「六神将が、ヴァンの命令でお前に封咒を開けさせたんなら、ヴァンは、アクゼリュス以外のパッセージリングも破壊するつもりだろう。ケセドニアの人口が幾らか知らないが、そいつ等もお前の所為で死ぬんだ!」
イオンは、その言葉に息を呑んだ。
「で、他に、何処を開けた?」
「…シュレーの…」
イオンは、蒼褪めてはいたが、パニックになったりはしなかった。
それは、彼が生まれて二年の為、命を奪う重さを理解出来ないからなのか、或いは、刷り込みの所為で感情が麻痺しているからなのか。
「シュレーの丘? セントビナーの近くだったな。セントビナーの人口は、ジェイド?」
「二十五万…です」
流石に、ジェイドも焦りを見せた。
セントビナーが消滅すれば、マルクトの被害はアクゼリュスの比ではない。
人口だけでも25倍。マルクトの総人口の二割近くが命を落とす事になる。
「セフィロトは、世界全体でたった十ヶ所。アクゼリュスもシュレーの丘もルグニカ大陸だ。ザオ遺跡もルグニカ大陸方面にあったんだろ?! ザオ遺跡とシュレーの丘のパッセージリングも破壊されれば、ルグニカ大陸丸ごと崩落するんじゃないのか?!」
事態の余りの大きさに、イオンは立っていられずに座り込んだ。
「最後は、お前だ」
流石に、体調を崩した人間にまで追い打ちをかける気は無いので、ティアに顔を向ける。
「ティア…お前、『知ってた』んだよな?」
ティアは無言で睨み付けた。
「お前は、『ヴァンが外殻大地を消滅させようとしている事も知っていて』、『外殻大地がパッセージリングに支えられている事も知っていて』、『セフィロトの扉を開く事が出来るのが、導師だけだと言う事も知っていた』よな?」
「それが、何だと言うの?!」
レオンが何を言いたいのか、『自分の頭で考えない』ティアには解らない。
「どうして、『誰にも相談しなかった』?」
「巻き込まない為よ」
「また、それか。『巻き込まない為と言いながら巻き込む』のがお前の癖なのか?」
「どういう意味!?」
「だから、お前が、『巻き込まない為に教えなかった所為』で、『皆巻き込まれた』んじゃねーか!」
それでも、ファブレ家の一件と同じく、巻き込んだ事を理解していないティアは否定した。
「お前が『誰かに相談していたら』、『キムラスカはヴァンを釈放しなかった』だろうし、『イオンは封咒を解かなかった』だろうし、『キムラスカもマルクトも、ヴァンの部下の六神将討伐に軍を動かした』だろうし、『イオンの護衛も増員した』だろうし…そうすりゃ、『アクゼリュスも消滅しなかった』かもしれないだろうが!」
「言える訳無いじゃない! 外殻大地の事は、教団の機密なのよ!」
「でも、『イオンには言える』よな?」
ティアは、先程の言い訳を繰り返す。
「だから、それは、巻き込まない為」
「『馬鹿な発言』も好い加減にしろよ! 『イオンはセフィロトの扉を唯一開ける人間』なんだ! 『言おうが言うまいが、巻き込まれる』んだよ! そんな事も判らないのか!?」
心底見下した目で言われ、ティアは、被害者意識を強くした。
「私はイオン様の為に…!」
「何処がイオンの為だ! 『お前が言わなかった所為で、イオンは封咒を解いてしまって、大勢の人間の命が奪われる助けをしてしまった』んだぞ! しかも、お前、『謝罪しなかった』よな? お前が『言わなかった所為で罪を犯してしまった導師』に!」
「そんなの、私の所為じゃないわ!」
レオンが、ティアを平手で打ち、ティアは床に倒れた。
「つまり…『私は悪くない』! 『私は兄さんを止めようとしただけ』! 『イオン様を巻き込まない為に黙っていただけなのよ!』 『悪いのは、兄さんに騙されて、封咒を解いてしまったイオン様と、パッセージリングを消滅させたルークじゃない!』 『貴方達だって何も出来なかったでしょう!』 『私ばかり責めないで!』 『私は悪くない! 私は悪くない!』 …って言いたいんだな!?」
それは、先程ルークが取った態度。
「違うわ!」
「何が? 『お前の所為』なのに、『私の所為じゃない』って言っただろ!」
「それは…だって…」
ティアは、誤魔化す為の言葉を探して口籠った。
「『最低』だな! そして、そんなお前を『良い奴だと思っていたあいつ等は、馬鹿』だな! そう思うだろ、ティア!?」
もう皆、アクゼリュスの消滅に、自分達は責任は無いと言えなくなっていた。
「『主犯の妹』として、『イオンとルークに謝罪しろ』よ! 『普通、申し訳無く思う』だろ!」
それでも、ティアは謝罪しなかった。
屈辱に思ったからなのか、謝罪したくないからなのか。
「ほら、お前等、責めないのか? 王族のルークを責めたんだから、たかが下士官のティアに遠慮はいらないだろ?! 責めろ! さあ!」
レオンは、彼等を追い詰める。
「…ルーク、謝って済む事ではありませんが…申し訳ありませんでした」
イオンだけは、ティアを責めるより、ルークに謝罪する事を選んだ。
先程のルークに対する態度は、間違っていたと認めたのだ。
そして、他の面々は、それも出来ずに、ただ、俯いて黙っていた。
「ルーク…オレも悪かったよ。『こいつ等が役に立たない事が解っていた』のに、トイレに行った所為で」
「いや、トイレは仕方ねーし…」
流石に、トイレに行った事まで責めたりはしない。
「そうか? そう言って貰えて良かった…。そういや、ルーク…アクゼリュスに同行させろって、ナタリアに脅迫されたのって、何だったんだ?」
レオンがルークに今更のように尋ねた。
「…え? 『七年前、オレを誘拐したのがヴァン師匠』って事と、『オレがダアトへ亡命しようとしている』って事」
レオンは、唖然としてルークを見た。
「…『王族誘拐犯』を、お前は、何で許したんだ?!」
「オ、オレを酷い実験から助ける為って…」
「『酷い実験から助ける』って…お前を『記憶喪失にする事』がか?!」
レオンの言葉に、記憶喪失が誘拐の所為と知りながら、ヴァンの誘拐と結び付けて考えていなかったルークは愕然とした。
「ルーク…亡命しようとしたのは何でだ?」
「…師匠が、『このままキムラスカにいたら、超振動を戦争に利用される』って…。だから、『亡命しないか?』って」
「ルーク、あのな…『亡命は謀叛』なんだ。大罪なんだよ」
「そ、そうなのか?!」
「それを、ナタリアは、『止めるどころか脅迫』?! お前…『王族誘拐犯を見逃した』だけじゃなく、『ルークをその地位から蹴落とす』気だったのか?! 知らねえぞ! 『お前が、ルークを陥れる為にヴァンと結託して、ルークを誘拐させて、記憶喪失にさせたんじゃないか?』って疑われても! そうなったら、『アクゼリュス消滅も、ルークに大罪を犯させる為に、ヴァンと結託して行った』と思われるかもな!」
ナタリアは、目の前が暗くなり、立っていられずに膝を着いた。
「い、幾らなんでも、そんな…」
ガイ達が庇おうとするが、レオンは容赦なく言った。
「ルークは、『王族』で『公爵子息』で『王女の婚約者』で『次期国王候補筆頭』で『キムラスカに繁栄を齎す預言を詠まれている』んだぞ! それを誘拐した人間を見逃して、ルークの脅迫材料にするなんて、他にどんな納得のいく理由がある?」
「わ、私は…和平に関わりたかっただけで…」
「それを、信じてくれると良いな!」
そして、ルークを見る。
「ルーク…『王族誘拐犯を信用した』。『その結果が、アクゼリュス消滅』だ。それは、間違いなく『お前の責任』だからな?」
「…うん」
レオンがティア達を責めている間に落ち着きを取り戻していたルークは、その言葉を受け入れた。
『自分を見てくれたのはヴァンだけだった』が、『その元凶はヴァンだった』のだから、それに気付かなかった自分が悪かったのだ…と。
おしまい。
掲載日:2011.02.22
ご覧頂き、ありがとうございました。
そう言えば、ルーク達は外殻大地降下の為に、封咒を開けて行った訳ですが、
ヴァンの目的が、レプリカ大地を創る事じゃなくて人類滅亡だったら、
パッセージリング壊し放題ですね。
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