家畜小屋の隣室に入れられたルークは腹の底から怒号をあげた。
 部屋の外にいる村人から「うるせえ!」「反省一つしねえのかこの泥棒野郎!」という言葉が返ってきて、ルークは眉間を狭めて「だからちげえっての!」と弁解する。村人たちは誰もルークの弁解を真面目に取り合うことなく好き勝手な罵倒をさんざんルークに浴びせると、部屋から遠ざかって行った。
 村人の声と足音が遠退いたことで、ルークは弁解を紡いでいた口を閉じる。
 一人静かな部屋に取り残されたルークは頭をぐしゃぐしゃに掻き毟った。

「あ〜、くそっ! なんでオレが食料泥棒に間違われなきゃなんねぇんだよ!!」

 事の発端は昨日の昼に遡る。

 その日、ルークはティア・グランツの私情に巻き込まれてファブレ公爵家から連れ出された。

 世間一般的には誘拐や拉致といわれる事件に巻き込まれた自覚もなく、ルークはティア・グランツが家まで送り届けてくれるという発言を信じて、彼女と行動を共にすることになった。運よく首都に向かうという馬車に乗ることができたため、観光気分で窓から見える外の風景を楽しんでいたのだが、土地勘がなかったティアの手違いにより自分達がマルクトにいることが発覚した。このままマルクトに首都に向かってしまえば、帰国が困難になるため、一先ず近くの村――エンゲーブで馬車を降りた。馬車はすぐさま発進し、ルークたちはとりあえず今夜はエンゲーブで宿を取ろうと宿屋に向かったのだが、その途中ルークは初めて見る屋台に陳列していたリンゴを手に取りそのまま齧って代金を払わずに立ち去ろうとしてしまった。

 世間の常識に疎かったルークの行いに屋台の店主はギョッとしたようで、慌てて声をあげたが、そのときはティアが頭を下げて代わりに代金を払ってくれたことで何とか大事にならずに済んだ。

 問題はこの後だった。

 食料庫の傍で食料の盗難被害にあって相談している村人たちに、火に油を注ぐように、ルークは迂闊な発言をしてしまった。
 深刻に悩んでいるのにそれを馬鹿にされて面白いわけがなく、見慣れないルークの姿を見て、村人たちはルークが食料泥棒ではないかと疑いを持ってしまったのだ。騒ぎを聞きつけた屋台の店主が現れ、食料泥棒の疑いをかけられたルークの姿を見て、また盗もうとしたのかと店主は声をあげ。

 前科があると判断した村人たちはルークを食料泥棒の犯人として捕まえた。

 村長のローズも食料盗難被害に頭を痛めていたこともあり、村人達の訴えを否定することもできず、やむなくルークは食料泥棒として家畜小屋の隣に空いた部屋に押し込まれてしまった。

「あの女もなんでオレをフォローしないんだよ!」

 村人に背中を蹴られて、食料泥棒の犯人として疑われたことも業腹であるが、何よりもルークはティアに怒りを覚えていた。
 ティアは食料泥棒として捕まえられたルークを弁護することなく呆れた目をして、連れて行かれるルークを眺めていた。

「マジむかつく!!」

 ルークは部屋の隅に積み上げられていた空箱を蹴り上げ、八つ当たりした。
 一向に気が晴れず、仕方なくその場に座り込む。

 そのままルークの食料泥棒の疑いは一向に晴れることなく、彼は犯人としてセントビナーに連行されることとなる。




2013/10/11
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