「…え? 本当に出版しちゃうんですか?」
黒髪の妙齢の女性――ミリア・ショウブは編集長の言葉に驚愕した。
向かい側のソファに座った、三十代ほどの若き男性編集長は、ミリアが今まで一度も見たことがない機嫌が良さそうな笑顔で頷いた。
「親善大使一行の知られざる顔! 話題性バッチリ、売れそうな予感がするじゃないか」
長年諍いが絶えなかったキムラスカ王国とマルクト帝国。両国の仲の悪さは周知の事実というやつで、近年小競り合いが頻発して、いつ戦争の火蓋が切って落とされても不思議ではなかった。
国民が両国の動向を見守る中、なんと驚くことに、つい先日、両国は和平を結んだという噂が急速に流れた。和平について民衆は最初こそ半信半疑であったものの、すぐさま国王が大々的に和平の件について布告を出したことにより、噂は一気に真実味を与え、国民は和平が結ばれたことを喜んだ。その後キムラスカ王国は和平の証として、ファブレ公爵子息ルーク・フォン・ファブレを親善大使に任命し、アクゼリュスの地へと送った。王位継承権を持つルーク・フォン・ファブレを親善大使に任命したことから、キムラスカ王国の和平に対する真摯な姿勢が見えて、民衆はこれでようやく真の平和が訪れるのだと安堵したものだ。あとは、親善大使一行がアクゼリュスの住民を救助してくれれば、和平は綺麗に纏まる。
ミリアが今回、執筆した話は親善大使一行に関することだった。
ルーク・フォン・ファブレ率いる親善大使一行について書いた本は無条件に売れている現状において、ミリアの執筆した話は見事に話題性が合致している。売れることはあれど、売れないことはない――そう判断した編集長は、ミリアの話を出版することに決めた。宝物のようにやさしい手つきで原稿用紙を撫でる編集長の姿に、ミリアは困惑を覚えた。
ミリア・ショウブは売れない小説家である。
デビュー作は華々しく売れたが、以降はパッとせず、そのうちに売れない小説家のレッテルが貼られはじめた若き女流作家であった。
そんなミリアが親善大使一行とはじめて出会ったのは、新たな話の題材を求めて出かけた、旅の途中のことであった。ケセドニアに戻ろうと、傭兵が警護する行商の馬車にすこしの金を支払い、同乗させてもらっていたら、その行商が魔物に襲われてしまったのだ。集団で現れた魔物に傭兵はすぐさま応戦したが、群れた魔物は予想外に強く、傭兵は魔物に食われてしまった。そうなると戦う手段を持ち合わせないミリアも行商の者もなす術がなく、行商の者は魔物に殺され、ミリアも食い殺されそうなった寸前にルーク・フォン・ファブレに救助された。ミリアに襲い掛かろうとしていた魔物は、彼女の目前で炎によって焼け焦げになり(のちにわかったが、ミュウというチーグルが口から出した炎であった)、まわりにいた魔物もルークが颯爽と追い払ってくれた。遅れて現れた、親善大使一行のメンバーと思しき連中が出る暇もなかった。
『おいっ、大丈夫か!?』
と、血相を変えた面持ちで尋ねてきたルークを見て、絶命する魔物の姿を認めたミリアは助かったことを知り、ミリアは子供のようにみっともないほど泣きじゃくった。ルークは眉根を顰めたが、不器用な手つきで慰めてくれた。ルークの目の前で泣いたせいか、それ以来彼はミリアをたいそう気にかけてくれた。
ミリアがケセドニアに戻ろうとしていたことを知ると、ケセドニアまで親善大使一行は送ってくれると彼女に言った。親善大使一行の手を煩わせることは出来ないと固辞するミリアに、どうせザオ遺跡に行ったあとケセドニアに戻らないといけないというので(親善大使一行がザオ遺跡に行く用事に思い当たらず、疑問を覚えたが、その疑問はすぐに親善大使一行の話を聞けば解消された)同行させてもらった。そこでミリアは、親善大使であるルークが同行者たちからどんな扱いを受けているのか知ってしまった。
ミリアが見た、親善大使一行の真実。親善大使に対する他国の軍人の姿を見て、導師の姿を見て……ミリアは不快になった。ケセドニアまで気にかけてくれたうえに命まで助けてくれた恩人とも言えるルークに対する同行者たちの悪質な態度に、ミリアが良い感情を覚えるはずがない。ミリアはノートに細かく書き綴っていった。途中ルークたちに見つかったが、ルークとイオンとジェイドには日記と言えば問題なかった。アニスたちに到っては、売れない小説家の書くものに興味はなかったらしく、追求すらされなかった。帰還して一日中家にこもり原稿に清書したミリアの話は、編集長の目に留まり、すぐさま出版という流れに漕ぎついた。
「…でも…書いた私が言うのもなんですけど、それ…民衆が抱く親善大使一行のイメージ像を木っ端微塵に破壊しちゃいますよ?」
「だから、面白いんだろ。今売れてる親善大使一行に関する本を見ろ、どいつもこいつもみんな英雄や聖女様のように書かれてやがる。俺はもうそんな話は見飽きたんだ。どうせ見るなら、完璧無敵の親善大使一行という英雄じゃなくて、親善大使一行というベールに包まれた人間が見たい。おまえの書いた親善大使一行はそれに当てはまる。だから、出版するんだよ」
肉食獣のように獰猛な笑みを見せた編集長に、ミリアは引き攣った笑顔を返した。
「そ、そうですか…」
「くく、この話は売れるぞ〜。この話を出版したあとに、親善大使一行について特集を組んでみるか。なーに、話題には困らねぇ。叩けばいくらでも埃が出そうだ」
「……」
鼻歌さえ歌い始めた編集長に、ミリアは溜息をついて、自身が書いた原稿を見下ろした。
そこには、親善大使一行の赤裸々な姿が書き綴られている。
エッセイとして出版された一冊の本がオールドラント中に旋風を巻き起こすまで、あとすこし。
山頂に行くにつれ、徐々に道が険しくなるデオ峠――もうじきアクゼリュスに到着するというのに、親善大使一行は険悪な雰囲気に包まれていた。
筆頭は親善大使であったが、彼を取り巻く者たちも機嫌の悪さを隠そうとしていない。親善大使は眉根をきつく寄せて唇を硬く結び、無口のまま。彼の先を行く親善大使一行のメンバーは、導師を気遣いつつ、親善大使の態度に悪態をついている。それもこれも、親善大使が放った一言が、一行らの胸中にふつふつと溜まっていた不満を爆発させるきっかけを与えた。
導師が苦しそうに呼吸をしていると、導師守護役を休憩を要求し、ソレに対して親善大使は、今は導師がいなくとも自分がいれば和平は問題ない、と口にしてしまったのだ。
親善大使の言葉を思い上がった発言だと一行らは不快になり、中でも導師守護役たる彼女は非難を隠そうともせず、「アンタってバカぁ?」と呆れと怒りをこめて罵った。
導師は悲しそうな素振りでルークにそういわれるのも仕方ないと理解を示したが、親善大使の従者たるガイは思い上がった発言だと言い、なぜか同行している王女も導師の大切さを説き遠巻きに非難した。和平使者だけは親善大使を非難はしなかったが、話に口を挟むことはなかったから、もしかして彼らとおなじように親善大使を胸中では非難していたのかもしれない。ローレライ教団の女軍人は、その態度を直さないと今に痛い目を見る、と告げて親善大使に背を向けた。
親善大使の思いを、このときの一行は誰も省みようとしていなかった。それぞれが、自分のことだけで精一杯だったのだ。
険悪な雰囲気のまま、一行はアクゼリュスに辿りついた。街の入り口で一行が待ち構えていたのは、思いがけない人物であった。
「セシル少将!?」
ナタリアが驚愕の声をあげる。キムラスカカラーである赤い軍服を身にまとう金髪の美しい女性――セシル少将は、感情が窺えない目で立っていた。
親善大使一行の姿に気がついたセシルは歩み寄り、ルークに対して礼をした。
「お久しぶりです、ルーク様」
「あ、ああ…なんでセシル少将がここに?」
「陛下より勅命を受けて、ここに参上致しました」
「命令…? お父様がなにか?」
しゃしゃり出てきたナタリアに、セシル少将は厳しい目を向けた。
懐から丸められたニ枚の書状を取り出し、一枚を紐解き、ナタリアの目前に突きつけた。
ナタリアは反射的に書状を読み解く。見慣れた父の文字を追うごとに、ナタリアの顔から血の気は引いていった。
「陛下よりご命令です。――”今このときを持ち、ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアは王籍から抹消、庶民に降格する”あなたは今より王女では無くなります」
「なぜですの!?」
悲鳴まじりの問いに、セシルは淡々と告げた。
「親善大使一行の同行を陛下より禁じられているのにも関わらず、国王の命令に背き、無断で親善大使に同行したことから、国家反逆罪に問われています。国王陛下名代であらせられる親善大使を道中侮辱したことにより、謀反の疑いありと判断されました」
「そんな! わたくしは謀反など…ッなにかの間違いですわ!」
「捕縛し、城へ連れて戻るように命じられています。おとなしくしてください」
謀反も国家反逆罪も身に覚えがない。ナタリアは青褪めた顔色で必死に訴える。申し開きは城で、とセシルは告げると近くにいた部下から手錠を受け取り、ナタリアの両手に嵌めた。弓矢まで奪われて罪人の扱いを受けたナタリアは頑是無い子供のように首を振ることしかできなかった。
セシルのナタリアへの扱いに、ガイは非難の声をあげた。
「ナタリアが謀反だなんてなにかの間違いだ! …彼女はアクゼリュスの住民を救助するために、身ひとつで同行したんだ。他国民の人命を思い遣るナタリアのその行動が、どうして国家反逆罪に問われなきゃいけないんだ!?」
「あなたは?」
「あ…俺は…」
セシルに視線を向けられて、ガイはぎくりと肩を竦めた。
やましいことがあると悟れるガイの態度を、セシルは見逃すことはなく、ただ冷たく目を細めた。
「あなたですか…親善大使を侮辱する男の従者とは」
「え…っ?」
「あなたにはファブレ公爵より伝言を受け取ってます。”職務怠慢により解雇。ファブレ公爵家の家名に泥を塗ったことにより、名誉毀損に問う”だそうです。その上で陛下より、親善大使侮辱罪で拘束し城に連行するように命令を受けています」
セシルはガイに近付き、女性恐怖症というトラウマから硬直して動けないガイの両手に難なく手錠を嵌める。ガイの腰に携えてある剣を奪った。
幼馴染二人が逮捕される瞬間を目の当たりにしたルークが血の気を失った顔で「なんで…!」と驚いた声をあげるものの、その言葉は飲み込んだ。
どうして逮捕するのだ、と問うのは愚問である。
セシルは国王命令の名の下にナタリアとガイを逮捕したのだ。
ルークにはわからないが、ナタリアもガイも逮捕されて当然の行いをしたのだろう。
「っ酷すぎるわ。職務怠慢だなんて言いがかりをつけて…ガイはファブレ公爵家に泥を塗ったりもしていません!」
ティアが強い口調で言うと、セシルの双眸がナイフの切っ先のように鋭くなった。セシルは無言でティアに近付く。怪訝な顔をするティアの横っ面を、拳を握ったセシルは殴り飛ばした。
まさか攻撃されるとは思っていなかったティアは突然の事態に受身も取れない。
地面に叩きつけられた衝撃で脳震盪を起こし、ティアのブルーの双眸がほんのすこしの間、虚空をさ迷った。
ぐらぐらと揺れる脳の疼きが治まるまで微動だにできずにいるティアに、セシルは猿轡をさせて彼女の背で両手を縛る。
ティアがようやく脳震盪から開放されたとき、彼女は自分で歩くこともままならない格好をさせられていた。
陸にあがった魚のようにビチビチと動くティアに、導師と守護役が血相を変える。
「セシル少将、なんでこんな…ティアがなにをしたって言うんですか!?」
導師が言うと、セシルは答えた。
「この者はファブレ公爵家に危害を加え、ルーク様を誘拐しました」
ティアがそれは許されたはず、と抗議の声をあげる。
周囲には呻き声にしか聞こえず、セシルは彼女に視線を向けることさえしない。
「王位継承権を持つルーク様に対する数々の狼藉、決して許されはしません。彼女は親善大使侮辱罪にも問われています。陛下より捕縛し連行するよう、仰せつかっています」
「そんな…! ティアはダアトで査問にかけます! ですから…」
「私は命令に従っているまで。そういうことを言われても困ります」
「……っ」
導師は悲しそうに下唇を噛み締め、ティアに近付くと腰を屈め、彼女に「僕が必ず助けますから。すこしの間、辛抱してください」と告げた。ティアは導師の真摯な眼差しに、やや間をおいて、こくりと頷く。
犯罪者と認定された女軍人を庇う、導師――その構図を見て、セシル含めたキムラスカ軍人は、あのふざけた本の内容が真実であったことを実感させられた。
数週間前、一冊の本がケセドニアにて発売された。
親善大使一行に関する本はたくさん発売していたが、どれもが似たりよったりな内容で、本の表紙からして親善大使一行を英雄と祭り上げるような明るい彩色であったのに対し、その本は異様なことに赤黒い表紙であった。
白い帯には、太い黒字で『親善大使一行のおそるべき真実』という文字が躍っていた。明るい和平と言う話題に、似つかわしくない異様な風体の本を興味本位で買う者は多く、その本の内容を読んだ者たちは、最初こそ本の内容に怒りを感じた。
こんなデタラメな内容の本を出版するなんて、と怒りを感じた者たちは、出版社に集団でクレームをつけに行ったが、そこで応対した編集長によってその本の内容が事実であると言葉巧みに丸め込まれた。本の内容が真実であるかどうかなど、民衆にはわからなかったが、英雄に祭り上げられていた親善大使一行のイメージを破壊する本の内容に、おかしなことに誰もが食いついた。
編集長が言っていたとおり、世間は完璧無敵の親善大使一行を見飽きていたのかも知れない。本はあっという間にケセドニア中に広まった。
そうなるとケセドニアは物流に富んだ街であったので、キムラスカやマルクトから仕入れのために訪れた行商もこぞって買い、自国に持ち込んだ。
良い噂より悪い噂が広まるのは世の常。悪い噂はどんどんと尾鰭がついて膨らみ、本を読んだ者たちは親善大使一行の噂を自身から集めた。隠れて行動しているわけでもない親善大使一行の真実を伝える噂は、千里を駆け巡った。
親善大使に任命されたルーク・フォン・ファブレ様は七年前にマルクトに誘拐されて、記憶障害に陥っている。
七年間の記憶しかなく、その七年間も国王命令により軟禁されていた。
ナタリア王女は慈善活動に精を出す立派な王女だけど、本の内容どおり国王の命令に背いて出奔したらしい。自身が受け持つ国務を一切無視して。
ティア・グランツはファブレ公爵家に襲撃した賊らしい。ルーク様を公爵家から誘拐するだけに飽き足らず、本の内容どおり前衛に立たせ、自身は後衛で譜歌をうたっていた。彼女がルーク様を呼び捨てにし、ときにはルーク様に対して酷い言葉を言っていた。
ガイ・セシルはルーク様の親友でなおかつ公爵家の使用人であるのに、主人の息子に対してタメ口をきいたあげくにルーク様に剣を持たせ、公爵家へ襲撃したティア・グランツと仲良く談笑していた。
和平の仲介に訪れた導師は六神将に誘拐されて行方知らずになり、住民救助のためにアクゼリュスに向かう親善大使に対して、導師守護役は導師の救出を願い出た。親善大使一行はアクゼリュスの住民の救助活動を放って、導師救助を優先させた。
一行の旅の指針となったのは、親善大使でなく、鼻持ちならない死霊使いであった。
旅の決定権を持つ親善大使に対して、死霊使いを始めとする全員がぞんざいな態度で接していた。導師は自身の部下が、キムラスカ王族を侮辱する姿を見ていたのに、いさめようともしなかった――。
和平を妨害せんとする六神将の姿も何回か確認されている。
キムラスカとマルクトは本の内容を重く受け止め、噂の真偽をたしかめると、一つの判断を下した。
「和平は中止になりました。ルーク様、即刻バチカルにお戻りください。」
「和平が中止!? なんで!?」
びっくりした声をあげるルークに続くように、和平使者がなぜと眉根を寄せた。
導師も守護役も驚くばかりで、疑問を口にすることさえ出来ない。セシルはルークに説明した。
「和平使者が親善大使を侮辱する姿が道中、何度も民に確認されています。これから和平を結ぼうとしている敵国の軍人に、国王陛下名代である親善大使が侮辱されるという遺憾の事態を陛下は重く受け止め、マルクトは真に和平を結ぶ気はないものと判断、和平の中止を決定した次第です」
ようは、和平が中止する事態を招いたのはジェイドの所為だった。
動揺を隠すために眼鏡に手をかけたジェイドをセシルは一瞥したが何も言うことはなかった。
セシルが言わずとも、ジェイドをとっ捕まえるべく派遣されたマクガヴァン将軍がやってくれる。
セシルの任務は、ルークの警護をしながら罪人二名をバチカル城まで連行することだ。それ以上のことは自分には力不足だ。
「それでは導師イオン、和平使者殿失礼致します。ルーク様、こちらへ」
「あ、ああ……」
住民救助を目前にして、バチカルに連れ戻されることにルークだとて納得できていない。
それでも国王の命令ならば仕方ないのだと苦い表情をして、ルークは先導されるまま用意されていた馬車に乗った。
何十人といるキムラスカ兵士に囲まれてルークの乗った馬車が去っていく。
遠くへ去り行く馬車を呆然と眺めていたジェイドと導師と守護役の元に、一冊の本を携えて憤怒を湛えたマクゴヴァン将軍が現れるまで猶予はもう存在していなかった。
――その後、一人残らず罪人は逮捕された。
ナタリア王女は王籍抹消のうえに庶民に降格され、国家反逆罪と謀反の疑いをかけられて終身刑になった。さすがのインゴベルトも娘を庇うことは出来ず、一生暗い牢屋から出られないことが決まったナタリアはさめざめと泣き生涯を閉じることとなる。後にナタリアは本物の王女とすり替えられた偽姫だと知れ、王籍から抹消されたナタリアは後世の歴史書には存在すらも刻まれることはない。インゴベルト国王の娘は死産と、ただ一言重みのある真実が刻まれることとなる。
親善大使侮辱という罪に問われたガイ・セシルは余罪を調査していくうちに身元詐称をしていたことがわかった。ガイ・セシルはホドのガルディオス伯爵家の子息だった。ホドを滅亡に追いやったファブレ公爵家に、ガルディオスの遺児が身元詐称して使用人として潜り込んでいた理由は問うまでもない。ガイ・セシルをどう扱うか困ったキムラスカはマルクトに話を通したが、マルクト皇帝はガルディオス伯爵家はとうに滅んだの一言で、彼をガイラルディア・ガラン・ガルディオスとは認めずにガイ・セシルとしてそちらで好きな判断を下してほしいと遠まわしに伝えた。ガイの罪は膨らんだあげくに、彼は極刑を与えられた。
ティア・グランツは罪を数えるくらいばからしくなるほどの罪を犯したことにより、子供を産まされたのちに処刑された。子供を産まされたのは、ユリアの血に対する保険である。彼女が犯したいくつもの問題行動は、ダアトとキムラスカの間に不穏を生み出した。導師はティア・グランツの身柄を引き渡すよう彼女の生前に何度も要求したが、キムラスカはダアトと引渡し条約を結んでいないと断固拒否。
導師の時勢を読まない厚顔無恥ともいえる要求はキムラスカの怒髪天を突き、ダアトは責め滅ぼされ、ローレライ教団は解体に追いやられた。
親善大使を侮辱した他の面々も終身刑、極刑といった重い罪を受けたと風の噂で聞くが真偽のほどはたしかではない。しかしあれ以来、死霊使いと恐れられていたジェイド・カーティスの姿が見えなくなったのも、六神将の姿が消えたのも事実である。
表舞台から姿を消した彼らの痕跡をたどることなく、ミリアは次回作の構想を練るべくペンを持ちノートを開く。
彼女はふと思い立ち、机の引き出しから二枚の手紙を取り出した。上質紙でできた封筒の裏、優美な字体で記された送り主の名は、シュザンヌ・フォン・ファブレ。
あなたのおかげで息子はこれ以上辛い目に合わずに済みました――と感謝がこめられた手紙の内容にミリアは恐縮した。ミリアは、今の世界に一時的とは言え混乱を招く引き金となった自覚がある。国に混乱を招いたことで疎まれることはあれど、感謝してもらう必要などないのだ。
そして、もう一枚の手紙。それはシュザンヌよりもひどく稚拙な字であったが、一生懸命に書いたことがあるとわかる文字であった。送り主の名は、ルーク・フォン・ファブレ。ミリアと別れたあとなにが起きたのか文章で語った彼は、ガイたちが目の前で逮捕されてびっくりした、あの本の作者がおまえだなんて思わなかった、と手紙の内容に記し、最後はこう締めくくった。
『お前が書いた小説、難しかったけどおもしろかった。次回作楽しみにしてる』
どうやらルークはミリアと別れたあと、ミリアの執筆した小説を読んでくれたようだ。
ルークは決して嘘偽りを言わない、素直な性格をしている。そんな彼から、おもしろかったといわれるのは最高の褒め言葉ではないか。
「よしっ――」
ペンを握り、次回作の構想をノートに書いていく。
次回作は、ぶっきらぼうだが心優しい赤い髪の少年が仲間と助け合い、世界を救うファンタジー小説にしよう。仲間と力を合わせて、逆境に立ち向かう王道だからこそ、愛される話を。
END.
蜃気楼様リクエスト「売れない小説家夢主が書いた親善大使一行」作品でした。
オールドラントの製本技術ってどんくらい…?と思いつつ書きました。親善大使一行の話で尚且つアクゼリュス到着前ということで、ルークが親善大使に任命された後でアクゼリュス到着前で夢主を介入してもおかしくない場面はザオ遺跡〜ケセドニア付近でした。なるべく辻褄が合うように書いたつもりなんですが…ご期待に副えたかどうかは…(汗)あとお相手なしということだったんですが、落ちはルークにさせていただきました。甘くはないですが、すこしでも夢小説らしくあがいた結果です。
何はともあれ、蜃気楼様リクエストありがとうございました。
2011.02.15
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