鶴丸と入れ替わった審神者♀がにゃんにゃんした話@
じーわじーわと、虫の鳴く音がする。
蝉取りがしたいという短刀たちの要望で常夏の季節に設定されたこの本丸は今、少し早い夏が来ているのだ。
耳を澄ませば聞こえてくる柔らかな子供の笑い声に、彼女は、ふうと息を吐く。
賑やかなことはいいことだけど──やはりすこし、暑いものは、暑かった。
「……みっちゃぁああ〜〜〜ん。みっちゃん!かき氷――!!」
茹だる暑さにぺたりと貼り付く髪の毛を適当に一まとめにして。
彼女は半分苛立ちを押し付けるようにそう叫んでは、ばんばん、と強く机を叩きはじめた。
時刻は丁度3時半。そろそろ、休憩の時間なのである。
「はいはい!わかってるって、ちょっと待って!」
「もうほんと暑い!ひたすら暑い!夏の景観に何てするんじゃなかった!あつい!」
たらりたらりと首筋を伝う汗を鬱陶しげにタオルで拭って、そう叫べば。
言わんこっちゃない、とどこか呆れたような声音と共に板張りの廊下を歩く音が聴こえてくる。
そうしてその声の主は、荒々しい足音と共に、声音と同じく呆れ顔で彼女を見詰めてこう言葉を落とすのである。
その顔は、彼女に負けて劣らず苛立ち気味だ。
「設定したのは君だろう!僕はやめなっていったのに!」
「だってぇええ、短刀ちゃん達のお願い聞かないなんて出来なかったんだもん〜〜〜っ!」
「知らないよ!ほら!かき氷!!」
わっと机に伏せてそう泣き言を言う彼女に。
しかし全く情けを見せない彼──燭台切は、うっとおしげにぴしゃりと吐き捨てては彼女の顔の前にどんっと削りたてのかき氷を置くのであった。
ちなみにそのシロップは、燭台切特製の苺シロップだ。
「ううっ、つべたい……きもちい……」
「ほら、溶ける前に食べてとっとと業務終わらせて。クーラーの設定温度を決めたのは君だろう。しゃんとしなよ」
「……これで27度言ってないとか嘘でしょほんと……」
氷の器をぴとりとおでこに当てながら、思わず恨めしそうに呟く彼女に。
燭台切は、呆れた溜め息を隠そうともせず、またも"決めたのは君なんだからね"と言って自分用のかき氷を机に置いてしゃくしゃくと食べ始めるのだった。
彼のかき氷も、審神者と同じく特製の苺シロップである。
この本丸は、現在夏である。
そして季節を夏にするにあたって、彼女の本丸ではとあるルールが設えられていた。
──冷房は、27度を越えてから使用すべし。
ただっぴろい本丸の電気代は、全て審神者の給料から支払われる。
水道代も電気代もなにもかも、現世に比べればだいぶ安価にはなっているものの、しかし膨大な敷地を誇る本丸内で、誰も彼もが自由に電気を使うことは審神者にとっては地味に打撃の強い出費のひとつだった。
故に、自分の給料を減らさない為にこのルールを審神者は定めたのである。
最初こそ反発の声があったものの、彼らのお小遣いだって審神者の収入から配給されているのだ。
つまり、無駄遣いをして審神者の財源を圧迫すれば、周り周って自分たちの小遣いまでカットされる。
そんな現状下で、理にかなっている審神者のルールに抗う物なんていなかったのである。
故に、今この本丸は茹だるような夏の熱気に塗れていると言う訳なのだ。
クーラーの使用は27度を過ぎてから、それ以下は扇風機で我慢すべし。
言い出しっぺの彼女も例外ではなく、湿気でむわむわと熱いこの本丸で、扉という扉を全開にしながら執務に励んでいるというのであった。
ちなみに扇風機の首は身体に悪いからと言う理由で固定されていない。
「ん〜〜〜、おいしい……。明日は抹茶がいい。宇治金時。白玉乗っけてね」
「……毎日毎日かき氷ばかりで、ほんと良く飽きないね」
「味が違えば別もんなの。返事は?」
「はいはい」
本日の──というかこの一週間ずっと近侍である燭台切を睨みつけながらそう審神者が言えば、どこか面倒くさそうに燭台切は彼女にそう言葉を返した。
いつになく扱いが雑であるが、それはこの太刀も、彼女に負けず劣らず暑さに大分弱い分類であることを知っているから、その反応にいちゃもんをつける気はこれっぽっちもなかった。
むしろつけようものなら明日のかき氷は拝めないことをわかっているから、ずさんな扱いにも目を瞑るのである。
そして、そんな彼女の内心を察しているであろう燭台切は。
しゃくしゃくと無心でかき氷を頬張る彼女に、どこか呆れたようにこう呟くのである。
「──仕事もいいけど、それが落ち着いたら、今日こそ鶴丸さんのこと、なんとかしてね。いい加減やりにくいったらないんだから。早いとこ、話聞いてあげてよ」
「……はぁーい」
言いながら面倒くさそうに瞳を細める彼女に。
駄目だこりゃと燭台切は溜息を吐いて早いとこかき氷を食べ終えることに専念するのである。
鶴丸国永の様子がおかしいと相談されたのは、1週間前のことだった。
彼女にそう報告したのは彼と親しい刀である大倶利伽羅で、うっとおしいから早いとこどうにかしろ、と彼女にそう言葉を投げ捨ててはそのまま立ち去ってしまった。
鶴丸国永は、ひょうひょうとした刀である。
平安という古く彼方の時代に打たれ、波瀾万丈な刃生を歩んできた彼は、その実掴みどころのない浮雲のような男だった。
機嫌よく笑っているかと思えば、ふとした拍子に影が差し。
機嫌が悪く腹の虫の居所が悪いのかと思えば、いつの間にか酒盛りに紛れ楽しそうに笑っている。
どこに本心があるのか全くもって掴めない──それが、この本丸の鶴丸国永という刀なのだ。
その鶴丸の様子がおかしい。
それも、彼女に対してだけ、その可笑しさは増すのである。
彼女と肌が触れれば、熱湯でも掛けられたように飛び跳ねる。
用があるから声を掛ければ、どれだけ爆笑していようがぴたりと身体を硬直させる。
あれだけ仕掛けていた悪戯は成りを潜め、かと思えば、自ら掘った穴に自ら落ちて夜を明かすなんてことすらあった。
誰の眼から見ても、様子の可笑しい鶴丸国永。
誰も彼もが、鶴丸国永の変貌に心当たりがない状態。
しかし、そんな中で確かに"思い当たる節"が在る彼女は──いやだからこそ、何もできなかったのである。
つい、この1週間前。
彼女は、鶴丸国永を手籠めにしたのだ。
正確に言えば、"彼女の身体の中に入った"鶴丸国永を。
彼女は、幽体離脱の特性を得た審神者であった。
審神者に就任してから、ひょんなことから中身が身体を置いて行ってしまうようになってしまったのである。
しかしまあ、これといった問題は今まで起きてはこなかったのだ。
身体を置いて行ったとしても、良心的な刀剣男士は毎度丁寧に彼女の自室か執務室へと身体を運んでくれたし。
彼女自身も、問題が起こらないよう最低限の注意をしたうえで、審神者業務に励んでいたのである。
──そう、あの時までは。
あの日、ひょんなことから鶴丸国永と彼女の中身が入れ替わってしまった、あの時。
今までのことに対する脅しと、彼女の身体を我が物顔で触ったことに対する仕置きとして、彼女はそりゃもう手酷く鶴丸国永のことを抱き潰したのだ。
それこそ、暫く彼女自身が腰痛に悩まされるくらいまで。
経験豊富な彼女からしてみれば、ちょっとつまんで、遊んだ程度。
しかしいくら平安に打たれ、それとなく人間のあれやそれを知っているとはいえ、身体は童貞であった鶴丸国永にとっては、少し刺激の強すぎる仕置きだったようで。
あの日から今日にいたるまで、そりゃもう見事に鶴丸は彼女のことを意識しまくって警戒しまくっていると言う訳である。
つまり、全ての原因はこの審神者にある。
しかしそうとは知らない刀剣男士たちは、鶴丸の異変に、事の当事者である彼女に"相談相手になって悩みを解決すべし"と進言してくるのだ。
そう、諸悪の根源たる、彼女本人に。
そりゃあ、彼女だって、ちょっとは悪かったと思ってる。
心身共に童貞である鶴丸に、あんなことやそんなこと、果ては道具まで使って遊んだのだ。
流石に初体験であれはなかったかなあ、と、自らの初体験を思い浮かべて──いやあのくらい別にいいだろうと思いつつ。
まあ、そろそろなんとかした方が良いかなあ、とは、考えたりは、していた。
──しかし、この暑さが全てのやる気を削いでしまう。
だって暑い、なんたって暑い。
暑くって怠くって、鶴丸に向き合うどころじゃないのだ。
日がな一日、暑いから早く夕方になってくれと願い、扇風機を全身に浴びながら執務をこなす毎日。
そんな中で、鶴丸国永と向き合って詫びつつ無駄な警戒は解く様に、だなんて説得をする気力なんて今の審神者にはまるでなかった。
だから今日も今日とて、最近お馴染みになりつつある言葉を呟くのである。
「……まあ、鶴丸の子供じゃないんだから、その内持ち直すでしょ」
「また君は、そんなこと言って……」
全く動く気のない彼女であった。
──そうして彼女は今、後悔していた。
なにをって、今の今まで鶴丸国永のことをほったらかしにしていたことをだ。
目の前には、獣のような荒い呼吸で彼女に跨る鶴丸の顔。
背中は、冷たい木張りの壁がぴとりとついていて、彼女の足の上には鶴丸が伸し掛かり跨っているから身を捩ることも出来やしない。
つまりはそう、彼女は今、鶴丸国永に跨られ、壁を背もたれにする状態で座り込まされていた。
時刻は夕暮れ。
まだ夕飯には時間がたっぷりある、執務を終えた彼女の休憩時間。
燃える様な真っ赤な夕焼けに染まるこの一室で、今彼女は、獣のように息を荒げる男に伸し掛かられているのである。
ぐらぐらと煮えたぎるような瞳の揺れが、実に怖ろしい。
「つ──鶴丸、ちょっとねえ、落ち着こう」
「…………」
声を掛けても、うんともすんとも言ってくれない。
それが更に彼女の焦りを助長し、彼女は今、どうやってこの危機を乗り切るか、必死に必死に思考を巡らせているのであった。
あれから、本日の執務を終えた後。
夕飯になるまで部屋でごろごろすると燭台切に別れを告げ、彼女は言葉通り自らの自室で扇風機の風を浴びながらごろごろしていたのである。
ちなみに、口煩い燭台切がいないから扇風機の首は固定である。
ブラも外し、キャミと短パンの気の抜けた装いで、敷布団に転がりながら扇風機の風を浴びている。
身体が冷えて寒くなったら毛布を被ればいいという、完璧にダメ人間の恰好であった。
そんな中で、とんとん、と誰かが部屋の戸口を叩いたのである。
当然、こんな恰好なものだから、彼女は部屋を開ける気はなかったのだけれど。
──その声の主が、件の鶴丸で。
しかもいつになく死にそうなか細い声だったものだから、流石の彼女も心配になり戸を開いてしまったのである。
一応は、薄い毛布を、体に巻き付けて。
そしてやはり、それが駄目だった。
部屋に足を踏み入れた途端、鶴丸は後ろ手で引き戸を締めたと思ったら。
そのまま毛布を巻き付けた彼女の身体を持ち上げ、叩き付けるように壁に押し付けた後、座り込んだ彼女の上に自らも腰を降ろしたのだ。
押し付けられた拍子に、はらりと上半身だけ毛布が垂れ落ちたのも、なんかもう全てアウトな感じだった。
──これは、まずい。
なにがってもう、全てまずい。
鶴丸は、童貞だが、この前の一件で性行がどういうものかは知ってしまっている。
つまり、どうすればいいかを、彼は知っているのだ。
「──……」
「っ!」
ばくばくと煩い心臓そのままに、どうすることも出来ず硬直する彼女に。
何を考えているのかわからない、爛々と瞳をギラつかせた鶴丸は、彼女の首筋に頬を擦りつけるかのように顔を埋めた。
思わず、びくんっと身体を跳ねさせてしまうのも無理はないだろう。
そしてそのまま、すん、と鼻を鳴らされて、彼女は全身の肌が粟立つ感覚を覚える。
「つっつる、つるまる、なに、どうした……?」
「…………」
問い掛けても、何も返事がない。
ただの屍の様だ、だなんて馬鹿なことすら慌てに慌て過ぎた彼女は考えてしまう。
つまりはパニックになっていた。
間違いようもなく大混乱というやつである。
──やばい、喰われる、このまま性的に喰われてしまう。
神たる付喪神に性的に襲われて最早神力そのものと言われる精液を腹で受け止めたらどうなるか。
噂によると一発で人間卒業するか廃人になるか中毒になり刀剣男士がいなければ生きていけない身体になるか──ああうそどれも嫌だ、嫌すぎる。
ぐるぐる回る思考回路で、今まで聞いた様々な事例やら噂やらが脳内を駆け巡っては焦りを助長させていく。
ああなんだってこんなことに──ああ私が鶴丸に手を出したからか──くっそ自分の馬鹿野郎。
間違いようもなく身から出た錆びと言う奴であった。
そんなことをごちゃごちゃと考えている間にも。
目だけ爛々と輝いている鶴丸は、彼女の肩に頭を預けたまま、左腕を彼女の背中へと回し、右手では彼女の身体を確かめるようにまさぐり始めた。
暑さやら恐怖やらで汗ばむ素肌に、ぺたりとその冷たい手のひらをくっ付けて。
そのまま、何かを確かめるように肌の上をなぞっていくのである。
──どう足掻いても性的な匂いしかしない。
「……鶴丸、話し合えばわかる。冷静に、そう冷静になろう。とりあえず離れて、話を、」
「……いい、このままがいい」
「…………、……」
──ひぃ。
いつになく抑揚のない声で、そう低く呟かれて彼女は言葉を失った。
しかしそれも仕方がない。
だって、このまま好きに触らせて満足してもらった方が安全なんじゃないかな?なんて思うレベルの声色のなさだったのである。
ばっくばっくと心臓が暴れている彼女の胸に、鶴丸はそっと手を置いた。
そうしてその柔らかさを確かめるように、下から持ち上げ、やわやわと指先に力を込めていく。
すり、と人差し指と中指でキャミソールの上から乳首をこすられて、じんわりとした感覚が、胸の頂にぴくりと走る。
「……ンっ、……、」
「…………」
そのあまりに絶妙な力加減に、思わず彼女は声を漏らしてしまった。
そして、はっとしたように唇を噛み締める。
だって、今そんな声を出してしまったら、彼女の経験上、"そういう流れ"になってしまうと知っていたからだ。
「つ、つるまる、ほんと、ほんとに待って」
「…………、……」
「待ってって、いっ、っ!ン、」
ぺたりと汗ばむ彼女の肩にその頬を合わせ、しかし微塵も彼女の言葉に耳を貸す素振りをみせないまま鶴丸は手のひらを動かすのをやめやしない。
ただ彼女の胸をぼんやりと見詰め、そのたわわな胸に触れていくのだ。
「、っ、……、……っ、!」
その指先が、陥没した彼女の乳首に当てられた。
そうして、そのまま薄い服の上からくにくにと擦られ、柔く軟く奥へと入り込もうとしてくる。
その一見すれば撫でる様な触れ方に、思わず彼女はぶるりと肩を戦慄かせた。
──身体のスイッチが、入ってしまったからだ。
「はっ、……、ぁっ、」
──まずい、まずいけど、けど、ああでも、まずい。
歴代の男たちに散々開発されつくした身体は、ひとたび"その気"になってしまえば、後はもうなし崩しだ。
そういう気分になり始めたら、もう部屋の暑ささえ、興奮剤の一種でしかなく、頭ではまずいとわかっているのにどんどん身体は反応を始めてしまう。
──ああもう、このまま喰われちゃってもいいかもしれない。
だなんて、思った、時だった。
「───ずるい」
ぽつりと呟かれた、その言葉。
それは興奮状態に陥った彼女の思考に、冷静さを取り戻させるには十分な苦悩に満ちていた。
──ずるい?
その、あんまりに悲痛な声に。
思わず彼女が、閉ざしていた目蓋を持ち上げて、鶴丸を見やれば。
ゆっくりと彼女の肩口から顔を離した鶴丸が、悄然に満ちた顔でぼんやりと彼女の身体を見詰めているのだ。
その瞳は、けれど、熱を秘めたようにぐつぐつと揺らいでいる。
なのになぜか、呆然と、泣きそうな顔で、歪んでいて。
「……鶴丸、どうしたの?」
「…………きみは、ずるい」
先程とは一転して、なんだか酷く心配になってしまった彼女が、出来るだけ優しい声でそう問いかければ。
ゆるゆると頭を振った鶴丸が、そのまま項垂れるように彼女の胸へと顔を埋めた。
それに思わず、おーい了承なしかい、とは思うものの。
流石に今はそんな言葉をかけるべきではない、と空気を読んだ彼女は、形の良い頭を見下ろしながら、再度こう問い掛けてやるのである。
「ねえ鶴丸、どうしたの?」
「…………」
問い掛ければ、ぐり、と深く顔を埋められる。
その反応につい、返事なしかい、とは思うものの。
菩薩のような寛大な心で、彼女は鶴丸のその所業を受け入れてやるのである。
間違ってもこの優しさで前回やらかしたこと許してくんねーかなーとは、思ってない。
思ってないったら、断じて思ってない。
「あれから……何回も、自分でやっても、ちがうんだ」
胸に当たる吐息が熱い。
じんわりと生暖かい息にまたちょっとむらっとしつつ。
待て待て落ち着け自分、と彼女は己をいなして鶴丸の言葉を待つのだ。
ただまあ、発情しかけた身体には、割かし辛い。
──しかし、自分でやるって、なにを?
ぼんやりと彼女はそう思う。
それとは別に、そろそろ背中熱くなって来たから、もうちょっと横にせめて移動したいなあ、とも。
たらりと背中を伝う汗が、酷く不愉快だ。
「前をいじくっても、気持ちいいのに──足りない。はら、腹のおく、奥が……せつなくて」
そう言いながら、はあ、と熱く吐息を溢しながら鶴丸は、片方の手のひらで彼女の腹に手を当てた。
慈しむように愛おしいかのように、へその窪みに親指を這わせて、手のひらで、押し付けるようにその柔らかな肉の形を探っていく。
まるで、その奥に隠されたものを、ねだるかのように。
「──きみの身体が、ずるい。なんでだ、なんで。欲しいと思ってしまう、あんなに嫌だったのに、なのに、足りないと思っちまう」
いつの間にか服の内側に潜り込んだ手が、肌をなぞりながら上へ上へと滑り昇っていく。
その手のひらが胸に触れて彼女の胸の頂きに辿り着いても、彼女は身を捩ることはなかった。
──だって、彼女自身、余りのことに空いた口が塞がらなかったのだから。
「…………なあ、なあ、きみ」
ゆらゆらと、妖しい光を纏った瞳が、ひたりと彼女の瞳と交わった。
欲に濡れるその瞳は、既に理性なんか溶かしているようだった。
だってこんなのも──彼女を見る目が、熱いんだから。
するすると、鶴丸の体温の低い指が、彼女の素肌を撫でていく。
暑さでしっとりと汗ばむ肌に手を添わせ、まるでその感触を堪能するように、手のひらを服の中に潜らせては、やわらかな肉に指を這わせていく。
不意に、鶴丸が、審神者の瞳に瞳を合わせた。
至近距離で、見れば見るほど不思議な色彩の瞳はゆらゆらと揺れていく。
そのあまりに人間離れした飴玉に、つい見惚れて何も言うことが出来ない彼女に。
しかし鶴丸は、うっとりと微笑んでこう囁くのだ。
実に妖艶に、ともすれば、女と見間違うほどの、艶やかさで。
「──はやく、俺を、抱いてくれ」
言われた言葉が、彼女は一瞬、理解できなかった。
最早その時は夢見心地にも等しくて、目の前の神が宣う言葉に、思考が追いついていなかったのだ。
けれどそもそも最初から、鶴丸は彼女の意思なんてどうでもよかったのだろう。
部屋に入ってきた時と同じ獣の瞳で、欲に蕩けきった、女の貌で。
──思い切り、その形のいい額を打ち付けたのである。
「ぁい゛っ……!!」
瞬間、奔ったその痛みに。
彼女は更に一瞬、意識を失った。
というか目の前がふわっと真っ白になった。
でもその感覚を、彼女は知っている。
だってもう、手慣れてしまった感覚なのだから。
ああ全て、知っているのだ。