執着(表)

 ついにこの時が来た。待ちに待っていたこのときが。



  執着(表)



 久々にあの時のメンバーが揃い、お茶を飲んでいた時だった。ルークの顔が歪み「うっ」という呻き声と共にテーブルに突っ伏する。

 「ルーク?どうなさいましたの?」
 「ルーク!!」

 ナタリアは慌てて傍に控えている人間に医者を呼ぶように命じ、他の仲間と同じようにルークの傍に駆け寄る。彼は暫く呻いていたが、ニ〜三分もすれば其れも治まった。 そうしてある事を告げる。

 「ローレライからの通信、だ。“あいつをこの世界に戻す”と」
 「なんだって!?」
 「で、場所は分かりますか?」
 「いや」

 ジェイドの質問に否定しながらルークは顔を上げた。顔色はまだ戻っていないが頭を抑えていない所を見ると、頭痛は治まったらしい。と同時にナタリアが呼んだ医師が入室して来た。話を一旦中断し、ルークを診察してもらう。
 ちなみに、あの旅の最中“ルーク”がローレライの通信で頭痛を訴えてもあの仲間達は医師を呼ぶような事はなかった。

 診断結果は異常なし。医師は「何かあったら呼んで下さい」と言い部屋を退出して行った。
 そうして全員が一息付いた後、改めてルークから話を聞く。だが。

 「ノイズ交じりですごく聞き辛かった。肝心の場所までは・・・」

 その言葉に仲間達の顔に失望の色が浮かぶ。

 「ローレライは今遥か空の彼方、音譜帯にいますからね。それ以上望むのは酷、というものでしょう。我々は彼の声すら聞く事が出来ませんから」

 後半は今にも文句を言いたそうにしているガイやティア、アニスに向けて、である。

 「じゃ、どうするんですか?」

 ぷう、と頬を膨らませながらアニスが訊ねてきた。

 「彼女がこの世界に戻って来たのならば、第七音素が終結、そして消失したという事象が必ず起きる筈です。人一人となりますと、かなりの量になりますし。絶対に軍の施設に観測されたと思いますよ。ああ、そこの・・・」

 ジェイドは傍に控えているマルクト軍の兵士を呼び、てきぱきと指示を出す。ナタリアやルークも同じように動き、僅かの時間で全ての手配が完了した。

 「ひょっとしたら。私達が揃っている事を見越して、ローレライは連絡してきたのかしら」

 ティアは感慨深げに呟いた。

 あの戦い以降、このメンバーが揃う事など滅多に無い。

 彼らは王族や貴族といった身分に加え、オールドラントを救った英雄でもある。公務とは関係なく世界中から「世界を救った(英雄である)彼らと話がしたい」という人間が昼夜関係なく、ひっきりなしにやって来るのだ。仕事以外はそれらの対応に追われ、自由に行動出来る時間というものが全く取れない。
 今このように、全員揃って会談するという事は奇跡に等しい。

 「そうかもしれないよ。ローレライ粋な事するじゃん」

 アニスも嬉しそうに言う。

 「ティア、アニス。まだ安心するには早いですよ。彼女の姿を確認するまで気を抜いてはいけません」
 ジェイドが嗜めるように言う。が、その声は彼女達と同じく何処か楽しげで弾んだものだった。

 「でもこれでほぼ完了したものだろ。もう時間の問題さ。後は連絡を待って動けばいい。待ってろシア、直ぐに迎えに行くからな」

 ガイは直ぐに再会出来るものと信じて疑わない。

 「まあ、皆落ち着け」
 「そうです。安心するにはまだ早いですわ」

 とは言うものの、皆ソワソワして落ち着きがない。一分一秒が待ち遠しい。

 結果は二十分程で出た。が。

 「大量の第七音素が観測された場所は判明しましたが、一箇所ではありません。タタル渓谷とチーグルの森この二箇所です」

 「えっ?」

 「後、この二箇所程ではありませんが、全世界のセフィロトからも多量の第七音素が観測されました」

 シーン。

 部屋が静まり返った。

 「後は?」

 ジェイドが報告に来た兵士に向かって訊ねる。

 「今の時点ではこれ以上の事は不明との事でございます。現場を調査してみない事には何とも言えません」
 「専門家が必要となりますね。調査をこのまま続けて下さい。また何か判明したら即報告を」
 「はっ。では失礼致します」

 そうして兵士は一礼し、ほっとしたような顔を浮かべ部屋から立ち去った。彼がいなくなった後、仲間達は一斉にジェイドの顔を見る。

 「おい、これはどういう事だ」
 「旦那、二箇所っていうのは何だ」
 「そうですよぉ。何ですかこれ」
 「これじゃ訳が分かりませんわ」
 「少将、何が起こっているんですか」

 流石に死霊使いと呼ばれた男の顔が引き攣った。彼だってこの事実を今知ったばかりなのである。分からないのは同じだ。

 「あのですね、私もあなた方と同じで全く分からないのですよ。この程度の情報で答えなど出せるわけがありません。その質問は私ではなく、ローレライにぶつけて下さい」

 はあ、と溜息を吐きながらジェイドは言葉を綴った。

 全く訳が分からない。
 戻って来る人間は一人(の筈)だ。だから第七音素が観測されるのも一箇所でなければならないのである。だがこれは一体どういうことだろう。

 「セフィロトは多分、ローレライが動いた事によって触発されたのでしょう。はっきりした事は言えませんが。しかし、二箇所、というのは・・・」

 「その観測された場所、タタル渓谷とチーグルの森を調べるしかないだろう」
 憮然としたように、ルークがジェイドに向かって呟く。少し彼はイラついているようだ。

 「それしかありませんね。ですが間が悪すぎる。あと三十分もすれば日没です。明日の朝一番に調査団を派遣しましょう」

 ジェイドは溜息を吐きながらそう結論を出した。

 「おいそれじゃあ遅すぎる。あいつに何かあれば・・・」

 今にも飛び出しそうな様子で、ガイが告げた。

 「音素の観測やその調査は、我がマルクト帝国では全て軍が受け持っています。調査となると軍を動かすという事になります」

 そこでジェイドは一旦切った。

 「将官である私の意思で軍を動かす事は出来ますが、昼間なら兎も角夜となると確実に国民の不安を煽ります。下手すると一部の方たちに勘違いされるかもしれません。当然、観測は続けますが」

 だから今日自分達はもう動けない、とジェイドはその場にいる人間に言外に伝える。

 事情が事情なだけに、マルクトからもキムラスカからも許可は直ぐ出るだろう。が、それでも手続きにニ〜三時間はかかる。結局調査は安全面を考慮した上で、翌日に持ち越される事になるだろう。
 これは当然の判断だ。軍を動かす場合、ありとあらゆる可能性を考えなければならない。

 以前は世界の命運がかかっていたから軍だろうが何だろうが、事後承諾で使用可能だった。だが平和になった今は違う。ちゃんとした許可を取らず軍を動かせば「反逆の意思あり」と受け取られかねない。

 「それにシアにはローレライが付いています。彼女自身旅慣れていますし、絶対に近くの村か町に立ち寄る筈です。その辺りを調べれば直ぐに分かりますよ」

 彼女は第七音素意識集合体、ローレライの完全同位体だ。ルークの話から察するに、ローレライは被験者よりも彼女の方を大切に思っているらしい。その彼(?)が何の考えもなく、この世界に放り出すわけがない。

 この世界に戻って来るとはいえ、食料等その他旅に必要な物までは流石にローレライも用意していまい。結局村や町に立ち寄って、旅に必要な水や食糧、薬やグミといった物を補給しないといけなくなる。当然だがそれらを購入する為に会話というものをしなければいけないし、金銭のやり取りだって発生する。確実に誰かの記憶に残るはずだ。

 シアの容姿は、赤い髪に翠の瞳というキムラスカ王家の象徴そのものだ。それでなくてもエンゲーブやセントビナーには彼女の顔を知っている人間や、言葉を交わした事のある人間が大勢いる。上手くいけば「保護した」との連絡が明日にでも入るかもしれない。

 「そうだね〜。彼女結構抜けているし」

 ジェイドの言葉で安心したのか、アニスがいつもの調子で喋りだした。

 「どんなに上手く立ち回ったとしても痕跡は残るわ。それを調べれば」

 ティアの顔がぱっと輝く。飲まず食わずで、しかも誰とも接さずに生活を送る事など不可能に近い。

 「じゃ、私は先に失礼します。色々と手配しなければなりませんので」

 ジェイドが腰を上げ、「旦那、俺も手伝うよ」とガイも彼の後を追う。

 「俺達はセフィロトを調べよう。何か分かるかもしれない」
 「そうですわね。この事とは別にセフィロトに異常があっては大変です」

 タタル渓谷もチーグルの森もマルクト帝国の領土なので、キムラスカの王族であるルークとナタリアは表立って動くわけにはいかない。

 「私達はダアトと連絡を取ってみるわ。何か情報が入っているのかもしれない」
 「そうだね」

 ティアとアニスも立ち上がった。

 「ではこれで解散としましょう。明日朝一番にここに集合、ということで」

 年長者であるジェイドが取り仕切る。それに誰も異存はなかった。各自、喜びに満ちた顔をして部屋から出て行く。誰もが彼女と直ぐに再会出来ると信じて疑ってもいなかった。





 “相変わらずお目出度い思考を持った人間達だな”

 遠い空の彼方で、件の意識集合体に呆れられているのを彼らは知る由もない。







 常套手段にだまされて(表)を改題。



 あとがき
 すみません。改定した為、お題と内容が入れ替わっておます。

 このガイ、なんだか指輪用意してそうだな。