「詠唱中は守って!」
「――そもそも詠唱しなければ良いでしょう」

 事あるたびに怒声を飛ばすティアに、ジェイドは呆れながら告げる。
 その言葉が予想外だったのか「え」と硬直したティアは、最後に生き残っていた敵に体当たりを食らって、無様に尻餅をついた。
 ティアはヒールがある靴を履いている所為で、すぐに立ち上がなかった。わたわたするティアに対して敵は更なる攻撃を仕掛けようとしたが、その前にガイが敵の背中を切りつけてトドメを刺した。戦闘終了だ。
 ジェイドはコンタミネーション現象で槍をしまって、ティアを冷めた眼で一瞥した。

「まったく、馬鹿のひとつ覚えですね。何度同じ言葉を繰り返せば気が済むんですか?」
「っどういう意味ですか?」
「おや、言わなければ理解出来ませんか。”詠唱中は守って”と言う貴方の言葉ですよ。詠唱中に敵に攻撃されるたびに、同じ言葉を何度も繰り返さないでくれませんか」
「詠唱中は無防備になるのだから、その間の補佐をお願いしても良いじゃありませんか!」
「おや、お願いしていたんですか? あれで? 私にはお願いには聞こえませんでしたが。随分と偉そうなお願いの仕方もあったもんですねえ」
「っ」
「まあ、そのことはともかくとして。ティア、貴方は譜歌を使わずとも結構です。ナイフで戦ってください」
「な…何故ですか!?」
「決まってるでしょう。貴方の詠唱時間は長いうえに大した威力が無い。その間、貴方ひとりを守るために、私達…取り分けルークが拘束されて、余計に戦闘に時間を食っているんですよ。これならば普通に戦った方が余程効率が良いでしょう。…貴方が臨機応変に動けるタイプだったら良いんですけどねえ」

 ジェイドの嫌味が炸裂する。
 炸裂するのはエナジーブラストだけで充分だとティアは嫌味に耐えながら思う。ぶるぶると癪持ちのように震えるティアの顔は羞恥で真っ赤だった。
 常日頃、ティアを”冷血女”と侮蔑しているルークですら、ティアを哀れみたくなるジェイドの攻撃もとい口撃に彼は制止をかける。

「お、おい、やめてやれよ」
「…仕方ありませんね。ティアに臨機応変に動くことを要求しても…あのように高いヒールなど履いている限り無理でしょうしね」

 ジェイドはティアの足元を見て、わざとらしい溜息を吐いた。
 さらなる羞恥が襲いかかりティアは下唇を強く噛んだ。ヒールを履いていることに何か問題があるのか――抗議したくとも、今さっき、戦闘中に無様に転んだティアはヒールの所為ですぐに立ち上がれない醜態を晒してしまった為に出来ない。
 抗議してしまったら、そのことを後悔するほどの口撃を受けることになるであろうことは、いくら貧困な想像力でも想像できた。

「だからやめてやれって」
「仕方ありませんねえ。とにかく、怪我をした場合の回復などはお願いしますが、それ以外では譜歌を使わないでください」
「…はい」

 ようやくジェイドの嫌味が止まったことに安堵して、不服ながらもティアは頷いた。
 譜歌を使わずとも、自分は軍人だ。ナイフで普通に戦える。このことがきっかけで前衛と中衛を担うようになったティアだが、微々たる攻撃力しかない彼女は、すぐさま戦力外通告を出されたのだった。




END.
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