「では、ごきげんよう」
その後、轟音が響き渡った。
花火
「今日は何時にも増して派手だね」
「花火は派手なほうが美しゅうございます」
そう言うとルーク様はクスリと笑われました。
私はルーク様付きのメイドでございます。勤め始めてかれこれ四年ほどになりますか。
私の生まれ故郷はファブレ家の領地ではありますが、山奥でこれといった産業もなく、生きていくのがやっとの状態です。ですからある一定の年齢になると、男女関わらず街に出稼ぎに行きます。農作物も余り育たない、産業もないそのような村に出せるものは人間しかありません。
ただの働き手なら何処にでもいます。ですからある方面に特化するしか生き残る道はありませんでした。私達の先祖は傭兵の道を選んだのです。古来より戦争が途絶えた事はありませんでしたから、これが最善だったのでしょう。
この村に生まれた子供は皆、戦うことを覚えさせられます。
そしてその中腕の立つ者数名がファブレ家へ召抱えられます。これはとても栄誉なことでした。私もその一人としてファブレ家に入り、ルーク様と出会いました。
それからずっと、部下として働いております。
「いい加減、実力の差というものを知って欲しいだけど」
「何かありましたか」
「この間、サシで勝負をさせられた」
ルーク様はうんざり、といった顔をなさいました。身の程知らずにもほどがあります。
「俺が劣化レプリカだから、だろうね」
そう呟くとある組織の名前を言われました。
「ちょっと前に潰したところですね。そこのメンバーなら仕方ないでしょう。おバカさんばかりでしたし。暇つぶしにもなりませんでした」
私達はルーク様がレプリカであることを最初から知っています。
私達の世界は甘くはありません。レプリカだ人だと言っていたらとても生き残れません。強ければ生き残る事が出来るし、弱ければ屍になるだけです。
外見で人を判断するな、ということは子供でも知っていることですのに。これだから新参者は困ります。
「老舗、といえるところは“森の熊さん”だけになりましたね」
ファブレ家はまだ老舗と言うほど歴史はありません。
「あそこは首領も幹部もそれなりの経験があるから噂に惑わされなし、結束も固い。それに皆自分の目で確かめる主義だしね。下手に突付いて建物破壊されたくないだろうし」
今度は私の方を向いてルーク様がお笑いになりました。私はルーク様の笑い顔が好きですから、それをこうして間近に見る事が出来るのは嬉しいのですけれど。
あれはいい年をしてスケベ心を起こした方が悪いのですわ(嫁入り前の娘にセクハラをするなんて)。
「これからおそらくアッシュ達に仕掛けてくるんじゃないのかな。護衛を強化しよう」
「ルーク様」
「それ以上は許さない。解散」
そう言われると、ルーク様の姿は消えました。
私はアッシュ様、オリジナルルーク様に対して余り良い感情を持っておりません。後で確認したところ皆同じ意見でございました。
あの方はルーク様を責めました。「自分の居場所を奪った」と。
あの生活はすべて建前であったのに。単に周りの目を誤魔化す為であったのに。
全て人の所為にして、己の身の不運を嘆くだけの人にルーク様を責める資格はございません。
確かにアッシュ様の置かれた境遇は哀れに思いますけれど、だからといってルーク様を罵っていい理由にはなりません。一番悪いのはヴァンでしょう。
あのような短慮な振る舞いは、ファブレ家の次期当主として、あるいはキムラスカ王として相応しいものであるかといえば私は疑問に思います。
旦那様(現ファブレ公爵ですわ)は例えどのような事が起きようとも、私達の罪は自分も背負うと仰いました。何かあっても一緒にいるとも。そして返り血で汚れた私達を抱きしめて下さいました。
このようなことを、あのアッシュ様にお出来になるのでしょうか。
これは同僚が独断で調べたのですが、アッシュ様がダアトにいた頃、特務師団長としての任務は魔物討伐が殆どとのことでした。以前は、反乱分子がいるとか何とか理由をつけてキムラスカやマルクトに師団単位で乗り込んだそうですけれど、最近はしなくなったそうです。人を切った事があるとしてもせいぜいチンピラ風情でしょう。
この結果を見た私達は大爆笑でした。名前負けしていますね、六神将の方々は。
ルーク様と同じ顔、そしてキムラスカの王家の特徴である赤い髪と翡翠色の瞳。姿を見せたら一発ではないですか。ダアトから一歩の出られなかったというならともかく、特務師団長として遠征に行くこともあったのです。いくらでも奪い返せるチャンスはあったでしょう。全員で容赦なく突っ込みました。
ああ、いけません。愚痴になってしまいます。
でも私達全員「あのルーク様には絶対仕えない」ということは決定しております。
ルーク様が今の状態に辿りつくまでにどれだけの努力を払ったのか、レプリカというだけですべてを無視しているあの方は分かりっこない。
自分でもルーク様が築き上げたものが―しかも当たり前、ごく簡単に―手に入ると勘違いをしてもらっては困ります。
一応ルーク様はアッシュ様にお仕える立場なのですから、自分の名前を名乗るのは当たり前のことでございましょう。けれど、本当のお名前を誰もご存じではありませんでした。アッシュ様ですら。
そう、ルーク様はご自分の名前を誰にも告げなかったのです。
これがルーク様の出された答えだと私は判断致しました。ちなみに私達全員お名前を存じ上げておりますわ。
あの方達は、ルーク様へ自分達への信用を取り戻せと請求するわりには自分達のルーク様に対する信用回復の努力を怠っておいでですから仕方ありません。特にガイ様はファブレ家に復讐しようと思ってこの家に仕えていたのですから、教えてもらえなくて当然です。
「あら?」
私らしくもなく考え込んでしまいました。その所為で五月蝿い子ネズミがまとわり付いているようです。 仕方ありませんね。火の粉は振り払わねば。火薬の匂いは大好きなのですけれど。
私は初めてお会いしたあの日にルーク様に一生お仕えすると心に決めたのですから、こんなところで手間取っている訳にはまいりません。
「地獄を見せてあげましょう」
大きな花火が上がるのはもうすぐ。
あとがき
あるメイドさんの呟き。