男主がゲスいです。ゲスいです。大事なことなので2回書きました。
ティア(が可哀想な)夢。
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ミリア・ショウブは、幼馴染にして、婚約者のティア・グランツという少女を愛していた。
ティア・グランツは聖女ユリアの血を継ぐ娘だからである。
たとえティアの人間性に問題があっても、そんなことは聖女ユリアの名の前には霞んだ。ミリアにとって、ティアを愛する理由は『聖女ユリアの子孫』の一点に尽きた。
――だから。『聖女ユリアの子孫』で容姿も性格も良い娘がいたら、ティアの存在など容易に捨てられるものだったのだ。
アクゼリュス崩落。
兄に騙されたルークが超振動でパッセージリングを破壊してしまい、外殻大地を崩落に追い込むという事態に直面しながら、こんな状況にも関わらず、ティア・グランツはユリアシティに到着する瞬間を心待ちにしていた。
「ミリア……」
彼女には幼馴染にして婚約者がいる。ティアが産まれてから16年間、ずっと見守り、支えてくれた、第2の兄とも言える存在だった。
名はミリア・ショウブ。取立て特出した容姿ではないが、ユリアシティにおいて容姿以外の欠点はないと言わしめたほどの男である。物腰穏やかな反面争いごとを嫌う性質かと思えば、成績優秀で武道の腕も優れる。
目の前で困っている人がいれば率先して手を差し伸べることが出来る姿、リーダーシップに優れているため、ティアと同年代の女の子は皆熱い眼差しを向けていた。そのことが当時のティアにとって自慢だったのは言うまでもない。
ユリアシティの前市長の息子にして、将来はユリアシティの市長の座に座ることが決まっている将来有望のエリート。今はテオドーロ市長の秘書を努めて活躍しており、ティアが外殻大地に向かうときも、心配そうに応援してくれた。
きっとミリアは、兄に裏切られた妹であるティアを可哀想に慰めてくれるだろう。
兄に裏切られたショックで傷ついた自分を慰めてくれるミリアの姿を想像して、ティアはタルタロスがユリアシティに到着する瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
甘えたことを言うルークを叱責して、タルタロスから無理やり下ろす。
アッシュが現れて衝撃的な事実に耐え切れずにルークが気絶する自体が起きたが、ティアはテオドーロの元に仲間を案内すべく向かう。
創世暦時代の材質で作られたユリアシティの地面は特殊な鉱石で作られている。ティアが歩くたびにヒールの音が単調に響いた。テオドーロの元に向かうティアを、すれ違った住民は皆一様に苦笑を浮かべていた。感じ悪いとぼやくアニスの言葉にティアは内心同意しながら、口では「ごめんなさい」と謝った。
ユリアシティは閉鎖的な街だ。自然と排他的になる。このときまでは、ティアは住民が向けた不快な眼差しは、余所者である仲間達に向けられた目だと思い込んでいた。
その認識が誤まりであることに気付かされるとも知らず、テオドーロがいる会議室のドアをノックした。
軽やかなノック音のあと、聞こえたのはミリアの声だった。
名を告げると入室許可が下りる。ティアは仲間を引き連れて、会議室に入室した。
「お爺様、ミリア!」
会議室の上座に座っていたテオドーロが、ティアの顔を見て苦々しい笑みを浮かべた。
不可思議に思ったが、ティアは先に用件を済ませてしまうことにした。兄が仕出かした罪、アクゼリュスの崩落がユリアの預言に詠まれていた事実――胸を苛む事実を述べ、知り、ティアの精神的な疲労は限界を迎えていた。
ティア達の話を聞いたテオドーロは深刻な面持ちをして、ヴァンを止めるべく、力を貸すことを約束した。
話が終わると仲間たちは早速外殻大地に戻る手筈を整える。兄の凶行を止めるという崇高な使命を抱いたティアは、再び仲間たちに付いて行くことに決めた。タルタロスに戻るという仲間たちに、ティアは少々時間を貰い、会議室に残る。
生きて帰れるかわからない旅に向かう前に、ミリアと言葉を交わしたかった。孫の様子に気付いたテオドーロが気を利かせて、ミリアを置いて会議室を出て行く。ティアは早々に口を開いた。
「ミリア……私……」
「……仲間を待たせているんじゃないのか?」
「そう、だけど…すこしくらいは平気だわ」
「そうか」
ミリアの態度は素っ気無かった。
違和感を覚えながらも、ティアはミリアに一言でもいいからやさしい言葉を貰いたくて、ミリアを見つめる。ミリアはティアの視線に気付かない様子で、左手に視線を落としていた。何をそんなに熱心に見ているのか気になり、ティアの視線がミリアの視線を追う。――目を瞠った。
左手の薬指。
ダイヤモンドの指輪が嵌められていた。
「……どういうこと?」
震える声で、ティアは尋ねる。
左手の薬指、ダイヤモンドの指輪。この2つの意味を知らないほど、ティアは恋愛に関して無知ではない。
それどころか、いずれはその指輪を貰うのだと想像を膨らませるくらいには、夢を見ていた。
「何が?」
「それ…エンゲージリングじゃないの?」
「…ああ、そうだが」
「そうだがって! 貴方は私の婚約者でしょう!? いったいどういうことなの?!」
「俺とお前の婚約は破棄されている。…知らなかったのか?」
「うそ、」
「嘘じゃない。こちらから婚約破棄させてもらった。俺には犯罪者と結婚する気はないからな」
「私は犯罪者じゃないわ!」
「無自覚か。――お前はいつもそうだな。自分の都合の良いように物事を考え、まかり通ると思っている。ファブレ公爵家を襲撃したそうじゃないか」
「あれは兄さんを狙って、」
「その言葉にどれくらいの信用性がある? 俺たちはお前の言葉を信用出来る、けれどキムラスカにとってはそうじゃないだろう。ヴァンを狙ったと犯人が言ったところで、その家の息子が犯人によって敵国に連れ去られている以上、犯人の証言に信用性はない。お前が何を言おうとも、事実がお前を犯罪者であることを示しているんだよ」
「そんな、だって、私は謝ったわ!」
「謝って済む問題じゃないことを、軍人の身であるのに、お前は理解していないのか」
「っ」
厳しい言葉を浴びせられて黙り込む。ティアの表情には不満がありありと浮かべられていた。
よしんば、それが婚約を破棄する理由にはならないではないか――。
「――納得していない顔だな」
「当然だわ! 納得できるわけないでしょう! あんなに私を可愛がってくれていたのに…あれは嘘だったっていうの!?」
周囲に聞かれたら誤解を与えそうな言葉を、ティアは疑問を持たずに言い放った。
やましい意味はない。ティアとミリアの関係には性的なものは含まれていなかった。ティアは、自身の処女を捧げる相手は、生涯を連れそう相手であってほしいという、少女らしい健全な思考の持ち主である。ミリアは違うが。
「俺はお前の容姿はともかくとして、それ以外の点は嫌いだった。と、言えば満足か?」
「!?」
「都合の良いように物事を考え、相手に非を見出す一方自身の悪いところには目を向けない。追い詰められたら犯罪も厭わず、自分にとって辛い出来事が降りかかると、そのたびに悲劇のヒロインぶるその性格。……反吐が出る」
ミリアは汚物を見るような目を、ティアに向けた。
「俺がお前と婚約していたのは、お前がユリアの子孫であったことの一点に尽きる。それ以外お前には何の期待も抱いていなかった。だというのに、よりにもよってユリアの譜歌で公爵家に襲撃するなんて。ユリアの名を貶めるような真似をしたお前にはほとほと愛想が尽きたよ」
「ぁ……」
ファブレ公爵家に侵入した際に用いた、ユリアの譜歌。
そのことがユリアの名を貶めているなんて、ティアは考えもしなかった。顔色を悪くさせたティアは、ミリアに見限られたくない一心で、ミリアに縋るように抱きついた。
「ごめんなさい…謝るわ。ユリアの名を汚すつもりなんて、私にはなかったの! あのときの私は、どうかしていたんだわ! だからお願い…」
「離せ。婚約者に誤解されたら困る」
「っ…!!」
ミリアを酷い男だと思いながらも、それでもティアはミリアに縋りついた。
16年間、ミリアと結婚するのだと想っていたのだ。今さらミリア以外の男性と結婚するビジョンなど浮かばない。ティアにとって、大切な人は、兄であるヴァンと、祖父のテオドーロ、師であるリグレットと――婚約者のミリアしかいなかった。
兄であるヴァンが世界を敵に回した今、ミリアがティアの中から欠けてしまうなんて、耐え切れない。
「私はユリアの子孫よ!」
ユリアを心棒するミリアにこの言葉は効くだろう。ユリアの名を笠に着ることは出来れば避けたかった。ミリアと愛し合っているのだと思い込んだまま、彼と結婚したかった。
最後の切り札を使ったティアをミリアはだからなんだと言うような、冷たい眼差しを向けた。
「俺の婚約者も『ユリアの子孫』だ」
ティアは言葉を失った。
「今度紹介しよう。お前の従姉に当たる女性だ」
最後の切り札の効果はなかった。
そのことにティアが気付いたときには、もう。
「犯罪を犯しても、お前がユリアの子孫であることに代わりは無い。引く手は数多だ。テオドーロ市長がお前の新たな婚約者を選出している」
「っ……」
向けられる冷たい言葉の数々に、ティアは膝をつく。両手で顔を覆い、泣いた。
「お前がいてもいなくても、ヴァンはいずれ誰かしらが倒すだろう。お前である必要はない。それよりも、お前はユリアの血を守ることに専念しろ。貴重なユリアの血を失っては世界の損失だ。お前はもう二度とユリアシティから出て行くことは許されない。死んでもらっては困るからな」
さあ、立て――ミリアはティアの腕を引っ張って、無理やり立たせる。
嫌だと泣きながら首を振るティアを、無理やり引っ張るとミリアは一室に入れた。
その部屋の調度品は豪奢で、お姫様が寝ているような天蓋付きのベッドがあった。
いつぞやティアが憧れたような部屋を形にしているのに、今のティアにとっては牢屋よりも残酷な場所に映った。
「今日からここがお前の部屋だ」
いつぞや、ティアが見惚れた笑顔でミリアは言う。
部屋の外には、味方識別を施されてティアの譜歌が聞かない2名の兵士がいた。お姫様を守るための、――いや、罪人を外に解き放たないための監視者だ。
「ここでなら穏やかに暮らせるだろう」
だから安心して、子を産めばいい――ミリアは言った。
今になって、ティアは気付く。すれ違った住民が苦笑を浮かべていた理由を。彼らはティアなど、代替品があれば容易に捨てられる存在だと知っていたのだ。
愛した人に道具としか見られていないことに否応なく、ティアは気付かされて。
夢から覚めた現実の残酷さに打ちのめされた。
END.
ゲスい男主が書きたくなったんです。
2012/09/29
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