「――お帰り、ティア」
全身傷だらけで戻ってきたティアを、ヴァンはやさしく受け止めた。
顔中膨れ上がっていようと、青痣だらけだろうと、美貌が損なわれようと、ヴァンにとってティアは妹だった。
自分をやさしく受け入れてくれるヴァンにほっと安堵の溜息を落として、ティアは泣いた。
仲間の元に、……ルークの元にもう戻ることは出来ない。
ルークたちはティアのレプリカを受け入れていた。ティアが仲間に受け入れられたミリアを見て、どんな思いをしたのか知らずに。
ミリアがいた所為でティアは犯罪を犯してしまった。その罪を責められた。巻き込むつもりはなかったのに、無関係の人を多数巻き込んで、さらに被害が広がってしまった。
ティアからしてみれば、そもそもルークたちがミリアを受け入れなかったら犯す必要がなかった罪だった。
それを責められて、心が折れた。
「ううっ……」
「可哀想に……疲れただろう」
ヴァンは、ティアの兄はやさしかった。
兄から伸ばされた手が、ティアの頭を撫でる。その感触に安心を覚えながら、ティアはヴァンの胸に抱きついて目を閉じた。
仲間は、ティアがヴァンに騙されていると言った。
そんなことはなかった。ヴァンが言ったように、仲間はミリアを受け入れていた。兄の言葉は正しかったのだ。
「怪我もすぐに治してやろう。今はゆっくり休みなさい」
ティアは素直に頷いた。疲れていた。ルークたちが自分のレプリカを受けいれた姿を見て、否定されて、理解してもらえずに、疲れ果てていた。休みたかった。
ヴァンは傍に控えていたリグレットに命じて、ティアを部屋に連れて行かせる。ティアが好きな物ばかりを集めた部屋は、妹の心を癒してくれるだろう。
「――それで、シンク、いったいどういうことだ?」
ティアを連れ帰ったシンクからすこし離れたところに、ガイが所在なく立っていた。
ガイは暗い表情でヴァンを見ている。
シンクはおどけたように両肩を竦めて、さあと言った。
「僕に言われてもわからないさ。アンタに言われてアレを回収したら、こいつも勝手についてきたんだからね」
「ついてくることを許したのはお前だろう」
「攻撃の意思も見えなかったから、べつにいいだろ」
シンクにとって、ガイはどうでもいい相手だった。いざとなれば楽に殺せる存在を気にかける必要はない。
予想外の土産を目の前にしたヴァンはまあいいと呟くと、ガイに尋ねた。
「ガイラルディア様、あなたはどうするつもりでここに?」
「……俺は……」
「すでに私達の目的はあなたに告げたはず。敵になるのなら容赦はしませんが、味方になるというのなら歓迎しましょう」
「俺は……レプリカ計画なんてごめんだ」
「では、敵に?」
「……敵になることは止めた」
どういう心境の変化か知らないが、ガイは敵対する意思はないようだ。
味方か敵か、なんて二者択一をヴァンはする気はない。敵にならないのならそれでいい。
「まあ、敵にならないならそれはそれで良いでしょう。妹の傍にいてくれますかな?」
「……ああ」
ヴァンはティアの部屋を教えた。
素直にティアの部屋に向かっていくガイの背を見送っていると、シンクに話しかけられた。
「あいつ、放っておいていいの?」
「監視はつけておく。シンク」
「僕?」
「敵になるようだったら殺せ」
「……お守りはごめんだって言ったろ」
チッとシンクが舌打ちをつくが、ヴァンが命令を撤回する気はなかった。
「それより、どうだった」
「ああ……あのレプリカに暗示は聞いていたようだよ。それとこれ、」
シンクは研究所から持ち帰った資料をヴァンに投げ渡した。
ヴァンはその資料を確認すると、ご苦労と頷いた。
「そんな資料どうするのさ」
シンクの問いにヴァンは一言返した。
「保険だ」
数週間後、ティアの身体に異変が訪れた。
ティアの体内の音素が変調して、手先から消えていくような変化が見え始めた。
動揺するティアとガイに対してヴァンは言った。
「大爆発現象が起こっている。お前の身体はレプリカに乗っ取られてしまう――」
ヴァンの言葉に、ティアは顔を引き攣らせた。
ガイはミリアの所為かと顔を歪めて、2人はヴァンの思惑通りにミリアに対して憎悪を抱いた。
すべて、ヴァンの計画通りに進んでいた。
TO BE…
2012/11/18
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