粛清後の記念式を巡って
わたくしはシャルロッテ。
これから、祈念式のために小聖杯を持ってギーベの土地を回るところです。
去年までは、大きな聖杯を持って直轄地の祈念式をして回っていました。ギーベに小聖杯を届ける役目は魔力の少ない青色神官に任されていたそうです。
今年は、冬に行われた粛清によって青色神官が足りなくなってしまい、わたくしとお兄様がその役目をすることになったのです。
ギーベの土地を回ることを希望したのはお兄様です。
神事をしているのがお姉様だけだと思われているので、自分も神事をしていることを分かってもらい、支持を取り付けたいそうです。
わたくしは疑問に思いました。魔力の込められた小聖杯を渡すことが神事になるのでしょうか。
小聖杯を渡した後、祈念式を行うのはギーベです。ハルデンツェルの祈念式を共に経験したお兄様は知っているはずです。それにギーベ達に渡す小聖杯は冬の奉納式で魔力を込められたものです。貴族院にいたお兄様とわたくしが奉納式に参加していないことは誰でも知っています。
他人の魔力が込められた小聖杯を渡して、ギーベ達がどうして支持してくれると思うのでしょうか。逆効果ではないでしょうか。
お兄様は次期アウブとして支持を集めようとして、見当違いなことをしているように見えます。
その時は夕食の席で、領主一族とその側近がそろっていました。
先を読み、空気を読んで自分に有利になるよう立ち回るのは貴族として重要な能力です。次期アウブならなおさらです。お兄様の資質をお父様とお母様に確認してもらいましょう。
お兄様は後3年で成人なのです。
次期アウブとしての能力が足りないならば、側近やお父様とお母様が何とかするべきなのです。
わたくしは、お兄様に仮着任したギーベへの挨拶を提案してみました。
わたくし自身は仮のギーベへの挨拶は時期尚早だと思っています。
着任したばかりで土地の者を掌握していない時期です。小聖杯を渡すだけでも領主候補生の訪問は歓迎されないでしょう。ギーベの地位が確定した後、お祝いを兼ねて訪問した方が喜ばれると思うのです。
そしてお兄様にとって、ライゼガング系への訪問は非常な慎重さが必要です。粛清直後の今年ではなく、落ち着いた頃にお姉様と一緒に行った方が良いでしょう。
そう考えながら反応を見ていましたが、お兄様は少し考えてから引き受けてしまいました。
・・・本当に良いのでしょうか。楽しいことにはならない気がするのですけれど。
わたくしは北方を担当することにしました。ハルデンツェルのように春を呼ぶ儀式をする場合、わたくしも魔力を奉納してギーベの支持を得たいと思ったからです。
お姉様と婚約しているお兄様を追い落とそうとは思っていませんが、お父様がブリュンヒルデを第二夫人とすると決めた以上、わたくしも安穏としていられないのです。
お兄様がわたくしの意図に気づいて、祈念式での貢献度に差が付くことを懸念すれば、いくつかの南北ギーベの担当を交換するつもりでした。
頼まれれば、魔力を込めた魔石を預かっても良かったのです。殿方であるお兄様は春の儀式に参加できませんが、自分の魔力を込めた魔石を提供することはできます。そのときはきちんとギーベにお兄様の貢献を伝えるつもりだったのです。
ですが、お兄様は何も言うことなく、それぞれ祈念式に出発することになりました。
本当に何も気づいていないのでしょうか。
お父様とお母様は、その様子を見て何も思われなかったのでしょうか。
各ギーベを訪問し小聖杯を渡すとき、わたくしは春の儀式の舞台の作り方をお姉様が調べて下さったこと、その資料はお兄様の手に渡ったことを伝えました。
図書館の地下書庫で古語で書かれた資料を調べたのはお姉様です。地下書庫は領主候補生でなければ入れず、古語は文官でも専門知識が必要です。簡単なことではなかったはずです。
お姉様は功績をあっさりお兄様に譲ってしまいましたが、わたくしは納得できないのです。
なぜ、お兄様はお姉様に尽くされて当然と思えるのでしょう。
わたくしがお兄様の立場だったら、お姉様がこれまでして下さったことを感謝して最大限大切にするでしょうに。
せめてお姉様を慕うメルヒオールの歳が近かったら、メルヒオールをお相手に推薦するのに。
本当に、ままならないことです。
お兄様が、領地の順位を落とすことに同意したことも、わだかまりになっています。
貴族院での学生達の頑張りが余計なことだったとされたことが、どうにも納得できないのです。
最優秀を連続で取り、表彰されたお姉さまはどのように感じたでしょう。わたくしはお姉様の心情を思うと泣きたくなりました。
それなのに、お兄様は婚約者のお姉さまよりも、エーレンフェストの将来よりも、自分の立場を固めることを優先したのです。
このままお兄様を次期アウブとして仰ぐことが良いことなのでしょうか。
お兄様はお姉様という飛びぬけた逸材を活かそうとしていません。既存の貴族女性の役目を押し付け、稀有な才能を抑え込もうとしています。既存の貴族女性の役目なら他の女性に務まりますが、お姉さまは一人しかいないのです。
このままではエーレンフェストの将来が良くなるとも、お姉様が幸せになれるとも思えません。
わたくしは変化をもたらす水の女神フリュートレーネへ祈りを捧げました。