――翌朝、合流した一行はエルドラントへ向かった。

 ラジエイトゲートに向い、ローレライにより宝珠を賜ったルークたちはプラネットストームを完全に停止させることに成功した。障気発生の原因はプラネットストームであることが、障気中和の事件を機に判明した。プラネットストームは音素エネルギーを無限に生み出す惑星燃料供給機械だ。音素面に関して資源の枯渇を味わったことがない人類にとって、将来的なことを考えると頭を悩ませるであろう問題が浮上したが、命あればこそだ。ルークを初めとして、レプリカ一万人の命を犠牲に取り戻した青空を、再び障気に変えぬように人類はしなければならない。ともあれ、プラネットストームの停止により、上空に浮かんでいたエルドラントを守っていたプラネットストームで作られた防壁は完全に崩れた。
 キムラスカ、マルクト連合軍がエルドラントに特攻作戦をかける前、無防備になったエルドラントが近付いたアルビオールを上空から押しつぶそうとするが、そこはノエルの巧みな操縦により緊急回避に成功した。
 結果、エルドラントはケセドニアの北側にあるイスパニア半島の北端に傾くように落下した。

「皆さん、ご無事で! かならず、帰ってきてくださいね!」

 ルークたちを降ろすと、ノエルはそう言った。エルドラントのすぐ傍にはアルビオールの姉妹機が不時着していた。白い煙をあげる機体を困った様子で眺めていたノエルの兄であるギンジを迎え、アルビオールは島から離れていく。ヴァンに心酔した神託の盾騎士団兵――否、すでに彼らの軍籍は神託の盾より抹消されているため、ヴァンの私兵と称する方が正確だろう――に、危害を加えられぬよう、アルビオールは海上で一行の帰りを待つ手筈になっていた。

 ノエルとギンジに見送られるように、ルークたちはエルドラントに突入した。
 第7譜石の存在をミリアによって確認した一行は、とうに消滅している島にいることに不思議な思いを覚えながら、足を走らせた。ミリアたちを追うようにキムラスカ、マルクト連合軍が突入するのはしばらく経ってからだった。

 ルークたちは突入早々、リグレットと戦ったが、世界を股にかけて強くなったルークたちの相手ではない。少々かすり傷を追ったが、治療するほどでもなかったため、一行は足を止めずに道を駆けた。道なりに進むと、仕掛けていた罠にルークがはまった。広い空間の中には、ルークとおなじように罠にはまったアッシュがその場にいた。ヴァンとの最終決戦だけでなく、これが最期になるであろうことは互いに予感していた。アッシュは大爆発現象を自らが死ぬものだと誤解しており、ルークは回避しようがない大爆発現象により間近に迫った死を実感していた。死を予期していた2人は覚悟を決めて、自らの存在を賭けて一騎打ちした。

 アクゼリュス崩落後、ルークはユリアシティでアッシュに敗北を叩きつけられている。自らがレプリカだと知り、アクゼリュスを崩壊させた原因であることを直視したくなかったから、心の動揺が剣を鈍らせた。今度は絶対に負けるわけにはいかなかった。ヴァンに最期の挨拶をするために、最期をミリアと共に過ごすために、最後くらいは綺麗に死にたかった。ルークの思いは、アッシュに敗北を与えた。
 アッシュは悔しそうに顔を歪めて、出口がない部屋に超振動を使って作った穴からルークに行けと言った。同時にヴァンの私兵が部屋に雪崩れ込み、ルークとアッシュを殺そうと武器を向けてくる。アッシュは彼らを食い止めるためにルークに背を向けた。
 アッシュと共闘して私兵を倒している余裕はルークには与えられなかった。アッシュにより否定されてしまい怒号を飛ばされて、ルークはその場を後にするしかなかった。一行と合流して、突き進む。

 アッシュが殺されたのは、間もなくだった。ルークは便利連絡網と称される、アッシュとの間にあった回線がぷつりと途絶えたことで知った。アッシュを失ったことに酷く動揺するナタリアは哀れであったが、ここで彼女が崩れてしまえば、危険に晒されるのは彼女自身と、仲間たちだ。ナタリアは動揺を殺して、仲間たちと共に戦うことを止めなかった。

 リグレット、アッシュ、シンク――戦い続けたルークはさすがに疲労を隠せなかった。
 ヴァンの元にもうじきたどり着こうとしたとき――薄暗い表情をしたガイが現れた。

「ガイ……!」

 部屋の一室から姿を見せたガイは、腰に佩いた剣の柄に手をかけている。いつでも戦闘態勢を取れるようにしているガイを警戒して、ルークたちは立ち止まった。ガイと一行の間に息が詰まりそうな緊張感が走り、ぴりりと神経が研ぎ澄まされる。
 そのまま膠着状態になりかけた場を切り崩したのは、ジェイドだった。

「――ヴァンの仲間になったんですね」

 ジェイドの静かな声に、ガイは無理やり笑おうとした。が、笑えなかった。笑みというにはあまりにも不気味に口角をつりあげたガイの双眸は澱み、光が消えていた。

「仲間になんかなっていないさ。ただ、俺はミリアに用があってな」
「ミリアに……?」
「ああ。――ミリア、ティアのために死んでくれないか?」
「何を……っ!?」

 ガイが足を一歩踏み出したと同時に、めまぐるしく事態は動いた。剣を鞘から引き抜いたガイが脇目もふらずにミリアに突っ込んでくる。ルークは反射的に剣を抜き放ち、ミリアの首を狙って躊躇なくふるわれたガイの剣を受け止めた。剣と剣が重なり合う音が耳を劈き、一瞬の火花を散らす。ルークの剣を押し返そうとするガイの力は強く、ルークは歯を食い縛り剣を握る手に力をこめた。

「っこの!」

 何とか押し返すと、ガイは後ろに跳ぶように足を動かし、舌打ちをついた。ルークの後ろに庇われたミリアを一心に睨んでいたガイの背中をトクナガが襲った。巨大化したアニスの人形が全身でガイを押しつぶす。ぬかった、とガイが自身の失策を悟る頃には、床に転がされていた。ジェイドはすかさずガイの元に駆け寄り、彼の手に手刀を落とし、剣を奪い取る。

「くそっ」

 ミリアに対する憎悪を剥き出しにして、ガイは地を這うような声で「どうして邪魔するんだ」と問う。

「ミリアを殺さないとティアが死ぬって言うのに…!」
「え…?」

 疑問を浮かべるアニスとナタリアと違って、ジェイドはハッと息を飲んでミリアに視線を向けた。そうか、彼女もまた――ミリアとルークを交互に見た後、ジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げる。

「今なら間に合うんだ。ティアに死んでほしくないんだ……なあ、頼むよ。もう……」

 俺の身近な人が死ぬところを見たくないんだよ、とガイは苦しみに満ちた声で感情を吐き出した。ガイにとってティアは妹のようなもので、そんな彼女が死ぬところを見たくないと願う。ガイは家族をホド消滅と共に亡くしている。これ以上自分の身近な人間が死ぬところを見たくないという心情は理解出来るが、だからと言って、はいそうですかと聞くわけにはいかない。それに――。
 ミリアはガイに近付いた。ミリアの死を切望するガイの眼を物ともせずに、彼の前でしゃがみこむとガイにだけ聞こえる声量で言った。

「……オリジナルは死なないよ」
「っ」

 ガイの眼に困惑が過ぎる。

「なんでそんなことお前に――」

 ガイはそれ以上言葉を続けられなかった。ティアと酷似した顔を持つミリアは穏やかな表情をしていた。殺意を向けられたのにどうしてそんな顔をしていられるのか、ガイには到底理解できずに言葉に惑う。

 ルークは黙りこんだガイを一瞥して、「ミリア、行こう」と言った。ミリアは頷き、ルーク達はガイをその場に置いて走り出す。一行の背に「ルーク!」と名を呼ぶガイの声と、ティアの声が重なって聞こえたが、一行は立ち止まることもなく、ヴァンの元へと向かった。




「――来たか」

 ヴァンは建物の最奥部で待ち構えていた。ルークたちとヴァンの間を包む緊張感に身体が強張る。命がけの勝負だ。敗北は死を意味する。身体の強張りを息を吐き出すことで解して、ルークはヴァンを見つめた。火蓋が切られるのは、もう間もなくのことだった。

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