一年生用の魔術具2-2

 お父様の許可を貰えたため、わたくしは、一年生の魔術具準備委員会を立ち上げました。
 「各家にオルドナンツを送る為には、先に学生管理の部署で家名を調べる必要がありますね。吹き込む言葉も事前に考えて下さい。」
 側近達に指示を出し、やるべきことを決めていきます。
 「家名を調べるとき、ヴィルフリート様に繋がりそうな担当者は避けてくれ。嗅ぎつけられると面倒だ。」 
 「オルドナンツに吹き込む言葉はこれで良いでしょうか。」
 お兄様側への情報漏洩を警戒をしながら、側近達が動きます。

 「シャルロッテ様、一年生と保護者達を集める日は、いつになさいますか。」
 保護者達にも予定があるでしょうから、すぐという訳には行きません。
 「お父様がアーレンスバッハを訪問中は避けなければいけませんね。」
 もうじき、お父様はアウブ・アーレンスバッハの葬儀に赴かなければなりません。お留守の間に貴族を集めて催し物をする訳には行かないのです。許可も下りないでしょう。襲撃事件の記憶はまだまだ薄れていないのです。

 「ですが、早い時期の方が良いですよ。夏の後半はお子様方もフロレンツィア様の為に備えておく必要がありますからね。」
 ヴァネッサが忠告してくれます。

 お母様にエントリンドゥーゲが訪れれば、お父様とわたくし達兄弟は、魔力を提供するため、駆け付けなければなりません。抜けられない予定は入れるべきではないそうです。
 「同じ日になれば、責任者のシャルロッテ様が不在となって、せっかく集まった一年生も保護者もがっかりしますからね。」
 事情が事情であっても、わたくしの評価は下がるでしょう。今の時期に赤ちゃんを迎えたお父様とお母様に思うところはありますが、生まれて来る弟か妹に罪はありません。無事に生まれて来て欲しいと思っています。

 「星結びの数日前に致しましょう。貴族達も集まりやすいでしょうし、お父様もアーレンスバッハから戻られています。お母様の予定もまだ先ですから。」
 側近達も賛成し、日取りが決まりました。


 オルドナンツで各家に魔術具の件を知らせ、保持状況を聞いた結果、殆どの家はこれから準備することが判りました。結局、全ての家が参加することを希望したのです。
 「ギーベの元にいる子供と保護者も来るのですね。」
 ライデンシャフトの季節の今、貴族達はエーレンフェスト中に散らばっています。遠方にいる者も多いのです。
 全員が来ることにわたくしが驚いていると、ヴァネッサがクスクス笑いました。
 「親子で領主候補生とお近づきになれる機会ですからね。せっかくシャルロッテ様からお声が掛かったのです。機会を逃す貴族はいないと思いますよ。」
 メルヒオールに知らせると、旧ヴェローニカ派の青色見習いは、メルヒオールの側近が親代わりをすると返事がきました。メルヒオールはその日を楽しみにしているようです。

 「一年生本人と保護者、シャルロッテ様とメルヒオール様の側近を含めると、かなりの人数になりますね。」
 借りる調合部屋や器具の数を、側近達が話し合っています。
 お城で狩り・採集・調合をするためには、騎士団や文官達に根回しをしておく必要があります。当日借りる騎士や文官への依頼、採集場所の下調べや競合しないための根回し、調合部屋や器具の準備等、あちこちの部署の文官に話を通します。

 各部署と交渉をしていくうちに、年代によって貴族の職務に対する意欲や、向上心、領地への貢献に対する考え方に、随分差があることに気付きました。貴族院での講義の為に質の良い魔術具を準備すること、ひいては優秀な成績を収め、領地の評判や順位に貢献すること、わたくし達には当たり前の考えですが、世代が上の貴族達は理解できないようでした。少々の不満や不自由があっても現状を受け入れべきで、わざわざ負担を増やしたり、前例のないことをすべきではないと考えるようです。

 政変後に順位が上がり、更にお姉様のお陰で躍進し、エーレンフェストは上位領地となりました。他領との関係も随分変わったようです。しかし、底辺領地の立場に慣れた貴族達は、意欲的な若い世代と随分意識が違うようです。お父様が大人達がついて来れないと苦渋の発言をした意味がよくわかりました。

 ……このような世代間の違いも考慮しながら、領地を纏める必要があるのですね。

 事前準備と根回しが終わった後、夕食の席で一年生の魔術具のことを話しました。

 そろそろお兄様側の耳に入るころですし、わたくし主体で事前準備を行ったことは広まりました。今からお兄様の側近が横やりを入れれば、逆効果です。妙な画策は出来ないと思ったのです。

 ところが、当のお兄様は関心がないようで「そうか、これからの一年生は大変だな」と言っただけで、自分も参加するとは言いませんでした。
 無自覚に自分が中心であることを当然としてきたお兄様ですが、お姉様との婚約解消で心境の変化があったのかもしれません。次期アウブの座に未練はないのでしょうか。


 素材採集はなかなか楽しいものでした。初めて一緒に採集を行う親子もいるようで、楽しそうな声が上がっています。貴族院で皆とお弁当を持って採集場所に行ったことを思い出します。お姉様が風の盾を張って下さって、冬にしては暖かい日差しの中、お弁当を食べ、にぎやかに楽しく採集したものです。

 ……お姉様とは後一回しか貴族院でご一緒できないのですね。切なくなってしまいました。
 
 沈みがちになる思考を振り払い、皆が問題なく採集出来ているか気を配ります。メルヒオールも初めての採集を楽しんだようで、また採集に来ましょうねと誘ってくれます。お姉様の名前も出しかけていましたが、お忙しいことを思い出したのでしょう、ちょっと困った顔で口を噤みました。
 狩りに出かけていた保護者と側近達も戻ってきました。難しい魔獣では無かったため、無事に十分な数が狩れたそうです。

 狩りと採集が終わった数日後は、皆で魔術具の作成をします。調合方法はお姉様の参考書を元に、モーリッツ先生が説明しています。
 調合が苦手な保護者もいるようで、仲の良い人や同じ派閥で助け合っています。わたくしや側近もさりげなく文官に補助を頼んで、全員が無事に調合を負えるように手助けしました。

 ……こういう時の為にも社交で仲良くなっておくことが大事なのですね。

 最終的に、全員無事に魔術具の作成を終えました。後は冬までに子供が染めれば良いだけです。無事に大きな山を越えたことに、安堵しました。

 今回一緒に行動したことで、保護者を含め一年生達は随分仲が良くなったようです。わたくしとメルヒオールも保護者と子供達と距離が近づいた気がします。このように少しずつ派閥以外の繋がりが増えて、派閥の障壁が低くなれば良いと思います。
 
 冬になれば、粛清後の初めての子供部屋と貴族院が始まります。旧ヴェローニカ派の子供達と他の子供達をうまく収めていかなければなりません。現状に戸惑い、立ち止まっている時間はありません。ドレッファングーアの糸紡ぎは止まってはくれないのです。

 お姉様が居なくなるエーレンフェストをこうしてメルヒオールと守っていくこと。わたくしの目指すものが徐々に明確になってきました。

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