−−ピオニー・ウパラ・マルクト生還。

 マルクト帝国首都グランコクマが魔物の大群に襲撃された事件から二か月。皇位継承権を巡り、ピオニーの親族を名乗る者たちの政権争いは泥沼化していた。そんな中、ピオニー・ウパラ・マルクトは彼の護衛であるアスラン・フリングスと側近と共に姿を現した。
 当然ながらグランコクマは上から下まで大騒ぎだった。多くの善良なるマルクト国民は喜んだが、ピオニーが死んでいた方が都合のいい者たちーー彼らいわく、皇帝の親族ーーたちが皇帝の偽物ではないかと騒ぎ立て、早急に彼の遺伝子検査を行った。

 その結果、ピオニーが本物であることが証明された。
 彼を皇帝に望む民衆の力強い支持もあり、ピオニー陛下の治世が再び幕を開ける。これにより、マルクト帝国の長い暗黒の時代は明けたのだ。


 一行は、ピオニー陛下の帰還に半信半疑だった。

「本当に帰ってきたのはピオニー陛下なんでしょうか?」

 ティアがそういうのも無理はなかった。一行はレプリカの存在を知っている。そして、グランコクマ襲撃事件の犯人がアリエッタであり、首謀者がシンクであることも知っていた。
 なぜグランコクマを魔物に襲わせたのか。今までその理由はわからなかったが、もしや、ピオニー陛下を生死不明の状態にしてマルクトに混乱をもたらし、皇帝をすり替えるためではないだろうか。頭に浮かんだ考えを否定する術はなく、全員難しい顔をしていた。

「……だが、ピオニー陛下が偽物だったら、いくらなんでも気づくはずだろう? フリングス少将と共に帰還したそうだし……。それにグランコクマ襲撃事件で、ピオニー陛下は大怪我をしたそうじゃないか。軍部が機能停止になって、そんな最中に皇位継承権争いが始まったせいで、身の危険を感じて連絡が取れなかったという話だし……辻褄は合っているように思うが」
「グランコクマ襲撃は、シンクが、自分たちを敵と見なすピオニー陛下が邪魔で排除を企んだけど失敗したとも考えられるわね。この事件でマルクトは混乱し、シンクたちにかまっている場合じゃなくなったのは事実だわ」
「そうだな。それに、キムラスカの方も……」
「……ナタリアが死んで、キムラスカも動けない。今やわたしたち以外シンクたちの動向を追う者はいない……。もしれが全部シンクの企みだったとしたら……?」
「そうだとしたらシンクは何のためにこんなことをするんだろう? いくらヴァンの命令だからってやりすぎだよ!」

 情報が不足しているせいで推測を裏付ける証拠がない。次々と湧く疑問もそのせいだ。思考を巡らせていたジェイドは一度頭を振った。

「……こんなところで口論していても埒があきません。それより今後の方針を決めましょう」

 一同の視線はジェイドに集まる。ルークがいない今、自然とジェイドがリーダー的存在になっていた。

「私はピオニーの様子を確かめに行きます。ピオニーがレプリカの場合、その裏にシンクたちの姿があるのは明白です。マルクトの政権を掌握される事態は避けなければなりません。ルークとイオン様のことは心配ですが……こちらも放ってはおけない」
「じゃあ、ルークとイオン様の救出はピオニー陛下の様子を確認してから?」
「いえ、二手に別れましょう。私とガイはマルクトへ、アニス、ティア、あなたたちはダアトへ。ルークとイオン様の様子を探り、できそうなら救出を。無理ならそのままダアトに待機し、二人の様子を窺いつつ、我々の到着を待ってください。落ち合う場所はーー」

 ジェイドの指示に二人は頷く。ガイはルークの救出に参加したい様子を見せたが、マルクトのことも放っておけず同意した。
 これ以上シンクたちの後手に回るものかーージェイドたちはそう思いながら、二手に別れる。これが、四人の今生の別れになるとも知らずに。






「ああ、忘れてた」

 ザレッホ火山でとある夫婦が死亡した。可哀想に、檻に入れられた夫婦は逃げ出すこともできずに苦しみながら死んだ。だが、すぐにまあいいかとシンクは思い直す。どうせ被験者だ。被験者はいくら死のうと構わない。シンクたちを、−−大量のイオンレプリカを火山に捨てるよう指示した男を見る。モースはでっぷりと肥えた腹を揺らして怯えた。

 シンクはモースを捕縛するように部下に命じる。捕らわれたモースは口から唾を飛ばす勢いで罵倒と命乞いをしたが、彼は表情一つ変えることなく告げた。

「豚は焼いたほうが食えるよね」

 頑丈な鎖でつながれたモースはザレッホ火山に置き去りにされた。
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