燭台切光忠は臆病である


「僕は最低な男だと思う。だって主の姿を重ねながら君を抱くんだ。
君にも主にも失礼なことだし、何より他の女性を抱きながら主を好きだなんてどの口で言うのかときっと言われると思う。
だけど怖いんだ。この思いをどこかで吐き出さないと、この胸の中で暴れる感情がどんな行動を引き出すのか僕には解らない。それが怖い。

だから僕はココに来て、主を呼びながら君を抱くと決めた。本当にごめん。僕は最低な男だ」


会員番号:二〇〇〇八三七


名:燭台切光忠


呼び名:光忠


要望:主のふりはしないでほしい


その他:一見の客の為特筆すべき点は特に無し


私の客としてやってきた男士、燭台切光忠はそのホストのような面差しを持っていながらとても暗い雰囲気を醸し出していた。
そしてお茶を出してもてなして口を開いたかと思えば懺悔めいた言葉を告げられ、なんと返事をして言いか解らず言葉に詰まってしまう。
此処は主のふりをして男士に抱かれるという、そう言う主旨の店なのだ。だから後ろめたさを覚える必要もないし、罪悪感を抱く必要もない。
だというのに光忠は自分のことを責めている。根が真面目なのだろうなと思う反面、根が深そうだなと思ってしまった私は悪くないと思う。

「あのね光忠、私は気にしないよ。大丈夫。此処はそう言うお店なんだから。
光忠の感情を、思い切りぶつけてくれていいんだよ。それを受け止めるのが私の役目なんだから。ね?」

「ありがとう……あはは、弱音を吐くなんて格好悪いとこみせちゃったね。その、僕初めてなんだ。色々手間取ることもあると思うけど優しくするよう頑張るから……いいかな?」

「光忠がいいなら私がリードしようか?」

「女性にリードされるってそれはそれでかっこ悪い気がするんだよね。あ、でも下手に失敗して無様な姿をみせるよりいいのかな?
うーん……正直、君や主のように人間の女性ってちょっと力を入れただけで折れてしまいそうだから触れるのが怖いっていうのもあるから……痛かったり、何か僕が間違えてたらアドバイスをくれないかな?
それじゃあ駄目?」

「駄目じゃないよ。じゃあそうしようか」

少し照れも入っているのだろうか。少し早口でまくし立てるように言う光忠を可愛いなだなんて思いながら手を差し出せば、光忠はおずおずと私の手を取った。
まるで壊れ物でも扱うかのような、そんな手つき。自己申告したとおり、怖いのだろう。
男士としての肉体を手に入れても接する女性は主一人、力加減がわからないままずっと悩んできていたのかもしれない。

「その、手を握っても構わないかな?」

「もちろん」

「痛かったら言ってね、我慢しなくていいから」

そう言って光忠が私の手を優しく握り締める。黒い手袋をしているせいで解りづらいが光忠の掌は冷たくて、緊張しているのが伝わってくる。
その緊張をほぐすように私からも握り返してやれば光忠はその蜂蜜色の瞳をまあるくして驚いた後、すぐに頬をほころばせた。

「柔らかいね。温かくて、小さくて、僕達とは全然違う」

「女だもの。刀なんて握らない、非力な手よ」

「うん。誰かを傷つける手じゃなく、誰かを慈しむ手だ」

そう言って私の手を引き寄せると、軽いリップ音と共に手の甲にキスを落としてきた。
くどき文句にも似た台詞に少しだけ恥ずかしさが募ったが、彼が素でこういった台詞を吐くということは知っている。
だから軽く礼を言って済ませると、光忠は少しだけ力を強めて私を引き寄せその逞しい腕の中へと閉じ込めてしまった。

「細いね……僕は力が強いから、本当に少し力をこめただけで壊してしまいそうだ。君も、主も」

広い肩と固い胸板。彼の逞しさをこうして実感させられながら、切なさの篭った声で囁くように言われる。
きっとその少し弱ったような態度が母性愛を擽るなど彼はちっとも思っていないのだろう。
私は膝立ちになってから光忠の頭を胸元へと引き寄せ、ぎゅううと抱きしめた。
少しばかり恥ずかしさは募ったものの、これからこれ以上のことをするのだから今更だと割り切ったのだ。

「貴方は優しいから、大丈夫。そんなに怖がらないでいいよ」

ゆったりとしたリズムで後頭部をぽんぽんと叩いてやれば、行き場を失った手がさ迷った後、最終的に私の胴回りに回された。
ぎゅうぅ、とゆっくりと力がこめられるが、苦しくない程度にきちんと調節されている。
胸元の光忠の顔を覗きこんでみれば少し情けないくらい不安そうな顔で私を伺っていて、痛くないよって言えばあからさまにホッとしたくらい。
私が痛がらないのを見て少し余裕ができたのかもしれない、人差し指で背筋をつうと撫でられて、びくんと体が反応してしまう。

「ありがとう。少し落ち着いたよ。嫌だったら言ってね」

念を押すように言葉を紡いだ後、私は畳の上に押し倒された。
畳の上でやると痛いからあまり好きではないのだが、まあ文句を言える立場ではないので仕方がない。
私の首筋に顔を埋めながら緋袴の帯をしゅるりと解く器用な手。節くれだった指は間違いなく男の人のものなのに、その手つきは酷く拙く丁寧でギャップにきゅんとしてしまったのはココだけの秘密だ。
ちゅっちゅっとリップ音を立てながら薄い唇が何度も首筋に口付けていく。白衣の前を寛げ、露になった鎖骨をぺろりと舐められる。
私の意思とは関係なくぴくんと反応してしまう身体は何人もの神様に躾けられてしまっている証。
しかしそれを緊張しているとでも勘違いしたのか、帯を解き終わった手が私の髪をゆるゆると撫でた。

「肌、とっても綺麗だね」

「ん、ありがとう」

緩くはだけた胸元に最後にリップ音を残したあと、顔を離した光忠は少し迷っているのかそれ以上手が伸びてこない。
なので誘導するように光忠の手を取り、私の胸の上へと置いてやる。そうして光忠の顔を覗き見れば蜂蜜色の瞳から僅かに興奮しているのが見て取れて。
はぁ、と熱い吐息を漏らしたのを皮切りに、私は更に肌をさらけ出した。

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