厄介な拾い物に思えた鶴丸国永は、意外とよく働いてくれた。
私の出陣や遠征の依頼にも特に逆らうこともなく、山姥切とともに出向いてくれるので大変助かった。
今までは山姥切一人で、通常6人で隊を組んで出向くべき戦場に向かわせていたのだ。
戦力が増えた分、山姥切の刀装が剥げたり、怪我を負う頻度がうんと下がったので鶴丸国永をむしろ拝んでしまった。
彼は驚きが好きだと聞いていたが、特に人を驚かす行動に出ることはなかった。
環境に慣れることに必死で、今はそこまで心に余裕がないのだろうか。
「持ってきたぞ」
「結構…重いな…これは…」
今日はそろそろ少なくなってきた刀装作りをしようと思い立った。
燭台切に伝えて用意させた資材を、二人に台車に積んで離れまで運んでもらった。
今この本丸の景趣は夏に設定されているので、二人とも汗だくだ。
私も手伝おうかと申し出たが、俺たちに恥をかかせる気がとけんもほろろに断られてしまった。
やっぱり手伝うべきだったんじゃないかと思ったが、そこは男のプライドというやつなのかもしれない。黙っておいた。
「お疲れ様ー、はいどうぞ」
冷やした麦茶と氷をコップに注いで、それぞれに手渡すと余程喉が渇いていたのか二人とも一気に飲み干した。
タオルで汗を拭う彼らに声をかけた。
「今日は鶴丸国永に刀装作りを手伝ってもらうつもりだけど、山姥切は何したい?」
「俺は出陣してくる」
「一人でいいの?」
「……勘が鈍るのは困る」
山姥切の言いたいことが分かった。
鶴丸国永がいたほうが確かに助かる。けれど、彼と私は正式な主従の関係ではない。
結局、私を最終的に守るのは山姥切だけなのだ。だから、山姥切は一対多数の戦い方を忘れたくないのだろう。
おそらくは、向こう側の刀剣男士との決定的な決裂が起きた時のために備えて。
「うん、わかった。なら、行ってらっしゃい」
山姥切は鶴丸国永を信用していないわけではない。もしそうだったら、山姥切は私と鶴丸国永を二人きりにして出陣しないだろう。
鶴丸国永と共に戦って、人となりを見極めた山姥切の判断なら、信じられた。



「今日はこれ使い切るまで作るつもりだから、頑張るわよ」
用意された山のような資材に、鶴丸国永はうんざりとした顔を浮かべた。
そういう顔をしても大丈夫だと思う程度には、私のことを彼も信用しているのかもしれない。
「そんな顔しないで。一度に使う量が多いから、けっこうすぐに終わるよ」
三つの箱を用意して机の上に並べる。
そして『向こう側(金)』『こちら側(銀)』『再利用(並)』と書かれた札をそれぞれの箱に貼りつける。
「出来た金は向こう側って書かれた箱に納めてね。
銀はこっちの箱。これが私たちが使っていい刀装になるの。多少は金を貰ってもばれないから、使いたいやつは自分で少し選んでね」
「並はどうするんだ?」
「最後にまとめて解体して資材に戻すわ」
金は9割向こうの箱に。
少しの金と、銀はこちらの箱に。
山姥切が好んで使う刀装は最初に確保させてもらうつもりだ。あとは私の好みで金盾も欲しい。
出来上がった刀装を箱に放り投げては作り上げる。
並みは資源に戻して再利用するという単純作業を黙々と続ける。
「特上しか使うわない気か?なんともまあ贅沢な話だな」
「特上じゃなきゃ駄目ってうるさいもの」
「俺にとっては刀装をもらえること自体が有難い話だ」
ああ、ブラック本丸(疑)だもんねー。
刀装なしで出陣していたのか。想像しただけで恐ろしい。
「それ!これでどうだ?」
彼の掌には特上刀装が転がっていた。
「おっ、上手いじゃん。この調子で頑張ってよ。次の配合は…」





そろそろ資材の終わりが見えてきた。
これだけ作れば暫く刀装に困らないだろう。
……ただし、向こう側の刀剣男士がこれを大切に使っていれば、の話だが。
彼らにとって主でない私が作った特上刀装なんて、思い入れがないぶん使い捨ても同然だ。
大切に使う義理はないといわんばかりに消費してくれるから、やってられない。資材まで自力で用意しろと言われたら切れていた。
「昨日のご飯、どうだった?」
燭台切光忠がやってきて、向こう側で宴会をするので鶴丸国永に一度参加してみないかとお誘いがあったのだ。
挨拶をまだしていなかったので、ついでに済ませてこいと送り出し、昨日は久し振りに山姥切と二人で食事を摂った。
「…料理は旨かった。しかし、向こうは歓迎しようとしてくれたんだが、居心地はな…あまりよくない。
なにせ皆いない「主様」の話ばかりしていたからな。
俺にも主様の素晴らしい話を聞かせたかったらしい。
上座に空席があって、誰も食べないのに膳が置いてあるから誰の席かと尋ねたら、当然のように『主様の席だ』と」
「うわあ…」
それは下手なホラーより怖いかもしれない。
そこまで愛されていたのか。前の主は。
「もう行く気はないな。あいつらとは話が合わない」
「……そう」
「俺からも聞きたいことがある。きみは、こんな扱いをされて…あいつらが憎くはないのか」
「憎い…のかな、もうわかんないや」
夏の季節に設定しているにもかかわらず着用している長袖をめくって腕を見せた。
私の腕には無数の薄い躊躇い傷がある。
全て自分でつけた傷跡だ。
鶴丸国永が隣で息をのんだ。
「私がここに来たのは十五のとき。
中学校を卒業したら、あなたには審神者の才能があります。国民の義務だからって言われて、無理やり連れてこられた」
初めは私も交流を持とうと努力した。
けれど何度話しかけても無視か当たり障りのない言葉が返ってきた。
時に主でない人間が話しかけるな、目障りだとも言われた。
そのうち主でない人間がここにいることがおかしいと離れに押し込まれた。
たまに呼びかけられても、人間とか、おい、審神者と呼ばれるだけで、自分の名前を忘れそうになった。
それでも名乗ることはしなかった。
神様に名前を教えることは、自分を渡すことだから絶対にしてはいけないと、役人に連れていかれる前に、口を酸っぱくしておばあちゃんに忠告されていたからだ。
ここの引継ぎ審神者の扱われ方を政府は薄々予想していたのかもしれない。
まるで講習を受けさせるだけ無駄とでも言うようにほとんどなにも知識を教えられぬままにやってきた私は、これを守っていなかったら今以上に良いようにされていただろう。
後から聞いた山姥切もその助言は正解だったと褒められた。

「生かさず殺さずっていうのがぴったりね。勉強は暫く続けてたけど、それも飽きちゃった。…ここで一生が終わるんだろうなってぼんやり思ってた」

機密保持という名目のもと家族への連絡も許されなかった。
どうしようもなく孤独で、離れの中、一人きりで膝を抱えて座り込んでいた。
ふと、筆箱のなかのカッターが目に入り、手に取って弄ぶ。刃先を出し、なんとなく軽く手首に当てて横に滑らせみた。
ちりっとした痛みとともに、赤い血が滴り落ちる。
その赤に目を奪われた。
「同級生に家庭環境がちょっとややこしい子がいてさ。その子、リスカ…こういうふうに自分を傷つけることをね、よくやってたの。
本人もやっちゃ駄目だってのは判ってるみたいだったから、なんでそんなことをしているんだろうかわからなかったわ。
でも気持ちが分かったわ。
あれをするとね、気分が一瞬だけすっとするの。一度覚えたら、止められなくなる…」
痛みを感じて、赤い血を流す。
その一瞬だけすべてを忘れられる気がして、自分はここに生きているんだと実感できた。
たくさんの傷跡の中で、一番深いものを指さした。
「死にたいわけじゃないから、加減して深くならないように気を付けてたんだけど。うっかり、深く切っちゃったときのやつ」
ただ、なんとなく、引きこもっていることに飽きて久し振りに外に散歩した。
そうしたら小さな小学生くらいの男の子たちが駆け回って遊んでいた。恐らく遊びに夢中になるうちにこちらに近づいてしまったのだろう。
そのうちの一人と一瞬目が合った。
少年は、見てはいけないものをみてしまったかのような強張った顔をした。
そして何事もなかったかのように目を逸らして仲間たちのもとに戻っていた。

気が付いたら、自分の部屋に戻って大声で叫んでいた。
意味のない叫び声をどれだけあげても、誰も来なかった。
煩いと怒鳴り込んでくる人さえいなかった。
私はなんなんだろう。衝動にかられカッターを乱暴に手に取り、反対の腕を切った。
ところが、力みすぎたのか深く切りつけてしまった。
思った以上に血が溢れていく。
押さえても押さえても止まらない。
痛みに混乱して、何も思い浮かばない。
どうしよう、どうしよう。
どうしたらいい?
このまま死ぬの?
自分の思い付きに体が震える。
死にたくない。
死にたくない。
誰かに助けを求めようとして、誰の名前も知らないことを思い出して絶望した。



いよいよ意識が朦朧としだしたときに、血の臭いに気づいて扉を壊す勢いで部屋の中に飛び込んできたひとがいた。
無意識のままに部屋に戻ったので、入り口の扉が半開きのままだったことに気づかなかったことが功を奏したらしい。
「助けてくれたのが、前任の初期刀である、山姥切国広」
「それは…」
「私の山姥切は彼とは別の分霊よ」
私の扱いを一番最後まで反対してくれた人だったんだけど、多勢に無勢だった。
擁護しようと思っても、彼は初期刀だったから余計に、仲間に主を裏切るのか、女の色香に迷ったのかと責められて中々うまくできないようだった。
主にしか仕えられないからと彼も名前を名乗ることはなかったが、それでも親身になって接してくれたと思う。

不自由な腕を抱えた私の傷が癒えるまでの間、彼は世話をしてくれた。
どうしてこんな馬鹿なことをしたと怒ったり、一切問い詰めようとはしなかった。
何も言わずに傍にいてくれた。
そして腕の傷が完治したころに、あんたの傷は俺たちのせいだと深く土下座して一本の刀を差しだした。
戦場で拾ってきたらしいそれを私の前に置くと、床に額を擦り付けたまま彼は「これは『山姥切国広』だ。あんただけの刀だ」と言った。
「その山姥切はどうなった?」
半ば答えがわかっているだろうに、鶴丸は尋ねた。
「山姥切を顕現する補佐をしてくれたあとで、刀解してほしいと言われたわ。だからそうしたの」
主に合わせる顔がない、こんなことは仲間に刀を向けてでも止めるべきだったと悔いていた。
それをしなかったのは、私の立場の悪化を考えてのことだろう。それが裏目に出てしまった。
せめてこれ以上悪くならないよう、自分の兄弟に頼んであると言って彼は消えた。



その日からずっと山姥切国広と一緒にいた。
私だけの刀剣、私だけの味方がいる。それだけで、心強かった。
どうしても向こう側に行かなければいけない用事があるときは、必ず前に進み出て、路傍の石を見るあの視線から守ってくれた。
裏切り者という声にも、それがどうしたと鼻で笑って言い返していた。
悲しいことがあるわけでもないのに涙が流れて仕方がないときは、自分が被っている布を私の頭にのせて泣き顔を隠してくれた。
「あいつらには無関心でいるのが一番楽なのよ。
最初ここに来た時はなんで私がとか、ふざけんなとか思ったけど。どうしようもないしね。
流石に八年もこんな生活していたら慣れるわ」
「八年…人の子には長すぎるな。山姥切が来たのはいつ頃だ」
「ここに来て三年くらいしてからかな。それからずっと山姥切と二人きり。
もう私、山姥切が死んだら私も死ぬだろうね」
物理的に死ななくても、心が死ぬ。
生きる屍になって飲まず食わずのまま残りわずかな時間を過ごすか。
それとも頭の中に山姥切を作り出し、向こうの彼らのようにもう居ない『山姥切』のために食事を作り、食卓に並べ、まるで一緒にいるかのように話しかけて、空虚な幸せに浸るかもしれない。
「だからね、私、山姥切に命を預けたの。
もしも私が主として相応しくないと思ったときはいつでも切り捨てていいって許しを出してるわ」
「いいのか」
「良いも何も、ずっと一人で出陣させて思うような戦闘もさせられない主だもの。これくらいの役得ないと駄目でしょう」
私がまだ生きている間は山姥切が私を見捨ててないということだ。
それがわかってるから私は、生きていていいと思える。
「山姥切が本当に我慢ならないって言うんなら、玉砕覚悟で皆殺し仕掛けるのもありかもね。そうなったらさっさと逃げてね」
「俺は置いていくのかい?」
「道連れにするのも悪いでしょ」
僅かに責めるような口調で言われた。
そこまでのことを私は彼にしていない。
私が鶴丸国永の信頼に足ることをしていない以上、彼にそれをもとめるのは酷なことだと思う。
しかし、それは鶴丸国永にはお気に召さない答えのようだった。
「君以外の人間に会ったとして。それがまともな奴だとどうして言える。
もう人を疑うのも人間を憎むのも疲れた。
君は山姥切国広に優しい。俺はその優しさのお零れを貰う、そのくらいでちょうどいい…」
「まともかどうかで言うなら私も結構怪しいと思うよ」
今は手首を切りたくなる衝動はだいぶ収まったけれど、たまにしたくなるときもある。
そういうときは、私の様子に気づいた山姥切がずっと傍にいて手を抑えてくれる。
「それでも山姥切は」
「うん」
「君を主にもてて幸せそうだ」
「……本当に?」
「刀の本分からは外れているかもしれない。君は主として不適当であるかもしれない。それでも、刀剣男士としては、主に必要とされていることはとても嬉しいことだ」
「うん」
「俺の居た本丸の、山姥切は…。主の初期刀で、ずっと彼の行いを諌めてきた。結局不興を買い惨たらしく壊された。
それから、主は刀剣男士のなかでも、特に山姥切を壊すことに楽しみを見出してしまった。
山姥切がやってくるたびに酷く壊されるようになり、それが嫌になった俺たちが戦場で山姥切を見つけても拾わなくったことに気付いた主は『山姥切国広を見つけなければ仲間を折る』と言い出した。
山姥切国広を見つけて持ち帰れば、その一日だけは俺たちに危害が及ばなかった。
短刀達が気まぐれで甚振られたり、死地へ赴かされることもなかった。誰も折られなかった。
一日が生き延びられるその代償に、山姥切国広を差出した。
…耐えかねた山姥切の兄弟である堀川や山伏が身代わりを申し出ても逆効果だった。
楽しげに申し出た二人を折って『さあ早く山姥切を持って来い』『お前たちの仲間がこうなる前に』と…。
俺たちはわが身可愛さに同胞を生贄にしたんだ」
それは彼の告解だった。
血を吐くように、思い出したくもないだろう己の罪を、心にこびりついた傷を抉り出し曝け出していく。
鶴丸国永は私に罰してほしいのだろうか。
「あなたたちに復讐をしていいのは、私じゃなくて山姥切だけ。私にその権利はないわ」
「……そうだな」
「あー。……でもなあ。山姥切がかー…」
私の山姥切と同じ姿をしている者が壊されていることに関しては、正直面白くない。
鶴丸国永に出会ってから一つ考えていたことがある。そのときはただの閃きで、それをする利点が自分に見つからなかったからただの思い付きということにしてしまっておいた。
これがばれれば身の破滅は免れないし罪に問われるだろう。そしたら山姥切も刀解処分されるかもしれない。
暫し思い付きと身の保身を天秤にかけた。
「……ま、いっか」
引き離される前に山姥切がきっと私を殺してくれるだろう。
彼はそれを私が望むと知っている。
そしてそれをどんなにしたくないと思っていることでも叶えてくれるだろう。
だから大丈夫。
「手伝ってくれたお礼に面白いこと教えてあげる。
鶴丸国永、仮とはいえあなたは私と今現在契約を結んでいる。だから私を害することはできない。そうよね」
「ああ」
「ま、これ、簡単に切れるものだけど、一応主従契約もどきだから重複することはできない。この意味わかる?」
「…いや、すまない。わからない」
敏い人なのに、私の言っている言葉が理解できないらしい。敏い人なのに、それだけ主は『害せないもの』と思い込まされてしまったのか。
おかしくて笑ってしまった。
「あなたの前の主は、あなたにとって今は〈ただの人間〉ってこと」
鶴丸国永の顔色が変わった。
ここまでいったら分かるわよね。
「君は、何を言っているのかわかってるのか…!?」
「さあ?私ここの主様と比べて頭悪いらしいからわかりませーん」
「………」
「ただ殺してしまうのも詰まらないわよね。
新しい審神者が送り込まれたらお互いが可哀想よ。
真名を掌握してしまえばこっちのものだし、復讐がてら拷問して聞き出すことをお勧めしとくね。あとは私のように飼い殺ししちゃえばいいんじゃないの」
かつての主への謀反を囁くというのもかなりえげつない図だなあ。
しかし鶴丸国永にはお気に召さない点があったようだ。
「君のように…」
「どうしたの」
「いや、なに、ここのやつらと一緒になるのは嫌だと思っただけだ」
「そう?何も知らないでやってきた人に責任を押し付けるのはともかく、屑を飼い殺しにするのは大歓迎よ。その分迷惑を被る人が減るもの。
…復讐はあなたたちのいいように考えたらいいわ。遠征の時にでも会っているんでしょう?前の本丸の仲間に」
「気づかれていたか」
「ばれてもいいと思ってたくせに。
最近、持って帰る資材の量に対してやけに長い遠征に出ているなと思ったから、カマをかけてみただけ」
食料も鶴丸が遠征に行ったあと少し減っていたのも不審に思った点だ。
悪いと思っていたのかその分畑仕事に精を出していたから、何も言わなかった。
恐らく、今も辛い立場にいる仲間の為になにかをしたかったのだろう。
「そろそろ、山姥切が帰ってくるわね」
晩御飯を作るために立ち上がる。
「入れ違いになるけど、資材足りなくなったから遠征にいってきてくれない?」
「わかった、どこに行けばいい?」
「奥州」
「は?」
奥州合戦の遠征は難易度が高い。その上複数の刀剣男士が必要なので彼一人では絶対に達成できないと私も彼も知っている。
「あなたの練度だと失敗するかもしれないね。時間もかかるから、少しくらい寄り道しても構わないわ」
もしも本丸の結界が破壊され、歴史修正主義者たちに襲撃されたら山姥切と二人で逃げてやろうと思っていた。
そのときのために食料を詰め込んだ非常用のリュックサックを手渡す。
「遭難したら困るから、これを持って行って。圧縮してあるやつばっかりだから、見た目以上に食べ物入ってて驚くわよ。
…あ、人の体とどう違うかわからないけど、ずっとご飯食べていないなら、はじめは具なしの薄い汁物から飲ませて胃を慣らしたほうがいいかも」
「君は…もう、狂っていたんだな…」
痛ましいものを見るような目で見つめられた。
「昔の私からはかけ離れちゃった感じはあるねー。あ、あなたと同じね」
本霊に還れないほどに歪んでしまった鶴丸。
高校生活に夢を抱いて、勉強に悩んで成績や恋に一喜一憂していた私はもういない。
「……そうだな」
「いってらっしゃい」
出ていく彼の背を見送りながら、きっと彼はここに戻ってこないだろうと考えた。