グレッシェルの栞とメッセージカード1-3
「では、貴族用の森は魔獣が多いのですか?狩猟大会では動物だけではなく魔獣も狩るのでしょうか?」
お姉様は収穫祭と重なる狩猟大会には出たことがないため、様子を知らないそうです。
「うむ、強い魔獣を狩るのは騎士の役目だからな。出来るだけ多くの魔獣を狩るようしている。魔力の多い魔獣は美味であるしな。」
孫娘に話しかけられて嬉しいのでしょう、ボニファティウス様の目じりが下がっています。
「狩猟大会だけではございませんよね。ボニファティウス様は、毎年秋には北方の土地で魔獣狩りをされていると伺っています。ギーベ達は助かっていると言っていました。」
わたくしが北方の祈念式で聞いたことを伝えると、ボニファティウス様は頷きました。
「秋の間に魔獣を減らしておかねば、冬の主が強大になるからな。昨年の冬の主の討伐は厳しいものがあった。今年も出来るだけの備えをせねばならぬ。」
昨年は叔父様が居なくなった上、粛清で騎士の数も減った後でした。冬の主の討伐は大変だったのでしょう。今後はお姉様の護衛騎士も居なくなります。ボニファティウス様の負担は増える一方です。
ボニファティウス様はチラリとお兄様を見ました。魔獣狩りにお兄様と側近が参加してくれればと思ったのでしょう。
お兄様は次期アウブでありながら、支持集めに有効な魔獣狩りをしたことがありません。今からでも行えば、立場は良くなり喜ばれるはずです。
「ヴィルフリート兄様は魔獣狩りに行かれないのですか?ギーベ達は喜ぶと思いますよ。」
お姉様がお兄様に尋ねました。お兄様の為にもなるし、ボニファティウス様とギーベ達の為にもなるでしょう。
「魔獣狩りか。ランプレヒトが何度が勧めてきたが、ギーベ達から要請もないのに行く訳にはいかぬ。良かれと思って行動しても、相手には迷惑なことがあるからな。ギーベ達への祈念式巡りで良く分かった。」
お兄様は肩を竦めました。
……相手の都合も確認せず、いきなり訪問すれば、迷惑がられるのは当然です。情報収集して相手の望みを探り、根回しをした後、相手の都合を確認してから行くものですよ。
祈念式巡りでお兄様が歓迎されなかったのは仕方ありません。祈念式の時期は食料が最も少ない時期で、青色神官も馬車で食料を持参して訪問します。わたくしも食料を手配してから、ギーベを訪問しました。お兄様は騎獣で訪問したそうですから、食料を持っていなかったのでしょう。領主候補生をそんな時期にもてなすことになったギーベ達が迷惑に思うのは無理もないのです。
歓迎されなかった理由を解っていないとは思いませんでした。お兄様の社交の不味さは想像以上のようです。側近達は何をしているのでしょう。
ボニファティウス様もその辺りの事情は耳にしているのでしょう。呆れた顔を見せると何も言いませんでした。
ボニファティウス様は騎士団長だったこともあり、魔獣狩りでは騎士と共に野営を行い、ギーベの負担になることはしないと聞いています。
幼い頃から次期アウブとして大切にされてきたお兄様にとって、騎士と同じ待遇で過ごすなど考えたこともないのでしょう。
「そうですか、領主候補生のヴィルフリート兄様をもてなすのは大変かも知れませんけれど、名代として護衛騎士を貸し出すだけでも喜ばれると思いますよ。」
お姉様は、せめてと思ったのか、お兄様に助言してこの話を終わりにしました。そしてちらりとメルヒオールに視線を向けました。
メルヒオールはお姉様の視線を受けると、自分の護衛騎士を振り返りました。護衛騎士は頷いています。どうやらメルヒオールはきちんと空気を読み、ボニファティウス様とお姉様の期待に応えるつもりのようです。笑みを浮かべてお姉様が見ていました。
……メルヒオールは貴族としての資質に問題ないようですね。安心しました。
「魔獣狩りで思い付いたのですけれど、栞に騎獣に乗った騎士の絵があると良いと思いませんか?ディッター物語に挟むと似合いますよね。」
お姉様はグレッシェルの栞とメッセージカードに話題を戻しました。葉や花を閉じ込める代わりに、絵や模様を印刷をする提案をしています。
「お姉様。それなら、恋物語には殿方の絵や女性の絵が良いです。挿絵が喜ばれるのですから、きっと栞の絵も歓迎されるでしょう。」
わたくしも話題に参加します。
「紙の色を引き立たせる色インクで印刷すると、美しいでしょうね。栞を集めたがる人も現れるかもしれません。」
ブリュンヒルデも新しい流行の予感がするのでしょうか、楽しそうです。
「ローゼマイン様、シャルロッテ様、来年には間に合わないかも知れません。」
ベルティルデが慌てています。
「来年には間に合わない方がいいのですよ。一気に種類を出してしまうと、今後同じ物しか無くなってしまいますからね。2・3年後で十分ですよ。」
お姉様は、小出しにすることで商人達を飽きさせず、毎年来る気にさせるように、と助言をします。
「後でフィリーネに提案したことを纏めて渡してもらいましょう。他にも色々案がありますし、プランタン商会にも伝えておきますよ。」
お姉様はブリュンヒルデとベルティルデの為に、様々な置き土産を残すようです。
その後は、貴族院で栞とメッセージカードを見せても良い領地の確認と、それぞれ自分と側近用の下げ渡し分を受け取り、お茶会は終わりました。