(まさかこんなことになるなんて……)
ティア・グランツは困惑を隠せない顔で一連の騒動を眺めていた。
エンゲーブの出入り口にはマルクト帝国の国旗をつけた馬車が止まり、マルクト軍人が六人ほど並んでいる。その中心にいるのは、両手を手錠で拘束されたルークだ。
ひさしぶりに見たルークの顔色は悪く、口数も少なく、むっつりと黙り込んでいた。
そんな彼に、村人たちは非難の言葉を紡いでいた。
とうとう反省しなかった、どうか厳しく処罰してくれ、とマルクト軍人に食料泥棒の犯人の反省の無さを訴えかけて、すこしでも罪を重くするように頼んでいる。
村人たちの訴えをマルクト軍人は真摯に受け止めて、乱暴な動作でルークを馬車に押し込んだ。マルクト軍人たちも次々に馬車に乗り込む。馬車はすぐに出発した。
呆然とした面持ちで出発する馬車を見送ったティアはしばらく経って、どうしよう、と途方に暮れた声で呟いた。
ルークが食料泥棒の犯人として村人たちに捕まってから、六日。
ルークの疑いは晴れる間もなく、村人達の連絡を受けたセントビナー駐在軍によって彼はセントビナーに連行されてしまった。
食料泥棒としてルークが捕まった当初、ティアは状況を楽観視していた。
そもそもルークが世間の常識に疎かったから起きた事態だ。勝手に屋台の食べ物を食べてその代金を払わなかったから、泥棒の疑いが向いたのだ。このまま捕まって、すこしくらい痛い目を味わったほうが、ルークのためになるだろう。
ティアはルークのために心を鬼にして、村人に食料泥棒の犯人として逮捕された彼を見送った。
翌日くらいには、さすがにわがままなルークも迂闊な発言を反省していることだろうから、助けてあげよう。
そう思っていたが、翌日には取り返しがつかないほど事態が発展していた。
村人たちに冤罪で捕まったルークは自分の疑いを晴らすために一日中弁解していたらしい。だが、彼を食料泥棒の犯人だと思い込んでいる村人たちにとっては、その弁解は罪を言い逃れようとする不快な言い訳にしか聞こえず、村人たちの怒りを余計に買った。反省しろという村人に、冤罪を着せられたルークは言い返した。喧嘩越しの言い合いが発生して、村人たちのルークに対する心証は最悪のものとなり、ルークは食料泥棒の犯人に認定されてしまった。
これにはティアも驚き、彼女は慌てて村人たちにルークは犯人ではないと弁護しに行った。
だが頭に血が昇った村人たちは話を聞いてくれる様子を見せず、それどころかティアに共犯者の疑いをかける始末だ。ティアがローレライ教団の軍服を着ていたことから、疑惑が晴れたものの、ルークは以前と捕まったままだった。
頭を痛めたティアはすぐに別方向からルークの冤罪を晴らす道を模索した。
食料庫に入り真犯人の痕跡を見つけようとしたのだが、食料盗難被害にあったエンゲーブはこの事態を深刻に受け止め、食料庫に鍵をかけるようになっていた。
そこでティアは鍵を管理している村長のローズに調査を申し込んだのだが、ローレライ教団の一介の軍人を大事な食料庫に入れるわけにはいかないと、それとなく断られてしまった。
何とか調査できないものかとしつこく頼んでみたのだが、良い返事を得ることができないまま、ルークがセントビナーに連行されるこの日を迎えてしまった。
(とにかく、なんとかルークを助けなくちゃ)
私のせいでこんなことになったんだもの、とティアは胸中で呟くと、ルークの後を追うようにセントビナー行きの馬車に乗った。
2013/10/11
prev next
back