一年生用の魔術具2-1
わたくしは決定を述べました。
「カサンドラの意見を取り入れます。各家にオルドナンツで知らせるとき、希望者はお城に集まって魔術具を作ることが出来ると伝えて下さい。日取りは後ほど決めましょう。」
「希望者だけなのですか。」
「ええ、準備できる家もあるでしょうし。派閥に頼らなくても、領主一族が助力すると知らせることが大事なのです。」
カサンドラが嬉しそうな顔で立ち上がりました。
「親が居ない子については、メルヒオールに相談しますけど、できるだけ採集は自分でさせて、調合など無理な部分は引き受けましょう。対価は回復薬と合わせて、成人後に請求します。」
優遇している訳ではないので、多少は不満も抑えられるでしょう。
「調合が上手くいかなかった場合に備えて、保護者がいる者も購入できるようにしませんか?」
お小遣い目的でしょうか。ある文官が言い出しました。他の側近達が笑いを堪えています。
「そうですね。予備の魔術具も作るようにしましょう。お願いできるかしら。」
「はい、おまかせ下さい。」
文官が嬉しそうに請け合います。側近達もやる気が出たようで嬉しく思います。
「では、アウブに面会予約を取って下さいませ。」
一年生の魔術具に関して準備活動をすることを話し、許可を貰わなければなりません。各部署を動かす許可も必要です。お母様には社交の打ち合わせが予定されているので、その席で話しましょう。
「シャルロッテ様、ヴィルフリート様の側近がまた協力を頼んできたら、どうしますか?」
マリアンネがやや硬い表情で尋ねました。以前、オズヴァルトが画策して、お姉様から頼まれた仕事を横取りしようとしたことがありました。側近達はまだお兄様が次期アウブだと思っていますから、警戒するのはもっともです。
「オズヴァルトは辞任しましたが、他の側近が動く可能性はありますね。下町の改造調査よりも、今回の方が貴族達の関心はずっと高いはずです。是非ともヴィルフリート様の実績にしたいでしょう。」
マーヴィンが肩を竦めています。
お兄様の側近達もまだ婚約解消の事実を知りません。聞きつければ、きっとお兄様の実績作りに協力するよう言ってくるでしょう。
「今回は、夕食の席で話題にしませんから、すぐにはお兄様の耳に入らないと思います。それでも、出来るだけ知られないように動いて下さいませ。」
わたくしが今回のお仕事をお兄様を譲ったり参加させたりする気がないことは、側近達に伝わったようです。皆が表情を引き締めました。
……お姉様は、今回もお兄様ではなく、わたくしを指名して下さったのですね。
先日、婚約解消を知ったお兄様の様子からも、二人が婚約者として上手くいっていたとは思えません。お父様の言葉に逆らえず婚約し、お兄様のように不満を口にすることも出来ず、いつも笑っていたお姉様。本心は誰にも言えなかったのではないでしょうか。
前回のわたくしへの指名も、次期アウブ教育で忙しいお兄様への配慮ではなく、わたくしに味方するという言葉の通りだったかもしれません。だとすれば、お姉様の好意を無駄にしないよう、今度こそ上手く立ち回らなければなりません。
お父様との面会の日が来ました。領主会議が終わり、お父様も時間的に余裕があるのでしょう、さほど待たずに面会できました。
「……という訳で、来年一年生を出す家々に希望者を募って、お城で魔術具作りをするつもりなのです。」
用意した報告書を渡し、許可してほしい事柄を述べます。報告書にはお城で狩りや採集・調合するために必要な各部署への申請予定や、騎士団・文官達への要請内容が書いてあります。側近達がこの日までに纏めてくれたものです。
「ふむ、一年生の魔術具か。よく気づいたな。保護者達も感謝するだろう。私も三年生になるまで魔術具を使ったからな。一年生の時の新しい魔術具は嬉しかったものだ。」
お父様が目を細めて褒めてくださいます。
「有難う存じます。ですが、切っ掛けはお姉様なのです。お姉様が一年生が魔術具を用意できるよう力になって欲しいと、わたくしにお願いされたのです。」
保護者を集めて魔術具作りをすることを考えたのは、わたくしの側近ですが、お姉様からの連絡が無ければ、そもそも考えていません。
「そうか、あれは相変わらず子供のことには熱心だな。時間があれば、一緒に参加したかったであろうにな。ヴィルフリートは参加しないのか?」
お父様にとって、お姉様とお兄様とわたくしは、三人で一緒にお仕事をする印象があるのでしょう。祈念式も印刷業も成績向上委員会もそうです。けれどそれは、常に先導してきたお姉様がお兄様とわたくしを参加させて下さったからです。
わたくしはお父様をじっと見て言いました。
「お父様、次期アウブのお勉強でお忙しいお兄様には話さないようお願いします。わたくしがきちんとやり遂げますから。」
アウブの執務室で他の貴族のいる中、迂闊なことは言えません。けれど、新たな次期アウブ争いは始まっているのだから、公平を期して欲しいという意図は伝わったようです。お父様は真顔で頷きました。
「そうだな。ヴィルフリートがその気なら、自力で実績を作らねばならぬ。フロレンツィア以外とは話題にせぬと約束しよう。」
この場にいる者にも、口止めしておくと約束してくれました。これまでわたくしが我慢してきたことを、お母様が褒めて下さったからでしょう、お父様もこれ以上お兄様に肩入れする気はないようです。
「メルヒオールには協力を頼むつもりです。青色見習いに来年の一年生がいるかも知れないので、お姉様に勧められたのです。」
お姉様はメルヒオールを可愛がっていますし、今回も協力し合って欲しいようです。わたくしにとっても、メルヒオールは大事な同母の弟です。公平に競い合った結果、メルヒオールがアウブになるならそれで良いと思っているのです。
「そうか。メルヒオールにも良い経験になるだろう。」
お父様は頷きました。お兄様には知らせず、メルヒオールとは協力し合うと言ったことで、わたくしの気持ちが伝わったのでしょうか。
「ローゼマインに依頼されて、功績を立てる機会を得たなら、それは其方とメルヒオールの実力だ。ヴィルフリートは婚約という大きな恩恵を受けて来た。自力で功績を積まねばならぬ。」
お父様は、お兄様の領主候補生としての資質を見極めるつもりなのかも知れません。婚約が解消された以上、自力での功績がなければ貴族達に認められないのですから。
その後は、各部署に要請する許可証を出してもらって、面会は終わりました。