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 「ですが、アーレンスバッハからの侵攻では、防衛戦でライゼガング系の仮ギーベと土地の者達は協力したと聞きました。少しは確執が和らいでいるのではありませんか?」
 私は何とか反論を試みる。役立たずどころか足を引っ張ると言われては余りにも情けない。

 レーベレヒトは首を横に振った。
 「長年に渡る土地間の確執を甘く見るな。南東の土地でライゼガング系のギーベと土地の者達が協力したのは、防衛戦で苦労を共にしたからだ。共に戦っていない君とは関わりがない。」

 ライゼガングで育ったレーベレヒトは、旧ヴェローニカ派との確執はそう簡単に消えないと言った。

 「知ってるか?ギーベの代替わりが起こると、配下の貴族達が入れ替わることは珍しくない。当主のやり方に従えない貴族は去ってしまうからだ。だが、土地に詳しくないヴィルフリート様にとっては痛いだろう。其方とどちらを重用するかは自明の理だぞ。」
 今度は同僚に畳みかけられてしまった。


 遠慮のない同僚と親族の意見に私は落ち込んだ。

 「そうか・・・私が土地に赴くのは止めた方がいいのだな。仕方ない。せめてヴィルフリート様へ進言はアドリアンがしてくれないか。」 

 「断る。」

 すげなく言った同僚は嫌そうな顔だ。
 「あと一年でお役目は終わるのに、今から新しい土地で采配したり顔つなぎする意味が無い。中途半端に投げ出すことになって無責任にもなる。」

 同僚はキルンベルガに戻ることを決めていて、期限を伸ばす気がないのだ。残り一年の側近生活と割り切っているのだろう。

 「そうか・・。では、他の者に持ち掛けてみるか。」
 溜息が出た。

 ヴィルフリート様に付いていきそうな古参の側近に話を持ち掛けてみるか、と思ったが、またも同僚に釘を刺された。

 「何も言わない方がいいぞ。先ぶれに適任なのは、あの土地に縁のある旧ヴェローニカ派だ。だが、彼らはヴィルフリート様のギーベ着任後のことを口にしようとしない。多分、去就を決めかねているのだと思う。」

 次期アウブの側近という羨まれる立場だったのだ。それを忘れられず、せめて他の領主一族の側近になれないか等、有利な身の振り方を探っているのではないか、と同僚は言う。

 「先ぶれを頼むということは、触れられたくないその部分を突いてしまうということだ。君自身が決めかねているなら、なおさら卑怯だと思われるぞ。去ることを決めている私も同様だ。」

 「・・そうか、頼める訳がないな。」
 私は呻いた。

 「貴族街育ちの者からすれば、都落ちに思えるんだろう。私のようにギーベの土地で育った者は違うが、そういう者達は故郷に戻りたがるだろうしな。」

 同僚に言われて、ヴィルフリート様に随行する者はこれまでの予想よりずっと少ないのではと思い至った。 

 ・・・ヴィルフリート様には何人がついていくのだろうか。ひどく寂しいことにならなければ良いが・・。

 自分は付いていかない方がヴィルフリート様の為だ、そう分かっていても、主の身辺の寂しさを思うと心が揺らいだ。


 「城に残ったとしても、旧ヴェローニカ派が重用されるのは当分無理だぞ。先行して土地の掌握に成功すれば、ヴィルフリート様から重用されるだろうに。どうも、ヴィルフリート様の古参の側近達は保守的というか、変化に厭う傾向にあるな。」
 レーベレヒトは腕を組んだ。 

 「私が側近になった頃は既にそうでしたね。ともかくこれ以上の失点を重ねるな、というのが方針でした。新しい試みは、失敗したらどうすると言われて潰されるのが常でした。ローゼマイン様と婚約してからは特にでした。黙っていればアウブになれるのだから、余計なことをするな、と。」

 同僚は苦笑いしていた。ギーベの魔獣狩りに参加するべきだ、と私と共に何度か進言したが、潰されてしまったのだ。彼も思うところがあったのだろう。

 「成程な、それで失敗を恐れないローゼマイン様と差が付いていった訳か。ヴィルフリート様が貴族院でローゼマイン様に振り回されると苦情を言っていたが、背景があったのだな。」
 レーベレヒトはやれやれと呆れた表情だった。そしてふと表情を変えて苦笑した。

 「皮肉なことだな。変化を厭うのはライゼガングの本拠地も同じだ。穀倉地帯として領地を支えることを誇りにしてきた反面、他領と関わったり変化を受け入れることは苦手だからな。」

 「確かに皮肉ですね。対立する土地同士が似た考えになるとは。ですが、お隣はアーレンスバッハではなく、アレキサンドリアになりました。ライゼガングも受け入れるのではありませんか。」
 同僚が面白そうに聞いている。だが、聞き捨てならない言葉があった。

 「アレキサンドリアとの窓口はヴィルフリート様の土地だろう?変化を嫌うライゼガングの性質をアウブが配慮して下さったのではないのか?」
 私は慌てて口をはさんだ。

 「アレキサンドリアとの境界門の位置を考えれば、ゲルラッハ方面は遠回りだ。ライゼガングの方が断然近いし、親族であるローゼマイン様との繋がりを拒むかな?遠方の不利を覆せるかは、それこそヴィルフリート様の頑張り次第だろう。」
 同僚は皮肉そうな笑みを浮かべている。

 「まあ、キルンベルガから見れば、ゲルラッハ方面を通る方がアレキサンドリアに近いからな。国境門が開かれる頃には、ヴィルフリート様に頑張ってもえると有難い。どちらのルートも栄えるかも知れないな。ま、どちらにしても先の話だ。」

 その前に、準備作業という大仕事があるが、と同僚は肩を竦めた。

 「はあ、結局そこに戻る訳だな。避けて通れないのだから、当然だが。いったいどうしたものか。」
 私はどっと疲れを覚えて、肩を落とした。

 「仕方ない、街造りの件と一緒に準備作業の必要性も、私がフロレンツィア様に伝えておこう。」
 レーベレヒトが仕方なさそうに言った。

 「いいのですか?」
 私は驚いて顔を上げた。レーベレヒトが自発的にヴィルフリート様の為に動くとは思わなかったのだ。

 「ヴィルフリート様はギーベになったあと、フロレンツィア様の大事な後ろ盾になる。弟妹君がアウブに着く為にもな。統治に失敗されては困るのだ。」
 レーベレヒトは不本意といった表情だが、頷いた。

 同僚は肩を竦め、私は安堵の息を吐いた。

 私達3人は夕食を終え、それぞれに仕事に戻った。

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