月といましめ(表)

 “もしもしそこのお嬢さん”
 「何よ背後霊(ローレライ)」
 “(字が違うような気がするが)婚約おめでとう。ドンドンパフパフ”
 「・・・は?」

 そんな言葉何処で覚えやがったローレライ。


  月といましめ(表)



 トンカンと鍛冶屋さんの歌が流れてきそうな町シェリダン。

 私はノエルの家に下宿させてもらっている。で、何をしているかというと。
 う〜ん何なのかしら、これ。何でも屋?お母さん?あれぇおっかしいな。最初は魔物退治が少し出来る代筆のお姉さんだったんだけれどな。

 町の特性上、色々な所から譜業関係の仕事が舞い込んでくる。

 予想通りというか皆酷い悪筆だった。殆ど暗号解読に近い。いやほんとに凄かったのよ、書類見た瞬間「なんだこりゃあ」って叫んだもの。
 発注書が読めない、取り扱い説明書が読めない。工場内なら通用するけれど、お客様相手となるとこのままじゃ困る、という事で向こうの方も代筆が出来る人間を捜していたらしい。・・・その後の展開は分かるでしょう。今、正式な書類や何かは私が全部清書しているのが何よりの証拠。

 けれど、それだけではすまなかったのよねえ・・・。

 問題はここの人達、技術者気質で経営に向いていないという事。自分たちの仕事に誇りは持ってはいる。けれど、それに見合った報酬を貰っているかとなるとちと首を傾げたくなる。生活に困っているという人は少ないみたいだけれど。

 先の戦いの時の、アルビオールに使用料とかノエルのパイロットとしての賃金とかどうなっているのかな(命がけだったし、危険手当ぐらい当然よね)と不安になって訊ねてみたら「国の方から代金はちゃんと頂いていますよ」との答えが返ってきた。ほっ。

 まあそうなると、ここの町の職人さんの人が良い事に漬け込む、根性の捻じ曲がった悪い奴が当然いるわけで。

 知的所有権だの何だのそういった考えがまだ無いこの世界、仕方が無いといえばそうなんだけれど。相手の都合の良いように言い包められ、謝礼を値切られている姿を目の当たりにしちゃうと流石にムッとする(シェリダンの人って自分が満足すればお金なんて要らない、と考える人が多いし)。コレ作るのにどれだけ苦労したのかお前ら分かっているのかって。

 ・・・あ?別に何もしていないわよ。

 ただ、踏み倒した事があるという経歴の持ち主に対して「前払いでお願いしますv」とにこやかに笑って追い返しただけだから。作業用の机が真っ二つになったりしたけれど。ほほほ。

 「すっかりこの町に溶け込んでいますね」

 とギンジとノエル兄妹にもこの間言われた。爽やかな笑顔付きで。

 髪は後ろで一つに括り、作業服に身を包みお玉を片手に工場の中を走り回ってりゃあ、誰だってそう思うわな。
 だってここの人達、仕事に没頭すると寝食忘れちゃうんだもの。普段でも、おいそれいつのパンだその青色(クリソゲヌム、通称青カビ)のは何だ待てえぇぇ!!というのを齧りながら仕事をする人が圧倒的に多い。
 「食事は全ての基本だ!!体を壊したら元も子もないだろうが!!」と叫びながら食料を片手に台所に飛び込んだ私は悪くない。

 そんなこんなで日々は過ぎて。お風呂に入ってさっぱりして、寝るにはまだ早いから本でも読もうかな、と考えていた時だった。で例のローレライ発言。

 婚約って、結婚しますって事よね。おい。

 「婚約って何よ。私に相手いないわよ」
 “あの同行者が決めたんだ。相手はガルディオス伯爵”
 「は?ガイ?マジ?冗談じゃないわ!!何でそういう話になっているのよ!!」
 “ガイがお前を妻にしたいそうだ。で、あの同行者達もお前がやつの事を想っていると、そう判断したらしい”

 「何処をどう見たら、私がガイの事好きだって思うのよ・・・」

 思いっきり脱力する。あいつらそこまで人を見る目がなかったのか。

 “さあな。やる気満々らしいぞ。王女は早速婚礼の準備に取り掛かっている”
 「こうきやがりましたか。これ以上説明しなくていいわローレライ。何となく事情は察する事が出来るから」

 ガイが私に執着しているのはよく知っている。

 降下作戦は危険を伴うものだったし、個人的感情を剥き出しにして人間関係に亀裂を生じさせるわけにはいかなかった。だから私は、ある程度 “大人”の対応をしていた。
 それでもガイに対して結構刺々しくしていたというか、「私はあなたに特別な感情を全く抱いていません。そういう感情を向けられるのはむしろ迷惑です」的な態度をとっていたんだけれどなあ。「照れているんだな☆」と自分の都合の良いように受け止めてしまったか。

 ツンデレはあくまで物語の中だけで、現実の世界には通用しないぞぉ。「嫌よ嫌よも好きのうち」もまたしかり。ああ、自分で言っていて虚しくなる・・・。

 「あの連中、皆賛成しているんでしょ?私の婚約に」
 “・・・反対しているのはマルクト皇帝とオリジナル、そして死霊使いぐらいだな”
 「やばいわね。ナタリア王女かインゴベルト国王の口からその話が出たら、お受けします以外言えないじゃない。私に拒否権なんてないんだから。でも彼等にそんな事分からないんだろうな・・・」

 何の疑いも無く愛があるからだ(悪寒)と思っちゃうんだろうなあいつら。うーわー。それじゃ何が何でも見つかるわけにはいかないじゃない。

 “ああ、それと”
 「何?」
 “可笑しな輩がお前を捜している。ケセドニアの職場と、あのアルベルトという名の騎士が監視されているぞ”
 「ルーク様でもない、マルクトでもない全くの第三勢力、という事?」
 “そうだ”
 「目的は私の超振動かしら、それとも・・・」
 “どうした。超振動の他に何がある”
 「いやこれは、考えすぎかもしれないから後でいいわ」

 まさか、ね。

 “そうか?話を戻すぞ。騎士もそうだがあのラルクという男、監視されている事に気付いたぞ”
 「あ、やっぱり?」
 “元白光騎士団にいたそうだ。ラルクは。アルベルトの叔父にあたるらしい”
 「初耳っす。マジですか・・・」

 世間は狭いねえ。

 「アルは大丈夫でしょ。白光騎士団に手を出すという事は、ファブレに喧嘩売ったのと同じですもの。そんな事したやつら、家族を含めて全員この世からおさらばよ。で、ラルクのおっちゃんはどうしている?」
 “様子見ってところか。ただ監視しているだけで接触も何もないからな”
 「ストレス感じるわね。ああもう!」

 ほとぼりが冷めてからアルに連絡を入れようとしたのだけれど、これじゃあ無理だ。アルに届く物、家族の手紙だろうが何だろうが全部チェックされている。送り主の確認もきっちりと。そんな中私が手紙を出そうものならどうなるか。
 一応、アルに一目ぼれをした女性、という事で手紙を出す理由があるにはあるのだけれど、その時期がちと拙い。カレンダーを照らし合わせれば分かる。

 オールドラント、つまりチーグルの森からバチカルまでの移動距離と時間を計算すれば、あらまあぴったり。丁度、某ルーク様のレプリカがバチカルに着いたと予測される日に、身元のはっきりとしない女性がアルと接触しているじゃないの。

 ローレライがバックに付いているとなれば、姿形が違うからルークレプリカではない、という公式は成り立ちにくくなる。

 ファブレの白光騎士団は、入団時に容姿も重要視されるからそりゃあ粒よりの美形ぞろい(ええ、目の保養をさせてもらっていましたとも!)。美形ならば女性から声を掛けられる機会も多いという事です。
 本格的に付き合って結婚、となればそれなりにファブレから身元調査が入るのだけれど、誘われてニ〜三回お茶を飲みました程度なら誰も気に留めない。一応団長に報告はしないといけないらしいけれど(色々規定はあるそうだ。仕事の話を一切してはならないとか)。

 ホント、バチカルでの白光騎士団のモテ具合凄いものなあ。

 ま、アルは浮いた話一つ無いので有名だから噂ぐらいにはなるかもしれない。でも大丈夫。私と会った事アルは絶対に喋らない。断言出来る。何故なら彼、ガイを含めあの仲間に対する好感度全く持っていないから。それ以前に彼は私の味方だしね。

 だけれど、ここが運命の分かれ道。この話、誰の耳に入るかでその後の展開が変わってくる。

 ガイは、私に対する主観というものがことごとくずれているので、ヒントが目の前に転がっていてもそれに気付く事はない。“シア”の事は自分が一番よく知っているという、何の根拠もなく持っている自信が彼の目を曇らす。彼は己が望んだ、つまり自分に都合の良い答えで無い限り「それはあり得ない」と拒絶するのだ。ガイの存在が、彼らにとって最大の障害となるかもしれない。

 ちなみに女性陣は誰がバックに付くかで変わってくる。というより今の時点で比較的自由に動けるのって男性陣だけなのよね。教団は今組織の建て直しで大変な時期だし、ユリアの子孫だ先の戦いの英雄だともなれば、ティアとアニスの二人はそうそうダアトから動く事は出来ない。ナタリアは王女だからそう簡単に王宮を離れる事など許されないし。

 一番やばいのはマルクトの軍人。死霊使いの二つ名をもつジェイド・カーティス。私が戻ってきた時、第七音素が二箇所観測されたのだ。人並み以上の頭をもつこの眼鏡が、ローレライが色々と小細工をしている可能性に気付かないわけが無い。
 ああ自分キムラスカの人間で良かった。あの眼鏡が動くには色々制約が発生するからな。

 ルークは微妙。けれど何か情報がはいれば眼鏡に相談するだろう。ま、時間差はあれ、ジェイドというブレーンがいるから彼が気付く可能性高し。それに、私を蘇らせる時のローレライの会話聞いているから、近い内に前世云々に行き着くでしょう。

 誘導尋問や何かでアルからシェリダンという単語を引き出すか、もしくは全くの偶然シェリダンに来た時ノエル達の様子を見て気付くか。う〜ん。時間の問題かなこれは。それに私の筆跡みりゃ一発で分かるしね。

 “ああそうだ。ルークが極秘にマルクトの皇帝と会談するぞ”
 「え?」
 “お前の結婚の話だ。・・・さ、やつらどういう判断を下すか”
 「マルクト皇帝が味方に付けば大分違うんだけれどね」

 あんまり希望は持てないなぁ。あの皇帝信じられないくらい身内に甘いんだもの。アテに出来ない。

 “こればかりは始まってみないと分からん。状況次第によっては彼等と接触するぞ”
 「う。ちょっと抵抗あるんだけれど・・・。本気?ローレライ」

 “ああ。この状況に翳りが見え始めたからな。心配するな。お前の居場所は言わぬ。姿が変わったことも。お前もさっき言っただろうが。皇帝を味方に付けば、と”
 「そりゃそうだけれど」
 “彼等が結婚話に同意するのならば接触はせん。安心しろ。我はお前の味方だ”
 「ありがと」
 “ではまた。仔細が判明次第連絡を入れる”
 「じゃあね。おやすみなさい」
 “おやすみ。良い夢を”