わたし、目覚める!(4)

午前中はフェシュピールと奉納舞の練習、子供部屋の順で毎日規則正しい生活をする。
そして、座学の予習のためにと数日ごとに神官長から新しい本が届く。今まで手をつけれなかった歴史に関するものが多い。
予習のためだろうと、本は本だ!毎日寝るまで読書時間が設けられてて幸せ。

午後はそのまま子供部屋だったり、面会に使われたり色々だ。


印刷業発展のためにルッツとの契約解除をしたときは、とにかく心が荒れて大変だった。
でもそんなわたしの状態を神官長はお見通しだったみたいで、城での夕食の後すぐに神殿へ帰れるよう手配してくれてた。悲しくて寂しくて理不尽に奪われた二年間を返してほしくて、泣きながら眠った。
起きたらフランが「雪が弱まっていますので、朝食のあとルッツとの面会が予定されています」って言うから本当にびっくりした。わたしにできる最速で朝食を食べて孤児院長室に行ったら「隠し部屋の使用許可が出てます」だって!神官長の手回しの良さに呆然だったよ。

ルッツとこれからのことを改めて約束して、神官長にお礼を言いに行った。
使えない文官への愚痴とか、どうしようもない孤独感への不安とか全部ぶちまけたらちゃんと聞いてくれた。適当に流されなかっただけでもわたしの心は満たされて、落ち着きを取り戻した。


それからの日々は、奉納式で魔力をいっぱい使ったり、冬の主が現れたり、製紙業や印刷業に関わるギーべと会ったりして目まぐるしく動きつつ冬の社交の時間にできることをこなしていった。
気付くと冬も終わりを迎えていて、領主夫妻は領地対抗戦と卒業式のため貴族院へ向かった。
領主代行はおじい様が務めてた。



「昨年のこの時期はお兄様と一緒に北の離れにいましたけど、子供部屋と夕食の席でしか顔を合わせなかったのです。今年の冬はずっとお姉様と一緒に過ごせてわたくしとっても楽しかったですわ」

貴族院へ向かう領主夫妻の見送りをしたあと、シャルロッテを招いてのお茶会をしている。
冬の間に何度もお茶会の場を設けてもらい、義母様やお母様にも時々同席してもらってまずは身内同士のお茶会の経験を積んだ。
招く側、招かれる側の違い。側近の使い方。話題の選び方。大きいものから小さいものまで色々と作法があって、女性の社交は面倒くさい!と叫びたい気持ちでいっぱいになった。

神官長が座学はともかく、社交の勉強時間が足りないって言った意味をよく理解した冬だった。

「わたくしもシャルロッテとひと冬過ごせたことはとっても楽しくて有意義なものでした。色々と経験の足りていないわたくしにお付き合いいただいて、本当にありがとう存じます」
「まあ、お姉様!お礼を言われるようなことではございませんわ。それにお姉様が皆のやる気を煽ってくださったおかげで、子供部屋にいる子たちは地理と歴史の知識まで身につきました。やっぱり新しいことを考える力は到底お姉様には及ばないと実感しましたわ」

そう、神官長から覚えておくようにと課題として渡された歴代の王様の名やらユルゲンシュミットの地図やらを眺めながら、これも何か面白く覚えれる玩具を作りたいな、と考えてしまった。

地理は木工パズルが斬新だと思ってもらえるかなと思い、吹雪がましになったタイミングで木工工房に依頼を出した。
王様の名前は語呂合わせ的なものを皆で考えて、全員で復唱して遊んでみたりした。これで覚えられるかは分からないけど、試験的に導入してみたのだ。
何より子供達が楽しそうだったから良しとしよう。

わたしが眠りについた後、領主一族の旧ヴェローニカ派に対する警戒が高まってしまい、子供部屋は派閥がくっきり分かれて居心地悪くなっていたそうだ。
わたしがいた頃の一丸となってゲームを楽しんでいた空気を知る年代は居心地の悪さがかなり辛かったらしい。これはわたしが眠っていても子供部屋のフォローに回ってくれていたダームエルがこっそり教えてくれた。

その空気をヴィルフリート兄様が率先して作っていたらしいから、今の貴族院の寮内はどうなっているんだろうね・・・。


「・・・お姉様は領主になったら、どうしたいですか?」
「わたくしは領主になりませんわ」
「はっきりおっしゃいますのね。わたくしは領主の子の中ではお姉様が一番優れていると思っています。お姉様が領主となって、わたくしが女性の社交面を補佐するのがエーレンフェストにとって理想形かと思ったのですけど・・・」
「まあ。ふふふ、わたくしが領主になったら本でいっぱいの領地を目指しますよ。印刷工房を各地に作って領主への献本を義務付けるのです!わたくしの手元には新しい本が常に送られてくるようにするのですよ!あぁ、幸せ!シャルロッテはそのお手伝いをしてくださるのですね!」

あら?シャルロッテが遠い目をしているわ。

「わたくしの思っている領主の仕事とはちょっと違うみたいですけど、お姉様の理想と目標を自分の中にはっきり持てているところは見習わせていただきたいですわ。わたくし先生から領主になったらどう領地を治めるか考えるよう課題を出されているのです。でもお姉様みたいに具体的な話は全然出てきませんでしたわ」
「わたくしのはちょっと特殊かもしれませんけど、シャルロッテにはシャルロッテなりの住みやすいエーレンフェスト、こうなったらみんな幸せになれるだろうな、という領地の形を考えれば良いと思いますわ。わたくし応援します!」

伏し目がちに考え込んでいたシャルロッテがわたしの言葉にはっと顔を上げる。

「・・・お姉様はわたくしを応援してくださいますの?」
「もちろん!わたくしはシャルロッテが大好きですから!」

可愛い妹を全力で応援するのは当然だよ!

シャルロッテが頬を薔薇色に染めて笑ってくれた。 喜んでもらえたみたいで嬉しい!

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