ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
 ND2002年に起きたホド戦争の時に貴族名鑑から抹消されたガルディオス家の名前を背負い、彼は突如グランコクマに現れた。折りしも、その日はピオニー皇帝陛下即位から一年経った日のことだった。
 ガイラルディアは金髪碧眼、少女が好む恋物語の中の王子様のような甘い顔立ちをした青年だった。その傍には3人の男女の姿があった。
 一人は金髪碧眼のガイラルディアと面影が似ている女性。彼女はガイラルディアの実姉でマリィベルと名乗った。ガイラルディアの傍に寄り添うもう一人の女性は白銀色の髪の少女だった。少女はミリアと名乗り、自らをマルクト帝国の皇家筋にあたるショウブ公爵家の長女であり、ガイラルディアの婚約者だと言った。
 なるほど、どおりでショウブ公爵が共にいるわけである。ミリアの隣に立つのはマルクト帝国の宰相も勤めるショウブ公爵だった。ショウブ公爵は、自らがガルディオス家の後ろ盾になり、かの家の復興を手助けするために今この場に現れたのだ――。

 この日を境に、ホドと共に滅亡したとされるガルディオス家の名が、再び貴族名鑑に載るようになる。

 *

「ジェイド、ガルディオス伯爵と共にキムラスカに向かってくれ」
 マルクト皇帝は自室に呼び出したジェイド・カーティスに命令を下した。
「はい?」
「ガルディオス伯爵の身を死んでも守れよ。ガルディオス伯爵には新婚の可愛い奥さんがいるから、泣かせるようなことにならないようにな」
「行くのは構いませんが、事情の一つくらい説明していただけませんか、ピオニー陛下」
 命令というのなら従うが、それにしても理由を説明してほしい。説明不足の自覚があるマルクト皇帝は頷くと、アクゼリュスの現状を細かく記した報告書を提示した。ジェイドは手に取り、目を通す。すぐに赤い双眸を細めた。
「これは……酷いですね」
 今年に入ってから、アクゼリュスでは地震による落盤が多く発生していた。地震によって割れた地面から障気が噴出し、その障気の量は日を追うごとに増しているという。
 つい先日、派遣した調査団の報告によると、人体への影響は深刻で、一刻の猶予を争うという。調査団の報告を受けて、マルクト皇帝はただちに住民に避難勧告を出した。そして軍隊の派遣を検討している最中に、アクゼリュスに面した街道が落盤した。調べたところ、障気により地質が脆弱化してしまい、落盤してしまったらしい。その復旧作業は年単位でかかる。
 マルクト側のアクゼリュスの街道は使えず、やむなく、住民はアクゼリュスに留まっている状態だった。町長であるパイロープから救助を求める嘆願書が悲鳴のように届いている。
「今のところ、キムラスカ側の街道を使用するしか、住民を救助する手立てがない。そこで、だ。お前にガルディオス伯爵と共に、和平交渉のため、キムラスカに向かってもらいたい」
「キムラスカに頭を下げろというわけですか」
「悪名高い死霊使いが頭を下げれば、キムラスカもさぞや喜ぶだろうよ」
「私の頭は高くつきますよ」
「無事帰還したら俺の秘蔵の酒でも奢ってやるさ」
「いえ、それよりも私の第三師団の予算をあげていただきましょう」
「おうおう持ってけ。ついでに将軍位もな」
「それは辞退します。では、詳しい話をガルディオス伯爵と共に致しますのでこの辺で私は失礼します」
「おう」
 一礼して去って行くジェイドの背を見送りピオニーは笑った。



 ガルディオス伯爵とジェイド率いる第三師団は陸上走行艦タルタロスでグランコクマを出立した。
 ダアトでガルディオス伯爵が協力を取り付けていた導師イオンと守護役のアニス・タトリンたちを乗せて、一路キムラスカ方面に向かう。
「ガイラルディア伯爵様って、王子様みたーい!」
 弾んだ声をあげるのは導師守護役のアニスだ。アニスは任務中だということを忘れているのか、ガイラルディア伯爵にアプローチしていた。腕にぴったりくっついてみたり、猫撫で声を出している。導師を置いて、色仕掛けに忙しい導師守護役にマルクト軍人は苦笑する。
 ガイラルディア伯爵はそれとなくアニスを引き剥がすのだが、アニスはへこたれず、機会を見つけるたびに伯爵に抱き着いたり甘えたり忙しかった。
「困りましたねえ。この場面をガルディオス伯爵夫人が見たら、さぞかし悲しむことでし
ょう」
 アニスを止めないイオンに聞こえるようにジェイドが告げる。
「伯爵夫人? ガルディオス伯爵は結婚しているんですか?」
「ええ、それも新婚です」
「でもぉ、どうせ政略結婚ですよね? あたしの方が絶対いいに決まってます!」
「その根拠のない自信はどこから来るんでしょうねぇ。イオン様、いい加減新婚家庭に波風を立てようとするアニスを止めていただけませんか?」
「……そうですね。アニス、やめてください。さすがに既婚者に言い寄るのは僕も止めざる終えません」
「ぶー!」
「おやぁ、ブウサギがいますね」
「大佐のいじわる!」
 と、そんなくだらない会話をしながらもタルタロスは走り続ける。
 道中、漆黒の翼を発見し追いかけたが、マルクト軍の追撃を振り払うために漆黒の翼はローテルロー橋を爆破するという荒業に出た。漆黒の翼は厚顔にも自らを義賊と名乗っているそうだが、義賊が聞いて呆れる。ローテルロー橋の破壊によって、しばらく市場に影響が出るだろう。今回の一件で、漆黒の翼は犯罪組織として、世界中に大きく指名手配されることになった。
 

 アクゼリュスの住民用の食料を確保すべく、エンゲーブに立ち寄ると、そこにキムラスカ王族のルークと神託の盾騎士団兵のティアがいた。誰が予想しただろうか。偶然立ち寄った村で和平先の王族がいるなど。しかもルークは村人によって食料泥棒の冤罪を被せられていた。村人にも当然謝罪させ、ガルディオス伯爵も平身低頭で謝る。
 最初はぶつぶつ言っていたが、ルークはすぐに怒りの矛を収めると、ガルディオス伯爵の姿を見て素っ頓狂な声をあげた。
「ガイ!?」
 ルークの驚きようにガルディオス伯爵も一瞬目を瞠ったものの、すぐさま伯爵は柔和な笑みを浮かべた。
「ガイ、なんだよお前! いるならいるって言え――あれ? ……ガイに似てるけど、ガイじゃねえ……?」
「はじめまして、ルーク様。私の名前はガイラルディア・ガラン・ガルディオスです」
「ガルディオス!? って、え!? ち、父上が滅ぼしたホドの……」
「ガルディオス!? まさか……!」
 ルークは驚いた声を出したあと後退した。ガイラルディア伯爵が、ファブレ公爵が滅ぼしたホド島の遺児だと理解したからだろう。害を加えられるのではないかと警戒したのだ。一方、ティア・グランツは驚愕の声をあげて、ガイラルディア伯爵に近寄った。頬は紅潮し、目は潤んでいた。まるで、一目惚れした乙女のように。
「主君とお会いできて光栄です……! メシュティアリカ・アウラ・フェンデと申します。フェンデ家の娘です……!」
「フェンデ家の? ……失礼ですが、私はあなたのことを知りません。おそらく、当家とは無関係でしょう」 
 ガイラルディア伯爵は柔和な笑みを浮かべたまま否定した。
「え?」
「フェンデ家の者とは全員面識を持っています。その中にあなたはいません」
「わ、私はヴァン・グランツ、いえ、ヴァンデスデルカの妹です!」
「まさか」
 ガルディオス伯爵の表情から、柔和な笑みが消える。
「本当です! 私はたしかにヴァンの妹です。ユリアの子孫です。ユリアの譜歌を歌って、それを証明することができます……!」
「……仮に、あなたがフェンデ家の者だとしても、グランツ性を名乗り、神託の盾騎士団の軍服を着ている以上、何の関係もありません」
 ガルディオス伯爵はそう言うと、それよりもルークが此処にいる理由を知りたいと尋ねた。主に捨てられたティアは愕然とする。蒼白になり、首を振って「私はガルディオス伯爵が生きているとは知りませんでした! だから私はこうして神託の盾騎士団兵に……!」と事情を説明するが、その頃には既にガルディオス伯爵の関心はルークに向けられていた。
 ルークは必死なティアを気にしながら、自らが此処にいる理由を説明する。ファブレ公爵家でヴァンと剣稽古をしている最中に、ティアが譜歌を使って侵入し、擬似超振動によってマルクトに飛ばされた。その説明を聞いたガルディオス伯爵の表情はルークを気遣った。
「そういう事情でしたか……大変だったでしょう。私達はこれから皇帝陛下の命令を受け
て、バチカルに向かいます。よろしければルーク様をバチカルまでお送り致します」
「いいのか!?」
「ええ。その代わりと言ってはなんですが、これから私と仲良くしていただければ幸いです」
「俺と仲良くなりたいのか? ふーん……。まあ、いいぜ。仲良くしてやるよ。よろしくな、えーと……」
「ガイラルディアとお呼びください」
「わかった、ガイラルディア!」
 ルークはにかっと笑った。ガルディオス伯爵も笑みを返した。言動に気を配らないルークは貴族として無知で危うかった。今後の誼を約束したと知らず、ルークはガルディオス伯爵を友人のように扱った。
 市井の少年のように砕けた口調で話すルークと、つとめて穏やかな口調でルークに友好的な態度を取るガルディオス伯爵が仲良くなるのは早かった。
 ガルディオス伯爵にティアがやったこと――ファブレ公爵家侵入に伴う譜歌による攻撃――が犯罪だと知らされたルークは最初こそティアに怒りを見せたが、ティアの逮捕は望まなかった。元々優しい性格なのだろう。あるいは器が広いのか。村人に食料泥棒の疑惑をかけられ、背中を足で蹴られたときもすこしばかり怒りを見せたが、謝罪されればすぐに許していた。導師イオンは事情を知ると蒼白となり、ティアの上司として謝罪していたが、彼女はなぜ自分のせいでイオンが頭を下げているのか理解せず困惑するだけだった。
 ティアの逮捕はルークの心情を汲んで保留にした。が、ティアがマルクト国内で問題を起こせば国の法に則り逮捕すると、ルークとティアに伝えた。彼女はファブレ公爵家を襲撃したつもりはないと弁明したが、マルクトに伝えたところでどうしようもないとわかったのだろう。ルークを送り公爵家に謝罪すれば罪が帳消しになるはずだと思い込むと、元通りの態度を取った。
 事情を知ったジェイドが、厄介者の馬鹿を見るような目でティアを見ていたことに幸か不幸か彼女は気付かなかった。


 旅路は順調に進んでいた――と思われたが、そうではなかったらしい。
 導師イオンを誘拐されたと思い込んだ大詠師モースが、六神将を遣わし、タルタロスを襲撃したのだ。
 魔物の群れに乗る神託の盾騎士団兵が大挙してタルタロスを襲撃すると、マルクト兵を殺害して回った。ルーク達はすぐさま艦橋に駆けつけたが、艦橋は時既に遅く、六神将率いる神託の盾騎士団に占拠されていた。
「なんてことを! 僕がマルクトに同行しているのは公務です! 詠師会の承認は取ってあります!」
 その状況を見た導師イオンは激昂すると、高らかに非難の声をあげた。大詠師モースの命令に従っただけの神託の盾騎士団兵はただただ困惑するだけだった。
 ガルディオス伯爵は、導師イオンに和平協力を頼む際、ローレライ教団の詠師会の承認を取っている。導師イオンを誘拐する形で教団から連れ出したのならばともかく、マルクト軍に非はないのだ。
「で、ですが、大詠師モース様はそのようなこと……」
「モースが僕の予定を知らなくても無理はありません。彼は長期間バチカルに出向し、ダアトを不在にしていましたから。此度の一件、マルクトには何の非もありません。僕はマルクトになんてお詫びをすればいいのか……」
「全員殺せば問題はないだろう」
 黒獅子のラルゴはマルクト兵を皆殺しにして口封じすることを企む。ジェイドが厳しい表情で血の気が引いたルークとガルディオス伯爵を庇っていた。
「何を馬鹿なことを! タルタロスの乗員にこれ以上の危害を加えるというのなら、僕は断固として許しません! マルクトに事情を説明し、罪を償わせます」
 断固とした口調にラルゴは黙り込む。が、彼の双眸に納得した色は浮かんでいない。背を見せればたちまち目前に立ちはだかるマルクト軍人を――ジェイドを殺害するだろう。それがわかっているから、ジェイドは槍を持つ手を緩めない。
「……だから言ったんだ。仕方ない、教団に戻るよ」
 烈風のシンクが小さく溜息を吐いて指示する。
「だが、」
「アンタが納得できないのはアンタの勝手だけど、そのせいで神託の盾騎士団を巻き込むのはやめてくれる? もとから僕は反対してたはずだ。マルクト軍に敵対行為を仕掛けるのは好ましくない、照会してみるべきだと」
「しかし……」
「教団がどうなろうが知ったことか! おい、そこのお坊ちゃん、その剣は飾りか? 良い身分だな。……守られやがって……!」
 アッシュはジェイドの背に庇われたルークしか見ていなかった。憎悪がこもった眼でルークを、そして、その前に立ちはだかるジェイドを殺すべく切り掛かる。それを好機と見たか、ラルゴと一部の神託の盾騎士団兵が続いた。
「アッシュ!」
「ったく単細胞共が!」
 リグレットがアッシュの名を呼び、シンクが舌打ちをついて二人を止めようとする。ア
リエッタが行動を決めかねて周囲を見回した。そこにイオンがすかさず命令を飛ばす。
「アリエッタ! ラルゴとアッシュ、そして神託の盾騎士団兵をあなたのお友達で止めてください!」
「っはい! みんな、ダメ! イオン様の命令は絶対、です!」
 アリエッタの指示を受けて魔物たちは一斉に、マルクト兵を殺害しようとする神託の盾騎士団に押し寄せた。
 太い足で背を踏みつけられた者、前方から突進されて身動きができなくなった者、魔物たちは神託の盾騎士団兵を殺害しないように力を抜きながら止めにかかる。
 シンクがアッシュの足を払い地面に倒し、リグレットがラルゴの片足を撃ち抜いて、何とか攻撃は止んだ。
「ラルゴとアッシュ、それに僕の命令を無視した者は全員二ヶ月の謹慎、減棒処分です。
後に更なる処分が下ることを覚悟しておいてください。シンク、リグレット、それにアリエッタ、二人の監視をお願いします」
 憤慨したイオンが低い声で命令すると、リグレットたちは整列して答えた。アリエッタ
の魔物がアッシュとラルゴの首根っこをひっ捕まえる。アリエッタは人形をぎゅっと胸元で抱き締めて尋ねる。
「イオン様、アリエッタ、イオン様、守りたい。ダメ、ですか?」
 幼い子供のように言うアリエッタにイオンはぐっと息を飲んだ。アニスが黙ったイオンを庇うように前に出た。
「ダメダメ! 根暗ッタなんて信用できないんだから! アンタはサッサと教団に帰んなよ!」
「アリエッタ、根暗じゃないもん! アニスのほうが信用できないもん!!」
「はあ!? あたしのどこが信用できないっていうのよ! バッカじゃないの? イオン
様に信用されてるのはあたしだもん! アリエッタなんかもう導師守護役じゃないんだから引っ込みなさいよ!」
 アリエッタは涙を浮かべる。
「なによ! 泣いたってあたしは騙されないんだから!」
 喧々囂々とやり合う二人の傍で、ガルディオス伯爵がシンクに尋ねた。六神将の中で話が通じそうだったからシンクが選ばれたのだろう。リグレットはアッシュとラルゴの監視に忙しく、アリエッタはアニスと言い合っている。
「ところで。何故、あなた方はイオン様の居場所を? 私達と導師が同行していることは
知っていても、その具体的な行路までは知らないはずですが」
「……わかっていること、聞かないでくれる?」
 シンクの問いにガルディオス伯爵は沈黙する。ジェイドもシンクの問いを聞いて、厳しい顔になると周囲を見回した。
「……カーティス大佐、第三師団に怪しい者は?」
 ガルディオス伯爵が小声で話しかける。ジェイドも伯爵に合わせて小さな声で答えた。「今回の任務を受けて調査しましたが、タルタロスの乗員の中に怪しい者はいません。疑わしい者は全員処分してきましたから。部下たちは白と見て問題ないでしょう」
「では……」
 ガルディオス伯爵とジェイドの眼が揃ってアニス・タトリンに向いた。
 アニスに嫌疑が掛かっていることを知りながら、シンクは何気なく呟いた。疑惑の後押しをするように。
「そういえば、アニスはモースに借金の肩代わりをしてもらったっけ。恩義はあるだろうね」
「それは、」
「信じようと信じまいと君達の勝手さ。ただ、もしそうであるなら、アニスを放っておくことはできないだろうね」
「あなたは一体何のつもりで我々に味方するようなことを?」
「味方しているつもりはないよ。信用するかどうかは君達の勝手だと言っただろう」
 シンクはそう言うと撤収と一言大きな声をあげた。
 神託の盾騎士団が慌しく撤収準備を進める。イオンに良い返事をもらえず、アリエッタも泣く泣く準備を進めた。
「シンク……」
「――導師、あなたの行動で教団の未来が左右されることをお忘れなく」
 シンクは顎でアニス・タトリンを示した。イオンの顔が強張り、アニスは怪訝に眉を寄せて「なによ」と口を尖らせた。
 導師の思い悩む表情を、ガルディオス伯爵とジェイドは見ていた。
 神託の盾騎士団が慌しく魔物に騎乗してタルタロスを去って行く。彼らの姿が見えなく
なるとジェイドは怪我人をすぐさま治療するように指示を出した。重軽傷者複数、死者も少数とは言え、出てしまった。
 イオンは嘆息つくと、ガルディオス伯爵達に謝罪を入れた。正式な謝罪は教団に戻り次第入れることになるだろう。イオンはちらりとアニスを見たあと、黙りこくる。そのイオンにガルディオス伯爵が話しかけた。彼の話を聞いたイオンは青白くなった。



(あの樽の命令を聞くのもうんざりしてたんだ。タルタロス襲撃の一件に加えて、導師のスパイ疑惑も重なれば失脚は間違いないし。ちょうどいい)
 タルタロスを後にしたシンクが魔物に捕まりながら思考に耽る。
 シンクはマルクトの味方をしたわけではなかった。ただ、大詠師モースとアニスを潰そうと思っただけだ。教団の幹部でありながらバチカルに長期滞在し、偉そうに命令を下すだけのモースは、シンクにとって目の上のたんこぶでしかなかった。アニスに恨みはないが、モースの失脚を手助けする良い駒にはなった。大体、奴の役目は今回の一件で終わった。
 スパイは重罪だ。アニスは死ぬだろう。そうなるよう、仕向けるつもりだ。万に一つの逃げ道など与えてなるものか。シンクは哂った。
「可哀想に」
 アニスが、ではなく、アニスを大切に思っているイオンレプリカが。可哀想に。イオンが大切にしていたアニスはスパイとして処分されるのだ。その日が楽しみで仕方なかった


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