「帰ったぜ。土産話でも聞くかい?」
そう思ったのに、二日ほど経過すると飄々した顔で彼はこの離れに帰還した。
白い装束を真っ赤に染めたままの姿で「鶴らしくなったろう」と胸を張った。成功するはずのない遠征から帰った彼は、大量の資材を持ち帰ってきた。
「帰ってきたの」
茫然と彼の姿を見つめながら呟いた。
「やっと君に驚きを与えられたな!」
人間から自由になれる最後のチャンスだったかもしれないのに、棒に振るなんて馬鹿なやつだと思った。
「恩返しが済まないうちに去るのも無礼だろう。それに、俺の主は君だ」
「……そう」
俯く私の頭を、良かったなと言いながら山姥切が撫でてくれた。
おかえりなさい、と言えたのはそれから十分ほど経ってからだった。
それから日々が過ぎていった。
鶴丸は一人で遠征に出ては資材をたくさん持ち帰った。
「『鶴の恩返し』みたいに痩せ細ったりまでしなくてもいいからね」
と私が言うと。
「そんなヘマはしないし、君は俺の正体を既に見ているだろう」
と笑った。
山姥切は事情に薄々気づいていたが何も言わなかった。ただ「あんたがそうしたいのなら」とだけ言った。
折角刀装が手に入ったのに、仲間があれの作る刀装に嫌悪感を示して、刀装なしのままで出陣してしまうと嘆いていた。
並の刀装と、打刀や太刀では装備できない銀の刀装を解体せずに渡した。どうせ並の刀装を解体してできる資材なんて雀の涙だったし、鶴丸が持って帰ってくる資材が有り余っていたから、気にならなかった。
仲間が寝床で伏せっていると聞いたので、病人の介護の本を取り寄せた。
ついでに私が山姥切に振る舞うために読ん込んだ料理のレシピ本を渡した。
おいしいものを食べると気力が回復すると知っていたし、私はもう暗記したか書き写したからもう必要なかった。
何度も読み込んだせいで表紙はぼろぼろの、マーカーや書き込みでいっぱいのそれを、鶴丸はまるで重要なものであるかのように、恭しく両手で受け取った。
小さい奴らが飴玉を気に入ったと言っていたから甘いお菓子をたくさん渡した。
私が彼らに何かを渡したのは、たぶん同族意識のような、同情のような生温い感情からだった。
山姥切が虐げられていると聞かなければ、知らなかったことにして放っておいただろう。
そんな私が憐れむなんて傲慢なこととわかっていながらそれを続けた。
鶴丸は馬鹿にするなと咎めることもなかった。ある時鶴丸は言った。
「主、聞いてくれ。俺は一生君に名乗れない。人間の心変りが恐ろしい。…それでも君についていきたい」
「…私、山姥切がずっと一番よ?」
今更平等にだなんて扱えるわけがない。
「それでいい。山姥切国広を一番に考える君だからこそ、俺は君がいいんだ」