ルーク×ノエル


スピノザが情報漏洩したせいで、シェリダンはリグレットが率いる神託の盾兵達に襲われてしまった。

沢山の住民が殺害され、その中には、此処までルーク達の旅に助力してくれたノエルの祖父イエモンも含まれていた。
シェリダンの街を襲撃したのはヴァン達だ。
その事に一番心を痛めているのは肉親であるティアだとガイは口にしたが、ルークにはそう思えなかった。
このパーティの中でシェリダン襲撃に一番心を痛めているのはティアじゃない。
住民には何の非も無かったのに、ルーク達に加担したと言う納得出来るはずもない理由で、肉親や慣れ親しんだ住人達を殺害されたノエルだろう。
ノエルは気丈に振る舞っていたから、彼女が哀しんでいることにティア達は気付かなかったが、ルークはノエルを気にかけていた。


シェリダンの街が襲撃された、その夜。
多大な犠牲を払い、地核静止作戦を成功させた一行は次にベルケンドへ向かうことに決めた。
パッセージリングの封印を解くために、体調を崩すティアの容体をキチンと調べた方が良いとジェイドが述べたためにだ。
しかし、今から向かったところでベルケンドへ着くのは夜更けになると予想されたために、今夜一晩は野宿することに決め、明日の早朝に飛ぶことに決まった。


アルビオールには航空するための譜業なので、必要以上の設備は整っていない。
何でもガイが言うには空を飛ぶために重力の負荷を余分にかけないよう云々、と難しい事を教えてくれたがルークは理解出来ず聞き逃したため、よくわかってなかったりする。
ただアルビオールの中は操縦席と座席しかないので、アルビオールの中で眠ることは出来ないと言う事実だけ認識していれば良いのだと思った。

野宿するときは魔物に襲われぬよう、火を焚いて、見張りをつける。
ちょうどこの日は、ルークが夜番の日だった。
夜番のために仮眠を取ったが、ルークはよく眠れなかった。

シェリダン襲撃の尾が引いているのだろう。
夢の中でイエモンたちの意欲的な姿を見て、悲しくなった。
人が死んだ夜や、殺した夜はいつもこんな感じで夢を見る。
自分が人を殺した時は恨めしい顔で、殺害した相手が出てくる。
そうして全身血塗れで彼らは憎悪を向けてくる。
その姿はおぞましくて震えてしまいそうなほど恐怖を感じるのだが、逃げずに受け止めることしか出来ない。
自分が殺害した相手が恨めしい顔で出てくる夢を見るよりも、死んだ知人が楽しそうな顔で出てくる方が胸に来るものがあって、ルークは水を飲んだ。


「じゃあルーク、夜番は頼んだぞ」
「おう」


ルークが起きるのを待っていたのだろう、ガイが体を地面に横たえて言う。
火を囲むように、既にティアやアニス、ナタリアは三人仲良く並んで寝ていた。
ミュウはティアに抱っこされて「ご主人さま〜」と呑気な寝言を時折漏らしている。
ジェイドはまだ起きていて、温かいコーヒーを飲みながら何か紙に書いていた。
ピオニー陛下に報告しないといけませんねぇ、と夕食の際に言っていたから恐らくその書類でも作成しているのだろう。
毛布をかぶったガイや、仲間達を見渡したルークはそこでノエルの姿が見当たらない事に気付いた。


「ジェイド、ノエルは…?」
「彼女はアルビオールを整備すると言って、先ほどアルビオールに入りましたよ」
「そっか…」


今日起きた出来事で、ノエルは泣いているんじゃないかとルークは思った。
アルビオールに視線を向けたルークに、ジェイドは書類から顔を動かすことなく、淡々とした口調で言葉を紡いだ。


「心配なら見に行ったらどうです?」
「…けど、」


一人で、泣きたいんじゃないだろうか。
ルークが言い淀む。
ジェイドは続けられるはずだった言葉の意味を悟り、戸惑うルークの背を押した。


「貴方なら大丈夫でしょう。…慰めてあげなさい」


思いがけない優しい言葉にルークは目を瞬いて。
ゆっくりと頷いた。
少しの間ジェイドに見張りを頼み、アルビオールの中へ向かう。開閉口から入ると、操縦席でアルビオールを手際よく弄っているノエルの姿が見えた。
チェックを入れているのだろう、両手が驚くほど素早く何かボタンのようなものを弄っているようだ。
気丈なその姿にルークは杞憂に終わったのか、と息を吐く。
近づこう足を踏み出したとき、ノエルの背が震えているのがわかった。

彼女は泣いていた。
嗚咽など漏らさず、ただ涙をこぼしながら、それでもアルビオールを整備する手を休めることはない。
痛ましいその姿に、ルークは声をかけた。


「…ノエル、」


ルークの声が落ちる。
目まぐるしく動いていたノエルの手がピタリと止まる。
いつもなら声をかければ笑顔で振り返るノエルは、今夜ばかりは振り返ることはなく、背を向けたままに「…はい」と応えを返した。
こういうとき如何すれば良いのか、ルークは知らない。
人を慰めた経験など今まで無かった。


「その、大丈夫か?」


ろくな慰めの言葉を持たない自分が歯痒い。
ノエルを慰めたいのに、慰めるだけの力を持たない言葉しか出てこなかった。


「大丈夫、ですよ? ルークさんが心配することなんて、何も、ありません」
「………ノエル」
「私は大丈夫です。大丈夫なんです。だから、心配しないでください」
「…でも、ノエル」
「大丈夫ですよ。私は元気ですから! ルークさんの手を煩わせることなんて、何もありません」


しんみりした空気を払拭させるような明るいノエルの声が、アルビオールの中で響く。
それは空々しいほど、明るくて、ノエルが空元気であることをルークに知らせた。


「…ノエル…。ノエルは……そうして、独りで泣くのか?」


ノエルがゆっくりと振り向いた。
ようやく見えた彼女の顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。
無理やり作ったような笑顔で、瞳から涙を溢れさせて彼女は言った。


「…わかってるなら…放っといてください」


そうして彼女は、また背を向けてしまう。
ノエルを放っとくのは簡単だ。
立ち止っている足を動かして、ジェイド達の元へ引き返せば良い。
何も見なかったことにして、ジェイドと見張りを交代して、そうして一夜を明かすだけで良い。

放っとくのはとても簡単だ。
彼女もそれを望んでいる。
ルークが引き返せば独りで、彼女は泣くのだ。
イエモン達の死を悼み、独りで泣いて、明日には元通りの顔で笑うのだ。


ルークはそっと近付く。


「ノエル、ごめん」


独りになんか、させたくない。


後ろから抱き締めた彼女は、脆く泣き崩れる。
ルークは彼女が泣き疲れて眠るまで、強く抱きしめていた。






End

ルクノエ初めて書きました。
ルークとジェイドだけはノエルが哀しんでいることに気付いたと言う設定です。
大人のジェイドを目指しました。
原作でこんなことあっても良いかなと夢見た結果、思った以上に恋愛要素が強いルクノエが出来上がりました。

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