01


 [chapter:マイン]

 世界の崩壊は、確実に訪れるらしい。
 らしいというのはわたし自身はその崩壊を体験していないからだ。
 どういうことかと、目の前に居る神様に話の続きを促す。始まりの庭に行ったわけでもないのに現れた女神様は、とても困った顔で私に続きを話してくれた。

 きっかけは、中継ぎのツェントとして立っていたエグランティーヌ様が暗殺されたことだったという。
 神様達はフェルディナンドやわたしがツェントに立たなかったことは不服だったものの、次代以降はまた自力でグルトリスハイトを手に入れたものがツェントに立つという旧いシステムに戻そうと奮闘していたことは評価していた。
 なので光の女神に誓ったエグランティーヌがその中継ぎとして立つことを、未来のためならばと認めていたらしい。実際、エグランティーヌ様はとても努力されていたと女神様は語る。
 祈り、魔力を奉納し、神事を執り行うだけでなく、シュタープの取得年齢を上げ、神殿を清め、そして貴族院の教育内容の見直しを行った。
 これならば次代次々代はぎりぎりでも、その次か次くらいにはわたしとフェルディナンド程度の魔力を持ったツェントが生まれるだろうと、神様達は期待していたそうだ。
 が、そこに来てのエグランティーヌ様の暗殺。そこからのユルゲンシュミットは、まるで坂道を転がるように衰退していったという。

 まず、わたしとフェルディナンドが姿を消した。
 エグランティーヌ様が持っていたのは一代限りのグルトリスハイトだったから、エグランティーヌ様の死亡にあわせ消えてしまった。
 焦ったアウブ達はもう一度新たなグルトリスハイトを授けて欲しいとわたしの元に殺到し、アレキサンドリアではわたしを守りきれないと判断したフェルディナンドがメスティオノーラの書から得た知識を使い、少数の側近のみを連れてユルゲンシュミットの外へと出ることを選んだのだ。
 つまり、わたしとフェルディナンドは余りにも自分勝手な貴族達に見切りをつけ、ユルゲンシュミットを見捨てたらしい。

 それからグルトリスハイトを持たぬ王として新たにジキスヴァルト王子がツェントに立ち、コリンツダウムを含めた地を中央と改めたが境界線が引きなおせないためにその統治はすぐにがたが来た。
 もっと言うなら国の礎の場所を、ジキスヴァルト王子は知らなかった。だから前の場所から魔力を供給するしかなくて、一度わたしが満たしたはずの礎はあっという間に枯渇していったのだという。
 
 結果、ユルゲンシュミット崩壊。
 白の建物は次々に崩壊し、人々の住めぬ白の砂漠と成り果てた。エアヴィルミーン様の贖罪の地は、馬鹿な人間達のせいで砂と帰したのだ。

 「……それで、わたくしに一体どうしろというのです?」

 さめざめと『未来』を語ったわたしとよく似た女神様……メスティオノーラは悲しげな顔でわたしを見下ろす。
 ユルゲンシュミットはエアヴィルミーンのために用意された地。エアヴィルミーンにとてもお世話になったメスティオノーラ曰く、このような未来はとても許容できないという。
 なのでドレッファングーアに時の糸の逆さ紡ぎを頼み、このような未来を齎さないためにももう一度わたしとフェルディナンドに奮闘して欲しいとメスティオノーラは告げた。
 えーと、つまり……また過去からやり直せってこと!?

 「はぁ。強くてニューゲームという奴ですか? 正直わたくしとフェルディナンド様がやり直してもそれほど良い未来を手繰り寄せられるとは思えないのですけれど」

 だってわたしは自他共に認める書痴で、フェルディナンド様は神様嫌いの効率主義だ。神様の為に頑張ります!なんてことは絶対にないと言い切れる。
 そもそも今回の生だって、頑張って頑張って、ただひたすらにがむしゃらに走って辿り着き、ようやく得た結末なのだ。その頑張りを無にしろとは、メスティオノーラ様も結構酷いことを言うなぁと思う。

 「あなたがクインタが大切でなりふり構わなかったように、わたくしもエアヴィルミーンが大切なのですよ」

 が、笑顔でそういわれればぐぅの音もでなかった。ですよね。としか言いようがない。
 でもわたしとフェルディナンドがもう一回人生やり直すより、エグランティーヌ様を守った方がよくない?その方が無難というか、簡単じゃない?
 そう思って提案してみるも、メスティオノーラは疲れたように首をふる。曰く、無理だったらしい。

 ドレッファングーアがどれだけ糸を紡ぎなおし、ヴェントゥヒーテが何度歴史の糸を紐解いても、エグランティーヌ様は死んでしまう。
 そしてアナスタージウス王子が後を追い、政変が起こり、ユルゲンシュミットは崩壊する。
 中にはわたしかフェルディナンドが渋々ツェントについた歴史もあったらしいのだが、やはり暗殺されてジキスヴァルト王子がツェントに立ち、崩壊する流れは変わらないのだそうだ。
 それってつまり暗殺の陰にジキスヴァルト王子が居るんじゃ、と思いながらもお口にチャックをして、女神様は再度わたしに言い渡した。
 時の糸を逆さに紡いだ先でフェルディナンドと協力し、エグランティーヌ様以外のツェントを立て、ユルゲンシュミットの未来を存続させて欲しい、と。
 上位者からのお願いは命令に等しい。それでも嫌ですと駄々を捏ねてみるも、もう時の糸は逆さに紡がれているといわれれば絶望しか覚えない。

 わたしの!図書館都市が!!!

 おいおいと嘆くわたし。どれだけ頑張って本を集めたかメスティオノーラ様に語る。つらつらと語る。恨み言だという自覚はある。でも語る。だって取り上げたのはメスティオノーラ様だから。
 最初は同じく図書館を持つ者として申し訳なさそうにしてくれていたのだが、余りにもわたしが嘆くものだから次第に頭痛がしてきたらしい。
 仕方ないので、二週目の人生には強力な助っ人を用意しましょう、と引きつりかけた笑顔でわたしに告げた。

 助っ人って何。フェルディナンド以上の助っ人が居るなら見てみたいよ!あの人リアルチートキャラだからね!
 ぶすっとしながら続きを聞けば、その助っ人はわたしと同じ異世界の人間だからユルゲンシュミットにない色んな知識があるし、味方もたくさんいる。
 だからきっと役に立つし、その助っ人と協力してまたアレキサンドリアを立ち上げ、図書館都市を作ればよいとメスティオノーラ様は簡単に言った。
 作ればよいと言うが領地を掌握して図書館の棚を埋めて行くのにどれだけ苦労したと思っているのかとジト目でメスティオノーラ様を見れば、メスティオノーラ様は更に言った。

 「新しいツェントを立て、ユルゲンシュミットを存続させる未来を手繰り寄せることが出来たならば、遥か高みへと上った後、貴方とクインタにはわたくしの図書館に足を踏み入れる許可をあげましょう」
 「ありがとうございますメスティオノーラ様!! 死後は英知の女神の図書館で本読み放題!! いやっふぅ!!神に祈りを!!!」

 うまくやれば出禁を解くと言われて、わたしは即座にやる気になった。人生二回目だってやってやるさ!
 フェルディナンドが居れば大丈夫!! 祈るわたしにメスティオノーラ様はにっこりと微笑み、それではお願いしますねと言うとわたしの意識は急激に落ちていく。
 しかし落ちていく意識の中、わたしの思考に思い切り眉を顰めたフェルディナンドが現れる。

 あ、これってもしかしてお小言案件だったりする?
 ようやく気付いた事実に慌てたいのに、わたしの意識はぷつりと途切れた。

[newpage]

 意識が浮上していく。ふわふわする頭。重い瞼をゆっくりと開ければ、目に入るのは懐かしい汚い天井。
 わたしがまだ身喰いの貧民として生きていた、下町の家のものだ。懐かしいなあなんてぼんやりと考えていると、メスティオノーラ様とのやりとりをだんだんと思い出してくる。
 あれ、もしかしてあれって夢じゃないの?

 アレキサンドリアならば隣には必ずフェルディナンドが居た。なのでつい癖でがびがびする布団の中で手を動かす。そうすればフェルディナンドは必ず手を握り返してくれるから。
 さわり心地が悪い布団は、わたしに現実を思い知らせているに等しい。それでも受け入れきれずに探していた手がふいに柔らかな温もりに握り返され、わたしは思わず飛び起きてその手の主に飛びつこうとした。

 「フェルディ、ナン……ド?さま??」

 が、わたしの手を握り返してきたのはどう見てもフェルディナンドではなかった。残念ながら、わたしの天使であるトゥーリでもない。

 「……だれ?」

 周囲の風景はどう見ても下町の貧民街にあるわたしの家なのに、知らない子供が居るとはこれいかに。
 白い髪に金色の瞳をしたその子供は表情が薄く、しかしそれでいてわたしを再度ベッドに戻そうとぐいぐいと肩を押してくる。
 頭は痛いし身体は重い。どう考えても熱が出ているので抵抗しきれずにそれに従うと、薄いドアがノックもなく開き、薄汚れたエプロンをつけた母さんがわたしを見て嬉しそうに笑顔を見せた。
 ああ、母さんだ。母さんだよ。染色仕事のせいで汚れが落ちなくなった指先や、三角巾の下から覗く深緑の髪、ちょっと若い顔、懐かしくて涙が出そうになるわたしの上に、見知らぬ少女は丁寧に布団をかけてくれる。
 だから、あなた誰!?

 「よかったマイン、目が覚めたのね。熱は?どう?」
 「うん、平気。心配かけてごめんなさい」
 「いいのよ。でもマリアにはちゃんとありがとうを言うのよ。ずっと貴方についていてくれたんだから」

 そう言って櫛通りの悪い髪を撫で、わたしの額に手を当てる。気持ちがいい。涙が出そうなくらい嬉しい。
 けれど当然のように熱が下がっていないことがばれて、全然平気じゃないじゃない、と怒られた。
 うぐぅ。アレキサンドリアではこれくらい平気だったんだもん……。で、マリアって誰。

 「困ったわね。わたしも今から仕事だからついてあげれないのに……ゲルダお婆ちゃんにお願いしようかしら?」

 その言葉にびくりと飛び跳ねそうになる。あれでしょ。放置プレイが基本のあのお婆ちゃんでしょ。
 冗談じゃないよ!それくらいなら大人しくしてるよ!あんな不衛生なところは二度と行きたくない!
 と、思っていると恐らくマリアという名前であろう白い髪の少女がくいくいと母さんのスカートの裾を引っ張る。
 そういえばあの顔、どっかで見たことある。どこだっけ?
 
 「母さん、わたし、マイン見てる」
 「えぇ? でも一人で平気?」
 「うん。今日のマイン、大人しいから」

 少女の言葉に母さんは少しだけ迷ったようにわたしに視線を寄越した後、それじゃあお願いしようかしらと言って少女の白い髪をなでる。
 わたしに大人しく一日寝ているように釘をさすと、そのまま仕事があるからと出かけていってしまった。ああ、待って。この知らない子と二人にしないでぇ……。
 時間に余裕がなかったのだろうけれど、あまりにもさくさく行動したために基本のろまなわたしには止める暇も無かった。
 薄いドアに手を伸ばして固まってしまったわたしに少女は一瞥したものの、やっぱり表情は動かない。というか本当にあの顔どこで見たんだろう?

 「マイン」
 「うひっ!?な、なに?」
 「色々混乱してるだろうけど、ちゃんと説明するからまずはお水飲もう」
 「え」

 知らない子から貰ったものを口にするのはちょっと抵抗があるなぁ。流石に長年貴族として暮らしてきただけあって、そこらへんの警戒心は芽生えている。
 毒見なんてしてくれないだろうし、と迷っていると、少女は金色の目をすっと細めて淡々とした口調で無表情に語り始めた。

 「別に飲みたくないならいいけど。その代わり脱水症状になっても責任持てないから。
 脱水って苦しいけど、なったことある?まずお腹が痛くなる。それから吐き気がこみ上げる。上からも下からも垂れ流し状態になって、全身から冷や汗がぶわって出るの」
 「の、飲む!飲みます!」

 顔立ちが整った幼女が無表情に淡々と脱水症状について語るという恐怖。これは現物を見なければ解らないと思う。
 うひっと悲鳴を漏らしたわたしが上半身を起こして水をくれと言うと、少女は一つ頷いて床に置いてあった水の入ったコップを寄越してくれた。
 その薄汚いコップを受け取るときに白くて小さなわたしの手が目に入る。おずおずとコップを受け取ると、余りにも力が入らない上にコップが大きすぎて取り落としそうになった。
 少女は無言でコップを取り上げるとベッドへとよじ登り、今度はコップを支えながらわたしに水を飲ませてくれる。ぺろりと舐めてみた水は違和感はなかったから、わたしは大人しく水を飲んだ。
 思ったより喉が渇いていたらしい身体はあっという間に水を飲み干したけど、それだけでだいぶ疲れた。お腹もお水でたぷんたぷんだよ。
 再度ごわごわする布団に押し込まれ、思わずはふぅと息を吐く。すると湿った布巾が額に乗せられる。冷たくて気持ちがいい。
 諸々の作業をした少女はベッドのふちに腰掛けると、あの金色の瞳でわたしを見下ろしてくる。

 「それじゃあ、落ち着いたことだし話をしよう。初めまして、マイン。わたしは英知の女神の要請を受けて貴方の手助けをするために来た。
 時の女神や導きの神、機織の女神などの力により今は貴方の双子の妹としてこの世界に生を受け、貴方とクインタが無事この世界を救えるよう手助けする役目を負ってる」

 冷たい布巾の気持ちよさに力を抜いたら突然物凄く大事な話を投げつけられてわたしの眠気は吹っ飛んだ。
 何より、告げられた名前にわたしの頭が一瞬で沸騰する。

 「……違う。クインタじゃない」
 「? どう違うの?」
 「クインタじゃない。フェルディナンドだよ。クインタなんて数字の名前で、わたしの大切な人を呼ばないで」

 身体の中の熱が暴れまわりそうになるのをぐっと意志の力で押さえつけながら、金色の瞳を睨みつける。
 多分少し威圧状態になってしまったかもしれない。けれどわたしを見下ろしていた瞳を僅かに細めただけで、マリアは小さく頷いた。

 「解った。クインタではなくフェルディナンド。次からそう呼ぶ」
 「へ?あ、う、うん。そうして」

 案外あっさり了承されて、少し拍子抜け。マリアはわたしの目を覆うように掌を顔の上に置くと、そこから魔力が引っ張られるような感覚にわたしはびくりとした。
 けれど奪われるのでもなんでもなくて、むしろ膨張しかけた魔力が綺麗に整理整頓されていくようで、気持ちよさすら覚える。
 外部から魔力をいじられて整えられてくという不可思議な感覚に戸惑いながらも、悪意は感じなかったのでされるがままになっておく。
 幸いすぐに魔力は整えられ、掌がどけられたかと思うとやはりあの金色の瞳がわたしを見下ろしている。

 「わたしの情報はとても偏ってるの。だから話をしよう、マイン。わたしのことも話す。あなたのことも聞きたい。まずは情報交換。
 そのあと、これからの話をしよう。フェルディナンドのことや、この国や、神様達のことを。
 幸い、時間はたっぷりある。こんな中領地の貧民の部屋で大事な話をしているなんて誰も思わないから、邪魔はきっと入らないでしょう」
 「ぷっ、言えてる。そうだね。色々話し合ったほうが良さそう。貴方は神様からしか話を聞いてないみたいだし。
 それじゃあ、まず自己紹介をしよっか」

 まずは情報交換。その言葉にわたしの頭はすっと冷えた。情報は大事だ。神殿で、お城で、貴族院で、アレキサンドリアで、わたしは散々それを学んできた。
 だからその言葉に頷いてあえて名前を聞けば、わたしが既に母さんの言葉から名前を知っていると解っているであろうに、マリアは頷いてくれた。

 「わたしはマイン。元は日本人で、この世界は二回目だよ」
 「わたしはマリア。元は日本人で、審神者です」

 そう言ってマリアはぎこちないけれど、小さく笑顔を見せてくれた。可愛いかもしれない。ていうか結構美幼女じゃない?
 どうやら新しく出来た妹は、随分と不器用らしい。わたしも笑顔を見せながら、握手の為にもぞもぞと布団から手を出す。お互い小さく白い手を握りあう。
 じゃあ、話をしよう。わたしのこと。あなたのこと。それから未来のことをたくさん、話をしよう。

[newpage]

 知らない間にできていたわたしの双子の妹マリアは、まずは自己紹介もかねて自分の話をしてくれた。
 マリアは日本では審神者をしていたらしい。時の政府によって新たに設立されたその職業についてわたしは基本的なことしか知らないけれど、今回重要なのは審神者の仕事ではないそうだ。
 審神者の仕事は歴史修正主義者を倒すことだけど、マリアの居た時代では既に歴史修正主義者との戦争は終わりを迎えて、後は残党狩りをするだけってところまできていたらしい。

 「あれ?待って、マリアがこっちにきたのって西暦何年?」
 「西暦二四一八だよ。マインは二二〇七に死亡したって聞いてるけど」
 「マリアってわたしより二百年以上後の人なの!?」
 「生まれはマインと同じくらいだと思う。わたしは戦争中に刀剣男士と婚姻をして寿命を捨てたから」
 「わお、未知の世界……」
 「わたしからすればここの方が未知の世界だけどね」

 肩を竦めるマリアに、そう言えばここは異世界だったなと今更ながらに思い出す。
 長年ローゼマインとして生きてきたので最早此処はわたしの第二の故郷だ。それほど違和感はない。

 「母さんの髪の色とか驚かなかった?」
 「それほどでもなかったかな。刀剣男士も頭がカラフルだったから」
 「頭がカラフル」

 慣れすぎて気にならなくなっていたけど、こうやって聞くと結構パワーワードだな。
 そんなことを考えながらも話を戻して更に聞いていくと、刀剣男士と夫婦になったマリアは二百年歴史修正主義者と戦い続けたいたらしい。
 二百年も最前線戦い続けていたおかげで時の政府から色んな仕事を押し付けられ、それなりの権力を持つようにはなっていたという。
 おかげで終戦を迎え次々に審神者が退職して行く中、残務処理に追われる側でマリアは働いていたそうだ。

 「拠点だった本丸も、最後には閉じる予定だったの。そしてわたしは夫である刀剣男士の手で首をはねてもらう予定だった」
 「ひぃいっ、くっ、首をはねるって何!?」
 「寿命じゃ死ねないし、下手に生き残って権力のない一般人に戻ったら不老不死を夢見る馬鹿共の実験体にされる未来が目に見えてたから。
 夫の手で殺してもらって、その魂を連れて行ってくれるよう話してあったのよ」
 「うあ、り、理解できない……」
 「そうね。ずっと狭い世界で生きてたから、わたしの感覚は普通の人と随分ずれてると思う。今更ただの一般人に戻れない。それも理由の一つだった」

 そうやって死ぬための片づけをしていたマリアに、ユルゲンシュミットの夢の神を経由し英知の女神が接触してきたのだという。
 つまりシュラートラウムの協力を得て、メスティオノーラがわたしの助っ人をしてくれるようお願いという名の命令をしてきたと。

 「異世界に転生して世界救済の手助けを、とか言われても、正直何を言われているのか一瞬理解できなかったよね」
 「それなんてラノベ?って感じだね」
 「正直断ろうかと思ったよ。そしたら英知の女神がこう仰ったの。本丸ごと、わたし達をこちらの世界に移動してくださると」

 本丸。さっきも言っていたがそれはマリアの仲間達が住む拠点で、その名の通り審神者それぞれに与えられる本陣だ。
 そこに住む刀剣男士ごと移動させてくれるという条件に、本音では死んで男士達と別れたくないと願っていたマリアは頷いてしまったらしい。
 男士達もまた、自分たちの主人はマリアだけだとそれに協力を約束し、全員で此方の世界へと移動することを決めたのだという。

 「あれ?てことはどこかにマリアの仲間がいるの?」

 思わずきょろきょろと狭い室内を見渡すが、当然汚い部屋の中にはわたしとマリア以外誰もいない。
 隠れられる場所なんてあるはずもないし、マリアもまたここには居ないよと当たり前のように告げた。

 「本丸はあの世とこの世の境にある。わたしの霊力を用いて維持されているその特殊で不安定な空間は、わたしが審神者として働いている間は時の政府が座標を固定していた。
 だからわたしは特殊な空間移動法を用いることで、その固定された座標にある本丸と、現世にある地球を行き来することが出来たの」
 「確か歴史修正主義者から審神者を守るためにその不思議な場所にいるんでしょ?友達の一人が審神者になった時に教えてくれたよ」
 「そう。けど英知の女神と夢の神の申し出によって、わたし達の本丸はその座標より消失。実質、現在の本丸は異空間に漂う小船状態といっていい」
 「え。それって大丈夫なの?」

 なんだかとっても不穏な響きだ。
 しかしわたしの不安とは裏腹に、マリアは動揺することなく頷くだけだった。

 「わたしとの縁があるから大丈夫。此方の神々がその縁を手繰り、異空間にある本丸をこの世界寄りの場所でまた固定してくれると約束してくれたの。
 現時点では本丸と連絡を取ることは叶わないけれど、座標を固定した暁にはわたしとのパイプラインを繋ぐ。完全に繋ぎ終われば移転の術式を使用していつでもどこでも行き来が可能になる予定なんだ」
 「えーと、つまりマリアが異世界転生したことによって家ごとユルゲンシュミットに引っ越しが可能になって、家に繋がるどこで○ドアが開通するのにちょっと時間がかかってるってこと?」
 「大体合ってる」

 よかった。合ってたらしい。
 そこでわたしはふと気付いた。家ごと引越してるってことはさぁ……もしかして、もしかしてだよ?

 「ね、ねぇ、その本丸と繋がったら、お米とかお味噌とかこっちに持ち込むことってできるかな?」
 「できるんじゃないかな? 本丸では稲作もやってたから」

 ぶわりと期待に胸が熱くなる。諦めかけていたお米が、お味噌が、お醤油が、手に入るかもしれない!
 お出汁が、餡子が、また、食べられる……?

 「神に祈りを!」

 反射的に上半身を起こし、ばっと両手を広げる。
 指輪をしていなかったので流石に祝福は飛ばなかったが、もししていたならばこの家から溢れるくらいの祝福が出ていたに違いない。
 マリアはわたしの突然の奇行に目を丸くしていたけれど、すぐにため息をついてからわたしを布団の中に押し戻し、額に手を当ててあらぶった魔力を整理してくれる。
 申し訳ないと思う反面、もう十年以上おめにかかれていない和食がまた食べられるかもしれないと思うと胸の高鳴りが収まらない。

 「ねぇ、繋がるのっていつ?明日?明後日?それとも一週間くらいかかっちゃうのかな?」
 「多分一年か二年程度はかかると思う。それにつながってもすぐに行き来はできないんじゃないかな。パイプラインが百パーセント開通するにはもっと時間がかかる筈。
 その間は持ち込める量も極僅かだろうし、食べられるのは多分かなり先になると思うよ」

 だから落ち着きなさいと冷静に諭され、わたしの期待はしゅるしゅるとしぼんでいった。がっかりだよ!わたしの期待を返して!
 目に見えて落ち込むわたしにマリアはため息をつくが、何も言わない。どうしようもないのだろう。
 あまりにも落ち込んだわたしにいたたまれなくなったらしく、マリアは少し視線を泳がせた後に小さな声で提案してくれた。

 「……繋がったらお米とお味噌汁と、昆布とわかめを持ってきてもらおうね。一人か二人分くらいなら何とかなるだろうし、駄目なら数回に分けて運べばいい」

 そのラインナップは、まさにご飯とお味噌汁!

 「ひ、ひじき。ひじきも食べたい。五目ひじき!あとできれば肉じゃが!!」
 「ならせめて玉子焼きくらいはこっちで作らなきゃね」
 「いやっふぅ!神にいの」
 「らなくていいから大人しくしていなさい!」

 上半身を起こそうとしたところを額に掌があてがわれ、強制的に枕の上に戻される。ついでというようにまた魔力を整理されて、わたしは今更ながら疑問に思った。

 「そう言えば何でわたしの魔力を操作できるの?」
 「普通そっちを先に聞かない?」
 「和食のが大事だよ!もう何年も食べてないんだよ?!」
 「はァ……」

 ため息をつかれた。でもこれは譲れない。マリアは十年以上故郷の味を味わえないという苦行を知らないからそんな反応になるのだ。
 わたしみたいに美味しいご飯が食べれなくて、日本食恋しさに料理を開発するようになればどれだけ日本のご飯が恵まれてたかわかるだろう。
 口を尖らせるわたしの鼻先を指先でつついてから、マリアは一口水を飲む。そして呆れた様子を隠すことないながらも、わたしの魔力が弄れる理由を教えてくれた。

 「さっき言ったでしょ?本丸はわたしの霊力で維持していたって。この世界の魔力と日本での霊力はほぼ同質のものだって英知の女神が仰っていたの。
 そしてわたしは二百年、霊力を研ぎ澄まし研鑚し続けていた。他人の霊力に多少干渉することができるのも、その修行成果の一つ。誰でもできることじゃないんだからね」

 ちょっとだけドヤ顔である。つまり魔力操作はマリアの得意技ってことかと納得しながら、じゃあ凄い圧縮方法とか知ってるのかと思わず聞いてみれば、今度はきょとんとされた。
 あれ、違うの?

 「圧縮?霊力は研ぎ澄ませて質を上げるものでしょう?圧縮っていうのは聞いたことない」
 「へ?魔力は圧縮するものでしょ?そうやって自分の器に溜め込める魔力量を増やすんだよ」

 お互い無言になった。話がかみ合わない。
 今度こそ話のすりあわせが必要だと一つ一つ噛み砕いていくと、どうやら日本と此方では効率よく力を使うための方向性が全く違ったらしい。

 ユルゲンシュミットでは、魔力は圧縮するものだ。
 とにかく密度をあげて体内に溜め込める量を増やし、使える量を増やしていく。そして魔力量によって貴族の力は決まると言っていい。
 しかし日本では、霊力は研鑚……つまり濃度をあげるものだったらしい。
 より少ない霊力で、すなわち私たちが普段十使って魔術を発動するところを、濃縮した霊力ならば三で済むようにするのだという。

 簡単な魔力圧縮方法を教えると、マリアは体を飛び上がらせていた。未知の感覚で違和感が凄いらしい。
 逆に研鑚方法を聞くと、一番は日常的に魔力を体内で循環させることだと言われた。残念なことに、これがまた難しかった。

 心臓付近にある魔力を溜める器官。そこから魔力を左肩へ、左腕へ、左脇腹へ、左足へ、それから右足、右脇腹、右腕、右肩、頭、そして心臓。
 そうやって魔力を体の中でぐるぐると動かし続ける。綺麗な流れを作る。そうすることで魔力が研鑚され、濃度が上がるのだという。
 これを毎日、普段日常生活の中でやり続けるのが一番体力を使わない方法なのだと言われた。
 それ以外だと肉体を鍛えることで霊力を研ぎ澄ませる方法が一番多いらしく、わたしには向かないと言われた。確かに無理だ。
 シュタープがあればもう少し楽に動かせるだろうに、生憎今のわたしには存在しない。
 確かにこれを毎日続けているというのであれば魔力操作に優れるというのも納得で、同時にシュタープは本当に優れた補助器具だったんだなと思い知らされた。

 「ぅぐ……綺麗に流れない……」
 「最初はそんなものだよ。一日十分も頑張れば充分。というか想像以上に集中力を使うから、多分それ以上はできないと思う。
 それから少しずつ動かすのに慣れていって、流せる時間が増えてきたら日常生活の中でも流し続けられるように意識してみて。
 早ければ一年もすれば順調に流せるようになるよ」
 「マリアみたいに他の人の魔力を操作するのは?」
 「あれはちょっと難しいと思う。わたしも習得にはかなりの時間がかかったし、一種の才能が必要だから」
 「むぅ。ちょっとやってみたかったのになぁ」
 「下手に他の人に試さないでね。慣れない人がやると他人に自分の霊力を流し込むことになるから」

 それは困る。というか貴族なら間違いなく破廉恥案件だ。
 そんなことを考えながらわたしが循環に手間取っている隣では、マリアが圧縮に戸惑っていた。
 常に体に循環させてる魔力を圧縮して溜め込んでおくことが慣れないんだってさ。

[newpage]

 あれからわたし達は何度も話し合いを重ねた。もっぱらわたしが熱を出して寝込んでいたので、マリアがその看病をという理由でわたし達は二人でお留守番が多かったからだ。
 魔力を動かし続けるのも少し慣れてきた。同時に少しだけ魔力が漉されてきたような感覚を覚える。濃度が上がるとはこういうことかと納得した。
 今日も今日とて母さん達を見送った後、わたし達は情報交換を続ける。日数は重ねているが、実は話は遅々としてすすんでいない。原因は勿論わたしが寝込んでいるからである。

 「アレからずっとやってみてるけど、この濃縮した魔力を圧縮するのはやめた方がいいね」
 「なんで?わたし、やっと圧縮してとどめておくことに慣れてきたんだけど」

 お互いがお互いの新しい魔力の取り扱い法について試行錯誤していたのだが、わたしの出した結論にマリアは少しだけ不満そうな顔をした。
 最初は無表情に見えたけどここ数日でマリアの表情もわかるようになってきた。この現象は多分、外人が日本人は表情が動かないように見えるっていうアレと同じじゃないかと密かに思ってる。
 長い間生きてきただけあってマリアは感情を隠すことに非常に長けているのでなおさらだ。

 閑話休題。

 「ユルゲンシュミットの人間って、厳密に言うと地球人とは体のつくりが違うんだって言う話はしたでしょ?
 その中の違いの一つに魔力圧縮をしすぎると成長が阻害されるっていうのがあるんだ。そのせいで前の人生のときは、洗礼式を受ける歳になっても三歳くらいにしか見られなかったの。
 順調に成長したいなら魔力を圧縮しすぎない方がいいんだよ。
 なのに今回はわたしが前回していた魔力圧縮法プラスマリアの魔力濃縮法を使ってるから……」
 「……一生幼女は流石に嫌だなあ」
 「うん。わたしもやだ……」

 マリアの発言にわたしも全力で同意する。マリアには既に圧縮の第四段階まで教えてある。
 シュタープがなくても細かな魔力操作が可能なだけあってあっさりとやってのけたマリアだったが、更に追加で圧縮しようにも魔力が足りない、自然回復するまで待つのがもどかしいということをぼやいていた。
 回復薬があったら即座に煽ってフェルディナンドのように更に圧縮を重ねていたに違いない。まさか同類なのかと戦慄してしまった。マッドは二人もいらないよ!

 「となると濃縮した魔力を圧縮するのは成人後、体の成長が終わってから、かあ」
 「うん、それで十分だと思う。ただ貴族に接触して魔力を体外に放出する魔術具を得られるまで、ひたすら圧縮して身体から溢れないようにしないといけないんだ。
 そうしないと抱え込む魔力の熱量に体が耐え切れなくて、こう、肌がぼこぼこ泡立って……あれ?でも日本ではそんな現象なかったよね?体のつくりが違うからかな?」

 魔力と霊力は非常に似通っているというのを、マリアがメスティオノーラから聞いたというなら間違い無いはずだ。
 けれど霊力があふれ出て体がはじけ飛んだという話は聞いたことがない。布団に入りながらも首を傾げるわたしに、マリアは肩をすくめながら当たり前だよと言った。

 「例えば『いただきます』と『ごちそうさま』。『いってらっしゃい』と『おかえりなさい』。日本では祈りの言葉が日常生活に組み込まれてた。
 その時に自然とあちらの八百万の神々が、一般人から少しずつ霊力を引き抜いてたんだよ。あちらは此方と違って神様が飽和状態だったから、霊力が豊潤な人ほど色んな神様からしょっちゅう抜かれる。
 つまり、溜め込みようがないの。というか溜め込むための器官がないんだって。そも身体のつくりが違うんだから」
 「え、じゃあこっちでも神様がお祈りの際に勝手に魔力を抜いてくれたりとかしないのはなんで?」
 「日本の神様と違って信仰心なんてなくとも存在し続けられる高位の存在で、魔力の取り合いになるほどひしめいてないから。ちゃんと貴族達が少しずつでも奉納してるしね」

 とんだ神様事情に思わず呆然としてしまった。世知辛いのは人間の世界だけではないようだ。
 しょっぱい現実になんとコメントしていいか分からず、あえてスルーしてわたしはマリアのもう一つの言葉に食いつくことにした。

 「そっか。日本人はそもそも魔力を溜め込む器官がないから魔力が飽和して死ぬこともないんだ」
 「そう。だからわたし達みたいな霊能力者はわざわざ特別な術式を使って霊力を結晶化したり、瞳や髪に溜め込んだりしてたんだよ。いざという時枯渇しないように」
 「後付けハードウェアみたいな?」
 「ちょっと違うけど大体あってる」

 顔を見合わせ、笑いあう。日本人同士でしか通じない会話が通じるって楽しい。
 でもいつまでも馬鹿な話をしているわけにはいかないので、話を軌道修正しなければならない。
 とりあえずは当面の行動指針について、だ。そもそもこの話がしたくて、魔力圧縮について話を出したのだから。

 「圧縮してると良くないって言っておいてなんだけど、とりあえずフェルディナンド、じゃなくて……ディーノが連絡取ってくるまでは、圧縮しておこう。
  溢れる方がもっとまずいからね。それに政変のせいで魔力不足に陥るから、堂々と神殿で会えなくても隠れて魔力だけでも渡せればお互いかなり楽になる筈なんだよ。ディーノがそれを見逃すとは思えない」
 「連絡手段があるの?マインが戻ってから数日経ってるけど、そんな気配微塵もないよ?」
 「うーん、ディーノなら何かしらの手段を使って渡りをつけてくれると思うんだよね。ただ今はまだ新官長として神殿で仕事で埋もれてるし、神殿長もヴェローニカも現存してるから、多少時間はかかると思うんだ」
 「ああ、ある程度安全を確保する必要があるってことか。それならすぐに連絡が取れなくても仕方ないね」

 マリアの言葉にこくりと頷き、自分から連絡をとってみようかと考えてかぶりをふってやめておく。
 下手にわたしが接触をして神殿長……ベーゼヴァンスやヴェローニカに目をつけられる方が怖い。今度こそ無理矢理主従契約を結ばれて売り渡される可能性がある。
 何よりあのフェルディナンドのことだ。前回の情報を元に裏工作や根回しをしている最中だとしたらさぞかし綿密な計画を立てているに違いない。
 わたしが動いて引っ掻き回せば何を言われるか分からない。大人しくしているが吉だろう。

 「とにかく、今はいつでも動けるように体力をつけてお金を稼ぐ方向で頑張ろうと思う。あとマリアは早いうちにこっちの文字を書けるようにした方がいいかな?」
 「そうだね。話し言葉にも時折日本語が混ざるし、読み書きが出来るように努力しつつ、此方の常識を学んでおくのがベストってところかな?」
 「うん。ディーノが居れば動ける範囲やできることはぐっと広がる筈だから、それまでは前回をなぞらえつつ失敗した部分は飛ばして、水面下で準備を進めていこう!」
 「了解。ベンノさんとオットーさん、だっけ?商人の人たちとも早いうちに交流を始めたいね」
 「ルッツもね!」

 これからの方針を話し終えたわたしは、やるべきことや手をつけたいことを考えてやる気をみなぎらせる。
 前回苦労した粘土板やパピルスの部分はすっ飛ばそう。まずは門まで行ける体力をつけて、ルッツと仲良くなってペースメーカーになってもらうところから!
 同時にオットーに渡りをつけて、リンシャンを売れないか相談してみよう。父さんから商人のことを聞いたって言えば、早いうちにベンノさん紹介してもらえるかも!
 ふんす、と鼻息を荒くしたわたしだったけど、すぐにマリアの手によって布団の中へと戻された。

 「何かに手をつける前に、とにもかくにも体力づくりから始めようね」
 「はーい……」

 でも!がんばって考えるよ!!

[newpage]

 「マインと、」
 「マリアの、」
 「「と・う・ら・ぶ講座ー!」」

 「というわけで、ここではクロス先の刀剣乱舞(以下とうらぶ)について簡単に説明していく!予定!だよー。予定は未定とも言うよ!
 というか、本にまとめてくれればわたしも予習してきたのにー」
 「ごめんね、公式設定と非公式設定がごっちゃになってるから…」
 「発言がメタい!」
 
 「さて、今回のテーマはずばり、『審神者』です。わたしのことね」
 「なんて読むの?しんしんしゃ?」
 「違います。さにわ。はにわじゃないよ、さにわ、ね」
 「読めない」
 「初見の人は大抵読めないと思う」

 「で、審神者ってなに?」
 「本来の意味ならば、霊能力者に分類されます。辞書で出てくるのはそっちの意味かな」
 「辞書にあるの?」
 「さにわって打ってみて。予測変換とかに出るから。一応昔からある言葉なのよ」
 「グルトリスハイト手元にないから無理だよぅ……で、本来の意味ならばってことは、とうらぶでは違うの?」
 「そう。とうらぶでは独自の設定になってる」

 「どんな設定?」
 「簡単に言うと、付喪神を呼び起こして、戦うための身体と力を与える能力を持つ者、です。
 起こされた刀の付喪神が、『刀剣男士』。審神者は刀剣男士を率い、歴史修正主義者と戦うのが仕事なの」
 「つまり、将官?」
 「実際に戦闘には出ないけどね」

 「戦闘に出ないなら何するの?」
 「まず第一に彼らの統率。
 審神者に起こされた刀剣男士は自分達が『道具』であるという意識から、審神者を持ち主……つまり主人と思うのね。刷り込みみたいだよね。
 だから審神者は男士達で部隊を組み、過去に派遣して戦わせるのが一番の仕事なの」
 「……つまり、審神者は安全地帯に待機?」
 「そう。第二に、傷つき帰還した彼等を『手入れ』して癒したり、装備である『刀装』を作ったりする。サポートがメインなのよ」
 「じゃあ一人で補給線を支えてるってこと? そりゃ待機にもなるね、ひとりじゃ大変そう」

 「でも男士が乗る馬の世話や、男士達が食べる野菜を作るための畑仕事など、これらも全て男士の仕事でもある。
 審神者一人じゃ数十人、本丸によっては百人を超える男士の世話はできないから」
 「あ、やっぱり男士達も家事雑事をやるんだね」
 「そうなの。審神者の仕事は大体はわかったかな?」
 「うーん、なんとなく?」

 「なんとなく解れば十分だよ。
 次は審神者が統括している『刀剣男士』について話をしましょう」
 「え?これで終わりなの?」
 「いっぺんに話しても覚え切れないだろうから。少なくともわたしは覚えられませんでした!」
 「あ、ハイ」

 「では、次の講座でお会いしましょう、さようなら。ノシ」
 「その前に本編でお会いしようよ!?」

終わり。

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