「なんと、『貴女はまるで太陽のようです。あなたという光がなければ私は輝ける月になれません。いつまでも私を照らし続けてください』ですと!戯言ですな!」
「え、なにそれストーカー宣言?」
「うっわ最低ー」
さてその翌日から、なんとか縁切りだけは回避したい一期一振は妻である審神者に手紙を出していた。俗に言う、ロミオメールである。
首を刎ねられるのは、避けられないだろう。歌仙は有言実行の刀だし、たとえ生き残ったとしても恥をさらすだけだ。ここは潔く首を差し出しておいたほうが良い。
だが、縁を切られるとなると、彼女は今後一期一振を本丸に招かないと決めたことになる。今ここにいる下半身の欲に負けた一期一振のみならず分霊のすべてを拒否する構えだ。たとえ二度と会えずとも、次の自分に彼女を守ってほしいと願う一期一振は必死だった。それこそなりふり構わないほどに。
監禁されている部屋の木戸の前で自分の出した手紙を朗読されるという恥辱に、一期一振は耐えていた。ちなみに上から鳴狐のお供の狐、乱藤四郎、次郎太刀である。
「つーか月って。三日月さんと張り合うつもり?」
「ねー。少なくともおじいちゃん、浮気はしないもんね」
見習いの誘いを「年寄りに肉体労働は辛い」とぶった切った三日月である。こちらは加州清光と大和守安定だ。この時ばかりは顔を見合わせて仲良く「ねー」と首を傾げている。傍目には可愛いが、言っていることは結構黒い。
「…こっちは『あなたと二人で歩いた花畑を思い出します。あの日の幸福をどうして忘れてしまったのでしょう』ですって」
「頭の中が花畑なんじゃないか」
「屁糞葛でも咲いてるんじゃねえの?」
「ラフレシアかもしれませんよ!」
宗三左文字が読み上げた手紙を、山姥切国広、和泉守兼定、堀川国広が容赦なく笑いものにする。もうひとりの堀川派である山伏は、怒りのあまり山に岩を砕きに行こうとして全力で止められ、代わりに渡されたリンゴを砕いてりんごジュース製造機になっている。果汁100%だ。
そこにまた手紙が届けられた。地面に突き刺さった矢文を取り上げたのは、にっかり青江である。
「縁切りの儀をしているのに縁を結ぼうとするなんて、必死だねぇ。何なに?『遊びのつもりだったのです。たった一度の過ちを許してはくださいませんか。本当に愛しているのはあなたひとりなのです』か…。こうも軽々しい愛は、僕もはじめて聞くよ」
「遊びで主君を傷つけたって言っているようなものですね」
「本当に愛していたから一度で縁切りなのに、わからないのでしょうか」
青江が読み上げた文に前田と平野が嘆息する。愛が深ければ深いほどたった一度の過ちを許すことができないのだ。男女の愛憎劇を飽きるほど見てきた短刀だからこそそれがわかる。なにより粟田口は主と一期一振の子供がわりとして大切にされてきた。それだけに憤っている。兄を見捨てることにためらわないほどに。
暗く冷たい部屋の中で、一期一振はがっくりとうなだれる。仲間や弟たちの罵倒だけでも辛いというのに届けた手紙が一通も読まれずに返って来るのだ。石切丸ならば読まずとも捨てるくらいの気遣いは見せてくれるだろうが、歌仙は本当に容赦がない。読まずに叩き返し、自分が何を言っているのか思い知れとばかりにこうして回し読みされてしまう。
「ああ、主…」
本当に、遊びだったのだ。刀剣たちが冷たくする、と夜中に相談にやってきた見習いの意図は一期にだってわかっていた。前夜まで仲間たちにさんざん袖にされていた話を聞いている。それでもこんなことを言えるのは一期さまだけですと頼られるのは悪い気分ではなかったし、女から誘いに来るだけあって媚びるのも上手だった。胸に縋られ潤んだ瞳で見つめられ、そっと目を閉じた彼女に一期はごく自然と唇を重ねていた。ここで帰しては男が廃るというものだ。ちなみにこの手口は相談女の典型である。まんまとひっかかる一期が悪い。
本丸の刀剣男士が揃いも揃って貞操観念が硬いのは、ひとえに歌仙の教育によるものだ。そんな歌仙に育てられた審神者も当然ながら貞操が硬い。そもそも浮気をするという概念がまずない。婚姻とはそういうものだと信じている。お互いを見つめあい、けしてよそ見をせずに愛し合い想い合って生きていく。それが夫婦というものだと。
対して一期一振が引っかかったのは、女を知っているからだった。歌仙が危惧したように秀吉の影響もあるのだろうが、女の体を知った一期一振は、他の女の味を知りたくなったのだ。つまりは本当に遊びである。ばれないだろうとたかをくくってもいた。しかし本丸は審神者の霊力で成り立っている以上、夫である一期一振の神気ももちろんそこには含まれている。変化が起これば一発で発覚するのだ。彼はそれを失念していた。
だから一期一振は捨てられたのだ。愛していれば何をしても許されるなどということにはならない。浮気は御法度。わざわざ宣誓させなくとも浮気をした時点で一期一振と見習いの未来は決定していた。