グレッシェルの栞とメッセージカード1-1
本日は、お母様主催のお茶会に出席しています。招かれたのは、ボニファティウス様、お兄様、お姉様、わたくしとメルヒオール、そしてグレッシェルの姉妹です。
グレッシェルのエントヴィッケルンと町の洗浄には、領主一族と側近が全面的に協力しました。ギーベ・グレッシェルはそのことに大変感謝し、夫妻で領主夫妻に面会してお礼を述べたそうです。
本日のお茶会は、その時の謝礼の品物を領主一族に渡すために開かれたのです。お父様は執務でお忙しいそうで、出席されませんでした。
主催者のお母様の挨拶が終わったあと、ブリュンヒルデが改めてお礼を述べます。
「グレッシェルの町は本当に美しくなりました。大規模なヴァッシェンの後、白く輝く街が現れたとき、父を筆頭にグレッシェルの者達は、これ程美しい街だったのかと、皆感動しておりました。尽力して下さった領主一族と側近の方々には本当に感謝しております。」
グレッシェルの町を誇りに思っているのでしょう。ブリュンヒルデの笑顔には社交用だけではない喜びが感じられます。
「グレッシェルの町は美しく保たれていますか?」
お姉様がやや心配そうに尋ねます。
「はい、エーレンフェストの町というお手本があることは大きいですね。評判を聞いて羨ましく思っていた者も多かったようですし、帰路に付く他領の商人達が喜んでいたこともあります。来年も美しく保つのだと、兵士や商人達は張り切っております。」
ブリュンヒルデが誇らしげに報告します。
わたくしもグレッシェル出身の側近から報告を受けていますが、このように公の場で当主の長女の口から聞くと、改めて実感が沸きます。
回復薬を飲みながらの魔力供給は楽ではありませんし、出産後無理をして参加したお母様の負担も報われたと感じられて、グレッシェルからの謝意はとても嬉しく思えます。
笑みを浮かべながら聞いていたお母様が、側仕えに指示を出しました。
「では、グレッシェルから贈られた品を披露いたしましょう。新たな特産品が出来たようですよ。」
お母様の側仕えが、木箱を持ってきました。
……新たな特産品?グレッシェルは製紙業と印刷業を取り入れましたから、やはり製紙か印刷を使ったものでしょうか。
木箱の中の物がテーブルに並べられます。
「ほう。」
「まあ。」
「わあ、色の付いた紙ですね。」
思わず感嘆の声がもれました。
色のついたエーレンフェスト紙です。色とりどりで何枚もあり、3種類の製品があります。色のついた紙は、随分品良く感じられ、人目を引きます。羊皮紙に色のついた物はなく、木札も木の色そのままですから、格の違いさえ感じられます。
お姉様も目を輝かせて見ています。けれど大喜びしないところを見ると、あらかじめ知っていたのでしょう。グレッシェルの姉妹はお姉様の側近ですし、もしかしてお姉様が考案したものかも知れません。
ベルティルデが緊張しながら、説明を始めます。
「こちらは本に挟む栞です。どこまで読んだか分かるように、本に挟んでお使い下さいませ。」
ギーベの跡取りとなったようですから、このような席での口上も行うのでしょう。緊張している様子が微笑ましいです。
栞は小さめの長方形の紙で、やや厚めの紙です。長さはエーレンフェストの本の高さの3分の2程度でしょうか。片方の端に穴が開けられ、短いリボンが結び付けてあります。無地のものもあれば、葉や花びらが閉じ込められているものもあります。
「こちらは、メッセージカードと封筒で、お礼状や招待状等にお使い下さいませ。」
メッセージカードは真ん中に折り目のついた小さめの便箋で、こちらもやや厚めです。四隅や周囲に葉や花びらが閉じ込められていて、彩りが綺麗です。
封筒は、二つ折りしたメッセージカードが入る大きさで、色も揃えてあります。対にして使うのでしょう。
「ふうむ、色の付いた紙か。それだけでも珍しいが、これは葉が入っているな。ローゼマインからもらった便箋とは種類が違うぞ。」
ボニファテイウス様が、珍しそうにひっくり反して見ています。
「色の付いた紙はエーレンフェスト紙ならではですね。きっと人気が出ますよ。栞が出来たのは本当に嬉しいです。」
お姉様が目を細めてグレッシェルを褒めます。
わたくしも感想を述べます。
「メッセージカードも良いですね。見ているだけでも目を楽しませてくれますもの。ぜひ貴族院で使いたいです。評判になるのは間違いないでしょう。」
姉妹が嬉しそうに頷きます。
「うむ、葉の入ったメッセージカードで招待状を出せば喜ばれると思う。オルトヴィーンが珍しがるだろうな。ドレヴァンヒェルの色の栞はないのか?本に挟んで貸せば、喜ばれると思うのだが。」
お兄様も気に入ったようです。
お兄様の言葉で、わたくしもルーツィンデ様にお貸しするときの栞を探しました。ギレッセンマイアーは四位ですから三位のドレヴァンヒェルと共に来年から取引先になる可能性が高いのです。栞を見せる許可は出ると思ったのです。
そう思って、他の領地の色と共に探したのですが、残念ながら、ドレヴァンヒェルの淡い緑もギレッセンマイヤーのこげ茶も見当たりませんでした。
……領地の色で栞を作っている訳ではないでしょうから、無くても仕方がありませんけれど。偶然でしょうか?上位領地の色が有りませんね。
中央の黒、クラッセンブルクの赤、ダンケルフェルガーの青も見当たらないのです。
……紙を染める染料の色がないのでしょうか?グレッシェルは印刷事業を始めてそれ程経っていませんから、紙用の染料の種類が無いのかもしれませんね。紙には色インクを使うのでしたかしら?
印刷事業についての知識を思い出していると、中央、クラッセンブルク、ダンケルフェルガーの色で思い当たることがありました。
「お兄様、勘合紙と同じ色の紙は作れないのですよ。紙を染める染料の使用にアウブの許可が必要だったはずです。」
わたくしは思い出したことをお兄様に告げました。
「勘合紙?」
「ええ、取引先領地の正規の商人を判別するために、領主会議で渡される勘合紙です。不正に作成されるのを防ぐために、勘合紙を作る染料は厳しく管理されているのです。」