シェリダン。
ここって私の知っている、普通の工業の町とはちょっと違う。どちらかというと、玩具箱という感じかな。町の人の殆どが特許庁の常連みたい。
けれどこの町は一年ほど前、血と死のカーテンに包まれた。
逃げるな危険(中)
この世界に戻って来てこの場所がチーグルの森だと気付いた後、直ぐにチーグルの長の元へ向かった。
私の事口止めをお願いする為です。だって黒髪云々私の容姿を事細かく言われたら、あいつらに直ぐ見つかってしまうでしょ?
でもこの状況かなり拙いかも。あの眼鏡を誤魔化す事がこの単細胞の生物―と書いてナマモノと読む―に出来るわけがない。口止めなんて焼け石に水状態ではなかろうか。
やばいどうしよう、と思っていたらローレライから通信が入りました。彼らの目には朱色の髪に翡翠の瞳、つまり以前の姿にしか見えていないと。何でもチーグルは見た目、目に映る姿一割、その人固有の音素九割で判別しているらしい。
・・・つー事は、あのルークと私は大体同じ姿に見えているのか。
その後、チーグルの長にローレライの鍵を託し―私は此処に居るわよvと宣言しながら歩いているようなものでしょ!―探索ポイントで交易品を手に入れながら、ケセドニアに向かった。幸い其処の辿り着けるだけの物資はあったし、魔物は力の差が分かるのか、余り襲ってこなかったので楽と言えば楽だった。
でもそれだとお金が手に入らないのよね。あって困るものじゃないし。しょうがないじゃない、元主婦なんだから。ギリギリというのは嫌なのよ!そこの背後霊、貧乏性だと突っ込まないように。
で、やむを得ず魔物に突っ込んでいく事もしばしば。・・・お陰でお金だのアイテムだの掠め取るのが上手くなったわぁ。って、何犯罪者発言しているの私。
あの白い服?ローレライにお願いして、チーグルの森から離れた所で別の服装に変えてもらったわ。スカートで旅なんか出来るか。目立ってしょうがない。あの背後霊にブツクサ文句言われたけれど知らん顔をした(ゴスロリじゃなく桃色家屋系の服とは。ある意味玄人かもしれん)。
で、ケセドニアに着いたのは良いんだけれど。
とにかく町に着いた途端「ヤバイ」の一言につきた。
確かにあいつら捜すだろうな、とは予想していたけれど此処までとは思わなかった。ローレライからある程度の情報は知らされていたけれど、見るのと聞くのとは大違い。 マルクト軍、キムラスカ軍入り乱れて私を捜している。どれだけの人員と予算をつぎ込んでいるんだ、オイ。
あの職場―ボロン亭。おお名前初お目見え―は完全に包囲監視されていた。ああ、ラルクのおっちゃん、苦虫を潰したような顔をしている。
そりゃそんな顔にもなるわ、犯罪者でも何でもないのに見張られるなんて。第一この人人の気配に聡いのよね。背後に立たれるの好きじゃないみたいだし(デ○ーク東郷か)、絶対この人軍の経験あるよ。だって動きが違うもん。時々足が痛いって擦っているけれど。
エリーも大将も元気そう。よかった。でも名乗るわけにはいかない。彼らをこれ以上巻き込みたくない。絶対にあの仲間達から、特にガイから執拗に聞かれた筈だ。「シア(私)から何か連絡はなかったか」って。
ほんと彼ら、自分達の身分、立場をいうものを自覚してないから配慮というものが足りないのよね。皇帝の懐刀とか伯爵様とか公爵子息が、何の前触れも無く訊ねてきたら誰だってびびるし、目をつけられたねあそこのお店、何か悪い事やったの、と周りも思っちゃうって。
・・・ま、そんな事で屈するような人達じゃないけれど。
ある日遠目で見ているだけでは我慢出来ず、客としてコーヒーを飲みに行った時だった。何とそこにガイが来たのだ!だが彼は、内心焦りまくる私の存在など目に入らなかったようだ。一応彼に向かって会釈はしたのだが、すっと軽く流されてしまった。
ま、伯爵様なんだしこの態度は当然だろう。今の私彼から見たら只の通りすがり、旅人Aだし。
ガイは「ああ、お客さんが来ているな」程度の認識で店を見回し、大将やエリーと二言三言言葉を交わし、コーヒーを一杯飲んで立ち去った。
聞くと、週一回は此処に来ているそうだ。彼が出て行った後、大将は何か白い粉が入ったボールと持ってきた。其れを受け取ったエリーは、何も言わずその白い粉をガイが通った所満遍なく撒き散らす。
私が「?」という顔をしていると、ラルクのおっちゃんが「あれは塩だよ」と教えてくれた。
そしてぼそりと小さな声で言った。
「そうなるように仕向けた人間が、そしてあれだけ彼女に己の罪を忘れるなと言っている人間が、真っ先に自分自身の罪を忘れてどうする」と。
まあその時のラルクのおっちゃんを含む、あのお店の人たちのガイの背中を見つめる視線が冷たいこと、冷たいこと。
その言葉で、今までの私がいない間の彼らの行動、言動が分かった。私がオールドラントに戻って来ると知っていたから「終わりよければ全てよし」みたいな感じになっていたんだろうな。
これだとバチカルはどんな状態なのか。めっちゃ怖え。 アルに会いたいんだけれどなぁ。どうしよう。
この分だと彼の手元に届く手紙、確実に開封され読まれているよね。それでなくともファブレに来る手紙だの荷物は、家族からのだろうが何だろうが一応チェックされるし。・・・どちらにしろ、バチカルに行かないとアルと連絡のしようがない。心配もしているだろうし、会って話がしたい。
ケセドニアは流通の拠点であるから、余所者に対して寛大だ。だがバチカルは違う。キムラスカの首都だし、何よりも王が居る町だからやたらと規則が多いし罰則も厳しい。それに、ある程度身元がはっきりしないときちんとした職につけない。個人商店だろうがなんだろうが、働く為には紹介状―下手すれば以前働いていた職場の評価も―が必要となる。
そんなもの今の私に用意なんて出来ない。それに物価も高い。女一人暮らしていくには不便な町だ。ほんとどうしよう。
滞在したとしても一週間が限度か。それ以上となると金銭面でちょっと問題が。兎に角、これからバチカルに行く事は決定しているとして、問題はその後だ。
そうしたらノエルの顔が浮かんだ。ああ、彼女どうしているのだろう。あの時別れたきりだ。
シェリダン、私達の所為で犠牲になった町。
そうだ、シェリダンに行かなきゃ。私の馬鹿!何でバチカル行きの切符を購入した後気づくんだ。ファブレを追い出されてから一度も行っていないし。
とにかくバチカルに向かいアルと再会した。・・・う〜んこの辺りの事は、ははは、また後で。そこの背後霊、いつも言っているでしょ、突っ込むなって!女にゃ色々あるのよ、色々と!!
これから先の事とか連絡方法等、ああでもないこうでもないとアルと話し合い何とか結論を出し、都合一ヶ月ほど滞在した後シェリダン行きの船に乗り込んだ。
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町の片隅に、いつの間にか慰霊塔が作られていた。そして其処にはあの時犠牲になった人達の全員の名前が彫ってあった。イエモンさんやタマラさんに、ヘンケンさんやキャシーさんの名前も。
こんなに沢山の人が犠牲になったんだ・・・。
よく考えたらこの町が襲われるの、予想出来たはずなんだ。この町で私達が何をやっているかなんてヴァンでなくとも直ぐ分かるのだから。
でも私は何も出来なかった。そして今も何も出来ない。
「ごめんなさい」
結局その言葉しか言えなくて。
日も傾き、周りに人がいなくなった。
主よ御許に近づかん
上る道は十字架に
ありともなど悲しむべき
主よ御許に近づかん
もうこの世にいない、彼らの魂が安らかん事を願って歌う。
そして。
「ルーク・・・さん?」
聞き覚えのある声に私は振り返る。其処には懐かしい人の姿が。
「ノエ・・・ル?」
慌ててフードを被るが時既に遅し。髪は完全に朱色に変わっていた。