※ルーク(肉体)死亡。でも精神は何故か生きている設定。
※アシュルクアシュっぽい精神的BL。
アクゼリュスが崩落した。
原因はルークの超振動によるパッセージリングの破壊である。大地を支えていた柱の消滅は、アクゼリュスに住む一万人の住民の犠牲を生み出した。自らの罪を認めずにヴァンに全ての責任を被せようとするルークに呆れ果てた一行はユリアシティの街に彼を置いて、外殻大地に戻った。
――まさか、ルークが殺害されるとは思いもせず。
「……ルークが死んだ……? 嘘だろう……?」
一同は驚愕のあまり声を失った。
衝撃のニュースを齎した相手、ティアの顔色は可哀想なほど青褪めていた。
「信じられないけど本当のようなの……。ユリアの預言を成就させるために、信者たちがルークを……」
ユリアの第6譜石の預言を成就するために、ユリアシティの一部の住民がルークを殺したのだ。
ティアが花畑で苦悩している最中、ルークは彼女の自室のベッドで寝かされていた。部屋に侵入した住民はベッドで寝息を立てて目覚める様子を見せないルークを殺害して、その場を後にした。ティアが戻ってきたときにはルークはすでに乖離して影も形も残っていなかった。
残っていたのはルーク殺害の瞬間を目撃して、泣き疲れていたミュウのみ。ミュウはルークが殺されないよう武器を持った人間に掴みかかり、体を張って止めようとしたようだが、呆気なく振り解かれてしまったらしい。その後は縛られ、口にタオルが巻かれていた。ミュウが殺されずに済んだのは、ユリアが可愛がっていたと伝えられている聖獣チーグルだったおかげだろう。
ティアがルークの行方を聞くとミュウは泣きながら事の真相を告げた。ルークを殺害した犯人はミュウが人語を喋れるとは思ってなかったに違いない。ルークの衣服や剣は、彼の殺害の痕跡を消すためか、すべて持ち去られていた。もしミュウがルーク殺害の現場を目撃していなかったら、ティアはルークが罪の重さに耐え切れずに逃げ出したと思い込んでいたに違いない。
すぐさまティアはテオドーロに伝え、ミュウの証言を元に犯人探しが行われた。早々に犯人は捕まえることができたが、――喪われたルークの命は戻らない。
アクゼリュスにいた一万人の住民に加え、その罪を背負うべきルークまで死亡した。
一行もこれには言葉を失うことしかできなかった。
馬鹿でどうしようもない奴と思いながらも、ルークを親友としてみていたガイはショックのあまり唸るような声をあげると、ティアを睨んだ。
「……なんでちゃんとルークを見ていなかったんだ! 君がルークの傍にいたら、ルークが殺されることはなかったんじゃないか!?」
「……ごめんなさい」
「何のために君はユリアシティに残ったんだ。ルークを放っておけないからだと思っていたのに……まさか君は本当に考え事をするためだけにユリアシティに残ったのか!? ヴァンが今このときも世界を危機に晒しているのに!」
「……っ」
兄を止めるために動くわけでもなく、ルークの傍にいるわけでもなく、うじうじと悩みごとをするために街に残ったティアをガイは声高に非難した。ティアは俯いて容赦なく降り注ぐ言葉の刃に耐えることしかできない。ティアを責めるガイを見ていられず、アニスが止めに入った。
「ガイ、やめなよ! ティアを責めたってどうにもならないんだよ!? それに、アイツの傍にいたらっていう言葉はガイにも言えた台詞じゃん! ガイがアイツの傍にいたら殺されずに済んだかも知れないんだから!」
「……っくそ! ルーク……」
ガイは舌打ちをついて壁を殴る。
皆一様にルークの死に衝撃を覚える中、一行の輪から離れたところでアッシュは眉間に皺を寄せていた。
『……なんかスゲー空気悪ィ』
(てめーのせいだろうが!)
――ユリアシティを出立する前、アッシュはルークとフォンスロットを繋げて彼の意識を自分の中に取り込んでいた。
今もなおこうしてルークと会話ができるせいか、ルークが死亡したと聞かされてもその実感が乏しい。ルークも自分が死亡した実感が湧かないらしく『え、俺死んだのかよ』と暢気だった。
アッシュはある程度ルークの性格を矯正したらフォンスロットを閉じて、彼の意識をルークの体に戻そうと考えていた。だが、ルークの体がない以上、フォンスロットを閉じることができなくなった。フォンスロットを閉じるということはつまりルークを殺すということに繋がる。
ルークに対していろいろと思うところはあるが、仕方なくアッシュは彼の精神を己の中で飼うことにした。
『あー、暇だー。だりィー』
(黙ってろ、クズが! 呆気なく殺されやがって!)
『つーかおまえが俺の意識? を、こうして取り込まなければ、寝ててもすぐに目覚めただろうし、みすみすユリアシティの連中に殺されなくて済んだんじゃないんですかー?』
(く……劣化レプリカのくせに減らず口を叩きやがって……。テメェの生殺与奪は俺が握ってるってことを忘れてんなよ、このクズが!)
『そうやって生殺与奪持ち出して人をキョーハクするおまえはクズじゃないんですかー?』
(んだとこのクズ!!)
レプリカ・ルークの存在はアッシュのストレスを倍増させた。ああいえばこういう。実に面白くない。アッシュは眉間の皺を増やして、黙りこくる。険しい形相に加え黙り込むアッシュは近寄り難い雰囲気を撒き散らしているのだが、ナタリアは平然と近付いてきた。
「”ルーク”、そのような顔をしてどうしましたの?」
アクゼリュス崩壊後、ルークがレプリカであることを知るや否や、彼女は切り替え早くアッシュをルークと呼ぶようになった。ようやく婚約者を取り戻すことができた――と、アッシュが喜んだのも、束の間の話だった。
『うわ、ナタリア……つーか、よくアッシュをルークと呼ぶ気になれるよなー。ナタリアのこういうところはマジ感心する』
(……俺が本物のルークだから、ルークと呼ぶのも不思議じゃねーだろうが)
『あー、俺が言いたいのはそういうことじゃねーって。おまえ、今はダアトのローレライ教団神託の盾騎士団の六神将・鮮血のアッシュだろ。他国……っていいのかわかんねーけど、とにかく他所の組織の軍の幹部になってる奴をルークって呼ぶのはどうなんだよ。しかもカイツール軍港襲撃の主犯じゃねーか、おまえ。これって反逆罪じゃねーの。それにキムラスカ王女が、自国の軍港襲撃した主犯、それも他所の組織の軍幹部を、ナタリア王女の婚約者にして王位継承権三位のルーク・フォン・ファブレとすぐに認めていいのか? ダアトにキムラスカの次期国王押さえられてますーって公言してるようなもんだけど』
(!)
ルークに言われてアッシュはハッと息を飲んだ。ナタリアは不思議そうな表情で、
「どうしましたの? ”ルーク”」
と、アッシュをルークと呼ぶ。
アッシュをルークと呼ぶことについて、ナタリアは何の疑問も抱いていなかった。キムラスカ王女としてそれでいいのかと、唐突にアッシュは彼女に質問を向けたくなった。
7年間彼女の傍でルークとして共にいたのはレプリカルークのほうだった。それなのにどうしてこうも簡単に、アッシュをルークと認めることができるのか不思議でならない。アッシュは確かに被験者ルークであるが、ルークがレプリカである証拠を提示したわけではない。口で真実を告げただけだ。確証も物証もない状態で敵だったアッシュの発言を容易に信じるなど、よくよく考えてみればおかしな話だ。
(何故ナタリアは俺を簡単に信じたんだ)
アッシュはナタリアの気持ちが理解できず、眉間の皺をさらに増やして考え込む。悩むアッシュに答えを提示したのはルークだった。
『ナタリアはルークに夢見過ぎてんじゃねーの?』
(……なに?)
『自分が約束を交わしたルークはこんな馬鹿なことするわけない、ってことだろ。ナタリアの考えなんてよくわかんねーけど。ナタリアを失望させて、そのとき都合よく、自分が本物のルークだって言う奴が現れたら簡単にそっち信じるような奴なんだよ』
(ナタリアを侮辱するんじゃねえ!)
『俺から見たナタリアの話をしてるだけだっつーの! ……おまえもナタリアを失望させないよう、気をつけたほうが良いんじゃねーの? 俺みたいにおまえのレプリカ複数いるかも知れねーし。おまえがナタリアを失望させて、そこに都合よくおまえのレプリカが出てきたら、ナタリアころっとそいつのほうを”本物のルーク”呼ばわりするかも知れねーぜ?』
アッシュは動揺した。ナタリアを信じたいのに猜疑心が湧き上がる。ルークの言動を否定したくとも、事実ナタリアはルークに失望した末に彼を捨てアッシュを選んでいる。自分が今までずっと想っていたナタリアのイメージを壊したくなくて、アッシュは脳内を引っ掻き回してフォローの言葉を探した。
(……っ俺はテメェみたいにナタリアを失望させるような真似なんて――)
『カイツール軍港ってキムラスカ王国の領土だろ。おまえ、そこ襲うようにアリエッタに指示したじゃねーか』
(っ!)
『失望しねえと思ってんの?』
(……、)
何も言い返すことができない。そんな自分に、アッシュは呆然とした。とうとうルークの言動を否定する言葉が消え失せてしまった。それはナタリアに対する信頼の消失と同義だ。
「”ルーク”?」
ナタリアが心配そうにアッシュの顔を覗き込む。その愛らしい行動も打算によるものではないかと、疑ってしまう。こうも簡単にナタリアを疑えるようになった自分に吐き気を覚えた。それでも、もうアッシュは彼女を信頼していた頃の自分には戻れない。一度彼女に疑心を抱いた以上、知らなかった頃の自分に戻る方法など無いのだ。
「……いや、なんでもない」
アッシュは素っ気無い口調でナタリアを一蹴し、彼女の傍から離れた。もうナタリアの傍にいることすら嫌になっていた。彼女に失望される前に、捨てられる前に、アッシュのほうがナタリアを切り捨てた。
ルークの代わりのように同行を迫られ、アッシュは仕方なくナタリアたちと行動を共にした。
ナタリアと幼馴染のガイ以外の同行者たちには、アッシュは特別な感情を抱いていなかった。だが、行動を共にするにつれ、ルークの視点から聞かされる彼女たちの話に、次第に同行者に対して嫌悪感を覚えるようになっていった。
『ティアってさ、なんかおかしいよな? こいつ、ファブレに押し入ってきたんだぜ。譜歌を使ってみんなを眠らせて、ヴァン師匠を殺そうとしたんだ。ヴァン師匠が外殻大地を滅ぼそうと企んでいたこと知っていたくせに、いざヴァン師匠が計画を実行に移した途端、”考えたいことがあるの”つってユリアシティに居残ってさ。そうしている間にヴァン師匠は外殻大地を滅ぼすために動いてんのに。考えたいことも何も、元々ヴァン師匠を殺害しようとしてたんだろ。そのために俺や、ファブレのみんなを巻き込んでおいたくせに、”兄さんを止められないかってずっと思ってた”だぜ? マジ信じられねー。止められないかなんて思ってねーだろ、だから殺そうとしてたんだろ。悲劇のヒロイン演じてるみてえ……』
『ガイが復讐者ってマジかよ……。それでよくシェリダンが襲撃されたとき、ティアのことを庇えたな……。シェリダンが襲撃されてあのとき一番辛かったのはシェリダンに身内がいるノエルのはずなのに、”ティアだって本当は泣きたいはずだ””この中で本当に一番辛いのはティア”かよ。加害者の身内が一番辛いなら、ホド戦争のとき一番辛かったのはアッシュや母上になるんだけど』
『よくジェイドも相談して欲しかったなんて言えたよな。俺がレプリカであることずっと前に知りながら、相談なんてしなかったくせにさ。自分はよくて他人はダメなのかよ。人を馬鹿にしているような奴に、好き好んで相談する奴がいたら教えてもらいたいぜ』
『タルタロス襲撃幇助犯がここにいまーす。アニスもよく”あたしも辛かった”なんていえるよな。両親が人質に取られてたって言うけど、おまえの両親普通にダアト歩き回ってんじゃん。それにアッシュは知らねーけど、こいつ誘拐されたイオンを助けるために親善大使一行を妨害したんだぜ。イオン救出するために寄り道してさ。そのせいでアクゼリュスの住民の救助が遅れて、俺が寄り道なんてするんじゃなかったつったら、なんていったと思う? ”あんた馬鹿?”だぜ。アクゼリュスの住民救助の遅延の一因が自分にあるなんて考えもしねーの。それでアクゼリュスが崩壊した後、サイテーだろ。タルタロス襲撃幇助して、親善大使一行の邪魔をしたアニスはサイテーじゃねーのかよ。しかもアクゼリュスについたら、アクゼリュスの鉱石が高く売れると知った途端それを手に入れようとしたんだぜ。苦しんでる人が目の前にいるのに、よくそんな火事場泥棒のような発想できるよな……』
ルークが同行者たちの悪い部分を突きつけるように、同行者たちはルークとアッシュを比較してはルークを悪くいう。
「死んだ人を悪くいうのは不謹慎だってわかってるけど……ルークもあなたのようにもうすこし考えることをしてくれていたら、アクゼリュスの悲劇は防げたと思うわ」
『俺が超振動でパッセージリング破壊しなくても、イオンがセフィロトの封印解呪した以上アクゼリュスは崩壊してたと思うけどな……。超振動で破壊可能ってことは、超振動と同様に、絶大な威力がある爆弾とかならパッセージリング破壊できるってことじゃねーか。封印術を用意できるくらい資金も豊富だったようだし、譜業や音機関に強いディストもいるから、そのくらいの爆弾用意してたんじゃね? それにヴァン師匠パッセージリングの操作してたし、物理的に破壊しなくても、パッセージリングの機能を停止させるとか、誤作動させるとか内部から破壊できたんじゃねーの』
「ルークのせいで一万人の住民が……最後くらい反省してほしかったわね……」
『一万人には匹敵しねーけど、ティアもファブレのみんな傷つけてるじゃねーか。こいつ本当に自分の罪について何も言わねーよな。反省がどうこうなんてティアに言われたくねーっての。それにヴァンが外殻大地を滅ぼそうとしていたこと知りながら黙ってたし。……ん? そういえばアクゼリュスが崩壊するじゃなくて、外殻大地が崩壊するって言ってたな。ってことは、アクゼリュスだけに被害が留まらないことを知りながら黙認していたのか?』
ルークの言葉ばかりが頭に残るのは、彼の精神と同居しているせいだろうか。自分の罪から目を背け、ルークを非難する彼女たちを見る度に、”そういうおまえも罪を犯しているじゃねえか”と言いたくなる。そんなものだからアッシュは同行者たちと仲を深める気にもなれず、必要最低限の言葉しか口に出さなかった。その代わりルークとしゃべる。ルークと会話を重ねるうちに彼を憎む気持ちもなくなり、彼をルークと呼ぶことにも慣れた。
ナタリアが熱い眼差しを向けてきても心がざわつくこともなく、同行者たちが雑談を向けてきても素っ気無い態度で会話を打ち切る。取り付く島がないと思われるほどに。ナタリアが己を引き止める声にすら応じることなく背を向け続ける。
「”ルーク”あなた、変わりましたわね……」
悲しそうなナタリアの声も、今のアッシュの心には漣ひとつ作ることができない。
ナタリア、ガイ、ヴァン――アッシュの中で要らないものが増えていく。
彼らを信じられなくなったから、要らなくなったから、捨てた。
彼らの汚いところを、ルークを通して見る度に、人に、世界に失望してゆく。
要らないものを捨て続けたら、とうとうアッシュの中には、ルークしか残らなかった。
END.
タイトルはタロット(大アルカナ)の「塔(価値観の崩壊)」より。
2013/08/30
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