三日月宗近は花を愛でる
「お帰りなさい」
「うむ。帰ったぞ」
そう言って迎えたのは、天下五剣で最も美しいと名高い三日月宗近だった。
初見らしいが、初めての人間が大抵は面食らうこの出迎えの文句にもきょとんとした後、ほけほけとした笑顔で当たり前のように返してくれる。
そんな彼を笑顔で出迎えつつ、私は先輩が気をつけろと言っていた事を思い出していた。
実は、三日月宗近を客として取るのは初めてのことだ。
何でも先輩曰く、三日月宗近は大抵審神者との恋を成就させてしまうので、この店のコンセプトに合わず客としての絶対数が少ないらしい。
そして来たら来たで大変だ。何といっても相手は自分の美しさがどれだけ人を狂わせるか知っている。
狂気の代名詞たる三日月の名を冠するに相応しく、仕事だとわかっていながら三日月に溺れていったオンナは数多と居たのだという。
あなたも溺れないよう、気をつけなさい。
個体差にもよるけれど、自分に溺れさせて娼婦を弄ぶ三日月が存在するのもまた事実だから。
先輩の言葉を胸に刻み込みながら、茶を振舞いながら三日月とのお喋りに花を咲かせる。その笑顔は確かに美しい。
彼に溺れて理性を狂わされることのないよう、しっかりと自分を持つのだと改めて決意した。
そう、決意した、筈なのだ。
筈、なのに。
「ぁ……ん、また、ぁ」
「はは、火照っているなぁ」
私は今、三日月に狂わされていた。別に快感漬けにされたわけでも、淫紋を弄くり倒されたわけでもない。
お茶を振舞って、少し話して、そのまま布団の上で口付けただけ。
それから私の服を一枚一枚丁寧に脱がせた三日月に、体を撫で回されているだけ。
そう、撫でられているだけ。
最初は頭だった。
いい子いい子と子供にするように撫でられ、続けて頬を、首筋を、そして背中を順番に指は滑り落ちていった。
手袋と手甲を外した三日月が人差し指で背筋をなぞり上げ、触れるか触れないかの絶妙なタッチで肩甲骨を撫で上げる。
掌は使わない。肌に触れるのは飽くまでも五本の指のみ。円を描くように、桜の落ちる速度でゆっくりと指は動く。
同時にふくらはぎも撫でられた。その優しい手つきは愛撫と呼ぶに相応しかった。
触れるだけのキスを何度も何度も繰り返しながら、三日月は私の肌に触れ続けた。胸と足の付け根を除いて。
「はっ、ぁ……わき、ぁん」
「ん?ここが好きか?」
「その、その下に、ぁ……触ってぇ」
「ここか?いやいや、まだ準備ができておらなんだ。しばし待て」
私の性感を高めるために、あちこちに伸ばされる手。対面して座りながら三日月の腕の中に閉じ込められている。
降ってくるキスに応えながらもっと先へ進んでくれと強請っても、三日月は叶えてくれない。
今もほら、二の腕を一本の指が這い上がり、脇腹を優しく撫でられ火照った体が大げさに反応する。
内腿を撫でられた。
頭を撫でられた。
脇腹を撫でられた。
指を絡められた。
頬を撫でられた。
手首を撫でられた。
臀部を撫でられた。
キスが振ってきた。
単調といっても過言ではない。ただ五本の指で撫でられているだけなのだ。触れるか触れないかのソフトタッチで、時間をかけてじっくりと。桜の落ちる速さでゆるゆると。
にも関わらず私の身体は三日月の思うがままに発情のスイッチが入り、感度も上がって撫でられるだけで腰が跳ねるようになってしまっている。
未だ狩衣を乱すことなく纏っている三日月が恨めしく感じてしまうほど、私は確実に発情していた。
涼しげな顔で楽しそうに私を見下ろす彼を見ると、いっそのこと目の前の彼は近くて遠い別世界に居るのではないかと錯覚してしまうほど。
腰が引き寄せられ、またキスが降ってくる。薄い唇が私の唇に重なり合い、柔らかな舌が私の唇を舐め上げる。
舌が絡められることはない。解っている。焦らされている。昂ぶらされているのだ。
「じじいがたくさん、可愛がってやろうなぁ」
甘ったるく囁かれて、熱い吐息が耳たぶにかかった。
それだけでぞわぞわとした感覚が背中を這い上がる。
それが解っているのか首筋にも熱い息を吹きかけられ、身をよじって逃げ出そうとするも三日月はそれを許さない。
「俺から逃げることは許さんぞ。受け入れよ」
「ぁ……っ」
「よしよし、そうだ。たんと愛してやろうな」
抵抗をやめればすぐに腕の中に抱きしめられる。肌触りのいい狩衣が火照った素肌に触れるだけで気持ちがいい。
そんな私を見透かすように、首筋に顔を埋めた三日月の唇が肌の上を這いまわる。別に舐められているわけではない。
三日月の形のいい唇が首筋を這い、鎖骨へと滑り肌に触れているだけ。それだけでも色づいた肌は鋭敏に快感を感じ取る。
「三日月、つき、月、おねがい。ね? おねがい」
「はは、どれ。可愛らしいおねだりに免じて、次の段階に進むとしよう」
思考力が低下している私の言葉に三日月は愉しそうに笑う。
そしてその言葉の通り、私を優しく寝具の上に寝かせると、ようやく胸へと手を伸ばしてくれた。
彼の大きな掌が私の胸を揉み上げる。掌で乳房を包み込み、中指と親指に僅かに力をこめられるも痛みなど存在しない。
胸を弄ぶのではなく私を気持ちよくするために三日月の掌は動く。散々火照らされた身体はそれだけで絶大な快感を私へと齎してくれた。
「はァ……っ!ぁ、ぁあー……っん、ぁ!」
気持ちいいではなく心地よい。素直にそう思えた。じんわりとした熱が快感の波となり私の体を包んでいく。
柔らかな乳房の感触を楽しみつつ五指を波のように動かし、じわじわと私の体を快感の漣で満たしていくのだ。
火照った身体に当然のように馴染んでいくその熱に浮かされ、肌は桃色に染まっていく。
そしてやわやわと揉まれ形を変えている乳房に、三日月が啄むようにして小さく口付けた。
薄い唇の感触に僅かに肩を跳ねさせた私に笑みを浮かべ、口付けは吐息を漏らす唇へと場所を移す。
上唇をちろりと舐めあげられたかと思うと、下唇を唇で挟まれ、中途半端に開いた口の中に三日月の舌が侵入してきた。
私の口内をまさぐる舌は縦横無尽に動き、上あごを舐められ歯列をなぞられ舌を絡められてうっとりとした私は目を細める。
彼の舌に翻弄されるのは気分がよく、このまま延々と口付けていたい気持ちにさせられた。
が、そんな甘やかな時間に突如ぴりりとした刺激が混じった。
乳房を揉んでいた三日月の掌が離れ、今だ柔らかさを保っていた胸の突起を摘みあげられたのだ。
たったそれだけのこと。しかし火照った体には電流が走るような刺激に違いなかった。
つんと立ち上がり硬さを主張し始めたそこを人差し指の腹で撫でられ、円を描くように優しく転がされる。
もどかしいほどに優しい愛撫を受けながら、ようやく離れていった唇に一抹の寂しさを覚えつつ喉奥から嬌声を漏らす。
「うぁ、ん……はっ、あ……んっ!」
「肌が桜色に色づいてきたな。どれ、少し強めてやろうな」
唾液に濡れた唇の上を、いやらしく舌がなめあげる姿を見た。
ただの舌舐めずりのはずなのに三日月の美しさと艶やかさが相まってとても背徳的なもののように見えてしまう。
高鳴る鼓動に応えるように三日月は私の耳に舌を這わせると、先程よりも強い力で突起を摘み上げ親指と人差し指で転がし始める。
じんじんとした快感に子宮が期待するように疼き、三日月の狩衣を強く掴みながら与えられる快感に酔いしれた。
三日月の手によって少しずつ強い刺激が与えられていく様は、まるでじんわりと体を包んでいた心地よい快感に皹を入れていくようなものだった。
温めていた卵の中の快感を少しずつ引きずり出されているような、不思議な感覚を覚えながらも弄くり倒される胸の突起が気持ちよくて身悶える。
私に覆いかぶさっている三日月の背中に腕を回しても怒られたりしない。
それどころか褒めるように耳を舐めしゃぶられ、間近に響く唾液に音にぞわぞわとした感覚が背中を駆け上がった。
「どうだ?きもちがいいか」
「ぁ、つき、ん……きもち、い……ぁ」
「いいこだなぁ。素直なおなごは愛いものだ、もっと乱れるがよい」
耳が開放され、胸の突起を摘んでいた手が離れ乳輪をなぞった。
かと思うとみぞおちをゆっくりと滑り降りていき、淫紋の施された下腹部を指一本で押される。
「ここに……たっぷりと注いでやろうなぁ」
くっと力をこめられ、肌が沈む。
三日月の浮かぶ瞳を細めて私を見下ろす三日月は美しい微笑を浮かべたままだ。
神気が注がれるのかと思ったが、そんなことは無かった。
その指は更にするりと下へと降りたかと思うと、私の太ももを抱えて足を広げさせる。
背中を丸めた三日月は淫紋に一つ唇を落とした後、へそのくぼみに舌をねじ込み、もう片方の手でしっとりと汗ばみ始めている足へ指を這わせ始める。
「汗ばんでいるなぁ。よほど体が火照っていると見える」
「あ……だって、月が……」
「はは、俺のせいか。ではもっと熱くしてやろう」
内腿を、膝頭を、ふくらはぎを、足の指一本一本を丁寧に撫でられた後、足の付け根……その茂みを擽るようにして撫でられた。
既に愛液に溢れている秘部は待ち望んでいた快感が与えられるかもしれないという期待に溢れていて、太ももを抱えなおされ惜しげもなく晒される。
顔を近づけられ、ふぅと息を吹きかけられるだけで私の腰が小さく跳ねる姿に三日月は笑う。
「ふむ、蕩けさせてやろうかと思ったが……既に蜜が滴っているな?」
「あ、やだ、見ないで……っん」
「さねもこんなに赤くなって……はちきれんばかりではないか」
整えられた茂みの更に奥、洪水状態のそこをまじまじと見られた羞恥心にいやいやと首を振るが三日月は私の秘部をじっくりと眺め続けた。
その視線にすら犯されている気がして、秘部がひくついてしまうのが自分でも解るのが嫌だった。溢れた愛液で布団はじっとりと濡れているのだろう。
そして三日月は言葉の通り、赤くぷっくりとした秘芯を指先で突いたかと思うと、指の腹でぐりぐりと押しつぶして刺激し始める。
ただでさえ敏感なところをそんな風に苛められて何の反応も示さない筈もなく、大きく腰を跳ねさせた私は今までとは比べ物にならない鮮烈な快感に喉を震わせた。
「んぁあっあ、ぁ……そこ、敏感、だから、ぁ……っ!」
「そうだなぁ。少しつつくだけで腰がよく跳ねる。よほど気持ちが良いと見える」
つんつんと気紛れに突かれるたび、私の腰は三日月の言葉の通りよく跳ねた。
好きで跳ねさせているわけではない。敏感になった身体には、過ぎた責め苦に嫌でも体が跳ねてしまうのだ。
しかも意地悪なことに達することは許してくれず、ただひたすらに刺激に跳ね回り嬌声を上げる私を見て楽しんでいるようだった。
そうして私の秘芯をつついて遊んでいた三日月だったが、ようやく満足してくれたのか胸を上下させて必死に呼吸をする私を見下ろし手を離してくれる。
しかし終わりではない。むしろ今までぬるま湯のような心地よさに浸っていた体を叩き起こされた気分だったのだが、どうやらそれは正しかったらしい。
三日月の指が秘部の割れ目をなぞり、蜜で溢れたそこにじれったいほどゆっくりと指を埋め込み始める。
中にずぶずぶと入ってくる指は、細そうに見えたのにも関わらずしっかりとした質量を持って私の中に入り込んできた。
「は、ぁ……入って、きた……」
「熱いな。俺の指が気に入ったのか随分と吸い付いてくる」
「ん……ぅあ、ぁ……あっ、ふぅ」
ゆっくりと入ってきた指が根元まで埋め込まれたかと思うと蜜壷の中をぐるりとかき回される。待ち望んでいた刺激にぞくぞくとした快感が背中を駆け上がり、自然と体が震えた。
指はそのまま中をゆっくりとかき混ぜてから、また時間をかけて引き抜かれ本数を増やしてまた入ってくる。じっくりと丁寧にほぐされながら今度は胸の突起を舐められる。
その全ての愛撫に、じわじわと追い詰められている気がした。
例えるならばそう、今までは温めていただけ。それゆえに心地よさに酔いしれることができたのだが、先ほどの秘芯への刺激で殻も割られそれも終わりを告げた。
そして今、温め引きずり出された体に改めて火をつけられ、ゆっくりと情欲の炎を燃え上がらせているような。そんな感覚なのだ。
くちゅ、ぷちゅと空気を含んだ水音がする。
濡れそぼったそこは難なく三日月の指を飲み込み離そうとせず、それどころか貪欲なまでに奥深くまで咥え込もうとする。
尿道側のざらざらとしたところを、Gスポットを指の腹でぐっと押されればそれだけで腰が揺れる。
更に奥へと進んだ指が、今だ硬く閉じている子宮口をくっと押し込めばひくりと子宮が反応する。
けれどどれもこれも動きがゆったりとしすぎていて、気持ちいいのに満足には程遠い。
先ほどまでは良かったかもしれないが、最早火のついた身体はまどろむだけでは物足りなくなってしまっている。
はぁはぁと肩を上下させながら呼吸する。肌の上をすべる汗の感覚すらわかるほど全身が鋭敏になっているのが解った。
三日月の思惑通りとっくりとほぐされた身体は子を孕む準備はできたといわんばかりに男を求めてやまない。
時間をかけ、耳元で囁かれるだけでじんわりと快感が走る体へと変貌させられた私は理性でも本能でも三日月と繋がれる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
思い知った。彼を目の前に理性を保つなど到底無理な話だったのだ。
彼は知っている。自分が求められる側の人間であることを。
彼は知っている。相手の口から自らを求めさせる術を。
まんまと思惑に嵌った私は、飲み込みきれなかった唾液で濡れた唇を動かし、みだらに三日月に強請るしかないのだ。
「月、つき、お願い。月とひとつになりたい、から……なか、挿れてぇ……」
「ふむ……よかろう。その身体、この爺が満たしてやろう」
涙でぶれる視界の中、三日月の浮かぶ瞳を細めて優雅に微笑む。
神は慈悲深く、傲慢だ。
三日月はまさしく、神だった。