敵国に飛ばされ、一時は泥棒として誤解されたあげくに粗末な扱いを受けたせいだろうか。
 マルクトにいる間中、気を張っていたルークはファブレ公爵邸に戻るなり、体調を崩して寝込んでしまった。
 病弱なシュザンヌが心配するほど、ルークは顔を青く染めてベッドに伏している。食欲もなく、大好物のチキンですらろくに喉を通らなくなってしまった。特にブウサギの肉が嫌なようで、食事にブウサギの肉が入っていると受け取ることすら拒否する始末である。
 ベッドで寝込んでいるときに「ブウサギの鳴き声がする……」と魘されることも多々あった。言うまでもなく、エンゲーブで起きた食料泥棒の一件がルークの心に影を落としていたのだが、事情を知らない者は、ただ心配するばかりであった。

 ユリアの預言――第6譜石によると、今年ルークはその命をアクゼリュスと共に落とすことが決まっていた。

 タイミング良く、マルクト側から和平交渉と共にアクゼリュスへの救助活動の要請が届いたため、親善大使としてルークを送ろうとしたのだが、シュザンヌとナタリアたちに抗議を受けた。軟禁されて今の今まで政治の場を体験したことがなく、また病床についているルークに、そのような大切な場面を任せるのは如何なものか。心労が祟って還らぬ人になったらどうするのか。シュザンヌとナタリアの訴えはもっともであり、ユリアの預言を知らぬ者たちの共感を買った。

 既にルークの命を諦めていたインゴベルトたちにとって、彼が体調を崩していることなど問題にならなかった。ましてや、ルークの心労など思い至ってすらいなかったため、多くの者たちから正論と共に再考を願われて、インゴベルトたちは了承の意を返すしかなかった。簡単にいえば、最愛の者たちの涙まじりの抗議と、正論を振り翳す数の力に屈したのだ。
 ルークがアクゼリュスに送られることはなかった。

 ユリアの預言成就に心血を注ぐモースだけが反対の意を示していたが、ローレライ教団の一幹部に過ぎない彼には、キムラスカ王国の政治に口出しする権利はない。モースの抗議を鬱陶しく思ったキムラスカの一人の政治家が、内政干渉だと言い出せば、右に倣うかのように次々に同様の声があがった。事実であるため、インゴベルト国王も庇うことができなかった。

 モースはキムラスカでの居場所をなくした。これを好機と見たキムラスカの良識的な政治家は、今までモースに抱えていた不満をここぞとばかりにぶつけた。今までの内政干渉、それに先日起きたファブレ公爵邸襲撃事件。犯人がモースの部下であること、また食料泥棒と間違われたルークをその場で庇うことなく看過したこと、それにより精神的な苦痛を味わい、体調を崩したこと。ルークが体調を崩したことについては直接的な原因はないが、逆を言えば、遠因はモースの部下にあるということだ。彼女に責がないとはまかり間違ってもいうことはできない。言ったら余計に怒りを買い、追及が厳しくなるだけである。

 むしろそれを期待するかのように、キムラスカの政治家たちは、モースの屈辱と怒りを煽るような言い方で彼を追い詰めた。彼らの思惑通り、モースは激しい怒りと屈辱を感じながら、それでもしどろもどろに何とか弁解をやり遂げた。モースが腹の底に溜め込んだ激しい怒りと屈辱は、原因のティアへと向けられた。

 不法入国を理由にマルクトに捕まったティアを庇うことなく、彼女と一度面会したときには、モースに迷惑をかけたことを謝る彼女に罵倒を浴びせて、彼女を見捨てた。

 和平仲介を果たせず、ダアトに帰還したイオンとアニスを待っていたのは、キムラスカによる抗議だった。その対応に追われて、しばらくの間イオンはがむしゃらに働く羽目になった。

 一方、マルクト。食料泥棒の一件でキムラスカに借りを作ってしまった形になったマルクトの将来は暗い。和平交渉が失敗に終わり、ジェイドと第三師団の兵士たちは無駄骨に終わったことを虚しく思えど、元通り職務に戻った。障気に苦しむアクゼリュスの住民については、さらにキムラスカに借りを作り、頭を下げて住民の救助を依頼するか、もしくは崖崩れに見舞われたアクゼリュスに向かう街道の復旧を急ぐしかない。最終判断を下す立場にいる、ピオニー陛下はその判断に懊悩する。





 体調を崩していたルークがベッドから起き上がれるようになったのは、おおよそ三ヶ月も経とうという頃だった。

 一ヶ月ちょっとくらいで体調は殆ど回復していたのだが、心配したシュザンヌとナタリアに押される形で念のために休んでいたのだ。その間、当然のように暇を持て余したルークは本を読むようになった。最初は嫌々だったが、読書するうちに本の面白さが理解できるようになり、様々な分野に手を出すようになった。冒険活劇ものが好きなのはいうまでもなく、勇敢な戦士や、頭脳に優れる平民が成り上がって行く出世物を見るうちに、自分もこういう人物になりたいという欲求がむくむくと湧き上がるようになり、そのための努力を少しずつするようになった。

 身体を鍛えることもそうだが、勉強に意欲を見せはじめたルークにナタリアは多いに喜び、ルークに勉強を教えるようになった。わからないことを尋ねるルークに、質問の答えを正確に返すべく、ナタリア自身もより勉強に意欲を燃やすようになり互いに高めあう日々を送っている。

「さあ、ルーク! 軟禁状態も解けましたし、街に下りて、勉学の成果を試しますわよ! お金の準備はよろしくて?」

 ルークが病床から立ち直った頃、軟禁命令は撤回された。

 勉学の成果を試すべく、ナタリアはルークと共に街に下りることにした。もちろん護衛付きだが、所謂、デートというやつである。

「お、おう……っていうか、おまえはしゃぎ過ぎだろ……」

 これから自由に外出できるようになりルークも喜びを覚えているのだが、テンションが高いナタリアに押されるような形で、必然的に冷静にならざるおえない。ナタリアは咳払いをして、首を振った。

「そんなことありませんわよ。ルーク、今日の目的わかってますわね?」
「わかってるって。おまえに似合うようなもん選んで買えってんだろ」
「設定金額は一万ガルドですわ」
「……つーかなんで俺がお前に似合うものをプレゼントしなきゃいけねーんだよ。誕生日でもないのに」
「まあぁあ! 誕生日以外でも、たまには、婚約者に対してプレゼントの一つくらいしてもよろしいではありませんか!」
「わかった、わかったからヒステリックな声あげんな、うるせえ」

 ルークは両耳を手で押さえる。ナタリアはヒステリックな声なんてあげてませんわと言うが、その声が甲高くヒステリックに聞こえていることなど知るはずもない。
 眉を顰めたルークが「だーっうるせえっつーの!!」と大声をあげるまで時間の問題だった。
 




END.

サクッと終わる。ティア以外は平和に収まりました。コンセプトはジェイドがちゃんと仕事していたら(和平親書受け取り&グランコクマで食料補給を済ませていたら)。エンゲーブでルークは食料泥棒としてとっ捕まってたでしょうね。イオンがいないので疑いが晴れない&ティアの心の本音を聞いた限りではすぐにフォローしないだろうから、マルクト&ダアトの立場は苦しくなるだろうなーと。

2013/10/28
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