一年生用の魔術具1-2

 「そうですね。わたくしの側仕えは中級貴族ですが、一年生の頃はクズ魔石を染めるのさえ難儀したと言っていましたから。」
 圧縮していない一年生にとっては、中級貴族でも魔石を染めるのは大変なようです。
 「では、下級貴族の一年生が魔術具を染めるのは相当大変でしょう。」
 「魔力が低めの中級貴族も同じでしょう。早めに準備が必要なのではありませんか?」

 わたくしの側近は上級貴族と魔力多めの中級貴族なので、中級・下級貴族の事情に疎いところがあります。側近にフィリーネとダームエルがいるからでしょうか、お姉様の的確な心配りには感心します。貴族の多くは中級・下級貴族なのですから、わたくしも見習わなければなりません。

 再びお礼のオルドナンツを送った後、側近達と相談です。

 「一年生でシュタープを取得するようになって、もう何年も経っています。政変前に使われていた学生用魔術具は、破棄されたり壊れている可能性が高いです。」 
 ナイフや混ぜ棒は消耗品であり、シュタープを取得した後は弟妹や親族に譲り、更には下働きに下げ渡すものだそうです。10年以上前の物が良い状態で残っている可能性は低いようです。
 「学業に必要なものは、自分の家で用意するものですから、注意喚起だけで十分ではございませんか?」
 「必要な素材や調合方法は、私も記録を持っていますが、ローゼマイン様が作られた参考書の方が、詳しくて分かりやすいですね。」
 マーヴィンが参考書を見ながら、感心しています。

 「親が粛清された子供達は用意できないかもしれません。どうしたものでしょう。」
 様々な意見が出る中で、親を処罰された子供の魔術具をどうするかで、意見が分かれました。
 「こちらで準備して与えるしかないでしょうね。」
 わたくしが口にすると、側近の一人が難色を示しました。
 「シャルロッテ様、それでは罪人の子を優遇しすぎると不満が出ます。いまだに連座にならないことに不満を零す貴族もいるのです。」
 魔術具を用意するのが負担となる家は少なくないそうで、労せず罪人の子が手に入れた聞けば、不満が高まる可能性が高いそうです。

 なかなか難しい問題です。しかし引く訳にはいきません。
 「魔術具を与えない訳には行きません。他人の魔術具では実技に支障が出るかもしれないのでしょう。エーレンフェストの評判と成績、ひいては順位に関わります。」
 わたくしが譲れない口調で告げると、ヴァネッサが静かな口調で尋ねました。
 「シャルロッテ様は領地の順位を下げず、維持することをお望みなのすか?」
 暗にアウブ・エーレンフェストの意向と違う、と、わたくし自身の意向を問われています。

 わたくしは側近達を見回しました。
 「わたくしは、順位を落とすことを望んでいません。アウブが順位を落とすよう言われたのは、貴族達に圧力を掛けられたからで、本意でないことは明らかです。これまでの学生達の努力を無駄にしないためにも、順位を維持する努力を続けていきます。」

 宣言すると、側近達は満足そうに頷きました。わたくしと側近を含め、学生達が努力して得た順位が無に帰されようとしたことに、側近達も内心で不満があったようです。
 
 「では、罪人の子達の魔術具を準備し、かつ、他の貴族に不満を持たせない方法を考えましょう。」


 「罪人の子供だけではなく、全員の魔術具を用意すればいかがです?」
 「毎年のことですよ。領主一族の負担も考えて決めるべきです。」
 今後、ずっと続いていくのですから、前例となる今回はとても大事です。無理なく継続できる範囲で決めなければなりません。

 毎年の一年生は10人程度。素材となる魔獣の討伐、魔草や魔木採集、調合等を考えると、出来なくはありませんが負担は軽くありません。
 「それに、無償で与えることは良いことではありません。今の大人達はともかく、魔術具を負担したことのない世代が続けば、どれ程の労力が掛かるか知りませんから、感謝しなくなるでしょう。」

 ……領主一族からの恩恵を当然と思われるのは困ります。礎に魔力を供給するのも、祈念式巡りも、決して楽ではないのです。

 「魔術具を与える子供に対して、高額な対価を課すのはいかがです?成人してから高額な対価を返させる条件にすれば、それほど不満は生じないのでは?」
 「罪人の子は、親に染めて貰えませんから、回復薬も必要です。対価を合わせると自然に高額になります。妥当ではありませんか?」

 わたくしは考え込みました。対価を課すのは良い案に思えます。回復薬ならわたくしも作れますし、側近の負担を減らすことが出来ます。

 「罪人の子に関しては、それで良いでしょう。他に意見や提案はありますか?」
 わたくしは側近達を見回しました。すると、いつも控え目で発言しないカサンドラが、物言いたげにわたくしを見ていました。
 「カサンドラは、何か提案があるかしら?」
 わたくしが促すと、カサンドラは躊躇いがちに前に出て、わたくしの前に跪きました。

 そして顔を上げて、口を開きました。
 「慣例を変えることになりますが、シャルロッテ様に主導して頂き、一年生全員と保護者達を集めて、お城で魔術具作成をするのは如何でしょう。」

 カサンドラによると、中級貴族や下級貴族は、魔術具が必要な場合、自力で準備するのは困難なため、派閥内部で依頼することが多いそうです。
 「購入する場合は、魔術具の対価以外にも、仲介者への謝礼や借りが発生して、経済的にも社会的にも負担が掛かります。かといって自作するのはもっと困難なのです。」
 魔術具作成には、適した採集場所と、魔獣狩り、素材採集、調合の知識や技術、器材等が必要で、複数の騎士と文官が必要となります。家族や親族だけで揃えられる中級・下級貴族は少ないそうです。

 「旧ヴェローニカ派では、魔術具に限らず、様々なことで派閥の有力者に便宜を図ってもらう必要がありました。その為、立場の弱い貴族は日頃から派閥の上位貴族に逆らえなかったのです。」
 カサンドラの両親は重罪を犯して、処刑されています。実行犯として派閥に利用された両親のことがあるからでしょう。一年生の魔術具で派閥依存の状況が出来るのを回避したいようです。

 ヴァネッサが、気づかわし気にカサンドラを見て、口を開きました。
 「本来派閥は、思想や目的を同じくする者達が、助け合うためのものです。ですが、悪用されれば旧ヴェローニカ派の大規模な不正のようなことが起こります。領主一族が手を差し伸べ、派閥への依存を弱めることは、一つの対策だと思いますよ。」

 旧ヴェローニカ派は弱体化しましたけれど、他の派閥で同じことが起こらないとも限りません。芽を摘んでおくべきでしょう。

 わたくしは頷きました。
 「わたくし主導で魔術具作りをすれば、派閥を超えた集まりが出来ますね。成績向上委員会の活動に近いかしら。」
 貴族院では、一緒に勉強することで派閥を超えて協力し合えるようになりました。領地で保護者達も同じようにすれば、更に良い影響が広がるかもしれません。

 「ふむ。一年生の保護者を集めれば、騎士や文官も人数が揃うでしょうな。側仕えには素材採集、騎士には狩りと採集の護衛、文官には調合を担当してもらえば、魔術具作成は可能でしょう。」
 マーヴィンが、満足そうに発言します。

 この方法なら、領主一族も側近も魔力的な負担は少なくて済みます。しかも、わたくし主導で行うことで、貢献にもなり、支持も増えそうです。

続く

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