「はい。今から、精神年齢二歳なティアちゃんの為に、解り易く説明してあげます」
レオンの言葉に、ティアは睨み付けた。
「グランコクマからキムラスカに行く場合、どうしますか?」
「…船に乗るわ」
渋々答える。
「じゃあ、カイツールからキムラスカに行く場合は?」
「船に乗る。それが何なの?」
「はい、考えてみましょう。ヒント、馬車でグランコクマに行くのと、徒歩でカイツール行くの、どっちが早いかな?」
「それ、殆ど答えじゃ…」
思わずルークが突っ込んだ。
「早いとかそんな問題じゃないわ! グランコクマへ行って、ルークがキムラスカの人間とばれたら危険じゃない!」
「それは解るけど、早い方が良いだろう? 長引けばそれだけキムラスカの苛立ちは募るし、マルクトに捕えられているんじゃないかと懸念が増す。そもそも、通行証をどうするつもりだったんだ? ルークは旅券も無いんだから、グランコクマからケセドニアへ行って、キムラスカ領事館に事情を話せば早かったのに」
「それは、ルークが身分を明かせば大丈夫だって」
「マルクト領でマルクト兵に身分を明かすなんて、危険なんじゃないのか?」
ティアは、「それは」とか「だって」等と呟いているが、それに続く言葉はどうせ、「ルークが言ったから」だろう。
「ルークに責任もって送り届けると言いながら、戦闘はルーク頼み、国境を超えるのもルーク頼みか。それは送るって言わない。ただの同行じゃないか」
「私だって戦ったわ!」
「ルークに前衛やらせて、ルークに詠唱中守らせて、そうしないと戦えないんだろう?」
「戦う力があれば戦うのは当然だろう!」
ティアがファブレ家を襲撃したと聞きながら、何を思って黙っていたのか知らないが、アッシュがそう口を挟んだ。
「『加害者が被害者を戦わせるのは非道』なんだよ! お前が『オリジナルルーク』だと言うのが本当なら、ユリアの子孫は、兄妹揃って極悪非道だって事だ! 解ったら、ルークじゃなくヴァンを憎めよ! まあ、お前がヴァンに協力して戦うと言う前からヴァンが戦わせたんじゃないなら、話は別だけどな」
「…加害者って、家から連れ出しただけじゃねえか」
レオンは、アッシュに呆れた表情を向けた。
「流石、『オリジナルルーク』だと言いながら、『キムラスカの軍港を襲撃させた』だけの事はある。『ファブレ家が襲撃された事を気にも留めない』とはな」
「死人は出なかったんだろう?」
「何でそんな事が解る? それに、下手をすれば、病弱な夫人は譜歌で命を落としていたかもしれないんだぞ?」
それを聞いて、アッシュは漸くティアが仕出かした事を理解出来たらしく、愕然とした表情を浮かべた。
ナタリアは、そんなアッシュを複雑そうに見ていた。
昔の『ルーク』とはまるで別人だ、と。
昔のままなら、軍港を襲撃させるなんてしなかっただろうし、自宅が襲撃されたと聞けば、母親であるシュザンヌを心配しただろうに。
「私は、ルークの為を思って戦わせたの!」
「『責任持って送るけれど、貴方の為になるから命をかけて戦って! 大怪我を負っても私は治癒術士だから治せるし、治せない怪我を負っても、生きて帰ればそれで良いわよね。もし、人を殺す事で心を病んでも、ルークの心が弱いのが悪いんだし、もし、ルークが命を落としても、不幸な事故だもの。私の責任じゃないし、問題無いわ!』って事だな!? 流石、極悪非道な人間は、普通の人間と考える事が違う!」
「私は、極悪非道なんかじゃ」
遮ってレオンは続ける。
「『被害者が甘やかされたお坊ちゃまだから、加害者をちゃんと守れるよう鍛えてあげなきゃ。それで、被害者が命を落として、送って行く責任を果たせなくても良いわ。鍛えて上げる方が大事だもの』。『被害者の態度が加害者に対して悪いから、良くなるよう叱ってあげなきゃ。被害者が加害者を気遣わないなんて許されないわ』。『被害者が世間知らずだから、加害者の私が馬鹿にしてあげなきゃ。それが被害者の為よ』。『軍人の私だって好きで人を殺している訳じゃないんだから、民間人が人を殺したくないなんて我儘だわ。被害者の癖に戦う気が無いなんて足手纏いで嫌になる。嫌なのを我慢して人を殺す事が、被害者の為になるのに』…これが、極悪非道じゃなくて何なんだ?!」
「お前が酷いように言っているだけじゃないか! 上げ足を取るなんて最低だ!」
ガイがティアを庇った。
「でも、最初のは間違っちゃいないだろ? お前も前衛なら、命を落とす危険性も恐怖も判っているだろう? それを被害者に強要したんだぞ?!」
「『被害者』って言うけど、ルークは別に怪我も負わせられてないのに、大袈裟じゃないか?」
「ほー…じゃあ、窃盗も詐欺も覗きも誘拐も罪じゃないってか? おい、アッシュ。ヴァンがお前を誘拐したのも罪じゃないから悪党なんて言うな、ってガイが言ってるぞ」
「言ってないだろう、そんな事!」
レオンは冷たい目でガイ達を見渡した。
「そうか。お前達が、ルークにアクゼリュスを消滅させたヴァンを責めなかったのは、ヴァンが、ルークにもイオンにもアクゼリュスの人達にも怪我を負わせてないからか」
「ティア、お前は何の為に軍人になったのだ?」
テオドーロが疲れた様子で尋ねる。
「それは…」
ティアは、言葉を続けられずに黙り込んだ。
ヴァンの側にいたかったからだなんて言えない。
「望んで軍人になりながら、人を殺す覚悟が無かったのか?!」
「覚悟はありました!」
「では、その覚悟が甘かったのだな」
ティアは、テオドーロの冷たい言葉に息を呑んだ。
「お祖父様、私は…!」
「軍人には民間人を守る義務があるという事すら理解していないとは、一体、リグレットに何を学んだのだ?」
「『クールってカッコイイ』という事を学んだのでしょう」
レオンが口を挟む。
「…そうかも知れんな」
それ以外に学んだ事があるとはとても思えなかった。
「お祖父様、どうして…!」
孫よりレオンが可愛いのかと言いたげなティアに、溜息を吐く。
「あ、そうそう。ティアは、アクゼリュスで民間人を殺害したんですよ」
レオンの爆弾発言に、テオドーロは愕然とした。
「何?!」
ティアが、預言でもないのに民間人を殺害したなんて。
「そ、それは、イオン様を守る為に、仕方がありませんでした!」
「どういう事だ?」
テオドーロは、ティアにではなくレオンに尋ねた。
「救助が遅れた理由について尋ねられたので、正直に、神託の盾騎士団の妨害の所為で遅れた事を伝えたんです。それで、自分達が手遅れになって死ぬ事が預言に詠まれているのかと騒ぎになりました。それなのに、イオン様が謝罪もせず、安心させる為の言葉もかけなかったので、イオン様とティアとアニスが囲まれて…」
「正直に言わなくても、『何者か』で良かったのではないか?」
「そうですね。今思えば、その方が無用な混乱を避けられましたね。その時は思い付かなくて、キムラスカやマルクトの所為には出来ないと思って」
テオドーロは、イオンに顔を向ける。
「導師イオン…どうせ、預言に死が詠まれているからと、そのような態度を取るのは、最高指導者としてどうかと思いますが…」
「ボ、ボクは、秘預言は知らなくて…」
「知らなかったのならば、尚更、教団の最高指導者として安心を与えるべきでしょう」
「あ…」
イオンは、ばつが悪くて俯いた。
それに興味が無いように、テオドーロはティアに向き直った。
掲載日:2011.03.26
テオドーロも、ルークを呼び捨てにしていた辺り、身分解っていないのかもしれません。
それとも、レプリカだから?
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