へし切長谷部は主を冒したい

鶴丸を受け入れて以来、私の娼婦としての日々は本格的に開始されたと言っていい。
先輩方の言うとおり見た目だけは大人しそうに見える私はそれなりに人気があるというか、刀剣男士達からすれば主と姿を重ねやすいらしく、夜の部だけでなく昼の部のほうでもちょくちょく指名が入る。
昼の部は褥の相手をしなくてもいい分楽といえば楽だが、その分相手の刀剣男士達から求められるものが不透明なので精神的にはこっちの方が疲労が濃い。
でも私は一日でも早く借金を返済するという目的があるのだから四の五の言っていられないと、昼の部と夜の部両方の仕事を請けていた。

今日の夜の客はへし切長谷部。
先輩曰く、へし切長谷部は一度拗らせると後が面倒、だそうだ。



会員番号:二〇〇〇七三六

名:へし切長谷部

呼び名:長谷部

要望:四脚の椅子を一つ用意して欲しい。喋るときは敬語で。おっとりとした口調だとなお良し。

その他:ピロートークを好まず、また行為の最中も無駄な会話を求めない。名前を呼ばれることだけは喜ぶ様子。
娼婦に審神者を投影する典型的な客と思われる。玄関まで迎えに行かず、執務室で出迎えること。
また執務室では審神者として彼を迎えること。それ以外の過剰な接客は慎むこと。


成程。確かに面倒そうであった。更にその下につらつらと書かれている過去の記録からのアドバイスに目を通しながら、僅かに目を細める。
つまり彼は審神者を模したお人形を抱きにきているのだということが如実に解る内容であったからだ。
ここまで投影が強い客というのも珍しい。大抵の客は審神者と娼婦が別人であると納得している。
だから行為の最中に審神者のことを呼ぶことはあれど、前後は普通に娼婦として審神者への思いを吐露したり、愚痴を吐いたりということが多い。
そう言った場合私達は聞き役に回り、時に審神者へのプレゼントのアドバイスをしたり失恋した刀剣男士を慰めたりするわけだが、この長谷部はそう言ったやり取りすら拒否しているということで。

「なるべく喋らず、審神者らしく……か」

誰かが私の作った領域に足を踏み入れた気配を感じながら、自分に言い聞かせるように小さく呟く。
そして足音を立てずにやってきた彼は微かな音と共に襖を開き、やってきた彼は口を真一文字に結んだまま私を見下ろした。
その紫色の瞳は僅かに細められており、まるで品定めされているようなそんな錯覚に陥る。
否、実際に品定めされているのだろう。私はさも仕事をしていましたよという風を装って情報端末を閉じ、今気付いたといわんばかりに長谷部を見上げた。

「お帰りなさい、長谷部」

「……ただいま、もどりました」

あるじ。と唇が動いたように見えたのは私の錯覚だろうか。
どうやら私は彼のおめがねに適ったらしく、長谷部は私の横に正座する。

「お仕事は終わりましたか?」

「今ちょうど休憩を取ろうと思っていたのです。少しばかり喉が渇いてしまって」

「ではお茶を淹れましょう。ご一緒しても?」

「勿論です。良い気分転換になります」

長谷部は私の答えに満足したらしく、近くにあった電気ポットや湯飲みなどを引き寄せて手馴れた手つきでお茶を淹れてくれる。
そうして長谷部の淹れてくれた茶を飲み暫くまったりとした時間が流れていたのだが、部屋の隅に置いておいた四脚の椅子、ありふれた木製のそれをさも今気付きましたといわんばかりに長谷部が目をやる。
そしておずおずと、私にあの椅子に座ってくれないかとお願いをしてきた。どうやらここからが本番らしい。

「構いませんよ。珍しい長谷部のお願いですもの」

そう言って長谷部の手を借りて立ち上がり、そのどこにでも売っていそうな椅子に腰掛ける。
肘掛に腕を置けば、長谷部は目の前に膝をつき、興奮を隠し切れない瞳で私を見上げてきた。

「あの、それではもう一つお願いが。俺が良いと言うまで目を閉じ、椅子に座っていて欲しいのです」

「解りました。ここに座っていれば良いのですね」

背もたれに背中を預け、目を閉じて長谷部のリアクションを待つ。
まぁ痛いことはされないだろうという安心感と、それを踏まえたうえで何をされるかわからないという適度な緊張感に少しだけ鼓動のテンポも速まっているのがわかった。
するとするりと足袋を脱がされる感覚があった。反射的に足を引っ込めそうになったものの、ぐっと堪えてされるがままになる。
"お願い"という体をとってはいるが、客の要望に逆らえる筈が無いのだ。
両方の足袋を脱がされ、素足に触れる布の感触。手袋をしていた長谷部の掌が足の底に手を沿え、そっと私の足を持ち上げたようだった。
普段人に触れられることの無い場所を丁寧に扱われていることにどきどきしてしまう。

「ああ、あるじ」

恍惚とした声が聞こえた。ああ、きっともう彼に私は見えていないのだろう。
長谷部の目の前にあるのは私の足なのだが、この瞬間から長谷部の中で主の足と認識されているに違いない。
ちろりと生温かいものが足の爪先に触れる。ひっと喉が引きつりそうになったのを何とか堪えた。
そのままねぶるようにして足を舐め始める長谷部。指の先にキスを落とし、生温かく柔らかな舌が足の指の間を這い、小指を舐めしゃぶられる。
服を剥かれるのとはまた違う羞恥心が湧き上がり、足を引っ込めたいのを必死に堪えながら目を閉じたまま声をかみ殺した。

彼の主は大人しい人らしいから、あられもなく声をあげることはしないだろう。
むしろ性的に興奮を覚えたことを何とか隠そうとするんじゃ無いだろうか。
そう思って、何とか唇をかみ締めて耐える。それでも鼻から抜けるような声が時折漏れた。
普段触れない場所な分、異様に敏感に感じ取ってしまう。

あるじ、あるじ、と声が続く。はぁ、と熱い吐息が足の甲にかかる感覚。
見えていない分、私の肌も敏感になっているようだ。
舌がだんだんと位置をずらし、上がってくる。くるぶしを軽く吸われて今度こそびくりと体が跳ねてしまった。
もしかして足先から順番に全身を舐めていくつもりなのかと、恐ろしい予想が脳裏を掠めて血の気が引きそうになる。
否定する材料が見当たらないことにちょっとだけ涙が出そうだった。

「ん……ぁ……ふ、ん……っんン」

じっくりと、時間をかけて。
長谷部が私の足を支えながら、舌は止まることなく動き回る。
くるぶしを通り越し、ふくらはぎに幾つものキスを落とされ、緋袴をめくり上げたかと思うと骨に沿うように舌が這い上がり、時折甘く噛み付かれる。
ゆっくりゆっくり足を唾液塗れにされ、膝を重点的に舐めしゃぶられ、時間をかけて内腿に辿り着いたときには私の体は完全に欲情していた。
内腿にしゃぶりつくため私の足の間に顔を埋めていた長谷部の鼻腔には、愛液の独特の匂いが届いていたに違いない。

しかし長谷部は捲り上げていた緋袴を降ろしたかと思うと、今度は逆の足を同じように爪先にキスを落とす。
もしかしてまた時間をかけて同じようにするつもりなのかという私の危惧は当たってしまった。
足首に吸い付き、舌で大きく舐め上げられたかと思うと、何度も何度も跡が残らない程度に吸い付きながら少しずつ唇が上へと上がっていく。
これではじっくりと時間をかけて身体を解きほぐされているようなものだ。現に私の秘部は疼き、下着が愛液で濡れているのが解る。
焦らされすぎて全身が敏感になっていた。椅子の肘掛をぎゅっと握り締めて何とか耐えているものの、それでも満足に快感を与えられず煽られるだけ煽られるのは辛いものがある。

「あるじ、お慕いしております。ああ、あるじ」

私が必死に声を堪えて息を吐き出す合間に、熱に浮かされたような声が室内にむなしく響く。
届く筈が無い愛の告白を虚空へと吐き出しながら長谷部は足を舐めきると、今度は緋袴を元に戻すことなく肘掛に置いていた私の手をとり人差し指にしゃぶりついてきた。
間違いなく、彼は私の全身を舌で愛撫するつもりだ。秘部の疼きが更にひどくなり、歯をかみ締めて必死にはしたなく強請りたい衝動を堪える。
わき腹に軽く触れられるのも、片手を繋ぎあいもう片方の手の指を舐めしゃぶられるのも、肘のくぼみに丹念に舌を這わせられるのも、肩に吸い付かれるのも、手首にキスを落とされるのも、鎖骨に沿って舌が動くのも、全て全て全て私を煽って仕方が無い。
瞳を閉じているせいで時計を確認できないために正確なことは解らないが、胸と秘部、顔と椅子に触れている面以外のほぼ全身が唾液塗れになった頃には既にとっくりと時間が過ぎてしまっていた。

「はふぅ、ひぅ……ふぅ」

乱れた着物は最早肌を隠すのに役立っておらず、むしろ男を煽る一環にしかなっていないだろう。
べだべだになった肌に布がへばりついて気持ち悪かったが、これでもかと時間をかけて丁寧に丁寧に紐解かれ欲情させられた体では最早気にする余裕も無い。
息もとっくに乱れ、下腹部から切なさが全身に響き渡り、目尻からは何度も涙が伝っていた。
言わずもがな、下着は既に唾液とは別の液体に塗れてぐちゃぐちゃになっている。

「ああ、あるじ、至高のお時間を頂きこの長谷部、喜びの念に耐えません。主のお体はどこも甘く、夢のような時間でした」

ようやく長谷部に許可を貰って目を開けると、うっとりとした表情の長谷部が目の前に膝をついていた。
僅かに残った理性をかき集めてから長谷部に微笑もうとしたのだが、ふいに膝から足の甲にかけて指を一本、つつと這わされそれも失敗する。
びくん!とまるで電流でも流されたかのように大げさに反応してしまった私に長谷部笑みを深く深くする。

「つきましては主、どうやら主はお体の調子が宜しくないご様子。私で宜しければ褥に運ばせて頂きますが、御身に触れることをお許しいただけますか?」

「そう、ですね……お願い、します」

誰のせいだ。心の中で悪態をつきながら、彼が望んでいるであろう答えを口にする。
これで終わらないこと、むしろこれは前章でしかないことなど、解りきっていた。

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