鈴蘭は鶴丸に花を捧げる
翌朝、目覚めた私は清潔な布団の中で、こざっぱりとした身体で鶴丸の抱き枕になった状態で目を覚ました。
時計を見れば朝といえど昼間近であり、鶴丸の攻め立てにどれだけ体力を奪われていたのか思い知らされて震えが走る。
昨晩の記憶を思い出そうとしても、途中から鶴丸の好きなようにされていたとしか覚えていない。
最期のほうなぞ記憶に無い。一体私はどうして彼の腕の中に納まることになったのか誰か三行で説明して欲しい。
もぞり。
彼の白く細い腕から抜け出すべきかと重く軋む体を僅かに動かせば、目の前にあった鶴丸の白い睫がぴくりと動いた。
そして数秒の後、蜂蜜を溶かしたような金色の瞳がぼんやりと私を映す。
昨晩この瞳が野獣のように闇夜にきらめき私を見下ろし犯していたのだと思うと、散々精を貪ったはずの子宮が僅かに疼いた気がした。
「んー……ああ、きみ起きたのか。おはよう」
「お、はよう、ござい、ます」
「はは、声が思い切り掠れているな。無理して喋らなくていいぞ。
昨晩は無理をさせて済まなかった。初めてであれはきつかっただろう。俺も調子に乗りすぎた」
そう言って布団の中、腰を引き寄せられ首筋に顔をうずめられる。
すーはーと鶴丸が深呼吸をするせいで、息がかかってくすぐったい。
しかし身じろぎをしようにも体のあちこちが痛むせいで禄に動かすこともできなかった。
まぁあれだけヤりまくったのだ。当然といえば当然だろう。
「んん、良い匂いがするな。君が気絶した後式神が現れて身を清めていた。あれは妓楼の手のものか?」
鶴丸に問いかけられ、女将に説明を受けていたのを思い出した。
刀剣男士は文字通り私たちを"抱き潰す"ことが多い。だから後始末はほとんどの者が式神に任せているのだと。
どうやら私も初めてということで念のため式神の申請をしておいたのが役に立ったらしい。
こくんと頷く私を見て、鍛刀の式神に似ていたと笑う彼に私も目じりを緩める。
「やっぱりそうか。俺の風呂の世話までされそうになったのも含めて良い驚きだったぜ。
着物をかけておいてくれたのは助かったがな。流石に風呂の世話はされたことがない」
「ふふ」
私を抱きしめたまま大げさに言う彼に、思わず笑い声が漏れる。
鶴丸は私の首筋から顔を上げると、私の顔をまじまじと見て頬を緩めた。
「きみ、今の笑顔のほうが断然いいな。昨晩よりも可愛い」
だから何故鶴丸は唐突に褒め言葉を挟むのか。カっと頬に熱が集まるのを感じながら、赤くなっているであろう顔を隠そうとするものの鶴丸は私を逃がしてくれない。
それどころか唇を重ねられてしまって、更に顔が熱くなる。ちゅっちゅっとリップ音をさせながら、角度を変えて何度も何度もキスをされる。
「昨晩はこれ以上のことをしたというのに、これしきで赤くなるとは。おぼこいなぁ」
「つるまるのせい、です」
「俺のせいか。じゃあこれで許してくれ」
ちゅっと鼻のてっぺんにキスを落とされ、完全にからかわれているのだと悟った私は敢えて頬を膨らませた。
私の反応に鶴丸はからからと笑うと、よいせというどこか爺臭い掛け声と共に体を起こす。
どうかしたのかと彼を見上げれば、そろそろ時間だからなぁと言って白い浴衣を脱ぎ始める彼に慌てて私も体を起こそうとした。
が、腰から走る痛みに再度体を突っ伏す羽目になった。痛い。
「ああ、無理しなくていい。着替えは自分でできるしな」
そう言って鶴丸は私に布団をかけなおすと、言葉通りしゅるしゅると着物、というより戦装束を纏っていく。
その手に迷いはなく、手伝う余地がないことを知った私は素直に手を出すことを諦める。
しかし見送りはしなければならない。なので彼が着物を着終わったところで痛む体に鞭を打ち、何とか布団から起き上がる。
「おいおい、起きて大丈夫なのか」
「お見送り、させてください」
「無理はさせたくないんだがなぁ。いや、原因の俺が言うことじゃないとは解っちゃいるんだが……」
「せめて、玄関まで」
「解った解った。玄関までな」
鶴丸が何とか起き上がった私の手をとり、玄関までエスコートしてくれる。
これではどちらが客なのか解ったものではないなと心の中で苦笑しながら、鶴丸と共にゆっくりと玄関まで移動する。
そして玄関の上り框のところに私を座らせると、ぱんぱんと手を叩いた。
途端にぽふりと可愛らしい音を立てて現れた式神達に私の世話を頼むと告げ、からりと音を立てて履物を突っかける。
「世話になった。最後になるが、名を聞いてもいいかい」
座ったままの私の頬に、グローブの嵌められた薄い掌が添えられる。
彼の問いかけに私は少しだけ迷った後、玄関を飾る鈴蘭のレリーフを指差した。
鶴丸はそれを見て納得した後、だから香花楼なのかと一人ごちる。
そう、私達は女将から皆花の芸名を与えられる。香花楼の名に相応しく、皆客の心を慰める花となるのだ。
鶴丸は一人納得すると、腰を曲げて最期にまた私にキスを一つ落とした。
見上げれば嬉しそうに細められた金色の瞳が私を見下ろしている。
「また来る。鈴蘭」
甘い甘い囁きを残し、白い神様は去っていく。
その背に深々と頭を下げる。
顔を上げたときに残っていたのは、鈴蘭のレリーフだけだった。