状態ということが気にかかりますわ。もし研究所の機密情報を盗まれでもしたら、大変なことになります」
「…ああ、わかった」
いまだ意識を失っているミリアを気にかけながらも、ルークはやるべきことのために頷いた。
シュウ医師にミリアを預けて、ルークは部屋から飛び出す。ルークの後を追うように、それぞれがやるべきことをするために部屋を出て行った。
部屋に残されたのはシュウ医師とミリア、それと所在なく立ち往生しているティアと、呆然としていたガイだった。
「……とにかく、私も診て回ります。ガイ」
「あ、…ああ…そうだな」
ティアとガイは遅ればせながら、部屋を出て、怪我人を診て回ることにした。
2012/10/28
次回ティアめった打ち。
prev next
back