ルークは毎日穏やかに過ごしていた。旅をしていた間は、毎日苦難の連続で、疲れがたまる一方だったのに今はそんなことはない。楽しいことも辛いと思うこともあるが、充実した日々を送っていた。何気ない時間、ふと最近ではあまり思い出さなくなった、仲間たちの顔が過ぎった。

「気になりますか?」
「ちょっと思い出しただけだよ」
「……そうですか」
「それよりさ、この間――」

 ルークはガイたちの話をやめて、違う話をする。ミリアは穏やかな顔で、笑顔を浮かべて話し始めたルークを見ていた。






 ――ティア・グランツはクレランボー症候群、または統合失調症妄想型の可能性があります。

 ミリアはルークの診断後そう告げた。
 ルークから何故ティアの話に飛躍するのかと思えば、ルークの話を聞いたミリアはルークの心のケアをするだけでは足りないと判断したらしい。原因を断たなければ二次被害が派生する。その可能性をミリアは恐れた。

「統合失調症妄想型? クレランボー症候群……?」
「クレランボー症候群はエロトマニア(熱情精神病)といって、恋愛の精神疾患の一種です」

 クレランボー症候群――主に女性に多いといわれている、恋愛精神病だ。
 相手に愛されていると具体的な根拠――直接的なアプローチもないのに思い込み、自分は相手に熱烈な好意を寄せられている、恋愛関係にあると思い込む。相手が拒否・嫌悪・逃避行動をしても、『第三者による妨害』『好きだからこそ意地悪をしている』『自分の愛情がどれだけ強いのか試そうとしている』といった風に自分の都合に良いように曲解する。また、相手から拒絶されたり批判されたりすると、怒り・攻撃性・逆恨みといった反応を示すといわれている。
 クレランボー症候群を発生している人間に、恋愛妄想を訂正するべく相手の本当の気持ちを理解させようと説明しても、妄想で現実の状況を歪めてしまうため、その説明を受け入れることは極めて困難といわれている。ストーカー行為や直接的な暴力につながるケースも多く、男性の場合はクレランボー症候群にかかると暴力行為に結びつくことが多い。統合失調症や双極性障害の躁病相が悪化した時に、クレランボー症候群のような恋愛妄想に基づく対人関係の障害が現れてくることもある。 

 クレランボー症候群は大きく分けると2つの分類になる。純粋色情狂(pure erotomania)と精神自動症(automatic mental disorder)だ。
 純粋色情狂は、主観的な恋愛妄想症状を中心とする。相手が自分に惚れていると思い込んで、生活全体が恋愛感情と妄想内容に支配されてる。
 精神自動症とは、意識の解離(自我の統合性の弱体化)を伴う恋愛妄想だ。自分の感情・行動が自分のものではないような非現実感を感じながら、自動的に妄想的な言動をしてしまう。精神自動症では自分が相手に働きかけているという意識の主体性がないので、恋愛感情や求愛行動が自分で統制できない。

 統合失調症とは、主には10代後半から20代に発症し、慢性に進行する精神疾患である。100人に1人の割合で発病するといわれている、比較的に多い精神疾患と言えよう。陽性症状は、急性期に多く見られる。妄想型は幻聴などの幻覚、妄想、自我障害といった症状が出てくる。また慢性期になっても、これらの症状が残る場合が多い。統合失調症の幻聴は人の話し声が会話をしていたり、幻聴と会話ができたりする(対話性幻聴)が特徴と言われている。簡単にいえば、統合失調症の妄想型は、妄想や幻聴が主体で人格の纏まりが比較的保たれているものである。

「ルーク様の話を聞く限り、ティア・グランツは人格の纏まりが比較的保たれているため、クレランボー症候群よりも、クレランボー症候群のような恋愛妄想に基づく対人障害、統合失調症の妄想型の可能性が強いと判断しました」

 ティア・グランツの妄想にルーク様が捕らわれる前に。
 早急にルーク様のお傍からティア・グランツを排除してください。 


 ――彼女は、ルーク様にとって害悪でしかない存在です。




END.

2013/09/03
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