「うっ……ううぅ……」

 安っぽいベッドの中で、少女の湿った泣き声が落ちた。
 隣で眠る男を起こさぬよう、頭から少女は毛布をかぶった。毛布に染み付いた、酸っぱい匂いと、全身に残る感触と下半身の気だるい感覚にまた涙が一粒こぼれ落ちる。ぐしゃぐしゃになったシーツは、汗とドロッとした白色の液体に塗れて、少女の体に纏わりついた。

 汚れてしまった――何度繰り返したかわからない言葉を、今夜もまた、脳の中で繰り返す。
 一度汚れたあとは、二度、三度、と繰り返されて、今となってはもうよく知りもしない男と、夜明けを共にすることは珍しくなかった。

 何度ユリアとローレライに祈ったのか。何度兄に助けを求めたのか。いくら祈ろうとも、誰一人として少女を――ティアに救いの手を差し伸べてくれる者はいなかった。

 ローレライ教団を窮地に陥れた者の一人である、ティア・グランツ。
 彼女はキムラスカに引き渡されると、罪状を告げられて、そのまま処刑されるはずだった。
 攻撃性が極めて高いユリアの譜歌を用いて公爵家に侵入した事実は、到底看過できるものではなく、本来ならば無差別殺人として重刑を受けるべきだった。王族を誘拐した罪にも該当した。王族誘拐は擬似超振動による事故だと弁明するには、被害者に対するティアの態度が問題視された。
 また教団の軍服で侵入した以上、ティアの行為は、教団によるキムラスカ王国に対する敵対行為だと見られても仕方ない。

 そんなつもりはなかった、兄を殺そうとした、他の人を巻き込まないように眠りの譜歌を使った、追い詰められていた――そんな言葉でティアは情状酌量を求めたが、誰も聞いてはくれなかった。
 そうして、ティアは処刑が決まった。
 執行猶予期間を設けられ、その期間で子供を産むように強制された。
 当然、納得できるわけがなかった。ティアは胸の内にしまっていた兄の恐ろしい計画を暴露して、再度情状酌量を求めた。キムラスカはティアの証言の真偽を調査することに決めたが、ティアの罪を軽減することはなかった。

 病気にならないよう、綺麗な部屋に入れられ、食事は三食与えられ、毎日シャワーを浴びて、娼婦のように夜毎代わる代わる男の相手をする。
 娼婦は生きるために、その日の糧を得るために、男たちに体を差し出す。
 だが、ティアは殺される未来のために、男たちに体を差し出すのだ。
 子供を妊娠したその日が、ティア処刑へのカウントダウンの始まりだ。

「お願い……誰か……」

 その前にここから誰か救い出して――ティアは祈る。
 祈りは虚しく、誰に届くこともなく、彼女自身の嗚咽にまぎれて、散った。



2014/07/29
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