「僕たちが、していたのはそういうこと…だよ…」
「小夜!」
「小夜、起きないでください!」
「なにも、なかった…」
粟田口に比べるとやや目つきの悪い、少年―小夜左文字―は、ぎこちなく立ち上がると私にゆっくりと近づく。
近づくにつれ山姥切が殺気を強めても、何も反応をしない。彼らの兄だろう人たちが声をかけても振り向かない。
ただ私だけを見ていた。
山姥切の手前で立ち止まると、私にひたりと目を合わせた。
「やっぱり…あなたの眼には、僕たちは映らない。僕たちのことは、どうでもいいんだね…復讐すらも、する気が起きないほどに…」
手入れ部屋では遠すぎてわからなかったと呟いた。
「手入れしてくれてありがとう…でも、僕は刀解してほしい」
「小夜、何を言うのですか」
「もっと早くこうすればよかったんだ。主が死んだときに」
「…そうかも、しれませんね」
「兄上まで何を…」
「あなたは感じませんか…。彼女が、抱える虚無の一端を…。
彼らからの敵意の原因は、私たちの振る舞いにあるのです。
主以外の人間に仕える気はないと、ええ、私も思っていました。私とて、彼女を離れに追いやった一員です。
我らは神の一端でありますが、元はといえば人に大切にされてきた、ただの道具です。
いつの間にかそれを忘れ、超えてはいけない領域を私たちは超えていたのですね…」
「……」
「一期一振殿。どうか、刀を収めてください…」
「しかし…」
「あなたと彼らでは、彼らの言い分のほうが正しく思えます。今あなたに必要なのは、争いではなく弟の死を悼む時間ではありませんか…?」
「……はい」
あれだけ怒っていた一期一振を、やんわりとした言葉で納めると、こちらに背を向けた。
「出口までお送りします…宗三、あなたは小夜についてあげてください…」
江雪左文字は争いを嫌う割に、太刀の中ではトップクラスの実力者だと聞いたことがある。
その為か、彼が歩き出すと、手入れ部屋の入り口に陣取っていたものたちも後ろに下がり道を開けていく。
「…よくわかんないけど、刀解はまた後日ってことですか?」
「…あなたが、それでいいなら」
部屋を後にするときに、「主が生きていたら…」という悔しげな呟きが聞こえてきた。
「あなたの主が生きていたら、私もこんなとこにいなかったでしょうね」
私の言葉は嘆く彼の耳には届かない。