栄光の大地でヴァンを倒すと同時に、ローレライを解放してから二年の月日が流れた。
その間に還ってきたのはアッシュ一人で、歓喜とともに計り知れない絶望を一行は覚えた。アッシュが帰還したことは嬉しいが、どうしてルークではないのか…ルークに好意を抱くティアと、彼の親友であるガイは一行の中でも特にその思いが強かった。被験者であるアッシュが帰還したことで、ルーク帰還の望みも捨てきれず、一年に一度こうしてタタル渓谷に集まっては、ルークが還ってくることを誰もが祈っていた。
だが、それも今日までだ。――待ち望んだ彼は、こうして還ってきてくれたのだから!
「ルーク!」
「も〜、ルークったら遅すぎー! あたしたち待ちくたびれたんだからね」
「まったく、心配させるなよ」
各々好き勝手に言いながらも、安堵と歓喜の表情でルークを出迎える。
ルークに好意を抱いていたティアは深海色の双眸を潤ませているし、ガイは嬉しそうに目元を弛ませて笑っているし、ナタリアも若草色の瞳に薄っすらと涙を浮かべて、アニスは満面の笑みを隠そうともしない。ただ、ミリアとジェイドだけは嬉しさか、寂しさか、自嘲か、判別がつきにくい複雑な笑みを浮かべていた。
「約束は守ったぜ。…ただいま」
二年の歳月を窺わせるほどに長く伸びた朱色の髪を風に遊ばせながら、ルークは笑う。
その笑顔を見て、群生するセレニアの白い花の中から、鮮やかな青毛の小さな魔物が飛び出した。正体を悟ったルークは、胸元に飛び込んできた魔物を受け止めた。
「ご主人様〜!」
「ミュウ! お前…俺を待ってたのか」
ぼろぼろと涙を流すミュウの頭をルークは優しく撫でる。
「ご主人様の帰りを待ってたですの、待ってたですの」と涙ながらに言うミュウに、遅れてごめんと謝りながらルークは嬉しそうに笑った。和む光景を繰り広げながら、いつまでもタタル渓谷にいたら魔物を刺激するだけだと気付いた一行は、タタル渓谷を降りることにした。
緩やかな傾斜を足取り軽く下りながら、一行は話に花を咲かせた。
「それにしてもさー、ルークってばいったい今までどうしてたの?」
「ああ、ローレライが体を再構築してくれてから、適当にいろんなところをぶらついてたな。半年くらい」
「はぁ!? ちょっと、もっと早く帰ってたなら、あたしたちに連絡くらい寄こしなさいよ! あ〜もう、無駄に心配した!」
「そうだぞ、ルーク。どうして連絡してくれなかったんだ」
「私たちが心配してるとは思わなかったの?」
「薄情ですわ」
アニス、ガイ、ティア、ナタリアの順で責められたルークはたじたじになった。
どうやって話を誤魔化そうか、ルークが視線をさ迷わせているとミリアと目が合った。闇を溶かしたような黒塗りの双眸には、思慮するような戸惑いがある。話に入り混じらないミリアとジェイドに気付いたルークは、そっと微笑んだ。
ミリアは、唯一アクゼリュスでルークを見捨てない仲間だった。
旅の始まり、卸者の馬車に乗せてもらっていたとき、初めてルークはミリアと出会った。エンゲーブまでの卸者の護衛として、ミリアは馬車に乗っていた。それからいろいろと縁が合い、気付けば、旅の最後まで共にいた。
ルークがアクゼリュスを崩壊してしまったときも、ミリアは見捨てずに「ルークだけのせいじゃない、私たちにも責任があるんだよ」と言ってくれた。ユリアシティでは、ルークが目覚めるまでミュウと共に付き添ってくれていたりした。障気中和のときも、一人だけルークが犠牲にならずに済む道を夜通し資料をあさったりして探してくれて、そのことに気付いたとき、ルークはいろんな思いでいっぱいになった。
宿屋で大部屋しか空いていなかったとき、夜中に魘されるルークを心配して、ミリアは声をかけてくれた。
そう言えば、いつも辛いときや苦しいとき、…楽しいときは。ミリアが傍にいてくれた。
だからか、と。ルークはミュウを抱く手とは反対の手を、ミリアに向かって、そっと伸ばした。
「なぁ、ミリア。俺と一緒に行かないか?」
暗い表情をしていたミリアは、驚いたように目を丸くした。
驚愕したのは何もミリアだけではない。ルークのその言葉はまるで、仲間たちの元を離れてどこか行ってしまうような響きを持っていた。
もし、そうだとしても。その言葉をルークから与えられるのは自分だと、傲慢にも思っていたティアはごくりと唾を飲み込み、「…なにを言ってるの、」と声を震わせることしかできなかった。
ルークはティアの問いには答えずに、ミリアの目を見つめ、ティアの心を潰すようなことを言った。
「俺さ、今まで一人で旅してきてずっとなんか、足りないって思ってた。それで、何が足りないのか今やっと気付いたんだ。俺は、ミリアと一緒にいたい。…だめか?」
少しばかり不安そうに眉根を寄せたルークに、ミリアはそのとき初めて、心からの笑みを見せた。見ている者まで、温かい気持ちに包まれそうな、そんな笑顔を。ルークの手にそっと手を重ね、ミリアは「ううん、私も一緒にいたい」と言った。ミリアと同じように、ルークは笑う。
ミュウがぼくもご主人様とミリアさんと一緒に行くですのー! とルークの手に抱かれながら、主張する。ルークも名前も顔を見合わせて、一緒に行こうと笑った。ルークとミリア、それにミュウが二匹と一匹で旅することが決まったが、納得がいかないのはジェイドを除いた一行だった。
「おいおい、ルーク。お前、そんな言い方じゃまるでミリアが好きなように聞こえるぞ? …お前をずっと待ってた、ティアの気持ちを少しは考えてやれよ」
「そうそう、ルークってば酷すぎ〜。旅をするなら、ミリアじゃなくてティアを連れてくのがフツーでしょ。ルークってホント女の子の気持ちわかってないんだから」
「ルーク! 貴方はいったいどういうつもりですの? ティアではなく、ミリアにそんなことを仰るなんて! デリカシーに欠けてるにも程がありますわ」
ガイはルークたちとティアを交互に見つめて、困ったように頭をかく。アニスは呆れたように肩を竦め、ナタリアはティアの気持ちを思って怒る。
ティアは悲哀に満ちた眼差しを送った。
「ルーク…どうして…」
どうして、私じゃないの――咎める響きを持ったその言葉に、ルークはわずかに眉根を寄せて、首を振った。
「ごめん、ティア。…お前は、俺の大切な仲間だったよ」
大切な仲間。――その言葉は、ティアがルークに向ける感情と、ルークがティアに向ける感情のベクトルが違うことを明確に知らしめた。
ルークに恋慕の情を寄せていたティアにとって、これほど打ちのめされる事実は無い。息を詰まらせてぶるぶると震えるティアは、自分からルークを奪い取ったミリアを憎まずにいられなかった。いつの間に、ミリアはルークを唆したのだろう。ルークは私のことを想ってくれていたはずなのに!
ティアは瞳を鋭くつりあげて、ミリアを睨む。言葉で語らずに、目だけでミリアに対する憎悪を語って見せた。
ルークはハッと息を飲んで、ミリアの手を引っ張り背に庇う。ルークの背に庇われているのは、ずっと私だったはずなのに、と。ミリアを気遣うルークのその態度が、さらにティアの嫉妬と憎悪を煽った。
ティアの怒りの導火線が爆ぜそうになった、そのとき。
今まで沈黙を保っていたジェイドが口を開いた。
「はいはい、その話は後でしてくださいね。今は渓谷を降りることが先でしょう」
「大佐、ですが…!」
「夜の渓谷は危険です。魔物をわざわざ挑発して危険を自ら買うことはないでしょう」
ジェイドにもっともなことを告げられて、ティアは顔を俯けた。
”愛する男を他の女に奪われた哀れな女”同情を誘うような悲哀に満ちた表情をするティアを、ガイが言葉で慰める。続けてアニス、ナタリアがティアを慰める。ミリアを罵らないだけましだが、彼女らがミリアに向ける非難に満ちた眼差しはミリアを悪女だと言っているようだった。
END.
書き飽きたので中途半端に終わる。とりあえず、ティアがルークからふられるところが書きたかったような(酷)
私的にこの夢主は足手纏いにならない程度に武力はあるものの、特出するところがない娘です。ただ、ルークを誰よりもよく見て理解しようとしていた女の子のようなイメージ。気が向けば続き書きます。
2010.10.27
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