B
とある廓の世迷言
ぶくぶく、とジャグジーの泡立つ音がする。
幾ら浸かっても逆上せない、最適な微温湯の中で俺は首の支えに頭を引っかけながら、全身を湯の中に投げだしていた。
「──見事なまでの完落ちでしたね。お疲れ様でした」
「……っ、──〜〜〜〜っ、うぉっうぅぅぅう……!!!!」
ばしゃん、と音を立てながら腕を出して顔面を覆う。
いやもう、ほんともう、死にたくってたまらない。
あんな、あんな小さい男の子にいいようにされて、めちゃくちゃあんあん言ってしまった。
最後なんてノリノリだった。
ノリノリで俺腰振ってた。
消えて無くなってしまいたい。
「うわっっぶはっ!」
「はあ、何をしてるんですか。チンパンジーの方がまだ知能的ですよ」
動物みたいな呻き声を上げながら顔をぶんぶんと振っていたら、首の固定場所から頭が外れて湯船にインしかける。
だけど基本寝っころがる用の浴槽は浅いから、特に問題なくまたずるずると自分でそこに頭を置いて寝っころがった。
ぶくぶく肌に当たる気泡がとても気持ち良くて、また死にそうになる。
くろ助の罵声はもう、スルーだ。
「暴れるのは良いですが局部をそこから出さないでくださいね。修復中ですから」
「ううううっ……!、こんなのっこんなの聞いてないいいいい……!」
「言いましたよ。彼らは人の身体をよく知っていると」
「もっとっもっと詳しく教えて欲しかったあっ!」
あの後、俺は過去最長の勤務時間を達成した。
どういうことかって?ラウンド回数重ねまくりってことだよお疲れ様でした!
何ラウンドしたかは数えようがないからもうわかんない。
でもいちゃいちゃ休憩挟んでからのおっぱじめを覚えてる限りで5回以上はやってるから、その回数の悍ましさたるや察しもつく。
なによりヤバいのは、最初の一回以外全部俺が強請って甘えておっぱじめてるってとこだ。
俺が、主体的に、抱かれにいったのだ。
「むり……短刀こあい……おれ女の子にされちゃう……」
「安心なさい。貴方は既にオンナノコです」
「心もって意味だようぅぅぅ!お股のちんこは奪われても心のちんこは守りたいんだよっ!!うひっ!?」
足を動かしたら、ジャグジーの泡が溜まってたのか、こぽりという音と共にあそこから大きな気泡が出た。
それを肉眼でも見てしまい、すん、と顔から表情が抜け落ちていく。
気泡がでるということは、穴があるということだ。
それはどういうことかと言えば、俺の所謂まんこは今ゆるゆるのガバガバだということで。
「完璧に拡張が完了されていますね。ただ、膣の入り口及び周辺の筋肉に損傷はありません。流石は短刀。絶妙な力加減で中の膣内だけを押し広げた様です」
「でもいま……くうき……ごぽって……」
「子供のサイズとは言え、腕が挿入されてたのですよ。少し弛むのは仕方なしでしょう。いわば、産後の妊婦のそこと近い状態にありますね。まあ、近いと言うだけでそれには及ばないのですが。この程度なら安静にしていればまた戻りますが、貴方は仕事があるので常人よりも早く修復していると言う訳です。あと三十分ほどで最適な状態に戻ります。治ったら思う存分締まり具合を確認すればよいでしょう」
「……世の妊婦さん凄すぎだろ……。そうだよな、赤ちゃん出て来るんだもんな……やべえ、すげえ……」
力を抜いて身体を揺らしていれば、二つのおっぱいと腹と太ももが水面にぷかんとこんにちはしてくる。
おっぱいは浮いちゃうから仕方ないとはいえ、腹の方は駄目だ。お湯から出ると治せなくなる。
だけどぐったりと力が抜けた身体じゃ、沈める気力もわかなくて。
俺はくろ助の方を向いて声を掛けることにした。
「くろ〜くろ助〜まんこ浮いちゃう。重りおいて」
「客の前でまんことか言ったら折檻しますからね」
「いわねぇよ。ッ口に出せないっはずかしい……っみたいな素振りするわ。基本あいつらそれでもドエスだがな!あ〜でも今回なんかそれも出来なかったな……なんでだろ……」
くろ助が、長方形の柔らかい重りを俺の腹の上に置く。
すると絶妙な重さで俺の腰辺りはほんの少し沈んで、おっぱい二つと足の爪先だけがこんにちはするようになった水面に俺は安心して息を吐いた。
そして思う、なんで最初からあんなにラノベのヒロインみたいにツンツンしてしまったんだろうと。
いつもは、これでももうちょっとしおらしい態度を取れるのに。
「ふむ。まあ、予想するに本能的な恐怖を覚えたのでは?」
──恐怖?
予想外の言葉が耳に届いて、訝しげな目でくろ助の方に視線を向ける。
身体がだるくて酷く重い。笑えないレベルの全身疲労だ。
「何度も言っていますが、あれらの刀は人の身体をよく知っています。そうして、短刀は時に守り刀として、時に主の命を絶つ懐刀として人に望まれ在り続けてきました。いわば、"生まれてから死ぬまで一緒"という感じですね」
「やめて……そんな"おはようからおやすみまで"みたいに可愛いニュアンスで重いこと言わないで……。んで、それがどう恐怖に繋がるわけ?」
そう質問、檜の浴槽の縁で、くろ助はくるんと尻尾を巻いて座り込んだ。
その黒々とした瞳は、相も変わらず感情が読めない。
「腹を切る、、、、為の刀なのですよ、短刀は。貴方はその短刀に、己の腹を差し出したというわけです」
「……えっ」
「ちなみに言いますと、今回太鼓鐘貞宗が取った手法は"フィストファック"という玄人向けのやり方ですね。基本的に、この手法で快楽は得られず受け手は苦しむのが常のようですが」
「…………俺、死ぬほど気持ちよかったんだけど」
「貴方は訓練を受けてますから。更に太鼓鐘貞宗も、貴方の身体の具合を吟味した上での行為の様ですし。先も述べた通り、膣内を拡張こそされど、膣内及び子宮に対する損傷的ダメージは皆無です。末恐ろしい」
言いながら、くろ助はぱたりと尻尾を振った。
すると俺の目の前に、ぱっと青白いパネルが投影される。
何度見てもアニメみたいな画面である。
そこには俺の身体にそっくりってか俺の身体のラインの人型が投影されている。
術前術後みたいな感じのビフォーアフターが映し出されていた。
内臓の形までイラストみたいな線でくっきり描かれていた。
──確かに、膣の中?が拡大されてる。
いや、これ伸びすぎじゃね?
「えっなんかかなり伸びてない?これちゃんと縮むの?肉びろんびろんになってね?」
「縮みます。というか、縮ませます。肉体的にも人間の回復力で縮小する部分もありますし、なにより貴方の浸かっているこの湯は記憶した形状を再現しますので、貴方の最適な身体の状態に戻す効果があるのですよ。まあ、膣内に限っては、伸びきった肉はそのままに、形を整えるだけなのですが」
「それなんて形状記憶合金。ん?いやでもあれっそれってこう、凄く波々しちゃわね?伸びきった皮はそのまんまで無理やり詰めて元の形!ってするわけだろ」
「ええ。伸びる度に形だけを戻しています。その様な中が波打ちうねる形状の膣をミミズ千匹といいます」
「アッそれなんか聞いたことある!名器のやつじゃん!やっだ俺名器じゃん!」
「だから何度も言ってるでしょうが」
そっか、俺名器なんだ……。
でも自分の身体だからちんこ突っ込むことできないんだ……。
いやていうかちんこ取られたから使えない……。
こんなに夢も希望もない名器があっただろうか、いや、ねぇよ。
しっかし、本当に太鼓鐘貞宗はヤバかった。
あれは完璧なる外見詐欺だ。
第一印象はアイドル顔の元気そうなガキだったのに、別れる時はなんかもう丸きり違った。
きらきら光るエフェクトが見えちゃってたよ。
しかも、もンの凄い性的に魅力的で格好良くってエロい生き物にしかみえなかった。
笑顔がめっちゃ落ち着いてて大人っぽくってきゅんきゅんしまくりだった。
今も思い出すだけでちょっとお股がきゅんきゅんしてやばい。
短刀こわい。
「短刀ほんとヤベーよ。俺、お客帰したくないなんて思ったの初めてだよ……。やべー、やべーよ。あれやべえ。ほんと、飴鞭が絶妙過ぎてあれは癖になる。頑張ったら褒めてくれんだよ……。きゅん死にするかと……いやむしろきゅんって胸のときめきを初めて感じた……」
「なに雌猫みたいな顔晒してるんですかこのチョロイン」
言いながら、くろ助は尻尾をふるりとひとつ振った。
すると目の前のパネルの画面が切り替わって、今度は嫌に美形な少年たちの顔がぱっと映し出される。
──これは、なんぞや?
「ここに、というか貴方に興味を示す刀剣男士の一覧です。左から、打刀、脇差、短刀。今回短刀である太鼓鐘貞宗の太鼓判を頂きまして、短刀がイけるなら他の刀もと政府が……」
「ふざっけんなよ死ぬわ!!こんなん増えたら俺マジで死ぬわ!つかなんだよ太鼓鐘の太鼓判てギャグかよっ……!」
右から左へアイドルも真っ青なお綺麗な顔が並んでる。
打刀?ならまだわかるけど、右に行くにつれどんどん幼くなってって中には女の子みたいのもちらほらいて、本当にこいつら女抱きたいのかよ!と突っ込みたくなってしまう。
いや、こんな可愛い顔した男の子に俺腕突っ込まれたんだけどさ!腕!まさかの!腕!
もうっもうほんとうにっっ!
じんわりと、目尻に涙がにじむ。
もうなんだって、いやもうほんと、抱かれるのはもう諦めてるからほんと、これだけは。
「同僚っ入れてくれよッ……!」
空しい声が、浴室に響き渡る。
そんな声を尻目に、知らん顔で黒い狐は予約を入れていくのだ。
今日も遊郭吉原は、予約満員である。