「陛下、すこしお話があります。お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
インゴベルトの私室に現れたのは貴族議会の重鎮一同だった。彼らは一様に固い表情をしていた。話の深刻さがわかる表情にインゴベルトの眉間が寄った。
ルークのランバルディア勲章授与式が終わったばかりだというのに。おめでたいことに水を差すような彼らの表情に気分を害した。自然と出た声は低かった。
「して、なんの用じゃ」
授与式のために貴族議会の者達には公務を肩代わりしてもらったり、負担をかけてしまっているため、申し訳ない気持ちはある。
インゴベルトは椅子に背を預け話を聞く体制を取ると、貴族議会一同は思いもよらぬ話を口にした。彼らの話はなかなか止まらず、すべてを話し終えたあとは飽和状態を迎えていたが、インゴベルトの方はそうもいかなかった。
動揺して額に手を当てたまま俯くインゴベルト。貴族議会は、深刻そうに項垂れる国王に、ようやく事態を把握したのかと呆れるような視線を注いでいた。
「陛下が王権制度を軽んじているのならば、我ら貴族議会が、王位継承者の決定権を再びこの手にしても問題ありますまい」
「実子ではないメリル・オークランドを以前と変わらず王女として、王位継承権第一位の者として扱うのであれば」
「キムラスカ王族の尊き血筋を王が軽視しているのですから」
「ランバルディア勲章授与式で、インゴベルト陛下のお心はわかりました」
「我ら貴族議会一同は、陛下の治世において王権制度を否定し、今再び王位継承者の決定権を取り戻すことを宣言いたします」
「「「すべてはキムラスカ王国の未来のために」」」
貴族議会は口を揃える。彼らの表情に揺るぎはなかった。
インゴベルトの顔は絶望に染まった。
異例の事態だった。国王から王位継承者を決定付ける権限が貴族議会に取り戻されるなど。貴族議会がそうせざるおえない理由を作ってしまったことが、インゴベルトの最大の失敗だった。この失敗は王家に長く語り継がれるだろう。愚王インゴベルトの名も。
――そうして、インゴベルト9世は王位継承者を決める権利を失った。
*
マルクト帝国首都・グランコクマ。
ヴァンの行方も判明し、最後の決戦に望む前に、ピオニー陛下に旅の報告をすべく一行は謁見の間に行く。報告を聞き届けたピオニーは俺も話があるといって一行の足止めをした。
「陛下、なんですか?」
公的な場所とは言え、見知った者しかいないルーク達の口調は軽い。
「キムラスカ王国から書簡が届いてな。まず、ジェイド。お前は至急、大爆発現象回避のため、ベルケンドの研究機関に入り成果を出すように。マルクトからの出向になるが、軍人ではなく、研究者扱いになる。マルクト帝国の名を背負い出向することを忘れずに行動するように。以上、次」
「……ちょっと待ってください。私が、研究者としてキムラスカに行くのは構いませんが、いったい何故そういうことに?」
「お前の疑問の答えは後で説明するから、今は黙ってろ。ナタリア、お前はインゴベルト陛下の元に至急戻るように話があった」
「まあ、お父様に……? いったい何の用でしょう」
「さあな。次、ルーク殿。貴殿はヴァン・グランツ討伐の旅を続けることに変わりないが、その前に一旦公爵家に戻り、シュザンヌ殿から話を聞くようにとのことだ。それと、ジェイドが旅から外れるから、マルクトから代わりの人員を割く。ガイ、お前も戻れ。否定は聞かん」
「え!?」
ガイは困ったように後頭部を掻く。ピオニーは気にせず話を続けた。
「ティア、アニス、お前達もダアトに戻るように。テオドーロ市長が話があるそうだ」
「お爺様が……?」
「市長が? え〜なんだろう?」
一行は顔を見合わせたが、それで疑問が解消されるわけではない。
ピオニー陛下に見送られる形で、ジェイド一人を残して、謁見の間を後にする。アルビオールでノエルに各地に送ってもらおうとする一行は仲良く談笑している。
まさか、これが全員が最後に顔を見合わせる機会になるとも知らず。
肩を並べて笑っていた。
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