「ティア…殺す以外に方法は無かったのか?」
「殺すつもりだった訳ではありません! 眠らせるだけのつもりで…!」

 ティアは、そう弁明する。

「まさか、眠りの譜歌にダメージを与える効果があると知らなかったのか?!」

 テオドーロは、ティアの言葉に驚愕した。

「音律士でありながらそんな事も知らんのは、お前ぐらいだろう…恥ずかしいとは思わんか!?」
「お…お祖父様…」

 知らなかったのならば仕方が無いと言われる事を期待していたティアは、泣きそうな顔でテオドーロを見る。

「で、ですが…イオン様を御守りする為には…」
「そもそも、何故、導師であるイオン様がアクゼリュスへ? 秘預言はご存知無かったのでは?」

 テオドーロの質問に、イオンは答えた。

「和平の仲介を頼まれた身としては、救助の様子をこの目で見て、ピオニー陛下にご報告するべきだと思いました」
「それは、ピオニー陛下の要請ではないのですな?」
「はい」

 肯定したイオンに、テオドーロは眉を顰めた。

「導師になって七年も経つというのに、未だ導師としての自覚をお持ちではないとは…全く、情けない」

 辛辣な言葉に、イオンは顔色を悪くした。
 アニスは庇おうとしたが、相手が詠師である為、思い止まった。

「導師に何かあれば、教団がどれだけ混乱するとお思いか!」

 イオンは、教団の事など何も考えていなかった。

「教団あっての仲介役ではありませんかな?」

 イオンは、返す言葉も無く俯いた。

「それで、消滅すると知らなかったのに、宥めなかった理由は何なのですか?」
「それは…救助活動を先にするべきだと…」
「でも、救助活動より第七譜石の確認を優先させて、ティアに確認に行くよう指示しましたよね」

 レオンが余計な事を言う。

「確かに、教団にとって秘預言は何よりも大事なものですが…イオン様は、そんな預言に対する考え方を改め、指針の一つとしようと言う改革派の思想に賛同されていた筈では? それでありながら、救助より譜石を優先させるとは、改革派を宥める為に賛同された振りをしていただけのですかな?」
「違います! ボクは…」

 そう言いながらも、理由を問われれば答える言葉が無い為、尻すぼみになった。

「なるほど、イオン様は本当に、救助活動を見る為だけにアクゼリュスを訪れたのですな? それならば、優先でもなんでもなく、『中立の教団が救助活動をする必要は無い』から、譜石の確認をさせたのですか」

 イオンは息を呑んだ。

「確かに、教団にマルクトから救助の要請が無かったのであれば、必要はありませんな」

 「しかし」とテオドーロは続ける。

「被災者はそうは思わないでしょう。『導師が慰問に来たという事は、教団も救助をしてくれるのだろう』と当然の期待をするのです。その状況で、被災者に聞こえるようにそのような事を命じれば、暴徒と化しても無理は無い。軽率でしたな」

 そして、アニスに目を向けた。

「本来ならば、そのような事を見越して、行きたいと言い出したら諌めるのが導師守護役の務めであると言うのに、このような子供を重用するからそれも無かった訳か」
「無かったですね」

 レオンが肯定する。

「でも、大人も止めるどころか賛成していましたよ。な、ジェイド?」

 レオンの言葉に、テオドーロはジェイドを見ると、「いい年してそのような事も判らないのか」と言いたげな憐れむような目を向けた。





 テオドーロは、ナタリアとルークに謝罪をすると、ティアに言った。

「お前も謝罪しなさい」
「ルークには謝罪しました」

 テオドーロはルークに確認する。

「屋敷から連れ出された事は謝罪されたけど」
「屋敷へ侵入した事も、眠りの譜歌を歌った事も、謝罪は無かった?」
「ああ」

 テオドーロにもう一度謝罪するように言われ、ティアは、俯いて固く口を閉ざした。
 態度が悪いルークに謝罪したく無かった。

「ティア!」

 叱られても、ティアは口を開かなかった。

「謝罪する事は恰好悪い事だとでも思っているのか!?」

 それでも何も言わないティアの態度を謝罪し、テオドーロはティアに言った。

「大詠師モースに、お前が神託の盾騎士団を懲戒免職となるよう話しておこう」
「お祖父様?!」

 懲戒免職に驚くティアに頭が痛い。

「あ、そうだ。ティアは、『聖なる焔の光』が『鉱山の街へと向かう』預言を知りながら、ルークを戦わせたんですが、それは良いんですか?」
「…良い訳は無い。万が一が無いよう、戦わせてはならなかった」

 ティアに、更なる失望を感じつつ目を向ける。

「お前は預言を何だと思っているのだ! 消滅は知らなかったのだろう!? それなのに、秘預言が成就しなければ良いと思ったのか!?」
「ち、違います! 私は…! それは…」

 何も考えずにルークを戦わせていたティアに、弁明出来る言葉など無かった。

「中立派だそうですから、預言などどうでも良いんでしょう」
「なっ?! どうしてそうなるの!?」
「預言が成就するよう行動する保守派でも、預言を判断材料の一つとする改革派でもないなら、『預言など成就しようが外れようがどうでも良い』・『成り行き任せ』なんだろ?」
「そんな意味じゃないわ! モース様ともイオン様とも対立する気は無いって意味で」
「じゃあ、お前、イオン様に対してモース様の味方していないんだな?」

 レオンの言葉に、ルークはティアがモースを庇った事を思い出した。

「してたぜ。モースが戦争をさせたがっているってイオンが言った時、モースはそんな人間じゃないって食って掛かってた!」
「ほー…そんな失礼な態度取ってまでモース様を庇ったのか。対立しておいて対立する気は無いって、虫の良い話だな!」
「失礼ってどういう」

 最後まで言わせずに、レオンは馬鹿にした。

「相手は導師だぞ。たかが響長が食って掛かるなんて、失礼以外の何物でもないだろ? お前、お祖父さんや兄貴が詠師だからって、自分も同じぐらい偉いと勘違いしているのか?」
「ティア…お前には、理解しなければならない事が山ほどあるようだな」

 テオドーロは、溜息を吐くとそう言った。

「幼年学校からやり直せよ!」

 レオンはそう口を挟むとティアは言い返した。

「貴方だって、お祖父様に失礼じゃない!」
「ティア! レオンはどうでも良い! 今はお前だ!」

 テオドーロが怒鳴ると、ティアは、ビクリと肩を揺らした。

「それでは、オレ達は失礼します」
「うむ。…導師イオン、今後、教団の事を考えずに行動する事の無いようお願いしますぞ」
「…はい」

 イオンは力無く頷くと、レオン達と共に会議室を後にした。

「さて、ティア…説教の前にトイレに行って来なさい」
「お祖父様…」

 ティアは蒼褪めて、テオドーロを見る。

「腹ごしらえも必要だな」

 ティアは説教されたくなかったが、ヴァンに裏切られた事を考えれば、残った家族であるテオドーロに捨てられたらと思うと逃げられなかった。



 おしまい。




掲載日:2011.03.29

ご覧頂きありがとうございました。

あんまり叱られてませんね。

『同属』・『同属2』を読み返していないので、矛盾点・重複などあるかもしれません。
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